155話 神聖国の訪問 1
「はあ……なんだか、憂鬱ですね……」
「アイラ、憂鬱なのか?」
「はい……色々とあって……」
「ふむ、それは災難じゃな。よし、肩でも揉んでやろうか」
「いえ、結構です……別に凝ってないので」
冒険者会議が終了した次の日、私はいつもどおり、エンゲージを運営しているのだけど……会議で聞いたロンバルディア神聖国の件で憂鬱な気分になっていた。店の前にはオディーリア様とクリフト様がいらっしゃる。
私はもう慣れてしまったけれど、よくよく考えるととんでもない方々よね。この国の次期国王筆頭のクリフト様と、女王国の次期女王様と言われるオディーリア様が目の前に並んで立っているのだから。
国家の重鎮の二人……二人も慣れてしまっているのか、さも当然のようにエンゲージのお店の前に居るけれど、その時点でおかしいのであって……。見慣れていない冒険者の人々は、何度も彼らに振り返っている。
何よりも、二人を護衛する方々が大変なきがするわ。クリフト様もオディーリア様も相当な手練れとはいえ、護衛が付かないわけはないし……クリフト様には数名の兵士が、オディーリア様にはインビジブルローブに身を包んだ五芒星のメンバーが護衛に付いていた。
まあ、いまさら私が何かを言うことはないんだけどね。
「ロンバルディア神聖国か……ふむふむ、アイラならばそれはもう崇拝してくれるじゃろうな」
「う……やっぱりそうなんでしょうか……?」
「アイラとしては不満なのか?」
クリスト様は怪訝な様子で私の顔色を伺っていた。オディーリア様は単純に楽しんでいるように見えたけれど。
「いえ、不満ではないんですけど……冒険者会議でも崇拝されるかも、とか言われて……崇拝って……私、そんな柄じゃないですし」
「なるほど……崇拝か」
「はい……」
尊敬、とかだったらまだ良いんだけど崇拝となると重い気がしてしまう。崇拝なんてされる器じゃないのは、自分が一番よく知っているし……いや、別にロンバルディア神聖国の人達と会ったとして、崇拝されると決まったわけでもないんだけどね?
ただ、少しだけ不安を覚えているというだけで……。
「はは、崇拝か。私としては嬉しくもあるがな」
「クリフト様……?」
「アイラの才能は正直、錬金術に疎い私から見ても異次元の領域に感じる。崇拝をしてくれる者が居るというのは君の才能が認められているということじゃないのか?」
「それは……そうかもしれませんけど」
クリフト様は私とは違って、あまりロンバルディア神聖国を警戒している様子はなかった。まあ、武力行使に来るわけじゃないだろうから、警戒する理由は確かにないんだろうけど。
「オディーリア様もクリフト様と同じ意見でしょうか……?」
「ふむ……そうじゃな。わらわはむしろ……」
オディーリア様の意見が聞ける。私は不思議だけれど、彼女の意見を最優先に考えている節があった。決してクリフト様の意見を蔑ろにしているわけじゃないけど……なんだろう、この感覚は?
まあ、いいか。今はそれよりもオディーリア様の貴重な意見を聞きたいと思う。と、その時だった……。
「おおっ! ここが例の場所ですなっ!!」
「ん? なんじゃ?」
「外が騒がしいようですね……」
「えっ……?」
外がやけに騒がしくなったような……桜庭亭に居るお客さんも、何事かと外を覗いている。
一体、何事かしら? せっかく、オディーリア様の意見を聞ける瞬間だったのに。
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