騎士と不確かな焦燥
また、護衛の騎士視点
――信じられない
この数刻に何度そう思っただろうか
賊共の襲撃と仲間の裏切り
そこに差し込んだ光、魔術を使う美しい少女
少女はたったひとりで賊を翻弄し、
そして、最後は剣で賊の長を打ち破った。
――おかげで、馬車を守り切ることができた
仲間は緊張から解放され安堵し、
すでに剣を鞘へ収めている。
しかし、賊を凌ぎ切ったあと、
周りに残るは幾多の屍と生々しい血の跡。
そして、ひときわ大きな死体とそばに立つ少女。
この少女に命を助けられた、それは確かなのに
ーーこの少女は何者だ
少女の美しい容姿が衣装が
先の戦いと結びつかない。
言いようのない不安が背中を這う。
掌に汗がにじむ
戦いは終わったというのに、俺は警戒を解けないでいた。
――この少女に敵意はないのか、そうだ、あの裏切り者はどうする。
どこから雇った者だったか、なぜ賊と繋がっていた。
ああ、いろいろと今日は起こりすぎだ!
考えがまとまらない、どうしたら――
あれこれと頭を悩ましていたせいで、俺は大事なことを忘れていた。
この恩人に一言、礼を言うことすら忘れている。
少女はそんな我々を見かねたのか、先に口を開いた。
「なぜそんな顔をする。・・・助けは必要なかったか?」
少女が不服そうに眉をひそめていた。
俺は慌てて、口を開く。
「すまない、本来はこちらから、述べるべきところを。
本当に助かりました、手を貸していただかなければ、
我々はここに倒れていました。感謝します。
この礼は言葉では言い尽くせません」
「うむ、まあよい。
我はただ通りがかっただけに過ぎない。
ところで、貴人は無事なのか?」
不覚にも、そこでお嬢様のことを思い出した。
俺は仲間に目で指示を出し、馬車へ向かわせた。
「ええ、おそらく、無事かと。中にもひとり護衛がいましたから。
それに、あなたのおかげで、馬車には触れさせずに済みましたので」
そうか、と少女は短く応えた。
――この少女は何者だ
見た目通りの歳とは思えないな。
それに、あの強さはいったい・・・
俺はまた、物思いに耽っていた。
そこへ、馬車へ向かわせた仲間が戻ってきた。
「お嬢様は無事だった、何ともない。
すこし気疲れしているようだが、街へ戻ればどうとでもなる」
それから、と仲間は少女に向かった。
「お嬢様が、あなたと話がしたいそうです。
恩人へ御礼を言いたいと、どうぞお願いします」
少女はそれを聞いて、口元をほころばせ
馬車へ向かっていった。
俺は嫌な汗が流れるのを感じた。
邪神さまの力は騎士には恐ろしい
この世界には人間だけでなく、エルフや獣人もいます。
騎士はその類かと考えています。




