第八話 竜と下着泥棒の討伐
エルと共に仕事に来たジン。
なんと二人の前には巨大なドラゴンが立ちはだかっていた。
俺とエルは現在、巨大なドラゴンに追いかけられていた。
「どうするんだよ!?俺の力が一切通用しないぞ!?」
「これは想定外だ、どうやらあらゆる戦士が挑んだせいで魔法に対しての耐性が上がったか、あるいは元から持っていたか、とりあえずぶっ飛ばしてくれ、氷で巨大な腕を創り上げれば、あのドラゴンでも一発KO出来るかもしれない」
そりゃ出来るだろうよ、だがよ、どうやってドラゴンの頭を殴り着けるんだ!?
相手は三つ頭があるドラゴンだぞ!?キ○グ・ギドラみたいな見た目してるんだぞ!?
絶対に頭殴っても残りで襲い掛かってくる、絶対に体持ってかれる。
そうだ、いいこと考えたぞ。
「エル!お前魔法でアイツの体を痺れさせる事が出来るか?出来るならやってくれ!」
「フフフ…可能だが…断らせて貰う!理由は後で話す!」
あのアマ!一人だけ逃げやがった!
こうなると俺一人にターゲットを……あらら、エルの方に走って行ったぞ…。
俺はその場に立ち止まり、しばらく彼女がドラゴンに追いかけられている様を観察する事にした。
しばらく走り続けるエルとドラゴン、そして途中ドラゴンが転ける。
本当の依頼はドラゴンの巣に住み着いてる、スネーピオン達の駆除が目的だ。
サソリの本体に、尻尾が蛇になっている生物、それがスネーピオン。
こいつ等の厄介な点は、蛇が本体であり、噛みついてくるわ、挟んでくるわの面倒臭い害虫だ。
「助けてくれ!流石に私一人では相手に出来ない!」
「こいつ等を処理したら、直ぐに救出作戦を考えてやるよ、汚物は殺菌だ!」
左手に炎を溜め、スネーピオン達にぶつける。
感覚としてはボーリングと同じだ、炎の球体を作り出し、転がすだけで勝手にストライクが決まる。
ヤバい楽しいな、スネーピオン愛護団体とか来たらどうしよう、楽しすぎて止らないぞ。
俺が楽しんでいると、後ろから逃げ込んできたエルが俺にバトンタッチをしてきた。
「後は頼んだ!私はしばらく身を隠す!」
エルの姿が目の前で消えた、プレデターかよお前!?
驚いているのもつかの間、ドラゴンの鼻息が俺の髪の毛を揺らす。
……臭ッ!
俺は思わずドラゴンの頭を殴った、それも真ん中を殴ったら、見事に俺から見て右側も巻き込まれた。
「…ビンゴ…残り一つか、この勢いにのって…熱ッ!」
最後の頭を攻撃しようとした瞬間、怒り狂った最後の一つに火を吐かれた。
焦げた臭いが辺りに広がる、つか熱い!めちゃくちゃ熱いんだけど。
「残念、俺実は火も扱えるわけよ、お前が炎を吐こうが炎で対抗すれ熱ッ!」
やっぱりドラゴンの吐く炎には、ゾンビでは勝て無い事が分った。
もう一つの氷の力で鎮火は出来る、だが全身炭じゃねぇか。
俺を黒焦げにしたドラゴン、許すまじ…尻尾切ってやるからな!?キング・モドキ!
右手に精神を集中、冷気が腕から溢れ始める、後はコイツをドラゴンの足目掛けて飛ばす。
するとあら不思議、ドラゴンの下半身が凍りつき、首と翼以外の身動きが取れなくなる。
これで完了か、どうせ時間が経てば氷も溶けるだろうしな。
「帰るぞエル!さっさと姿を表せよ」
「う、後ろにいる…す、すまない、一人で逃げて、本当にすまなかった」
彼女は罪悪感に狩られてか、恐縮しながらも謝罪をしてきた。
俺も同様に見ていただけの事を謝罪した上で、双方納得の行く結果で馬車に乗り込む。
馬車の中で俺は、何故魔法を使わなかったのかを問いただした、すると彼女は静かに答え始める。
「私は魔力を使うと…何というか、補充が必要になるんだ…それが父が淫魔であるせいで…その、なんというか、精気が必要になってくるんだ、実は魔法を使った日は寝ている君からそっと精気だけを吸い取っていたんだよ、でもあのくらいのドラゴン相手だと…魔力の消費が激しすぎて、回復するのに…すまない!これ以上は私の口からは言えそうにない!」
そういうことか、軽い力は簡単に吸えるが、それ以上になるとアレか。
確かに淫魔と言うだけの事なら仕方が無いな、だがいつも俺からどうやって吸い取ってるんだ?
考えられるとしたら、額に触れるか…うーん、口にしない方がいいのかもしれないな、エルの顔が妙に赤くなってきてる。
……からかって見るのも楽しいか。
「なぁエル…お前、俺の精気をどうやって吸い取ってるんだ?」
「そ…それは…えっとだな…なんと言えばいいか…その、えっと…えっと…」
ヤバい、反応が可愛い。
エルもこんな顔が出来るんだな、意外だな。
「どうした?何か言えないような事でもあるのか?例えば」
「わわわ分った!口だ!君が寝ている間に…接吻する事で精気を吸収してる…それが一番効率がいいんだ…他にも手段はあるが、君を起こすのも悪いと思って」
クソッ!予想が外れたか!もう少しディープな方を予想してたのに!
まぁいいや、面白い物が見れたことだし…問題はタナトスにこのことが知られているかだ。
絶対にバレると俺が怒られる、それも相当泣かれるだろう。
別にばれなきゃいいか、俺から行ってるんじゃないんだし。
しかし、エルが帽子で自分の顔を隠していて、結構うぶなめんがあるんだな。
「結構可愛い反応をするんだな、帽子で顔隠す仕草とか」
どうやら、恥ずかしさのあまり聞こえていないようだな。
俺は彼女を脅かしてやろうとマスクを外し、帽子の前に顔をスタンバイする、そして彼女が帽子を取るのを待つ。
しばらくは反応がないが、そろそろ戻ろうと諦めかけた瞬間に彼女は帽子をずらし、俺の顔に驚く。
悲鳴を上げながら馬車の中でひっくり返るエル、奇跡的に起ったのか、馬車が石を踏んだらしく大きく揺れる。
そして彼女がこちらに倒れ込む、そして俺の口には柔らかい物が触れる、いや、のし掛かってきたと言う方が正しいだろうか。
俺の口に触れたもの、エルの唇だ…キスをするなんて慣れてる事だ、セフレと何度もキスくらいしてきたからな。
最近だとタナトスとしかしてないが、エルの話だと、俺が寝てる間にしてたらしいな。
「す、すまない!私とした事が…恥ずかしい」
「ただの事故だ、もとはと言えば俺が悪戯を仕掛けたのが原因だ…ふぅ、だが慣れてるんだろ?俺が寝ている間にもしてるんだから」
あーあ、完全に耳まで塞いで、エルがここまで恥ずかしがる姿は相当貴重だな。
バイオレット達に見せてやりたい光景だ、まぁ下手をすれば彼女を傷つけるかもしれないが、やっぱり見てみたい。
俺も大分性格が悪いな。
「館に到着するぞって、まだ耳塞いでるのかよ」
仕方のない奴だな。
俺はもう一度座り直し、彼女が落ち着くのを待つことにした。
しばらく、落ち着くまでに時間が掛かりそうだな、顔を左右に振り回したりしてるから。
俺とエルは館に帰還すると、館内が妙に騒がしい。
もしかすると何か問題が発生してるのかもしれない、俺達は急いで扉を開け、中に入る。
「どりゃぁぁぁぁぁぁ!」
階段から雄叫びが聞こえ、顔を向けた瞬間、俺の顔面に衝撃が走り、外に吹っ飛ばされた。
何が起った……鼻血が出てるのは分る。
エルが掛けより、ハンカチで鼻を押さえてくれるが、状況が飲み込めていない。
玄関の方では息を切らして俺を睨み付けてくるレイ、困惑して今にも泣きそうなメイの姿があった。
俺の顔面に蹴りを入れたのは、恐らくはレイの方だろう。
「おいレイ!自慢の顔になんてことしやがる!?いきなり跳び蹴りとか正気か!?」
「黙れ下着泥棒!僕達の下着を早く返せ!」
「待ってよ!まだジンが犯人って決まってないじゃない!もしかしたら誰かの悪戯かもしれないし…」
一体全体何だってんだよ、こっちはドラゴン相手にしてきたってのに、酷すぎる仕打ちだ。
つか下着泥棒ってどういう意味だよ、俺は下着になんて興味を持つ変態なんかじゃねぇぞ。
「落ち着くんだレイ、何が起ったのか説明してくれ」
興奮して今にも噛みついてきそうなレイを、エルが落ち着かせようと説得し始める。
しかし俺に対しての敵対心は完全に向きだし、つかなんで俺が疑われるんだよ!?
よく見ると若干メイも疑ってる目してるしでよ、何なんだよ今日は、タナトスが帰ったから若干テンション下がってるのに。
俺とエルは状況が飲み込めないまま、食堂へ向かい、皆から話しを聞くことにしたのだが。
「ジン、あまり疑いたくないけど…私の水着持ってるなら返して!」
「どうやって私の部屋に侵入したの?もしかして氷で鍵を複製した?もしそうなら流石に引くけど……」
完全に俺を犯人と決めつけてやがる…俺が男だからって酷くね?
俺は下着に興味なんてねぇっての、あるとしたらその先だけどよ。
とりあえず、全員に何が起ったのか説明を気かな……ルナとバイオレットは何処だ?
「おい、ルナはどこだ?」
「変態が近づくと悪影響だから、バイオレットに相手をして貰ってる、僕達の下着を早く返せ!」
人の話は聞く気は無いと言う事か。
したか無いので、俺は自分の部屋に行き、下着が無いかどうかを確認しに行く。
レイは俺が逃走したのかと勘違いしてか、俺に跳び蹴りを入れてきたが、案外避けられるものだな、声を上げれば簡単に分った。
攻撃を避けつつ、無事に部屋に到着。
後ろには全員が着いて来てるが、俺の部屋に下着が無ければ疑いも晴れるだろう。
「好きなだけ探索しろ、ここにあるのは俺とルナの私物しかない、それからレイ」
「何ですか?正気貴方と話したくないんですが」
コイツとはハッキリとしないといけないみたいだな。
だからこのタイミングは、丁度いいかもしれない。
「もし、俺の部屋に下着が無ければ、しっかりと謝罪をしてもらうからな、人の事散々疑っておいての逃げは無しだぜ」
「じゃあ僕達の下着が見つかった場合、貴方にはここから出てってもらい、タナトス姉さんとも離婚してもらう、そして二度と僕達の前に姿を現すな、それが条件だ」
「いや、タナトスお姉ちゃんは関係ないでしょ」
どうせ下着なんて見つからねぇよ…多分。
結果、俺の部屋からは下着は見つからなかった、一つも。
マリーナ、ベロニカの二人から疑いは晴れた、それなのに、なんでレイはまだ疑うんだよ。
「きっと別の場所に隠してるんだ!」
「だからねぇってのよく見……俺のパンツがねぇ!ルナの服も!どうなってんだよ!?」
俺はタンスの中をかき回す、なんで俺の下着まで盗まれるんだよ!?
驚いた表情でベロニカとマリーナ、エルが掛けよりタンスを漁るが、やはり無い、てかなんでお前等まで漁ってる?
だがこれで俺の疑いは無くなった、レイからの謝罪は確定したな。
次の問題は、下着泥棒の真犯人を捜すことだ。
俺のを取った事はまだいい、ただし、娘であるルナの分を取ったのは許せん!
現在、この館に住む者全員の下着が消えている、そして俺の分の下着とルナの洋服まで取られた。
「犯人は男女関係無く奪っていくか、それも人種も関係なしに…見つけ出してぶっ殺そう」
「早まるなジン、しっかりと話を聞いてからにしよう」
俺の怒りを沈めようとするエル、意見に賛同するマリーナとベロニカ。
だが一番の問題は犯人捜し、今のところ手がかりなんて、何一つとしてない。
そうなってくると、お手上げになってくるわけだ、見事な下着泥だぜ。
人に罪をなすりつけた挙げ句に、この館から逃げ出した……いや待て。
この館から逃げ出したとしたらだ、全員は何処で何をしていた?
広い館でも、誰かしら見ていない可能性もないとは言い切れない、もしかするとだ。
「見えないようにしていた……とかか」
「幻覚を使って、私達に見えないようにして、反抗に及んだと言う事?それなら気づかれずに下着を盗み出す事も可能かもしれない、絶対にありえない話じゃない」
「私はずっとお風呂場に居たから…でも物音すら聞こえなかったよ、あれ?私今日どんな入浴剤使ったっけ?」
俺とベロニカが推測をすると、話について行けてないメイとレイが不満を垂らしてくる。
特にレイの不満は相当だ、俺が犯人じゃないのがそこまで気にくわないのかよ。
とりあえず味方は居るだけでも助かる。
「なぁエル、もしかして街とかでも被害とか出てるんじゃないのか?あるいは裏ルートで販売している可能性もある、行ってみるか?」
「それなら私も行く、魔法で日差しをカット出来る上に、私も人間の姿だから大丈夫のはず」
「ではバイオレットも連れて行くとしよう、あの子はライカンスロープだから臭いをかぎ分けられる、人狼は普通にそこら辺にいるから問題も無いはずだ」
これで街に行くのは俺とルナ、エルとバイオレット、そしてベロニカの五人だ。
本当は二人も連れて行ってやりたいが、街が騒ぎになることは避けられないだろう。
気になるノは、相変わらずの敵対意識と言う事を覗けばいい子なのだろうが、和解する日は訪れるのだろうか。
面倒な事態が起ったものだ、勘違いで跳び蹴りを入れられるわ、犯人に仕立て上げられるわでよ。
街に到着した俺達は二手に分かれる事にした。
俺とベロニカ、エルとバイオレットのバランスが良かったのだが。
バイオレットがルナと共がいいと言い始め、ベロニカとエルが組む形となった。
まぁ小さいから我が儘を言うことは仕方が無いが、ここまでルナに執着するのも凄いな。
ある意味お姉ちゃん精神なんだろう。
「それじゃ別れよう、バイオレットの事を頼むよ、待ち合わせ場所はそこのカフェにしておこう、健闘を祈る」
「ああ、そっちもな、特に女二人だと何があるか分らないからな、特にエルは一応何かあれば俺の事で脅しておけ、後でそいつ見つけ出して締めるから」
「おなかすいた…ごはん!ごはんたべたい!」
バイオレットが空腹に耐えられなくなったのか、果物屋の前で騒ぎ始める。
確か館出る前に食ったはずだよな?どんだけ腹空かせてるんだよ。
道のど真ん中で騒ぐから見てみろ、周りが笑ってるじゃねぇか。
「わかったわかった、リンゴ買ってやるから落ち着こうな?おっちゃん、リンゴ三つくれ」
「あいよ、良かったなお嬢ちゃん、優しい父ちゃんでよ、よし!可愛いお嬢ちゃんにはリンゴをおまけで二個つけてやろう、内緒だぞ」
目を輝かせながら踊るバイオレット、俺はおっちゃんに礼を言いながら店を後にした。
リンゴの皮を氷で作ったナイフで剥き、バイオレットに渡してやると凄い勢いで食べる、そうとう腹空かせてたんだな。
もしかしてこのまま全部食べちまうんじゃないだろうな、腹壊すぞ。
そんな事を考えながらも、俺も一緒にリンゴを食べる、するとルナも欲しがるわけだ。
俺は考えた、氷を使ってリンゴをすり下ろす方法を。
結果的に成功した…あれ?なんで俺達街に来てるんだっけ。
「そうだ!下着泥棒を探してるんだった!」
思わず大声で叫んでしまった。
そして、それを周りの人に聞かれてしまった。
「聞いた?下着泥棒だって、クスクス」
「や~だ~、そんなのがいるの~?」
「超信じらんな~い、きゃはは」
……完全に赤っ恥掻いた。
俺がこんなへまするなんて…恥ずかしい。
すると腹が膨れたバイオレットが行動を開始し始めた、というより臭いを追い始める。
てっきり地面の臭いとかを嗅ぐのかと思いきや、普通に空中の臭いを辿って行く。
「においみつけた!マリーナのにおい!さかなのにおい!」
「バイオレット!少し早すぎる!スピードを落とせ!」
なんとか追いつき、俺はバイオレットを片手で持ち上げる。
これで勝手に突っ走る事は防げそうだ。
次はバイオレットの鼻を頼りに、犯人を捜し出す。
マリーナの臭いは確かに特徴的だ、それがここで役だってくるとはアイツも思っていないだろうな。
腕の中で支持を出すバイオレットに従い、俺達は路地裏に入った。
……ここら辺は随分と柄の悪い連中が多いな。
物売りが多いみたいだが、どいつもこいつも顔に傷あり、それでいて売っている物も物騒な物ばかりだ。
「おい兄さん、アンタの連れてるガキ、俺に譲ってくれよ、高値で売買してやるぜ」
「いやいや、こっちの方がいい話があるぞ、そのガキ共の裸を記憶石に入れて売るんだ、大儲け出来るぞ、ほら、早く来いよ」
出直すとするか。
ここは二人にとって悪影響だ。
「マリーナのあった!あそこのおく!あのぼうしのひと!」
バイオレットが指さす方には男が一人座っていた、それも下着を並べてやがる。
置いているのはブラと水着か……少し監視してやるか。
俺は通り過ぎるフリをして、細工をして、路地裏を後にした。
まさか二人をあんな場所に連れて行く事になるなんてな。
「おかねもらえるの?やりたい!たくさんごはんたべたい!」
「駄目だ…怖い目に遭うぞ、しかも超痛いからな、痛いのも怖いのも嫌だろ?」
涙目で嫌がるバイオレット、本当に今回のは俺の失敗だ。
危うく二人を危険な目に遭わせる所だった、次は俺一人で行くとしよう。
エルとベロニカに二人を預けて、男である俺が話しを着けてくる。
「ごめんな二人共、怖い思いさせて、後は俺がなんとかするから安心してくれ」
二人を連れ、カフェでエルとベロニカを待つ。
その間にバイオレットはパフェを食べ続けていた、それも特大パフェを一人でだ。
何度か止めたのだが、一人で食い切れると言って聞かない。
食べきれないなら俺が後で食べるが、時間制限があるから怖いんだよな…しかも高い。
だがバイオレットの食いっぷりは見事なものだ、一人で全部食べきった。
その間俺は、珈琲を飲みながらルナの相手をする。
「既に来ていたのか、情報は何か手に入ったかい?」
「ああ…それ以上に二人に不快な思いをさせちまった…悪いが二人を見ててくれ、ちょっと用事を足してくる、なぁに、ただの買い物だ、さっきの店で売ってるリンゴが美味かったからな」
「好きの頼んでいいの?私、バイオレットと同じやつで!」
食い切れるのかよ、三人も居れば問題ないか。
俺はとりあえず必要な金を二人に渡し、店を後にした。
これで第一難関は突破だ。
お次はあの路地裏に行く、場所は完全に覚えてるから問題はない。
さっき右目を置いてきて正解だった、しっかりと周りが見える。
下着の方はまだどれも売れてないな…マリーナの水着がここで更に真価を発揮してやがる。
あまりの生臭さで売れないんだろう。
アイツの水着は一緒に洗濯すると何故か臭いが移る、それも近くに置いておくだけでもその力は発揮しつづける。
「またきたのか?どうだ?考えてくれたか?」
「誰がお前みたいな変態に家族を売るかよ、あんま調子乗ってるとお前の股に着いている物全部握り潰すぞ」
脅しのつもりで軽く壁を殴ったが、思った以上に壁にヒビを入れちまった。
これがかなり効果を発揮してくれた。
相手は完全に失禁してやがる、これくらいでビビるなら商売するんじゃねぇよ。
俺はあの下着売りの前に立つ。
男は小汚い恰好をした男だった、別に大した化け物とかという感じはないな。
「アンタ、下着売ってんの?」
「そうだけど…兄さん、これさ、結構値が張るんだけど、どれもいい品ばかりだよ、なんだったら奥の方にパンツも用意してあるけど、どうだい?安心しなって、どれも美女が使用していた物ばかりだから、何だったら子ども用から男用品まであるよ」
やっぱりこの野郎が犯人か。
「へぇ、随分と色んなサイズがあるんだな?これなんてどんな女が着けてるんだ?」
俺が最初に手にしたのは、エルのブラ。
これはかなり大きいサイズだから目立つ。
「兄さん、なかなかお目が高いね、そいつはエルフが着けてるブラジャーで、俺の見たところかなりの美人だ、知ってるかい?エルフは皆美人だが、ここまで胸のデカいエルフは希だ、一度見たけどもうたまらない程の美女だった」
こいつ…絶対に殺す。
次に手に取ったのは、恐らくベロニカの物だろう。
一度水着姿を見てるからか胸のサイズは見れば分る、確実にベロニカの物だ。
つかアイツどんだけ透けてるの着けてんだよ、黒いけどスケスケじゃねぇか。
「ああ、そいつも美人が着けてる奴だ、それにするかい?」
「オヤジ、聞きたいんだがいいか?」
俺の問いに男は笑顔で受ける。
聞きたい事、それは一つだ。
「この水着、一体どんな女が着けてるんだ?あきらかにデカ過ぎるよな?それに生臭いし」
「そ、そいつは多分巨人だろうな…普通の人間より大きいんだ、だから」
目が泳ぎ始めたな、恐らくマリーンの事も知ってるのかもしれない。
アイツ等の事が街中にバレれば大問題になる、それだけは絶対に避けなければ。
この男をどうやって尋問するかだ、奥の方に在庫があるとか言ってたが…それを利用するか。
俺は男に下の方も見せて欲しいと頼む、ここで男を尋問するには目立ちすぎるからだ。
もしここで断られれば、無理矢理にでも案内して貰うつもりだがな。
「金ならいくらでもだす、その巨人のパンツにも興味が出てきた、それにエルフのにもな、俺はこう見えてかなりコレクターなんだ、人間以外のあらゆる下着を集めてる、だから頼むよ、なんならチップだって出す」
我ながらよくもまぁ、こんな嘘をスラスラと吐けたものだ。
しかし通してはくれるようだ。
男は立ちあがり、下着を風呂敷にまとめ、後ろの扉を開けて案内してくれた。
中は暗い、それでも明かりがついているだけマシだろう。
木箱には下着が沢山詰められ、高そうな物は綺麗に並べられている。
「こっちだ、この箱に詰めてあるのが巨人の下着、こっちに飾ってあるのがエルフのですよ、お値段はそうだなぁ」
「値段?誰がこんな下着如きに金なんて払ってたまるかよ、お前が盗み出してさっき俺に見せた下着、特にエルフのは俺の妻から盗まれた物でよ、知ってるだろ?あの女には今旦那がいるって、それも赤ん坊を連れた旦那が」
男の顔がみるみると青ざめ始める。
段々と思い出してきたのか、それとも現在置かれている状況がヤバい事に気づいたのか。
だが気づいた所でもう既に遅い。
お前は俺の逆鱗に触れてる、つまりゾンビを怒らせると言う事は死ぬという事だ。
俺が男に近づいて行くと急に大声で叫び始めた、すると俺の背中に激しい痛みが走った。
「へへへ、用心棒をやとっておいて正解だったぜ、お前みたいな男が来ても大丈夫なようにプロの殺し屋を用意して置いたんだ、大人しくしてればいいものを、オラッ!」
男の蹴りが俺の顔面に入る。
もう一度蹴りを入れてこようとしてくる男の足を、俺はしっかりと右手で掴み凍らせる。
状況が理解出来ずにへたり込みながら足を見つめる男。
「こいつ…魔法使いか、早くなんとかしろ!こっちは高い金を払って雇ってるんだぞ!」
「分ってるよ、コイツは最近噂になってる男だ、確かタカオカジンとか言ったか?エルとかいう女と組んで仕事をしてる野郎だよ、しかも難関な依頼すらも簡単にこなしちまうって有名だ、まさかこんなところで会うことになるなんてな」
俺とエルはそんなに有名になってるのか、別の意味で依頼が殺到しそうだな。
今はそんな事を考えている場合じゃないな。
もう一人の男も始末しないといけない、面倒なこった。
後ろの方から男がうつぶせの俺を仰向けに変える、すると見覚えのある顔がそこにはあった。
まさかこの野郎にまた会うなんてな。
「なんだよ、ラフェルの所にいた男じゃねぇか、元気してたか?」
「元気してたかだって?笑えるな、お前が現れたせいでラフェル様はすっかり変ってしまった、以前まではあの気高く美しかった姿は穢され、お前みたいなアンデッドを嫌っていたのに……お前のせいで俺の計画は全て終わりだ!お前が現れなければ俺が、ラフェル様を嫁に貰い、あの家はいずれ俺の物になったのに!」
知るかよ、アイツが勝手に暴走してるだけだろうが。
「お前はここで終わりだ、コイツを見ろ、分るよな?コイツを刺したらお前は終わりだ」
十字架…確かにヤバいかもな…。
だがまだ俺には炎と氷が…体が動かないだと!?
この野郎、何か俺の体に何かしやがったな。
「グッバイ、クソゾンビ野郎」
これで、俺の命運尽きるか。
下着泥棒の疑いを晴らす為に一人で乗り込んだジン。
そこで会うプロの殺し屋、それはラフェルの元に使えていた男。
体の自由を奪われ身動きが取れないジン、彼の運命はどうなるのか。