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21話 ユリウスの計画 3

「ま、こんなもんかな?」



 私はギルドから帰った後、十分な量と思われるアイテムを精製していた。サイモンさんの善意も受けてやる気がアップしたというのもあるけど……設備が拡張したおかげで、一度に多くの薬が作れるようになったしね。



「しかし、すごいですね、本当に……」



 私の店の従業員として、お手伝いをしてくれているライハットさんが、調合室の様子を見に来ていた。彼がここに居るっていうことは、今はお客さんが居ないっていうことよね?



「あはは、ありがとうございます。でも、大したことありませんよ」



 面と向かって言われると照れてしまう。だから、ついつい謙虚な言い回しになってしまった。



「いえいえ、これだけのアイテムを作ることが出来、しかも同じ種類のアイテムでも効果効能を微妙に変えることが出来る……こんなことが可能なのは、この王国にはおそらく居ないでしょう」


「でも、無名の村々で有名になっている薬士……いえ、錬金術士も意外と多いとも聞きますし」



 いわゆる取りこぼし、スカウトミスっていうやつね。それとは別に、現在進行形で優秀な錬金術士が誕生しているかもしれないし。元々は魔導士の攻撃、防御、回復魔法技術が先行していたから、錬金術士等というのは軽視されていたしね。


 注目され始めたのは、ここ十数年くらいのことじゃないかな? 多分……。



「確かに、スカウト漏れの錬金術士は居るかもしれませんが、それでもアイラ殿ほどの錬金術士は居ないと確信できますよ。あなたであれば、トップレベルの冒険者チームに入っても十分に仕事をこなせそうだ」


「それは……どうですかね……」



 それってつまり、最高クラスの魔導士にも負けない活躍が出来るかもってこと? まあ、戦闘に参加はできないから、完全に街での固定砲台みたいにはなっちゃいそうだけどね。パーティに必要なアイテムを作りまくるみたいな。でも、それはそれで面白そうかな。



「私もクリフト様の傍に仕える身……あなたの追放については何も出来なかった加害者です。こんなことが言える立場でもありませんが……アイラ殿が楽しそうで良かった」



 この人、もしかして私のこと口説いてる? なんだか恥ずかしい言葉のような……でも、とても嬉しい言葉でもあった。


「追放のことは気にしないでください。クリフト様にも言っていることではありますが……今は、とても充実しています」



 私はライハットさんに自分の素直な気持ちを伝えた。




「なるほど、それは何よりです。……これで、クリフト王子殿下と婚約ともなれば、とても喜ばしいのですが……」



「……?」



 言いにくいのか、よく聞こえなかったけれど……まあ、悪い気分じゃないし、今はいいかな。




-------------------------------------------




「毎度、ありがとうございます」


「いや~~、マジで凄いな! ここの品揃えは効果も抜群だし! なあなあ、姉ちゃん! 俺たちの専属の薬士にならないか? 給料は弾むぜ?」



 それなりに有名らしい冒険者の人から勧誘を受けてしまった。軽いノリの人だけど、悪い人物じゃないっていうのは周囲の人からの評価で知っている、アミーナさんとも仲が良いみたいだし。



「あははは、ありがたいお話しですけど、エンゲージの経営がありますので……」


「ま、それもそうか……しかし、気が向いたらいつでも歓迎だぜ!」



 そう言いながら、妙にテンションの高い冒険者さんは桜庭亭を後にした。彼の名前はレッグ・ターナーさん。剣士としては結構有名みたい。



 私の隣ではライハットさんが、店の品揃えのチェックをしていた。在庫がなくなっていないかを確認している。



「そういえば、今日はライハットさんに給料をお渡しする日でしたね」


「よしてください、アイラ殿……我々はまだ、あなたへの今までの給料もお渡しできていないのに」


「いえいえ、それは後程、クリフト様からいただけるようですので。これは私からの気持ちでもあります。ぜひ、お納めください」


「いえ、あなたへの給料をお渡しするまで、私などが給料をいただくことなどできません! こことは別に、王国からは給料を得ている身ですので……」


「いえいえ、それでは私の気が済みませんので……!」


「いえいえ、あまりに悪いです……!」



 よくわからない押し問答がエンゲージのお店の前で繰り広げられることになった。買い物に来ていたお客さんは、苦笑いになっている。なんだか少し、高貴な印象のある方が従者を連れて来ているみたいだった。



「いらっしゃいませ、どういった物をお探しでしょうか?」



 貴族令嬢の方かな? 私の商品を見て驚いているみたい。



「これは……全て、あなたのお店の商品なのかしら?」


「ええ、まあ……そうですけれど」


「一体、何人の薬士を雇っているの……? 20人くらい居るのかしら?」


「いえ……調合をしているのは、私一人です」



 とりあえず、事実を伝えてみたけれど、それを聞いた貴族令嬢はさらに驚いた表情になっていた。


「そんなこと……あり得ないわ! だって、私たちの誇る錬金術士の方々は、こんなに作れないもの! 嘘を()いているんじゃありませんよ!? 平民のくせに……!」


「いえ……別に、嘘なんてついてないですけど……」



 普通に買い物に来てくれた貴族令嬢の人みたいだけれど、私の言葉が信じられないのか、いきなり癇癪を起こし始めた……どうやって対処しようか? ていうか、王国の国家錬金術士はもしかして、調合に相当苦戦しているの?

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