192話 2号店オープンに向けて 3
「意外とこじんまりしているんだな、驚いたよ」
「あ、クリフト様!」
王都ヴァレイの大通りの一角に薬屋エンゲージ2号店がオープンした。2号店とは言っても、露天商並の手狭な空間だけれど。錬金窯とかは、マラークさんを通して購入している。
そして本日、クリフト様がやって来たのだ。彼は用事がある為に一度、ホーミング王国へと帰っていたけれど、また来てくれたのね。
「来てくれたんですね、ありがとうございます!」
「いやいや、お礼を言われる程のことはしていないよ。しかし、2号店をロンバルディア神聖国でオープンさせるとは……中々、思い切ったことをしたものだな」
「あはは、自分でもそう思います」
2号店オープンの件でシグルドさんやアルファさんと話していた時からは、既に2週間以上が経過している。当然、彼らとの護衛の契約は終わったわけで。にも関わらず、二人は私の護衛を続けてくれている。まあ、四六時中というわけではないけれど。
もちろん、追加の費用は支払い済みだ。どうも、二人にも目的が出来たらしい。主に瘴気が発生していた場所の調査がメインみたいだけれど。彼らと私の利害関係が一致した瞬間でもあった。だから、継続して護衛をしてもらっている。今は私の近くにはアルファさんが待機していた。
「護衛の方も万全なようで何よりだよ。オディーリア様の五芒星よりも強力なんじゃないか?」
「ま、まあそうですね」
「そんなことを言われると、照れてしまうな……」
アルファさんがなんだか可愛かったけれど、間違いではないはず。彼女はカイザーホーンと戦っても単独で互角以上に渡り合えるらしいから。そう言う意味ではカミーユやサイフォスさんよりも上と言えるかしら。
「瘴気発生事件の解決に貢献したのは本当に素晴らしいよ。父上……ケルヴィン・ホーミングが個別に勲章を与えたいと言っていたくらいだからな」
「国王陛下から勲章ですか……? 嬉しいですけど、それは……!」
流石にそこまで崇められては居心地が悪いかもしれない。ただでさえ、王都ヴァレイでは伝説の超万能薬を精製した錬金術士として有名になっているのに。あれはオディーリア様のおかげだと言っても誰も信じてくれないし。
そもそも、オディーリア様が自分では作れないと連呼しているのが原因だけれど……まったくもう。
「まあ、色々と気苦労もあるかもしれないが……崇められるのは悪いことではない。素直に楽しんで良いと思うぞ?」
「クリフト様……そうかもしれませんね」
なんだかクリフト様に言われると納得してしまうのよね。これも愛の成せる業なのかしら? なんちゃって。
「ここがアイラ・ステイトの店だな? んん?」
「えっ……?」
聞き覚えのない声が急に耳に入って来た。私もクリフト様もアルファさんもそちらに視線を向ける。そこには……なんだろう、黒を基調とした正装をした人物が立っていた。護衛みたいな人を引き連れているし、ロンバルディア神聖国の貴族かな?
誰かは分からないけれど、この街では珍しく歓迎されてない印象がひしひしと伝わって来ていた。