30話 大ピンチの王子様 (ユリウス殿下視点もあり)
(ユリウス視点)
アイラ・ステイトはとうとう真実を話した……! しかも、テレーズが聞いている前で……! テレーズは信じられないという顔で、目も見開かれている。この女、一体私に何の怨みがあるというんだ……?
アイラを追放したのは事実だが、その後は順風満帆に2か月間を謳歌していると聞いている。冒険者を初めとした客からもチヤホヤされて、さぞ有頂天になっていただろうな。兄上を通して、今までの給料も返ってくる手筈だっただろうに!
それと比べて、私は議会からのノルマ達成で非常に忙しかった! テレーズを初めとして、ミラとモニカの機嫌も損ねないようにしなくてはならなかったからな……。
テレーズは優秀な方だが、残りの二人は大したレベルではない。これならば、何人もの薬士を雇った方が時間も節約できたかもしれない。くそ……その上で、アイラはなんてことをしてくれたんだ!
「ユリウス殿下……」
「て、テレーズ……!」
テレーズの非常に冷たい目線が私を突き刺して来る……。なんと言えばいい? どうすれば、この絶望的な状況を打破することができる……? 私は頭をフル回転させ、なんとか穏便に事を済ませようと必死だった。
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「どういうことでしょうか、ユリウス殿下? アイラの言ったことは本当なのですか?」
問い詰めるように、テレーズさんはユリウス殿下に質問していた。さっきから、ユリウス殿下は無言だけれど、その表情はとても面白い。なんていうか……必死でこの状況を打破する為の、作戦を練っているみたいで。
顔中から汗を流しながらも、平静を装っている……素直に謝罪した方が良いと思うけど。テレーズさんの性格的に許してくれるとは思うし、多分ね。
「こ、これは何かの間違いだよ……テレーズ。はははは……」
「間違い? どういった間違いで、アイラに対して虫唾が走る、なんて言葉が出るのでしょうか?」
「ああ、そうだな……そうなんだ……私としても、驚き以外の何物でもないよ……!」
ユリウス殿下は落胆している素振りを見せ始めた。なにか解決案でも生まれたのかしら? クリフト様やライハットさん、執事のオーフェンさんなんかも静観していたけど、彼の態度に首を傾げていた。
「あの時の私は、どうかしていたんだよ。公務で忙しかったせいだろうか……悪魔にでも憑りつかれたように、アイラに辛く当たってしまっていた……一時的な心の変化だったのだ……!」
「心の変化……ですか?」
「そのとおりだ、アイラには本当に申し訳ないことをしたと思っている……」
「……」
言い訳にすらなってなくて、私は怒りすら通り越してしまっていた。同時に、こんな人に追放された自分が情けなくなってくる……。テレーズさんも、当然、ユリウス殿下の言葉に納得している風ではなかった。
「一時の心の変化だけで、あのような酷い言葉と仕打ちが出来るのですか?」
「悪魔に憑りつかれていたんだろうな……」
ユリウス殿下は「悪魔に憑りつかれていた」で押し通す気みたい。いくら、テレーズさんが浮世離れしている印象があっても、それは無理だと思うけど……。
「追放に追いやったということは、書類なども用意し、議会に提出し承認を得たと思いますが……」
「悪魔に憑りつかれていたんだろうな……」
「ユリウス殿下、それで私を納得させようと思っていませんか?」
温厚そうなテレーズさんだけど、眉間にしわが寄り始めた。当たり前の話だけど、怒り始めているんだと思う。私はもう、一種の見世物小屋のショーを見ている感覚だけど……呆れかえり過ぎて。
「そ、そんなわけないだろうテレーズ? 私はお前に誠実に接したいと思っているんだよ」
「なら……真実を語っていただけませんか? 私もユリウス殿下がこのようなことをしたのには、何か訳があるのだと信じたいのです」
あ、これダメなやつかもしれない……テレーズさんはこの後、大きく落胆する未来しか見えないけど。でも、二人の会話から見ると、相思相愛なのかしら? テレーズさんも厄介な相手に好かれたものね……。
と、そんな時だった……私たちの会話を邪魔するように、調合室に一人の人物が入って来たのは……。
「みなさま、こちらにいらっしゃったんですね」
「し、シスマ……!」
「はい、シスマです」
ユリウス殿下が真っ先に、新しく調合室に入って来た人物に声を掛けた。この一件が有耶無耶になることを期待しての一言だとは思うけど、そんなことにはならないわよ? いえ、私がさせないし、テレーズさんだって有耶無耶になることを望んでいないだろうから。
でも……それよりも、私はシスマ・ラーデュイの外見に意識を奪われていた。結構な美人……なのはいいとして、真っ白なロングストレートの髪に鋭く赤い瞳。肌をほとんど見せず、ロングスカートを穿いている。
雪女を彷彿とさせる外見と言えば分かりやすいかな? 美人ってお得だと思う……。それから、この人なら確かに3大回復薬を作れてもおかしくない雰囲気を持っていた。




