162話 神官長マラーク 2
神官長マラークさんは私の店の棚に並んでいるアイテムを物色しながら、感嘆の声を上げていた。
「う~む、実に素晴らしい……まさに、奇跡のようだ」
特に3大秘薬には目を輝かせているようだった。まあ、彼らの国家の理念からすれば、感動に値することなのかもしれないけれど、私としてはイマイチピンと来ていない。嬉しいことは嬉しいんだけどね。
「ロンバルディア神聖国の神官長殿が護衛も付けずに、他国の街の店を訪れるとはな」
「やっぱりそれって、珍しいのですか?」
「国柄に寄るところもあるだろうが、通常は珍しい部類に入るだろう」
クリフト様が私の店を訪れる時は、絶対に1人では来ない。最低限の護衛が付いているしね。オディーリア様だって同じだ。あんまり思い出したくはないけど、ユリウス殿下も確か護衛を付けてたわね。
「マラーク殿は、ホーミング王国で言えば最低でも公爵クラスの立場にはあるはずだ。神官長というだけあり、魔法の能力には長けているのだろうがな」
それもそうか。確かにマラークさんは魔法が得意そうな外見をしていた。もしかしたら、インビジブルローブで隠れた五芒星のように、姿を隠している護衛が周囲を包囲しているのかもしれないけれど。もしそうだとすると、エンゲージのお店の前はかなりの人口密集地になっていそうね……。
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「いやはや、改めて拝見いたしましたが素晴らしい品揃えです、アイラ様!」
「あ、ありがとうございます。マラークさん……」
私はやや苦笑いだったけど、彼に笑顔で返した。どうしてもマラークさんのノリには付いて行けない。この人は今までにないタイプの人かもしれないわね。そもそも、私を崇拝してくれる人が初めてだけどね。
「陳列されているアイテムを1種類ずつ、全て買わせていただいても宜しいですか?」
「えっ!? 全部ですか?」
「はい、もちろん代金はご用意いたしますので……」
「そ、それは構いませんが……」
全種類を買うだけなら別に在庫切れとかにはならないから、私としても全然問題はないけれど。神官長という肩書きの方なら、50種類以上あるアイテム全種類買うことくらいはワケないか。
「分かりました。少し用意するまでお時間が掛かりますけどよろしいですか?」
「それはもちろん構いませんとも。ゆっくりと待たせていただきます。それから……これは、アイテム購入とは直接関係のないお話しなのですが」
「はい?」
急に話が変わったように感じた。マラークさんの言葉は私の移動を止める。
「我々はアイラ様を、ロンバルディア神聖国の英雄として奉りたいと考えております」
「えっ……?」
英雄として奉りたい……? なんかそんな言葉が聞こえて来たような……。
「アイラ様、ロンバルディア神聖国にお越しいただくことは出来ませんでしょうか? 可能であれば、転居を考えていただきたいのですが……」
オディーリア様達が心配していたことが早くも起こっているような……ロンバルディア神聖国への招待。それから転居って……一気にそこまでの話が来るとは思ってなかった。
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