173話 瘴気 2
「瘴気だと……! それは本当か!?」
「は、はい……北の特定地域から瘴気と思われるガスが噴出しているようでございます! 近くの村には健康障害を訴える者が居まして……!」
「なんだと……!?」
マラークさんは部下からの報告を受けて、かなり取り乱しているようだった。まあ、分からなくはないけど。聞いている私もただ事ではないと思い、内心では緊張しているし。
「アイラ様、申し訳ありません! 急用が出来てしまったので、私はこれで失礼致します! 先ほどのお話については、また後程ゆっくりと……!」
「わ、分かりました……!」
王都ヴァレイの近くで瘴気が発生したらしいし、マラークさんを引き留めることは流石に出来なかった。話の重要度的には瘴気の方がはるかに重要だしね。
「それでは私はこれにて……!」
「待て」
「えっ?」
そんな時、マラークさんを呼び止める声がした。シグルドさんの声だ。
「その瘴気の発生場所へ向かうのだとしたら、止めておいた方が良い。無策のまま突っ込めば、余計に被害者を出すだけだぞ」
「シグルド殿……? 瘴気に関しまして、何か知っているのですか……?」
「位置としては少し離れているが、メビウスダンジョンから発生している瘴気の可能性がある」
「メビウスダンジョンの瘴気ですか……?」
「ああ、ホーミング王国の近くに最近発見されたダンジョンだ。あのダンジョンは未だに最深部が見えていない。もしかすると、地下で王都ヴァレイの北の瘴気発生場所と繋がっているのかもしれんしな」
なるほど、そういう考えが出来るわけね。となると、メビウスダンジョンの全長は物凄く長いことになるけれど……一体、何百キロあるのよ?
「無闇に行けば被害者が増えると言われますが、私の立場としては、様子見をしないわけにはいきません。防毒マスクを付け、向かうことに致します」
「ならば俺も同行させてもらおうか。俺はメビウスダンジョンを攻略中ということもあって、瘴気には詳しいからな。同じものかどうかの判断はおそらく可能だろう」
「シグルド殿が来ていただけるのであれば、心強いですが……」
「よし、では決まりだな」
なんだか、一気に話がシリアスになって来たわね。周辺の人達にも影響が出始めているし、仕方ないのかもしれないけど。
「あの、シグルドさん。大丈夫なんですか?」
「俺の心配は不要だ。アイラ、貴様は自分の心配をしていることだな。アルファ、しっかりと護衛をしてやれ」
「言われなくても分かっている。しかし、シグルド……気を付けてな。いくらお前でも濃い瘴気に長時間晒されるのは厳しいだろうし」
「ふん、愚問だな」
そこまで言い終えると、シグルドさんはマラークさんと一緒に歩いて行った。王都ヴァレイの北の瘴気発生地点に行くに違いない。
私としてはシグルドさんなら問題ないとは思えるけれど、少しだけ心配でもあった。なにせ相手は毒ガスのような実体のある敵ではないのだし。倒す、という選択肢が生まれない相手なのだ。
まあ、必要以上に心配しても仕方ないわね。私はとりあえず、出来ることをしておかないと。
「ヴァレイの人々の内に何人かが体調不良を訴えているみたいですね」
「そうみたいだな」
「瘴気に対して、どのくらい効果があるのか分かりませんが、毒消し薬や上級毒消し薬を作っておきますね」
「ああ、それが良いだろう。それにしても……アイラの能力は便利だな……」
私は携帯の錬金セットを出して、調合を開始した。確かに便利な能力だと思う。目の前で体調不良になっている人々を助けられるかもしれないんだし。携帯錬金セットをくれたカミーユにも感謝しないといけないわね。