32話 シスマ・ラーデュイ 2
テレーズさんの許可も得たことだし、私はシスマとの会話を優先させることにした。クリフト様やライハットさん、オーフェンさんなんかも特に不満はないみたいだし。
「話を戻そうかしら……アイラ、あなたの質問は私が3大回復薬の1つである、エリクサーを作れるかどうか、ということでいいの?」
「ええ、そうね。やっぱり、同じ錬金術士としては非常に気になるところだから」
富豪平民とただの平民との違いは確かにあるけど……私はシスマに同じような境遇を感じていた。シンパシーと言えばいいのかしら、何かそういう感じのものを。
「確かにエリクサーは作ることが出来るわ」
感情の起伏をあまり見せずにシスマは言った。やっぱり、間違いなかったのね。私も作ったことがない代物。
「そうなんだ……やっぱり凄いわね、シスマは」
私には師匠は居ない。気付いた時には調合が出来るようになっていた。基礎を教えてくれた人は居るけど、その人は師匠と呼ばれることを嫌がっていたし、事実、すぐにその人よりも調合は上手くなったし。
私は、生まれて初めての敗北感を感じていたのかもしれない……。
「もしかして、私との差を感じているの? お世辞としても笑えないわ」
「お世辞……? いえ、そんなつもりは全くないんだけど」
なんだか雲行きがおかしくなっている気がする。シスマはもっと勝ち誇った態度を取ってもいいと思うんだけど。全然、そんな言動は見られない。単に彼女が謙虚な性格だからとか、そういう次元の話ではない気がするし。
「最新の設備を使えば、アイラにも作れるでしょう? そういう可能性には、全く至っていないの?」
「最新の設備……」
そっか、ここには最新設備が完備されてるんだった。確かにここの設備をフル活用すれば、エリクサーを作れるって考えていた時もあったっけ。いえ、それどころか、それを範囲指定に出来るエリキシル剤の調合も可能かも、なんて……。
「アイラ、勝負と行きましょう」
「勝負……?」
「そう、せっかく、私とあなたが出会えた、試さない手はないわ。私はあなたと勝負をしてみたい……」
シスマは突拍子もないことを言っている気がする。勝負って決着はどうやって付けるのよ……?
「け、決着はどうするの……?」
「エリクサー級のアイテムをどのくらい作れるかで決めるのはどうかしら? 単純なアイテムの種類勝負であれば、最初から私に勝ちの目はないから」
確か、シスマは12種類くらいのアイテムを作れるって言ってたっけ? 確かにそれで種類勝負をしたら、私が負けることはないと思うけど。ただ、シスマの出した条件は「エリクサー級」のアイテム精製……。
それであれば、私が確実に勝つとは言えない気もする。シスマはちゃんと考えているのね。まだ、クリフト様たちから許可を得ていないから実現するかはわからないけれど……なんだか、想定とは違う方向に話が進んでいるわね。




