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16話 綻び 4 (ユリウス殿下視点もあり)

「アイラ……! それに、兄上も……!」



「ユリウス……」



 久しぶりに見た気がするユリウス殿下の姿……とても狼狽えているみたいだけど、なんでかしら? 隣には身なりの良い男性も立ってるわね。確か、執事さんだったっけ? 見たことある気がする、流石に名前までは忘れたけれど。



 と、いうより、今さら何しに来たのかしら? とりあえず、私がクリフト様よりも先に話すことにした。



「ご無沙汰しております、ユリウス殿下。状況が状況ですので、簡易的な挨拶でお許しください」


「あ、ああ……」



 私は少しだけ皮肉も混ぜて挨拶をしていた。でも、意外とユリウス殿下は冷静というか……普通だった。



「それで、ご用件はなんでございますか? ユリウス殿下がエンゲージに来られる理由は特にないと思いますが……?」



 問い詰めているように見えるかもしれないけれど、別に他意はなくて、私の本音を言葉にしただけ。3人も国家錬金術士が誕生したんだし、私に用事なんてないと思うんだけど。まさか、ここで商売をしていることを咎めに来たとも考えにくいし……本当の用事は桜庭亭の方にあるのかしら?


 いや、それだったら、アミーナさんが私たちを呼びに来たりはしないか……。本当にどういう目的で来たんだろう? 手伝ってくれている従業員のライハットさんも困ったような顔をしているし。



「ユリウス、何をしに来たのだ? いまさらお前がアイラに用事があるとは思えないのだが……」



 その時、私をフォローしてくれる意味合いか、クリフト様が口を開いた。ユリウス殿下と隣の執事さんの表情はさらに重たいものに変化していた。



「か、買い物に来たのだ……! 桜庭亭の薬屋の噂を耳にしたのでな! そうだろう、オーフェン?」



 ユリウス殿下は隣の執事の名前を呼びつつ、明らかに強調するように話し出す。そういえば、オーフェンっていう名前だったわね、この人は……。



「え、ええ……そうですね……」



 オーフェンって言う執事も、ユリウス殿下と同じく焦っているような……ユリウス殿下ほどあからさまではないけど。ていうか、なんでわざわざ嘘なんて付くのかしら? 雰囲気的に、悪さをしに来たわけでもなさそうだし……私はその部分が本当に分からなかった。





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(ユリウス殿下視点)





 ぬうう……! 咄嗟のアイラの質問に嘘を吐いてしまったではないか……! いや、買いに来たというのは嘘ではないのだが……。しかし、品揃えが凄いという噂を耳にして見に来たが、想像以上に凄かったなんて言えるものか!

なぜ、風邪薬という薬品だけで5種類もあるのだ?



「この風邪薬が5種類あるのはどういうわけなのだ……?」



 とりあえず、私は情報を仕入れる為に質問をする。なんとしてもアイラから秘密を奪っておかなければ……アイラが一般人になったので、営業停止などは事実上不可能だからな。兄上が協力している以上、さらに無理だ……。おそらく宮殿の素材はこの店に流れたのだろうが、そこを指摘してもたかが知れている……。



「風邪薬ですか? それは価格によって効果が違います。鼻水を止めるのだったり、熱を下げるのだったり」



「そんなに細かい調整まで……」



 まさか、ここまでのことが出来るとは……。



「もう少し、設備が強化されれば、さらに細かく出来ると思うんですが、その辺りは追々……」


「お前は王国の最新設備を使っていたではないか。あの時は手を抜いていたのか?」


「いえ、そういうわけではないです。ただ、そこまで細かい注文がなかったので、大雑把に種類分けをしていただけです。今は、一般のお客さん相手で細かい要望とかも多いので……」



「……そういうことか」



 確かに、宮殿での国家錬金術士への要望は、細かく要望することはなかったはず。だからこそ、アイラも細かくは分けなかったのか……いや、大雑把に分けていてあれだけのレシピ集を作っていたのか? 今のアイラが王国の最新設備を使えばどうなってしまうんだ……?



 いや違う、考え方を変えるんだ。私がここに来た理由……そう、テレーズ達3人の国家錬金術士の能力を向上させる為だ。アイテムを細かく種類分け出来たところで、需要がなくては意味がない。



 王国内ではそこまで細かな需要は必要とされていないからな……そうだ、まずはこの娘の技術を少しでも盗むんだ。よし、とりあえず買い占めていくか。



「済まないが、アイラ。営業時間は終わっているようだが、特別に薬を売ってくれないか?」


「えっ? でも、もう営業時間終わってますので、明日にしてもらえますか?」



 驚く程、あっさりと断られた……私は第二王子様だぞ!? くそ……兄上が近くに居るから調子に乗っているのか?



「もう夜も遅いですし……お泊りでしたら、隣に最高の宿屋がありますので!」


「なに……?」



 私はアイラが指さす方向に目をやった。あの女は……最初に私がここに来た時に、大慌てで店から出て行った女か。確か、アミーナとかいう……。元気よく手を振っているではないか……!



「お泊りでしたら、どうぞ桜庭亭へ! 裏には温泉もありますので、くつろげると思いますよ」



 なんなんだ、このコンビネーションは……まるで、最初から仕組まれていたかのようだ! 忌々しいが宮殿に戻ってまた来たのでは、どことなく間抜けに見えてしまう。結局、その日、私は桜庭亭へと泊まる流れに逆らうことは出来なかった……。

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