騎士と賊の罠
護衛の騎士目線
賊に囲まれてた
油断していた
人気のないこの街道が、危険な場所だとはわかっていた
月ごとにお嬢様の"お願い"で西の湖へ行く
初めの頃は警戒していたが、この遠出が長く続くにつれて
自然と護衛が減っていく
なにも起こらぬお嬢様の小旅行に、気を張ることもなくなっていた
長いこと習慣となっていたことと、
そう弁解したとて、もうすでに遅い
ーー手遅れだ
護衛側に内通者がいたことで仲間にも動揺している
賊を抑えて、お嬢様だけでも逃がせないかと模索していたが
賊は多い、森にも潜んでいる可能性がある
なにより、護衛側の騎士にも迷いがある
賊は騎士達を見逃すと言った
その言葉を鵜呑みにはしなかった
緊急時の策もある
騎士の信条にかけても、ここを切り抜けるつもりでいた
しかし、護衛側に裏切者がいた
奴は"最初から仕組まれていた"と言う
緊急時の策も使えるかどうか
それでも
裏切りの騎士は、我々を見逃すと言った
それが我々への情けだとはわかった
屈辱だ
しかし、もう、無理だ
馬はやられた
数の見えない賊に囲まれ
策は筒抜け
今なら、まだ
逃げられるやもしれぬ
騎士として野垂れ死にする覚悟はあった
しかし、事実そこに僅かでも希望があるなら
逃げてしまおうか
「あんたらが黙ってれば・・・罪にも問われない。
なにせ、しょっちゅう家出するお嬢様だ、誰も気づかないさ。
こんな廃れた街道、だれにも見られないですむ」
裏切りの騎士が言った
甘い囁きだ
そう、奸計に陥るところに、
この状況に似つかわしくない声が響いた
「それが、目撃者がいたんだ」
賊の後ろからだった
賊も声の主のほうへ向く
――なんで、こんなところに、こんな女の子が、
だめだ、はやく逃げろ
賊も驚いていたが、それも一瞬
賊の長は下卑た顔をして言う
「こんなとこまで、ひとりでお散歩か、お嬢ちゃん。
こんなとこにいると、余計なことに首を突っ込んじまうんだ。
見ちゃあいけねえもんも、この世にはあるんだよ。
誘拐の現場とかなあ」
賊が少女を囲む
賊の長が裏切りの騎士へ、少女をどうするかと問う
騎士は、にやにやと口の端を上げて応える
「そうさなあ、殺そうか、売ろうかと思ったが・・・
捕まえろ。そこの騎士に乱暴させたら、面白いだろ」
そう言って笑う裏切りの騎士は、それこそ賊徒の長のようで気味が悪い
「お嬢ちゃん、おとなしくしとけ。
暴れたら、その顔に傷がつくことになる」
賊の一人が剣を向けると、少女は後ずさりをする
賊はにやりとして、近づき、剣を振り上げる
少女は頭を守るように、手を振るう
鈍い音がした
騎士は呆然と、それを見ていた
賊が崩れ落ちた
次は、邪神さまの目線に戻ります