19話 ユリウスの計画 1 (ユリウス殿下視点もあり)
(ユリウス殿下視点)
「ふはははは、これだけの薬があれば、テレーズ達にとっても大きな躍進の兆しになるだろう」
「そうですね、今回購入したアイテムは14種類……これらの解析を急げば」
私の隣でオーフェンも同意している。そうだ……議会の貴族たちからも、成果を急ぐようにと、秘密裏に言われているんだった。しかし、これだけのアイテムを作ることが出来れば、王国にもたらす利益は相当なものになるはずだ!
私は早速、アイラの店「エンゲージ」で買ってきた薬をテレーズに見せる。
「ユリウス殿下……この薬は一体……」
「うむ、私がとある店から購入してきた代物だ」
「一つのお店からですか……? これだけの種類を……?」
「そうだな、一つの店からの購入ではある」
現在、目薬と毒消し薬、初級と中級回復薬の4種類のアイテムを作れるテレーズも驚いている様子だ。それはそうだろう……目の前にあるのは14種類ものアイテム群なのだから。一体、何人の薬士を雇っている店なのか? と驚いているに違いない。
「もしかして……これは、以前の錬金術士の方がお作りになったのでは?」
「ほう、なぜそう思うんだ?」
「予想でしかありません。なんとなく……私たちが見て来た調合レシピに、似ている配合比率のような気がいたしまして」
流石はテレーズといったところか。最新設備に掛けなくても、薬を見ただけでそのことを看破するとは。
「うむ、その通りだ。これらは以前の国家錬金術士であるアイラ・ステイトの作品だ」
「やはりそうでしたか……たった一人で14種類ものアイテムを作っているなんて……」
テレーズはどこか浮かない顔になっている。まったく何を言っているのか……お前だって4種類のアイテムが作れるではないか。これらのアイテムを解析して最新設備と併用、さらに残りの2名の国家錬金術士と組んで仕事に励めば、あんな平民ごとき恐れる相手ではないだろう?
私はそっとテレーズの肩を抱いてやった。
「お前なら必ず、あのアイラ・ステイトを超えられると確信しているぞ。私はお前を信じているからな?」
「ユリウス殿下……畏まりました。精一杯、努力したいと考えます。ユリウス殿下のご期待に添えるように……」
そう言うと、テレーズは調合室の奥へと消えて行った。あの気概……大したものだ。オマケにあの美貌と来ている。ブルーの美しい宝石のような瞳にストレートロングの金髪……更にはスリーサイズも90、60、87という素晴らしいものと聞いている。私の将来の妻にふさわしい出で立ちと言えるだろう。
「ユリウス殿下……彼女たちは、アイラ殿を超えることが出来るのでしょうか?」
「何を言っているんだオーフェン? テレーズのあの顔つきを見ただろう? あんな下賤な平民風情に負けるものか……私の計画は必ず上手く行くと確信しているぞ」
「左様でございますか……」
オーフェンの表情はどこか固いな。私の将来の妻があそこまでの覚悟を決めているのだ、それを称賛しなくてどうする?
私はオーフェンに軽く突っ込みを入れながら、自らの明るい未来に想像を巡らせていた……。
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「少しだけ、調合室の設備拡張が出来たな」
「すみません、クリフト様……こんなことを頼んでしまって……」
「まあ、気にすることはないさ。これでも、宮殿内の最新設備と比較すると天地の差になってしまうからな」
クリフト様は設備拡張についても、私に何かを要求する素振りは見せなかった。
「これで、各アイテムの量産化と種類を増やすことが楽になったのではないか?」
「そうですね、以前よりも楽になったと思います」
アミーナさんの宿屋内でお店を初めてから1か月も経っていないけど、かなり良い経営状態になりつつあった。作れるアイテムは、風邪薬5種類に目薬3種類、初級から上級回復薬の3種類と、ダークポーションにマインドポーション、ポイズンポーションの状態付与系3種類。
毒消し薬、暗闇消し薬、精神異常回復薬、呪い回復薬の4種類に、火炎瓶、氷結瓶、雷撃瓶の攻撃アイテム3種類。今の時点で21種類のアイテム精製が可能だった。
「設備拡張前の段階で21種類のアイテム作成が可能か。信じられない……! 一人でここまでの種類のアイテムが作成可能とは。我が国では当然いないとして、他国にも存在するかわからないぞ?」
「あ、ありがとうございます……どうなんでしょうね」
クリフト様からの賞賛の言葉は素直に嬉しい。普通は薬士で1~2種類精製できれば十分って言われてるもんね。だから、需要に合わせた薬士の調達は非常に重要で、冒険者ギルドにも薬士の求人があるくらいだし。そういう意味では複数のアイテムが精製可能な錬金術士はさらに貴重っていうことね。
王国全体でもほとんど居ないって言われているくらいだし。あんまり言いたくはなかったけれど、私って天才なのかも……。今回の設備拡張でさらにアイテムの種類は増えそうだしね! お札系とか色々……。
「それから、アイラ。未払いの君の給料については、後程、必ず渡すから心配しないでくれ。あと、素材の支給と設備拡張、アイテムを入れる入れ物の供給については、給料の支払いが遅れたことによる、お詫びと思ってくれて構わない」
「クリフト様……しかし、それはいくらなんでも……」
えっ? それって、遠回しで後から料金を支払うなって言っているのかしら? 私も結構、儲けて来たし決して払えないわけじゃないんだけど……。でも、クリフト様の目はその辺りも含んでのセリフだということを物語っていた。
私はそれ以上は何も言えなかった。何よりも、クリフト様の善意を無駄にはしたくなかったから。私は彼の言葉に甘えることにした。どのみち、クリフト様ばかりに頼るわけにはいかないので、もう少し売り上げ的に余裕が出てきたら、独自のルートも開拓していくけどね。




