182話 オディーリアとの双性錬金 2
「ほらよ……持ってきてやったぜ」
「シグルドさん、ありがとうございます!!」
オディーリア様が助っ人に来てくれてから数時間後、シグルドさんがマラーク神官長と一緒にサンスクワット大聖堂へと戻って来た。必要分の素材を持って。
「マラークさんすいみません……勝手に素材など使わせて貰っています」
「いえ、とんでもないことでございます! アイラ様の無償の愛によって、瘴気で苦しんでいる者がどれだけ救われているか! クレスケンス様もお喜びになっていることと推察致します。是非とも、存分に能力を発揮してくださいませ!」
「わかりました……どこまで出来るかは分かりませんが、可能な限り頑張ってみます」
「ありがとうございます! 私は他の者達の様子と議会がどうなっているかの確認がありますので……! 一旦、失礼致します」
マラークさんは予想以上に多忙なようだ。部下の神官を連れて、すぐに大聖堂から出て行った。
「マラークさんの印象がなんだか変わりましたね……」
「まあ、王都が非常事態になっているからな。こういう事態で動けなければ、神官長という立場には立てないだろう」
「それもそうですね。ところで、シグルドさんは防毒マスクしていませんが、大丈夫なんですか?」
戻って来たシグルドさんは防毒マスクをしていなかった。外したのかもしれないけれど、体調面が心配だ。
「瘴気発生源の濃度を考えると、防毒マスクは意味を成していない。視界も遮られるし邪魔なだけだった。カイザーホーンやヴィヴィドスネークを相手にしていたからな」
「それは凄いですね……」
以前の冒険者会議でも出て来た凶悪魔獣の名前だ……メビウスダンジョンの魔物というわけね。そんな魔物を単騎でどれだけ仕留めたんだろうか。聞くのが怖いわね……。
「戦闘の方は問題なかったと思いますけど……瘴気の方は大丈夫なんですか?」
「それは……ふん……」
「シグルドさん?」
彼はよろよろとした動きで大聖堂の隅に歩いて行き、そのまま座り込んでしまった。疲れているのだろうか?
「あんなシグルドを見るのは初めてだ。おそらく、瘴気にやられたのだろうが……マズイぞ。シグルドがやられる程の濃度になって来ているとなると、普通の人間では即死してもおかしくない」
「なっ……それはマズイですね……」
今、瘴気の発生場所はそれだけの危険地帯になっているということか。急いだほうが良いかもしれない。
「ふむ……準備は整ったようじゃ。アイラよ、すぐに超万能薬の作成に取り掛かるとしよう。成功するかどうか考えるのは、行動してから考えようぞ」
「は、はい! すぐに取り掛かりましょう!」
「うむ、その意気じゃ」
シグルドさんが疲れた様子で座り込んでいる……濃い瘴気によって体力を奪われたのだとしたら、本当に危険な状態だ。彼自身はしばらく持つだろうけど、王都がいつそんな危険な瘴気に呑まれるか分かったものではないのだから……。
でも、超万能薬を完成させたとして……蔓延した瘴気の後始末はどのようにつけるのだろうか?
私は解毒薬は作れたとしても、広まった瘴気を消す手段までは構築出来ないけれど……万能薬などを作るので精一杯で考えていなかった。
「アイラ、雑念を払うのじゃ……わらわ達が挑むは未知なる解毒薬。気を集中させろ」
「そうですね、すみませんでした。大丈夫です、行けます!」
「よし……では、始めるぞ」
いや、私がそんなことを考えても仕方ない。私は自分が出来ることを精一杯やるだけだ。少しでも助かる命を増やす為に。
私とオディーリア様……二人の双性錬金が始まりを告げる。彼女の動きを私がトレースしていく。そして思いは重なり……通常ではあり得ない、完全同一の動きを実現していったのだ。