127話 ネプトの教え 2
「それではごゆっくりどうぞ。お店の運営は私達に任せておいてください」
「すみません、ライハットさん。少しの間、お願いしますね」
私はライハットさんと従業員にお店の運営を任せ、ネプトさんとアンジェリーナさんを、奥の調合室へと案内する。
「おお、前にも来たことはあるけど……改めてみると、なかなか壮観だね」
「そうですか? ありがとうございます。でも、宮殿内の調合施設はもっと凄いですよ?」
「ほう、そうなのかい? まあ、宮殿の方は国家が管理しているからね。個人経営のお店で、ここまでの調合施設を完備しているところはめずらしいだろうね」
そうなのかな? はっきりと見た記憶はないけど、向かいのキース姉弟の店もこれくらいの設備はありそうな気はするけど。あ、でもあっちは元々、ユリウス殿下が創設した物か。私の方もクリフト様の協力があって拡張したんだけど。
「ふむふむ、なるほどなるほど……」
「ど、どうでしょうか?」
ネプトさんは調合室を一通り見渡しながら、何か納得しているような印象だった。私は別に責められているわけでもないのに、自然と緊張して汗が零れてきた。
「……」
アンジェリーナさんも、なぜか無言のままではあったけれど、周辺を興味深げに見渡している。別に何かがあるわけでもないんだけど……まさか、五芒星を探しているってわけでもないだろうし。二人の挙動がよく分からなかった。
「……」
いつの間にか、ネプトさんも無言になっている。私は早く教わりたいという欲求が強くなってきた。
「あの……ネプトさん? どうかなさいましたか?」
「ああ、いや……アイラ君、君はここでエリクサーや万能薬といったアイテムを調合しているんだね?」
「ええ、そうですけど……それが何か引っ掛かりますか?」
「そうだね……アンジェリーナ、何か思い当たることはないかい?」
ネプトさんは自分の意見は敢えて避けたのか、アンジェリーナさんに意見を振っていた。彼女は相変わらず無言のままだったけど、静かに口を開く。
「これらの設備……確かに個人店としては優秀。でも、設備全体としては発展途上……この設備でエリクサー級のアイテムを幾つも作れるのは信じられない。ネプトの教えが加わった場合、どうなってしまうのか、想像も出来ない」
「ふむ、非常に的確なご意見ありがとう、アンジェリーナ」
「……いえ」
アンジェリーナさんはかぶりを振ると、また無言になってしまった。ええと、どういうことなんだろう? 私はの技術が凄いと褒めてくれたんだろうけど、最後の方の言葉の意味が分からなかった。
「アイラ君。少し混乱していると思うが、私の錬金術としての教えを吸収すると君はさらに高みに行ってしまうのではないかということさ」
「私が……さらに高みにですか?」
それは願ってもないことだけれど……なんだろう? 少しだけ不安がよぎってしまう。
「どのみち、エリクサー級のアイテムを簡単に作れる者に教えられることは限られているのだがね。そうだな……私の得意としている、アイテムの個数を効率よく増やす技法を伝授しようかね」
「えっ? それって……」
「これを君がマスターしたら、エリクサーや万能薬、蘇生薬などのアイテムの個数も今以上に増やすことが出来るだろうね。私が教えられるのはそんなところだが……如何かね?」
「……」
私の中によぎる不安……確かにネプトさんの言った技法は素晴らしいものだ。私はその技法を伝授されることを無意識の内に怖がっていたけど……。
「お願いします!」
錬金術士として高みを目指す欲求は果てしない。人々の助けにもなるなら猶更だ。私は迷うことなく、ネプトさんにお願いしていた。
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