196話 クレスケンス 2
私とクリフト様はすぐに大聖堂の錬金施設へと急いだ。もちろん、その間に神官の人達が居たけど、相手が私だと分かるとフリーパスだった。
「アイラ! 一体、どうしたと言うんだ!?」
「分かりません! でも……確かにこっちに眩い光が行ったんです!」
クリフト様はその光を確認出来ていなかったっぽい。あれだけの眩い光を放っていながら、見えなかったとは考えづらいので、もしかすると、あの光は私にしか見えていなかったのかもしれない。その可能性を考えて、錬金施設に入ったのだ。するとそこには……。
「眠~~~い……本当に眠い……」
「しょ、少女……? まさか……」
「女性か」
一人の女性がその場には居た。錬金施設に設けられていた椅子に座り、前の机に寝そべっている。その姿は……とても美しい少女だった。そして間違いない……その人物はクリフト様にも見えているようだ。状況から考えて、クレスケンス本人だろうか。
うん、多分、間違いないわ。何よりも氷漬けのクレスケンスとそっくりな外見をしていたし。
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「私? マリアベルよ」
「えっ……マリアベル?」
「そうだって言ってるじゃん。何度も聞かないでよね~~~」
マリアベルと名乗った少女は、自分はクレスケンスではないと連呼していた。絶対にクレスケンスだと思っていたのに……だって、氷漬けの彼女から確かに光が放たれていたし。それに外見が同じだ。そっくりとか言うレベルではない。
氷漬けのクレスケンスがそのまま解凍されたような……そんな印象があった。
「ファミリーネームがクレスケンスとかではないのか?」
「違うってば。私の名前はマリアベル・ウォーカー、錬金術士よ」
クリフト様も混乱しているようだった。あ、でも、錬金術士ではあるんだ。でも、神官によって警備されていた錬金施設に入る手段なんて考えられない。あの光の光源は彼女で間違いなさそうだ。
「ていうか、クレスケンスって誰~~? 私、知らないけど?」
「えっ……クレスケンスを知らない?」
ますます、混乱しそうだ……このロンバルディア神聖国に於いて、クレスケンスの名前を知らない人は居なさそうだけど。物心がついていない子供ならともかく、マリアベルは私と同じ歳くらいはありそうだし……どうなっているの?
「ん~と……ていうか、ここって何処?」
「えっ……ロンバルディア神聖国だけど。ここは、その首都であるヴァレイのサンスクワット大聖堂よ」
「ロンバルディア神聖国? サンスクワット大聖堂? なにそれ……? ていうか、とっても眠いんだけど……」
「え、ええ……!?」
全く話が嚙み合っていない……クレスケンスを知らないのも驚きだけれど、ロンバルディア神聖国やサンスクワット大聖堂を知らないのはもっと驚きだった。いや、あなたが居る場所なんだけど……。