26話 新しい錬金術士 3 (ユリウス殿下視点もあり)
宮殿に向かうのって2か月振りくらいかしら? まだ、思ったよりも月日は流れてないわよね。でも、もう何年も入っていないように感じられる。私が突如として追放された、貴族街の正門……それが、私を迎え入れていた。
本日は「エンゲージ」のお店はお休みにしている。買いだめをし忘れた冒険者に泣きつかれたけれど、流石に運営は難しかったので、なんとか納得してもらった。はあ……私も冒険者の知り合いが増えて来たわ。
なんていうか……気性の荒い人達のイメージがあって、最初は怖かったんだけど、話してみると気さくな人が多いというか……中には私の追放について、ユリウス殿下に文句を言いに行きそうになった人も居たけど。別の意味で、それは怖かった。
「アイラ、どうかな? 随分、久しぶりに感じないか?」
「そうですね……宮殿内は久しぶりに感じます」
以前はホームグラウンドって感じだったけど、今は完全にアウェーだしね。いくら、クリフト様やライハットさんが近くに居ても、私が部外者であることには変わりないし。何度かすれ違う貴族の人々が私を見ていたけれど、特に何かを言うことはなかった。
まあ、すれ違う人々に興味はないけれど、後継者である国家錬金術士の人には興味があるわ。シスマを初めとして、テレーズ侯爵令嬢、ミラ伯爵令嬢、モニカ子爵令嬢だったかな? こうして見ると、豪農家系とはいえシスマが明らかに位が低いのね。
皆、私とそれほど変わらない年齢だとは聞いているし、この機会に友達とかになれたらいいんだけど。
ユリウス殿下みたいな性格の人だったら無理だけど、話を聞いている限り、そこまで悪い人達でもなさそうだし。私は同じ錬金術士という境遇の知り合いに飢えているのかもしれない。
私は明らかに彼女たちと会えるのを、楽しみにしていた。ていうか、会えるのよね……? まあ、シスマには確実に会えるとは思うけど、他の錬金術士にだって会いたいし……。
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(ユリウス視点)
「本日か……兄上が、アイラ・ステイトを連れて来るのは……」
「ええ、既に宮殿内に入られているかと思いますが」
オーフェンからの報告に私の緊張感が一段と増していた。アイラ・ステイト……宿屋「桜庭亭」で以前に会ってはいるが……くそ、なぜこのタイミングで宮殿に来たんだ?
いや、そんなことは考えなくても分かる。シスマに会いに来たのは明白だ。彼女は現在、私の目の前のソファに座っている。くそう……ノルマをこの前達成したと思ったら、また厄介事が舞い降りて来たということか……!
特に、テレーズと会わせるわけにはいかない。まあ、今日は休みにしているから大丈夫だとは思うが……。
「そのアイラって人……私と同じ、錬金術士なんですよね?」
本を読みながら、シスマは私に話しかけてくる。富豪家系とはいえ、平民の女であることに変わりはない。本来であれば、不敬罪に処してやるところだが……こいつはエリクサーのアイテムを作れる貴重な存在だ。私への無礼は、とりあえずは許すことにしていた。噂によれば、万能薬と蘇生薬の調合も可能らしいからな。
「ああ、その通りだ。だが、大した人物じゃない。お前ほどの者が会う必要などないさ」
くそ……アイラよりはマシとはいえ、この小娘も平民であることに変わりはない……! 虫唾が走りそうになる……なぜ、この私がノルマの為とはいえ、平民のご機嫌を取らなければならないんだ?
くそくそ……! そもそもはテレーズ達がもっと優秀であったら、何の問題もなかったことなのに……!
「……」
私の「会う必要などない」という言葉に、シスマは無言になっていた。なんだ、何か文句でもあるというのか?
「会う必要がないかどうかは、自分の目で判断致します。話に聞くと、その娘はとてつもない種類のアイテムを調合しているようなので……」
「ぬう……!」
私に対しての尊敬の念を感じさせない態度……いや、少し違うか。王族や貴族に媚びる気がないと言った方が正しいか。この女……アイラと同じくして、厄介な存在かもしれん。
「ユリウス殿下……落ち着いてください。大丈夫です、彼女は決して、ユリウス殿下に逆らっているわけではありません。ああいう、性格なのです」
「オーフェン……ああ、分かっている」
分かっている……オーフェンの言う通りだろう。豪農の家系に生まれ、厳しく育てられた為か、それとも錬金術で並ぶ者が周りに居なかった反動か……彼女は少し、感情の起伏が曖昧だった。
くそ……! 私はこの娘を恐れているのか? 白く長い髪を持ち、赤い瞳を有している。一般的には美女と呼んで差し支えはないだろうが……その目つきは鋭く、冷たい。畏怖するには十分すぎるオーラを放っていた……。




