3話 宿屋の設備
「アミーナさん……ここって」
アミーナさんが言っていた奥の部屋。そこには調合用の設備が整っていた。確かに様式は古いし、宮殿内のそれとは比べ物にならないけれど……でも、今の私にとっては必要不可欠な物ばかりが存在している。
「夫が生きていた時にちょっとね……この宿屋は元々は、簡単な薬も売っていたから」
「え、ていうことは……」
「ええ、あなたがここに来るよりも大分前の話だけどね。私は薬士っていう役職に付いていたわ」
薬士……その名の通り、回復薬などを調合できる職業ね。錬金術士ほど幅広く精製することはできない場合が多いみたいだけれど、基本は同じ意味合いになる。
そっか、そういうことだったんだ。きっと、その時は旦那さんが宿屋の経営をされてたんでしょうね。他にも従業員は居たと思うけど。
「これも何かの運命かもしれないわね。アイラさえ良ければ、ここを使ってくれないかしら?」
「ええ!? いいんですか……!?」
予想外の流れに私はビックリしてしまった。まさか、こういう展開になるなんて、考えてもなかったから。
「ええ、もちろんよ。その代わり、この宿屋で働いてもらうってことになるけれど、いいかしら?」
「も、もちろんです! アミーナさんが良ければ……ぜひ、働かせてください!」
「ありがとう、こちらこそよろしくね」
「はい!」
灯台下暗し……間近にある物ほど見えにくい。まさにこれもそうだった。どうして働き口の話が出た時に、この宿屋で働きたいという思いが出なかったのか……きっと、遠慮してしまったんだと思う。アミーナさんの迷惑になるのは、避けたかったから……。
でも、これなら私は役に立てるわ。錬金術士として、アミーナさんに恩を返さないと!
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それから、私は奥の部屋を整備していき、なんとか使用できる状態に戻した。設備自体は旧式の物だから、量産したりするのは難しいけれど、現在は素材も少ないし問題はなさそうね。
「今、手元にある素材は少ないから……精製するアイテムの種類はよく考えないと」
回復系がいいのか、それともダークポーションみたいな攻撃系のアイテムがいいのか……回復薬って言っても初級、中級、上級、超上級と4種類もあるし。悩むところね。
「アミーナさん、この宿屋って冒険者の人も多く泊まっていますか?」
「そうね……今の時期は冒険者の方が多いわ。新しい未踏遺跡が見つかったらしいから、首都に冒険者が集まって来ているし」
「なるほど、そうなんですね……」
宿屋のロビーで寛いでいる人たちの風貌を見ても、明らかに冒険者が多い感じね。それも怪我をしている人が多い。
まずは回復系のアイテムを優先的に作った方が良さそうね。私は新しい場所での錬金を早速、始めることにした。