28話 錬金術士の邂逅 2 (ユリウス殿下視点もあり)
私とテレーズさんが出会って数分程度……私たちのところに、ユリウス殿下はやって来た。その後ろには執事のオーフェンさん? も居るみたいだけど。
でも、シスマの姿はないみたい……彼女の外見は知らないけれど、そもそも二人の気配しかないから。
「あ、兄上も……壮健そうで何よりだ」
「何を言っているんだ? この前にも会っているだろう? ユリウス、なんだかおかしいぞ?」
「ん? そ、そうか……?」
クリフト様にも指摘されるくらいに、ユリウス殿下の様子はおかしかった。なんだろう……突いたらとても面白そうなことが起きる予感がする。
「ユリウス殿下、どうしたんですか? 随分と挙動が不審ですけれど……」
挙動不審の原因が分からないので、とりあえずジャブ程度のパンチを放ってみた。ユリウス殿下は特に怒ることはなく、私の言葉を無視している。それから、テレーズさんに話しかけていた。
「テレーズ、今日は休みでいいと言っただろう? なぜ、こんなところに居るんだ?」
「申し訳ありません、ユリウス殿下。せっかく、お休みをいただきましたのに……ただ、どうしてもアイラにお会いしてみたくなったので」
「そ、そういうことか……やはり……」
「あの、いけませんでしたでしょうか?」
「いや、そ、そんなことはないぞ……? はははははっ……」
ユリウス殿下の乾いた笑いが、調合室の空気も乾かしていた。私はユリウス殿下の様子がおかしかった理由を、二人の会話から導き出していた。そういうことか……。
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(ユリウス視点)
なんということだ……! 休みを出したはずのテレーズが調合室に来ていたとは……! とりあえずは笑ってごまかすしかないが……くそ、アイラとテレーズの二人を出会わせてしまったというのか!
「ユリウス殿下……? 如何なさいましたでしょうか?」
私の身を案じたのか、テレーズが私の顔を覗き込んで来た。ぬう……相変わらず、このしぐさは美しい。とにかく、すぐにでもアイラの傍から離さなくては。テレーズは知らないのだ、私がアイラ・ステイトを追放した理由を……。
いや、正確には彼女の気を引くために、別の理由を告げているのだ……。
「テレーズさんは、この2か月くらいは、ほとんど調合室で過ごしていたんですか?」
「左様でございます。国家錬金術士の任に就いてからは、ここで過ごすことが多くなりましたわ」
「そうなると、外の情報とか仕入れにくくなったでしょう?」
「そうですね……確かに。ですので、ユリウス殿下のお話しが、私の楽しみでした」
「へえ、なるほど……」
テレーズとアイラの二人の会話……傍から見れば、単なる会話にしか聞こえないかもしれないが……。不味い、アイラのこの怪しげな視線は、勘付いているのではないか? 早く、テレーズを連れ出さなければ……しかし、二人の会話はなおも続いた。
「ユリウス殿下とはどのような会話を?」
「錬金術に関することが多いですわ。私はまだ、単独では6種類のアイテムしか調合できませんが……優しく勇気づけてくださいます」
「そうなんですね……優しく、ね」
アイラはテレーズと私を交互に見ながら、何かのタイミングを図っているようだった。不味い、不味すぎる……!
「それから……アイラのご事情もお伺いしておりますわ……」
「私の事情ですか?」
「はい……」
アイラは狙っていた話が出て来たと悟ったのか、明らかに顔色が変わった。これ以上は本当に不味い! 私は咄嗟に二人の間に割って入った。
「あ、アイラよ! 済まないが、本日はテレーズは休みの日なのだ! お前も今日は、シスマに会いに来たのだろう!?」
シスマのことを引き合いに出したが、彼女の姿は今はない。説得力としては非常に弱いものだった。
「確かに、シスマ・ラーデュイさんに会いに来たのは事実ですけど……テレーズさんにも会いたいと思っていましたよ?」
「ユリウス殿下、私もアイラにお会いしたいので、調合室に来たと先ほど申し上げたと思いますが……」
「た、確かに……いや、しかしだな……」
次の言葉が続かない……テレーズをどうにかして、調合室から出さなければならないが……! どうやって連れ出せばいい? 兄上も居るのだ、力づくというわけにもいかない。
「それで、私の事情はどのように伺っているんですか?」
「ま、待て……!」
「はい、確かご家族がご病気だとか。しかし、それでも仕事を続けようとしたから、ユリウス殿下が強制的に追放という形を取った、と伺っておりますわ」
「はっ……?」
うわぁぁぁぁぁ……! アイラに聞かれてしまった……! アイラは呆けた表情になっている。ど、どうすれば良いのだ……最早、一刻の猶予もないぞ……!?




