12話 繁盛している薬屋 2
「うふふ、ごゆっくりどうぞ、クリフト王子殿下」
「あ、ああ……ありがとう」
アミーナさんは、何かを勘違いしている気がする……私の様子を見に来てくれただけのクリフト様を、まるで恋人を訪ねて来た男性みたいな目で見ているし……。
相手は王国の第一王子だけどな……いくら、国家錬金術士として働いていた時は懇意にしてくださった相手とはいえ……。流石に身分が違いすぎるというか、クリフト様はまだ22歳だし、結婚もしていないしで、完全に無理ってわけではないのかな? とか考えたこともあるけれど。
何より、クリフト様は優しかったしね。て、あんまりこんなことを考えてたら、不敬罪に問われそうだわ。
「ははは、面白い女将さんだな。こういう宿屋なら、一度、泊まってみたいと思う」
「確かにアミーナさんは面白いし、良い人ですよ。宿屋のサービスだって充実しているし、私からも推薦いたします」
アミーナさんの宿屋「桜庭亭」の評判は実際に結構良かったりする。これもアミーナさんと、その下で働く従業員のおかげでしょうね。
「ところで……先ほど、少し様子を見ていたが、一人で薬屋を経営しているのか?」
「今のところはそうですね。アミーナさんの宿屋で働く従業員の方が、来てくれる予定ではあるんですけど」
「なるほど……しかし、それでは宿屋の経営に影響が出るかもしれない。協力を約束した身としては、私の方から作業員を派遣したいのだが、どうだろうか?」
私はクリフト様からの予期せぬ提案に驚いてしまった。
「く、クリフト様の配下の方が来てくれるんですか? でも、それは……」
無料で大量の素材を供給してもらった上に、接客用の従業員まで派遣してくれることになっては、流石に申し訳が立たない気がする。供給してくれている素材についても、どこかのタイミングで費用を返していく予定にはしているし……。
「そんなに気にしなくても大丈夫だ。これでも、ユリウスのしたことを、帳消し出来ているとは全く思っていないからな」
「クリフト王子殿下……ありがとうございます……」
なんだか変な空気が流れている気がするけれど、真剣なクリフト様の厚意に、下手に断っては失礼に当たると思ってしまった。本当はもう十分に帳消しになってると思うんだけど……それにクリフト様が悪いわけじゃないし。確かに国家錬金術士をクビになったのは残念だけど、私はこうして新しいお店を経営している。
今はそれが楽しくてしょうがなかった。あんまり、過去のことに囚われるのは、性に合わないしね。
「アイラ、君への罪滅ぼしという側面があるのは事実だが、実はそっちはあくまでもオマケみたいなものなんだ」
「罪滅ぼしがオマケですか……?」
「ああ」
どういうことかしら……? ユリウス殿下が行ったことへの罪滅ぼしとして、クリフト様は協力してくれていると思っていたけれど。なんだか、カウンター越しからこちらを眺めているアミーナさんが、さらに怪しい笑みを浮かべている気がする。
アミーナさんには、クリフト様の言った言葉の意味が通じているのかしら?
「オマケというと聞こえが良くないかもしれないな。つまりは、私自身がアイラに協力をしたいという気持ちが強いんだよ。それだけさ」
「ええっ!? クリフト様……?」
「まあまあまあ……うふふふ」
私は予想もしていなかった彼からの言葉に、顔が一気に真っ赤になっていくのを感じた。アミーナさんはもう完全に楽しんでいるし……! ど、どういう返答をすればいいのかな……これって、一般的には告白に該当……するわよね?
いえ、でも相手は王子様だし……! もう私の脳内はまともに思考していなかった。
「すぐに返事が欲しいとは言わない。ただもしも迷惑でなければ……今後も手伝わせてほしい」
「クリフト様……」
流石は第一王子殿下……こんなことくらいでは、ほとんど動じている様子はなかった。私はクリフト様の告白? を拒否することもなく答えを保留することにした。だって、いきなり答えられないし……。
それから……私のお店には、クリフト様の配下の人が従業員として、配属されることになりました。