25話 新しい錬金術士 2
3大回復薬の1つであるエリクサーを調合出来る錬金術士……そんな人が宮殿内に居る。それだけでも、とても驚きだわ。私は桜庭亭の拡張された調合室の前で、色々と考え事をしていた。
エリクサー……冒険者たちの間でも、希少品かつ効果的なアイテムとして有名で、大怪我とスタミナ、メンタルポイントを大幅に回復してくれる代物。私も超上級回復薬は作っているから、エリクサーの有用性は良く分かっている。
超上級回復薬は怪我にだけ作用する物だからね。エリクサーはスタミナやメンタルまで回復するところが、凄まじいと思う。私の店でもスタミナ回復薬とエーテルは売り出しているけれど、それら全てを賄えるんだし。
「エリクサーを調合するシスマも確かに凄いが……相変わらずアイラ、君は恐ろしいな」
調合室にはクリフト様の姿もあった。私の調合の様子を背後から見ているんだけど、なんだかちょっと恥ずかしい。振り返ると、顔から汗を流しているみたいだった。
「スタミナ回復薬にエーテルの調合も可能にしているのか……それ以外にも、起爆札などのアイテム類まで。今の段階で何種類くらいの調合ができるんだい?」
「そうですね……細かい微調整とかも入れると、30種類は超えると思います」
これも設備が拡張されたおかげ。私だけの力ではないけれど、クリフト様の顔色は面白いくらいに歪んでいた。なんだろう驚き過ぎているのかしら……。
「30種類超えか……最早、他の追随を許していないな」
「ありがとうございます。でも、シスマっていう子のエリクサー調合には負けますよ」
種類をいくら増やしたところで、エリクサーを作れる彼女には及ばないと思う。おそらく、シスマは調合アイテムの豊富さよりも、エリクサー調合が出来るというだけで、宮殿内に住めるかもしれないし。
今や、そのくらいの待遇を受けてもおかしくない。私は会ったこともないシスマに、大きな想いを馳せていた。一体、どんな子なんだろう……興味深いわ。
「アイラ。シスマという子に興味はあるか?」
「はい、そうですね。興味は尽きないですけど」
「もし、君が良ければ会いに行ってみないか? 彼女は現在、宮殿内の一室で寝泊まりしているからな」
「えっ、宮殿に……ですか? 大丈夫なんでしょうか……?」
私は思わず言葉を詰まらせてしまった。色々と宮殿には悪い思い出が多いから。
「私の許可があれば、入ることに問題はないさ。宮殿内に居る国家錬金術士たちと会うことが、錬金術士としての刺激にも繋がるのであれば、決して無駄な時間にはならないだろうし」
笑顔でクリフト様は言ってくれた。なるほど、錬金術士としての刺激……か。それはおそらく、私だけじゃなく、相手側にも同じことが言えるはず。もしかしてクリフト様は、そういう狙いがあるのかもしれないわね。それに、宮殿内にある最新設備も、久しぶりに拝見しておきたいし。
ものすごく会いたくない人が一人だけ居るけど、まあ、そこはクリフト様が居れば大丈夫そうね。
「どうする? 君が望むのなら、宮殿内を案内するが」
「お願いしても宜しいですか?」
私はクリフト様に深々と頭を下げてお願いした。久しぶりの宮殿内への出入り……結構、緊張するけど楽しみでもある。あと、ユリウス殿下がどんな顔するのか、地味に楽しみでもあるし……会いたくはないんだけども。
それから、シスマを含めた国家錬金術士の人々……私の後任っていう立場の人たちが、どういう人達なのかも気になるしね。
なんだろう? ピクニック気分って言えばいいのかな? 自然とワクワクしている自分がそこには居た。




