表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/286

122話 クリフト王子殿下の思い 2


(クリフト王子殿下視点)


「今だ! 後方のグリフォンは倒れた! 負傷者を中心に、早急に退却を開始しろ!」


「畏まりました!!」


 周囲に取り巻く180人の兵士達全員に聞こえる程の号令を、私はかけていた。私の言葉に反応するかのように、負傷者を抱えていた者達が私の傍をすり抜けていく。全ては後方のグリフォンを一瞬の内に倒した男、シグルド・バーゼル殿のおかげだ。


 彼には感謝してもし切れないが、それについては後程話すとしよう。今は退却を何よりも優先させる必要がある。ただ一つ、彼とすれ違う時に私は、


「恩に着る、シグルド殿」


「1つ壁を抜けた顔つきになったな」


「私は私のやれることを最大限にするさ」


「ふん」


 ぶっきら棒な返答ではあったが、シグルド殿はどこか爽やかに私を見送ってくれているような気がした。兵士達を一人も死なせずに退却させる……これは私が行うべき責務だ。有事の際に於いては甘いと罵られるかもしれないが、私は出来る限り犠牲者を出したくはない。シグルド殿のおかげで、ブレていた心が少し固まった気がする……これが私の守るべき信念なのだから。



------------------------------------



 私達はその後、ベースキャンプになっている野営地まで逃げ切ることに成功した。前後左右から迫っていたグリフォン三体は、シグルド殿と「ワルプルギス」や「アハト」のメンバー達で仕留められた。


 結局、最初の一体のグリフォンについても、ホーミング王国の兵士達で仕留めることはできなかった。あの一体だけであれば、なんとか仕留めることは出来ただろうが……グリフォンの最大の脅威はその耐久力なのかもしれない。現に、冒険者たちの中にも負傷者が出た始末だ。我が国の兵士に至っては、今日だけで20人以上にもなる。死者が出なかったのは奇跡的と言えるだろうか。


「なんとかなりましたね……クリフト王子殿下……!」


「そうだな、ロブトー兵士長」


 テントの1つで休んでいた私の前に現れたのは、ロブトー兵士長だ。安堵した表情を私に見せている。


「迅速かつ有無を言わせない退却のご指示、見事でございました……!」


「ありがとう。ただし、あれは私の手柄とは……いや、私の手柄かな」


 少しくらい道を逸れることも重要だ。今までの私は敷かれたレールからはみ出さないことに必死だったからな。次期国王になる為の教育……しかし、時には不測の事態に臨機応変に備えられる度量が必要なのだと教えられた。


 教えてくれたのは、シグルド殿だけではない。以前に同行したカミーユやサイフォスも私の恩師みたいなものだ。臨機応変、というのは必ずしも今回のような戦闘に対して行うわけではないがな。自らの行動に対して絶対の自信を持つことにも使われるだろう、今回のように。


「本日の収穫はグリフォン五体だ。非常に大きな成果と言えるだろう。同行してくれた冒険者はもちろん、参加している兵士達にも特別ボーナスを支給する必要がありそうだ。補正予算などを早急に組まなければ……あ、それとアイテム作りの最高功労者でもあるアイラにも1万スレイブでは安いか……」


 今回の作戦でアイラが作ってくれた回復薬が早速、役立っているからな。


「クリフト王子殿下……? なにやら、お気持ちの変化でもあったのですかな?」


「ん? いや、そういうことではないさ。ただ、教えられただけだ。さて、ロブトー兵士長、明日からもエコリク大森林の調査は続く。気を引き締めていかないとな」


「左様でございますね」


 ロブトー兵士長は何かを悟っているように見受けられた。私の気持ちの変化に敏感に反応してくれたようだ。エコリク大森林の調査は明日以降も続いていく……指揮官として、恥ずかしくない行動を取る必要があるな。そして、アイラに堂々と顔向け出来る人間にならなくては。


 間接的にそれを分からせてくれたのはシグルド殿だ。彼は私の師に値するかもしれないな……ははは。


よろしければブクマや評価、感想やレビューをいただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ