EP-1
今日もいつもと同じ朝が始まる。いつものようにベッドから起き上がり、窓を開け、いつもの服に着替える。いつものように味のない朝食を済ませ、いつもと同じドアから外に出る。まだ世界に色はない。
処刑人。神という上位存在によって選別され、守護する領域での絶対権利と引き換えに、自我を奪われた者。ただ罪人を断罪するためだけに存在し、その人生に苦しみも喜びも存在はしない。今日も、処刑台に運ばれてくる罪人の首を落とすことだけが仕事である。
「罪人への判決をいい渡す。森人という卑しい身分でありながら盗みを働いことに対し、死をもってその身を浄化することとする。それでは速やかに刑の執行を。」
裁判官からの判決が下された後、森人がこちらに引きずられるようにして連れてこられた。その者と一瞬だけ目が合う。その眼には光があった、死にあらがう生者の光が。だが手足を拘束された状態でなすすべなどありはしない。裁判官のほうへと目をやると、興味がなさそうに時が過ぎるのを待っているように見える。
足元にはただ騒ぎ立てるだけの衆愚たちが今か今かとその時を待っている。なぜか今日は運命を受け入れるしかない森人に、ただ踊らされるだけの衆愚に、無責任な裁判官に今日は無性に腹が立った。右手に持っていた斧の柄を自分の足元にたたきつける。思っていたよりもすさまじい音が響き渡り、それだけで処刑台の周辺には不思議な静寂が発生した。おもむろに裁判官がめんどくさそうに口を開く。
「どうしたのですか、処刑人。すでに判決は下されました。われらが手をこまねいて神の手を煩わせる訳にはいきません。どうか、速やかな刑の執行を。」
「その前に証拠の提示を。」
不意にどこからともなく声が聞こえた。それが自分の声であると気が付くには少し時間がかかった。裁判官も驚いたような顔をしてこちらを見たが、それはつかの間のことで、すぐに手元の紙をとると、こちらのほうへ広げて見せた。
「盗まれたものは、とある古美術商の所持品であった古代のティアラです。まだ見つかってはいませんが
盗まれるのと同時刻に、そこの森人がその周辺にいたという目撃情報が多く寄せられています。それに加えて、調査を進めると同時にそのティアラが森人と縁の深いものだということが判明しました。その者が
盗みを働いと考えるには十分な証拠かと。」
「・・・そうか。」
一言だけつぶやくと森人のほうへと向き直って台に突き刺さっていた斧を引き抜いた。