190話 2号店オープンに向けて 1
「医者のカエサルさんがここに来ていただければ、救える命が増えると思います」
「ありがとう、アイラ。君にそう言ってもらえるのは嬉しいぞ」
「そうですか、良かったです」
オールバックの髪型なのに、なぜか髪をかき上げるしぐさを見せるカエサルさん。アルファさんは怪訝な様子を見せていたけれど、顧客として彼の店に薬を納品している私はよく分かっている。カエサルさんは天然の「たらし」なのだ。
もっと正確に言えば格好付けるのが趣味とでも言えばいいのか。ナルシスト気質がある人だった。
「アイラ……私から言えることではないが、友人は選んだ方が良いかもしれないぞ?」
「アルファさん……言い過ぎですって……」
一番最初に会った頃は、カエサルさんはオディーリア様を悪く言ったりとあんまり好きではなかったけれど、シグルドさんを含めた食事会くらいから、考え方が変わって来た。
「相変わらずのナルシストか……変わらんな、貴様は」
「シグルド、それは違うな。俺の場合は貴婦人の方々にも好評なんだ。これが素というわけじゃない。変な勘違いは止めて貰おうか」
「ほう……つまりは、役作りというわけか」
「そういうことになるな」
役作りだったんだ……初めて知ったわ。まあ、カエサルさんは二枚目で背も高いから女性にはモテそうだけどね。夜の街とかで帝王になっていそうな雰囲気もあるし……。
「だが、ここに居る2名には効果がないようだぞ?」
「なに……? そうなのか?」
シグルドさんから促されて、私達に視線を合わせるカエサルさん。ちょっと驚いた感じなのが新鮮だった。
「まあ、二枚目なのは疑いようはないが、女性の誰もが男性を顔で判断しているとは思わない方が良いと思うぞ……」
「なるほど……そういうことか」
アルファさんの忠告に妙に納得しているカエサルさんが面白かった。
「アイラもそうなのか?」
「私ですか? あんまり考えたことはないですけど。カエサルさんのことは嫌いじゃないですよ。医者としての技能とか尊敬できる部分が多くありますし、本当に凄い人なんだとは思っています」
「ぬう……この眩い光は……! 今の俺には毒のようだ!」
なんか一人芝居を始めるカエサルさん。なんて答えて良いのか分からなかった。これってもしかして、私とライハットさんがやっていた漫才の時のシグルドさんの心境なのかもしれないわね……。
「ああ、時間のようだ。冗談はこのくらいにして、それでは往診に行ってくる。それではな」
「あ、はい……」
急に真面目になったカエサルさんは、物凄く格好良い立ち振る舞いで歩いて行った。普段からあれを素にしていれば良いのに……仕事の時とプライベートのメリハリみたいなものなのかな?
「アイラにも不思議な知り合いがいるのだな」
「あはは……そうですね」
「ふふ、退屈はしなさそうで何よりだ」
カエサルさんは、アルファさんの中では不思議な人というレッテルが貼られたようね……。
「で? 2号店の方はオープンさせるのか?」
「そうですね……瘴気とは関係なく、オープンさせる気ではいたので。やってみようと思います」
「ほう……ホーミング王国の仕入れルートは確立しているだろうが、こっちではどうする気だ?」
仕入れルート……それが課題ではあった。楽をしようと思えば、ロンバルディア神聖国に丸投げも出来そうだけど。瘴気解決の件を踏まえて、喜んで協力してくれそうだし……。
「仕入れルートに関しては、対価を払ってマラークさんにお願いしようかと思っています。こっちで活動してる冒険者もいるでしょうから、その人達にも依頼できるでしょうし」
「なるほど……ホーミング王国外で活動している、カミーユやサイフォスのパーティに頼むなど、色々と考えられそうだな」
「そうですね」
カミーユやサイフォスさんは知り合いだし、依頼をしやすい相手でもある。グリフォンの件でも一緒に戦ったのだし、法外な価格を求めて来ることもないだろう。材料を安く買い取って薬を作り、売るだけ……基本的な流れはそれだけだ。
「アイラ、お前はどっちに住むんだ?」
「そこなんですよねシグルドさん……」
問題はそこにあった……私の店で薬を作れるのは私しか居ない。今までは1つの店しかなかったから、それで対応出来ていたけれど。
どのようにしていくかは、今後の課題になりそうだった。