111話 オイゲン商会の出店 4
なんだか怪しい話をしている……私は直感でそう認識してしまっていた。それによく見ると、奥の部屋……つまりは階段を上って行く冒険者が目立つように感じられる。
「ここの2階も確か、売り場なんですよね?」
「外観上ではそのようだがね。アイラ君、何か気になるのかね?」
「いえ、オイゲン会長と話している冒険者達も気になりますけど、2階に上って行く冒険者も気になってしまって……」
一般人の買い物客も営業初日ということもあり、相当な数になっている。でも、そんな一般のお客さんは2階に上がる気配を見せていないし……と、いうよりも2階の階段に陣取っている黒い服を着た人物に止められているような。
「……あやしい」
いままで無言で私達に付いて来てくれていたアンジェリーナさんが、ポツリと言葉を漏らした。そう、確かに怪しい……。
「2階……何が売っているんでしょうか?」
「そうだね、確かにその点は気になるところだ。行ってみようかね」
「はい!」
私とネプトさんは互いに頷き合った。その後ろからシスマとアンジェリーナさんの美女コンビが付いて来る形になっている。五芒星の3人の位置は分からないけれど、おそらくは私の周囲を警戒してくれているはず。
万が一にも万全の態勢だ。私は黒服の二人が立っている2階に向かって行った……。
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「申し訳ございません、2階はゲストルームとなっております。特別な許可を出しているお客様以外はお通しできません」
「ゲストルームですか……?」
「はい、その通りでございます」
黒服の二人は外見上からは想像できない程に物腰が柔らかかった。もっと罵倒されて止められると思ったけど、予想は外れてしまった。でも、私達を通さないというオーラは想像以上に大きい。
「でもさっきから、冒険者の人たちは通れてましたよね?」
「それは……」
黒服の二人は急に言葉数が減ってしまった。これは痛いところを突かれたという現れだろうか? 私の質問を補完するかのように、ネプトさんが追い打ちをかける。
「私も冒険者には該当するのだが……それでも無理なのかね?」
「冒険者ランキングのイノセント……そのリーダーを務めるネプト殿でも、2階へ通すわけにはいかないな」
無言になっている黒服の男たちの助け舟と言えばいいんだろうか。オイゲン会長が私達に気付き、話しかけて来た。タイミング的にも意地でも2階へは行かせたくないように思えるけど……。
「オイゲン会長……」
「これはこれは……アイラ・ステイト殿も一緒だったか。それから……ほほう、これは。ホーミング王国の国家錬金術士であるシスマ殿に、その姉君に当たり最強冒険者の片割れにして名実共に最強と名高いアンジェリーナ殿まで……。なんとも、豪華なメンバーですな」
私達4人全ての名前を即答できるところが、なんとも不気味だった。まるで、全て調査済みであることを思い知らせているような……。オイゲン会長は私が思っている以上に厄介な人物なのかもしれない。
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