18話 謎の買い物
「ええと、目薬3種類に、風邪薬系5種類、あとは初級回復薬に中級回復薬、上級回復薬ですね……数はそれぞれ、1つずつでいいですか?」
「1つずつで構わん。あと、ダークポーションとマインドポーション、ポイズンポーションも貰おうか」
「畏まりました」
私はユリウス殿下が望んだ薬を袋詰めにして、オーフェンさんに手渡した。彼は、私に対して小さく頭を下げている。せめて、このくらい謙虚な態度をしてくれれば、私の中の感情も小さくなりそうなのに。
「よしよし、代金はこれで十分に足りるな? お釣りは特別に勘弁してやろう」
「はあ……毎度、ありがとうございます」
お釣りはいらない、か……。それをするなら、金庫に入っている私の、国家錬金術士としての給料を全額返してもらえないかな? まあ、このどうしようもない人に言っても、焼け石に水っぽいから、やっぱりクリフト様を通した方がよさそうね。
「でも……3人も国家錬金術士を従えている、ユリウス第二王子殿下様が、今さらクビになった私の薬を欲しがるなんて、どういう風の吹き回しですか?」
「ぬ……そ、それは……!」
明らかに狼狽えているユリウス殿下……。これは、怪しいわね……私も皮肉を混ぜて言ってみた。
「虫唾が走る平民ですよ、私は? そんな平民の薬なんて、手元に置いておくだけでも大変なんじゃ?」
私はユリウス殿下に以前言われたことを復唱してみせた。ユリウス殿下の心の中が読めるわ……相当、怒ってるわね。その証拠が眉間に寄ってるしわだと思うし。
「心配するな、アイラ。これは私の手元に置くのではなく、国家錬金術士たちの手元に向かう予定だからな。なにも問題はない」
ユリウス殿下なりの必死の返答といったところかしら? 彼の手元には行かないことはわかったけど、でも、墓穴を掘ったわね。現在、宮殿で働いている国家錬金術士の3人に私の薬を渡して、それを作れるように研究するといったところかしら?
「なるほど、国家錬金術士のところへ向かうんですね」
「その通りだ、これで、私が選んだ国家錬金術士の方の実力はさらに増して行くだろう! ふははははっ」
「そうなんですね、なるほど……」
ていうことは、現在の3人の国家錬金術士は私ほど、複数のアイテムが作れてないってことよね?
「それがユリウス殿下の計画ってわけですか?」
「計画? なんのことかな?」
「……」
さっきの仕返しのつもりなのか、皮肉めいた口調でとぼけている。まあ、ユリウス殿下からの回答がなくとも予想は出来るけど。多分だけど、私の薬を最新設備で解析して、それから貴族の錬金術士たちに作らせる……で、それらを王族や貴族に供給したり、各街の専門店で販売したりして、利益を上げるつもりなんでしょうね。
ユリウス殿下は私を追放して、新しい国家錬金術士を入れたのはいいけれど、思ったほどの成果が出なくて、議会などから突っ込みを入れられてるんじゃないかな? 私の追放を承認した人たちは勿論、以前と同等以上の成果を期待するはずだから。
それにしても……私の後釜の錬金術士は何種類くらいのアイテムを作れるのかしら? 私よりは少ないみたいだけど、王国の最新設備で作ってるわけだから、そこそこの種類は網羅しているはず……私の店に頼らないといけないほど、少ない薬しか作れないとは思えないけど。
議会等からの圧力が想像以上に厳しいとか? いや、第二王子相手にそんなことできないか……よくわからないわ。
ユリウス殿下は私が手渡したアイテム類を見ながらほくそ笑んでいるように見える。
「よしよし、これだけあれば……ではな、アイラよ。兄上にはよろしく言っておいてくれ。私は宿屋の朝食を済ませたら、すぐに戻らなくてはならないのでな!」
「はあ……わかりました……」
「それでは、私もこの辺りで……あなたのお店は素晴らしい品揃えかと思います。今後の発展を心から応援いたします」
オーフェンさんは私に深々と頭を下げていた。彼の態度はいいんだけど……発展を期待してくれるなら、国家錬金術士をクビにしないで欲しかったけどね。でも、宮殿での仕事よりも、一般の人と触れ合える今の方が充実してると思う。クリフト様とも親しくなれてるし……ふふふ。
ユリウス殿下とオーフェンさんは、私の店での買い物を済ませると、食堂の方へと入って行った。ていうか、朝食は食べて行くんだ……王族なのに。