邪神は疑われる
会話多め
邪神さまはお嬢様とお話をする
馬車内にはふたりーー
左に騎士と、右奥に身綺麗な少女が座っていた。
少女は青ざめた顔をしていたが、凛と姿勢を正したままであった。
――こちらが件のお嬢様か。
年のころは十五、六。だが先の惨事にあって、落ち着きを保っているのなら立派なお嬢様だな。
令嬢は正面に座るように手のひらを向けた。
邪神少女は騎士の隣に座る。
騎士の目は冷たく、少女を警戒しているようだった。
「騎士達から聞きました。
あなたが盗賊を退け、私たちを守ってくださったのですね。
感謝します。この大恩、言葉には尽くせません」
「いや、こちらも通りかかったまで」
「わたくしはアンナ・ローザと申します。あなたはローザ家の恩人です。
なにかお力添えできることがありましたらおっしゃってください」
「それは有り難い。こちらも善意のみで助けたわけではないのでな」
そういうとアンナは警戒するように僅かに目を細めた。
横の騎士も口出しはしないが、その視線は険しいまま。
「目下のところ街へ案内してもらいたい。
それから我は人探しをしていてな。その者について情報を求めている」
アンナは瞳をぱちぱちと瞬かせ、首をかしげる。
「・・・それだけですか?」
「まあ、それぐらいだ」
「・・・その、これでもわたくしは貴族の令嬢ですの」
「見ればわかる、賊に狙われるぐらいだ」
「ですから、その、あなたは望めばそれ相応の報酬を得られるのですよ」
「うむ、それなら問題ない。相応の価値あるものを要求している」
どう言っても少女にアンナの言葉は響かず、
困り果てた令嬢は、横の騎士に助けを求めた。
騎士は助け舟を出す。
「失礼。アンナお嬢様は、より価値あるものを与えるとおっしゃっているんですよ。
現実的に考えれば、金銭や金品、またはこの機に貴族の便宜を計るでしょう。
そういった、貴族の家に合った、報酬というものです」
「そうです。貴族に求めるものです。
報恩の機会は貴族として威厳を示すものでもあります。
ですので、遠慮なく」
「一応、それは我にとって最も価値あることなのだが」
少女がそう言うと、騎士の語気が鋭くなった。
「あなたの目的は何ですか?
あなたの身柄が推測できない。
この辺りの地理に明るくないようで、流れの者かと思えば、有益な報酬を要求せずにいるのはおかしい。
加えて、旅の装いには見えない。
貴族の令嬢なら、ひとりで街道にいるのはおかしいだろう」
最後の方は噛みつくような勢いだった。
顔は険しく、少女を睨みつけているが、少女は意に介さない。
「筋が通らないことが多すぎる」
「落ち着きなさい。彼女は私たちを救ってくださったのですよ」
アンナは騎士をなだめようとするが、騎士は止まらず、少女に詰問する。
「お嬢様、止めないでください。彼女はあまりにもおかしい。彼女が味方かどうか判断はついてないのですよ。油断なさらないでください。
見たところお嬢様よりも若い。
今でも、あなたが賊を退けたというのが信じられない。
あなたは、何者なんですか」
「さあて?」
「お前の目的はなんだ、お前は何者だ!!」
騎士はもう剣の柄に手を掛けようとしていた。
「いい加減になさい!!」
アンナが少女に詰め寄っていた騎士に怒鳴った。
「彼女がわたくしを救ってくださったことは事実でしょう。
それが確かである限り、彼女を害することはわたくしが許しません!」
令嬢は騎士を睨みつける。騎士は令嬢を見つめる。
少女はその様子を見て、不敵な笑みを浮かべていた
次回も会話する