22話 ユリウスの計画 4 (ユリウス殿下視点もあり)
「いいこと? 私たち貴族街に住む者たちでも、これほどのアイテム類は見たことがないのよ?」
「はあ、そうなんですね」
「その小馬鹿にしたような発言はなにかしら? 不敬罪で訴えてもいいのよ?」
やれるものならやってみてください、とは言わないでおく。この程度で不敬罪が成立するなら、従業員のライハットさんとの間で、とっくに成立しているし。彼は確か、伯爵令息のはずだから。
もっと言えば、クリフト様との間でも成立していてもおかしくないわね。目の前の貴族令嬢、通称お客令嬢は、自分の見たことない世界に戸惑っているだけに見えるし。
「と、いうより……私は、少し前まで国家錬金術士として宮殿で働いていたんですけど。ご存じないですか?」
その時はそこまで多くの種類を作ってはいなかったけど、それでも10種類は作っていたような。
「あなたがまさか……あの平民出で宮殿での仕事に就いていたって、貴族街でちょっとした噂になっていた……!」
「多分、それですね」
「……! そんな人が、こんなところに……!」
て、結構、有名な話だと思っていたけど、知らないのかしら? ま、いいか。
お客令嬢は度肝を抜かされたのか、急に黙り込んでしまっていた。口を両手で隠すような素振りを見せながら……。私は当時は貴族街への出入りも可能だったけれど、住む世界が違うような気がしていて、あんまり出入り自体はしていなかった。だから、私のことを知らなくても無理はないわね。
論破した雰囲気になっているのか、隣のライハットさんは苦笑いになっている。もっと、差別的な発言が続くようなら、彼が仲裁に入ってくれたんだろうけど。宿のカウンターで待機しているアミーナさんも、安心した表情になっていた。アミーナさんも影ながら見てくれていたのね、感謝しなきゃ。
「それでちょっと聞きたいんですけど」
「な、なにかしら……?」
「宮殿には3人の国家錬金術士の方が居ると聞いています。この方々は、どういったアイテムを作れているのでしょうか?」
私はその部分に、以前から興味はあった。クリフト様にも敢えて言ってはいないけど、3人もの国家錬金術士が現れて、一斉に最新設備で調合を開始した場合、私のお店からするとライバル店になるかもしれないと、思えたから。
宮殿で作ったものは、あまり市場に出回ることはないと思うけど、それでも興味は尽きなかった。だから、私はお客令嬢の次の言葉が、何気に待ち遠しかったりする。
そして、彼女はゆっくりと口を開いてみせた──。
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(ユリウス殿下視点)
「どういうことなのだ……?」
「も、申し訳ありません……ユリウス殿下……!」
私は最新設備が眠っている、宮殿内の調合室に入っていた。侯爵令嬢であるテレーズに急遽、呼び出されたからだ。私の隣には、執事のオーフェンと、兄上の姿もあった。
「謝罪をする必要はない、テレーズ。私は別に怒っているわけではないからな。一体、何があったんだ、と聞いているだけだ」
「は、はい、失礼いたしました」
「うむ、それで?」
取り乱しているような態度のテレーズを、まずは落ち着かせる。私はその上で、呼び出した内容について聞いた。
「はい……ユリウス殿下のおっしゃった、今月末までのノルマなのですが」
「ああ、ノルマのことか」
そのノルマとは私が出したノルマではない。アイラを捨て、3人の国家錬金術士を入れたことにより発生したものだ。議会を通して決められていた。
「確か、ユリウス。アイテムの10種類の調合、だったな?」
「そうだ、兄上」
兄上の質問に私は頷いた。テレーズを含めた3人の国家錬金術士による調合……アイラのレシピノートとアイラの店から持っていたアイテム類があれば、確実に達成できるはずだが……。
「アイラ・ステイト様の調合している薬のレベルが非常に高いです……これらを解析しても、私たちでは、調合完成までに、持って行くことができません……! このままでは……10種類のアイテム調合に届かない可能性があるかと思われます……!」
「なん……だと?」
私はテレーズの言った言葉の意味の理解に追い付いていなかった。隣に立っているオーフェンや、兄上ですら、テレーズのその報告には、驚きの表情を見せていた。そんな、バカなことがあるはずは……!




