20話 ユリウスの計画 2 (ユリウス殿下視点もあり)
「と、いうわけで……こんな感じでいいかな?」
「おお、なかなか目立つじゃないか、わっはっは」
アミーナさんの調合室が拡張されてから数日後……私は首都カタコンベの冒険者ギルドを訪れていた。その理由は……。
「ありがとう、サイモンさん。こんなに大きく、依頼の張り紙を貼らせてもらって」
「な~に、気にすることはねぇよ。依頼をしてくる奴は大勢いるんだからよ」
「いやでも……こんな特別席みたいなところに……」
私はギルドに素材調達の依頼を出しに行っていた。クリフト様ばかりに頼るのは駄目だと思ったから。冒険者を通しての素材供給ルートも確保しておこうと思ったのが始まりなんだけど。
そしたら、目の前にいる大柄なギルド長であるサイモンさんが、通常の依頼板とは違うところに、依頼を出すことを許してくれたの。その場所は……国家依頼とか、特別な依頼が集約されている掲示板だった。必然的に凄腕の冒険者や信頼の置ける冒険者の目に留まることになるわけだけど……。
「ほ、本当にいいの……? 私みたいな小娘の依頼を、ここに置かせてもらって……」
「当たり前じゃねぇか。嬢ちゃんの店は、ギルドを出入りする奴らの間でも評判なんだぜ? たった1か月ちょいで大したもんだよ。嬢ちゃんの必要とする素材が集まるってことは、冒険者たちにとってもありがたい話だろ? 特別枠の依頼として出しても、誰も文句なんか言わねぇよ」
「そ、そうなのかな……?」
「そりゃそうだ! 大船に乗ったつもりでいな! はっはっはっ!」
豪快なカタコンベのギルド長のサイモンさんは、大きな身振りをしながら笑っていた。私も彼に合わせてぎこちない笑いをしてみせる。本当にありがたいわ……まさか、特別枠の依頼として導入させてくれるなんて……!
よ、よ~~し、今まで以上に調合を頑張っちゃうんだから! それがギルドに出入りする冒険者の為になるなら良いことだし、私の儲けにも繋がるしね!
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(ユリウス殿下視点)
「ここに居たか、ユリウス」
「兄上か……」
宮殿内の私の部屋を訪れたのは、クリフト第一王子だった……。まさか、このタイミングで現れるとは、少し予想外だ。一体、何の用だろうか?
「どうしたのだ、兄上? 弟の機嫌を取りに来たわけでもあるまい?」
「はは、ユリウス。相変わらずだな……」
私と兄上は昔から仲が良くはなかった。いや……そうでもなかったか? 王位継承権争いなどの話が周りから聞こえてきた辺りから、兄上のことが疎ましくなっていったのだったな。
平民にも優しく接する理想の王子……兄上がどの程度、それを本気で言っているのかは、わからないが、私にはそのスローガンが好きではなかった。平民は我々が生かしてやっている家畜……そのように、真逆の考えを持つようになったのもその頃からか。
1年前のアイラ・ステイトを国家錬金術士として推薦したことは、今でもはっきりと覚えている……ふざけるな! と心底、吠えてやりたかったよ。
「テレーズ嬢たちの首尾はどうだ? 大丈夫なのか?」
やはり、そちらの話題になったか。アイラを追放したことに言及しないのは、余裕の現われか?
「休養は適宜とるように言ってある……この私が、そんなところをはき違えるわけがないだろう?」
「そうだったな、貴族至上主義のお前に聞くべきことではなかった」
「ふんっ」
貴族至上主義か……確かに的を射ている。平民の上に立つ存在はそのくらいの気構えがなくては成り立たんのだ。兄上は甘すぎる……。
「テレーズ嬢のことはお気に入りなんだろう? 将来の約束もしているのか?」
「どうだろうな、まあ、侯爵令嬢の彼女であれば私に相応しいだろ?」
「ああ、そうかもしれないな」
「兄上はどうなのだ? まさかとは思うが、アイラを妻に迎える……と、言うつもりか?」
「……」
「……?」
無言だと? まさかとは思うが……アイラ・ステイトは完全なる平民出のはずだ。いくら錬金術の才能に恵まれていたとしても、そんなことをすればホーミング家、始まって以来のことになるぞ……!?
「ところで、錬金術の方はどうだ? 作れる薬の種類は増えたか?」
「はは、当たり前だろ? アイラのレシピノートと先日、購入したアイテム類の解析ですぐにノルマ分は達成できるよ」
アイラの書き殴っていたノートの解析も終了していた。レシピノートというよりは、幾つものアイテムの配合比率などを書いていたようだが……参考にはなっている。そして、最新設備の解析も進んでいる。これで、議会が出してきた調合のノルマは十分に達成できるはずだ。
なにやら、兄上がため息を吐いているが……はは、負け惜しみでも言いたいのかな? まあ、最終的に勝つのはこのユリウス様だからな。




