EP1-3
変化が訪れるのはいつでも唐突にである。処刑人が裁判所の意見に反対したことはすぐに国中に響き渡った。そして、人間は大きな変化を嫌がる生き物である。
「今日をもって、貴公の処刑人としての任を解く。今までの給与は一括で支払われるため、ここから退出される際に持っていきなさい。」
私がいつものように目を覚ますと、仕事に出かける前にそういわれた。その言葉を私に告げたものは間違いなくこの国の国王直属の騎士団の者で、そのりりしい姿は何度か目にしたことのあるものだった。
「王は貴公の変化をとても恐れていらっしゃる。このようなことを言いたくはないのだが、不審に思われるような動きはしないことだ。いくら一人で国家に匹敵する力を持つ処刑人といえどいつでも気を抜けずに過ごせるわけではあるまい。」
ずいぶんと大っぴらな監視宣言だった。いや、騎士らしいといったほうがいいのだろうか。それにしても困ったものだ。いきなりここを追い出されても行く場所などどこにもないし、まずどのようにして生きていけばいいのかもよくわからない。
「処刑人時代に使っていたものはすべて置いていかないといけないのか?」
騎士にそういうと騎士は少し考えた後、うなづいた
「特にそのことに関しては何も言われてはいないが、そのほうが悪目立ちはしないだろうな。」
そういいながら騎士は私の周りに目をうつすと、あまりの物のなさに私が言わんとすることを察したようだった。
「まさか、貴公仕事に使うものしかもっていないとでもいうのか!?」
「あぁ、仕事柄それ以外のものを必要としていなかったからな。もし、仕事で使ったものを何も持っていけないというのであれば、今までの給料をもって裸で出ていくしかないのだが。」
騎士は怪訝な顔をして私を見た後に、私が冗談で言っているわけではないことを悟ったらしい。ことばがなくとも状況を理解する能力の高さからこの騎士の普段の苦労がうかがえる。
「・・・背は私よりも頭一つ高いぐらいか。体つきは・・・う、うん。」
騎士は私を一瞥すると、少し顔を赤らめながら、大げさにうなづいて見せると
「貴公が外で出歩ける服を買って気やるから少しそこで待っているといい。素朴な感じの町人になるようなものにするからな!!」
というとそそくさと部屋を出ていった。これからは処刑人ではなくなる。騎士がいなくなり、一人になった部屋の中でその事実の大きさを認識する。これからいったい何をすればいいのか。いわれるがままに生きてきた私にとっては外を裸で歩くよりも難しい問題のように思えた。