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第七話 面倒な日々

タナトス達に勘違いされ、大怪我をさせられたジン。

彼の前に現れた人物とは。

現在俺は、ベッドの上で身動きが取れない状態にある。

理由は浜辺でタナトスとエル、そしてラフェルの仲間にボコボコにされたからだ。

誤解は直ぐに解けたものの、アイツ等、人の話を一切話聞かない上で、魔法やら武器やらでのフルボッコ。


「なんで俺がこんな目に遭うんだ!?ふざけんな!」

「まぁまぁ落ち着いてください、それより美味しい干し肉を持って来たんですよ」


何故にラフェルが居るんだよ…しかもなんで干し肉を持ってくる。


「どうぞ、元気になって欲しくて持って来たんです…私のせいでこんな体になってしまって、せめてものお礼と言いますか…それに私、貴方に…」


頬を染めるな、それと最後まで言い切れ。

俺の予想は的中した、やっぱりこうなるのか。

思わずため息をこぼすと、彼女はこちらまで掛けより、干し肉を押しつけてくる。

干し肉からはかなり美味そうな香りが…痛い!刺さってる!干し肉の角!尖ってるところが刺さってる!


「食べないと元気になりませんよ、それとも…やだ!それは早すぎます!私達まだき…き…言えません!」


誰か助けてくれ…コイツ面倒臭い、やっぱり鯨の栄養分にさせておくんだった。

怪我してるのに全然休まらない、昼間はルナとバイオレットの相手をして夜はタナトスの相手、その上で新たにラフェルの襲撃。

俺には休息と言う物はこないのか?余計に疲れてくるんだが。


「赤ちゃんつれてきた、あー!エルがさがしてたおんな!おしえなきゃ!」

「まっ待って!ほらほら、美味しい干し肉ですよ、これを上げましょう、ですから内緒にしてください」


見事にバイオレットは釣れ、俺の隣で干し肉を食べ始めた。

その間ルナは俺の上に乗っかり、バイオレットの真似をして干し肉を食べようとしているのだが、歯が無いからしゃぶっていた。

二人共目が輝いていると言う事は、干し肉が相当美味いらしい、流石は金持ちと言ったところか。

でもよ、いい加減に頬に差してくるのはやめて欲しい、超痛い。

美味いのだろうが、確実に固い、バイオレットは牙があるから余裕そうだが俺の場合…歯を持って行かれる可能性がある。


「大変だジン!ラフェルが…何をしているのか説明をして貰えるかい?」

「干し肉を使った拷問を受けてる、さっきから頬に突き立ててくると言う新手の拷問器具だぜこりゃ」

「酷いです!私がせっかく用意した高級干し肉を拷問だなんて!」


そう叫ぶと、彼女は泣きながら部屋を飛び出して言った。

なんとも言えない空気、別にこういう風に泣かせるのは馴れてるわけだが、エルからの視線が痛い。

流石に言い過ぎだろうとでも言いたげな顔、だがどこかスッキリとした様にも見える。

救いなのはバイオレットとルナが干し肉に夢中……なんか二人の顔が赤いな。


「どうした二人共?エル、二人の様子が変だ」

「何?まさか風邪じゃ?」

「あちぃ、あちぃ、からだあちぃ、ふらふらする…むずむずする」

「あ…あう?」


俺は側にあった別の干し肉を咥える。

すると確かにバイオレットの言うとおり、体が火照り始める…淫薬と言ったところだな。

完全に油断していた、まさか干し肉に持ってくるとは、なんて考えてる暇じゃねぇ!


「エル!淫薬が盛られてる…二人を急いでマリーナの所に連れて行ってくれ!」

「淫薬だと!?……確かに…そのようだ…私は二人を連れて行くから…しばらくは誰も部屋に入れないようにする、何だったらタナトスを呼んでくる」


顔を逸らしながら言うエル、この薬はかなり強力な物らしい、タナトスが利用するのとは全然効力が違う。

二人を連れ出した後、しばらくすると心配したタナトスが来る。

その顔は何処か怒りが籠もっている。

これだけは言っておきたい、こっちは身動きが取れない状態だからどうしようもない。

普通の人間ならば簡単に治る傷も、俺の場合は細胞が死滅してる事で傷は殆ど再生しない、むしろ残り続ける。

だから特殊な薬で肉体を再生させる必要があるわけだ、それも尋常じゃ無い痛みが襲い掛かる。

死滅した細胞の代わりを取り入れ、強制的に修復、毎晩打ち込まれる注射には今日すらも覚える程。


「タルナトスに薬盛られたって本当!?なんで確認しないの!?」

「確認も何も、誰のせいでこうなってると思ってるんだよ!?指一本すら動かないんだぞ!?唯一動かせるのは首と今薬のせいで強制覚醒してる俺の…もういい、全部俺の不注意のせいだ…」


俺がもう少し強く言い聞かせれば、こんな自体を防げたのかもしれない。


「俺がしっかり味見をしていれば…」

「私の方こそ、つい八つ当たりして…ジンの事をこんな姿にしちゃったのに……ごめんね、本当にごめんね」


彼女は泣きながら、俺に謝罪をしてきた。

俺は手足が動かせない、そのせいで泣く彼女を抱き締める事が出来ない事が悔しかった。

本当はそっと抱き締めてやりたい、それすらも今は出来ない状況、一部は彼女の自業自得なのだが。

そして彼女は俺の方によりそり、泣く顔を俺の六重に埋めながら、隠し始めた。

次からは注意しないといけないな、あの女には特に警戒だ。



あれから二日ほど経ったが、二人は無事に回復、ラフェルはその後は姿を見せなかった。

これでしばらくは安全な日々が過ごせる気がする。


「この本を見て、ジンが何故魔法が使える様になったのか分るわよ、やっぱりそのピアスが関係してるみたい、それもかなり強力な魔法が使えるけど…なる程、アンデッド系専用の呪われたマジックアイテムって感じね」


珍しくベロニカが俺の部屋に来たと思えば、あの魔法について調べていたらしい。

話を詳しく聞いていくと、どうやら大昔に作られたマジックアイテム、しかもかなり貴重な代物。

気になる点と言えば、呪われたと言うところだ。

このピアスが呪われてるなら、もしかすると俺呪われるんじゃねの?


「呪いとかって、問題ないのかよ?」

「大丈夫、アンデッド系以外の人が着けると呪いが発動して、死ぬってだけだから、多分タナトス自身は死神だから惹かれたんだと思う、それにジンは幸運な事にゾンビであることが重なった、まさにラッキーボーイ?」


ラッキーボーイって。

まぁ俺に影響が無いと聞いて安心はした、ゾンビと言う点でかなり便利な面があるな。

にしてもだ、最近エルの反応が冷たく感じる。

妙に避けられているというか、扉の前自体を通る姿すら見かけない。

だから、何というか、物足りなさを感じる。

もしかするとラフェルが来ないか、見張っているのかもしれない、それだと嬉しいのだが。


「まぁ用事はこれだけだから、私はまた部屋で研究の続きをするけど、何か薬の方で異常があれば直ぐに教えて、マリーナと一緒に確認しておくから」


部屋を後にするベロニカ、それと入れ替わりでレイとメイが入ってくる。

手にはお盆を持ち、水と干し肉が乗せられていた。


「はいお水の交換と食事の時間でーす、現在タナトスお姉ちゃんはタルナトスちゃんのオムツ替えに追われてて手が離せそうにありませーん」

「なんで僕がこんなことを、タナトス姉さんがしっかりと両立するべきだよ、なにより女性を裸にした時点で貴方が一番悪いと僕は思ってる」


このガキ、アレはどう考えても俺のせいじゃねぇっての、不可抗力だ。

突然魔法が使えるようになった上でだ、コントロールするのは難しいんだよ。

炎と氷、片方ずつで扱うなんてなおさらって話だ。

例えそう言っても、別の言葉で着いてくるんだろうな。

メイの方は全然問題なく接してくれる、それどころか馴れ馴れしい程に懐いてきた…顔のおかげだが。

問題がレイの対応だ、前以上に俺の事を軽蔑した目で見てくる、別に慣れてはいるけど…。

慣れてはいるのだが…会う度に軽蔑の眼差し向けられるとメンタル的にも来そうだ。


「ジンってさ、実際のところエルのことをどう思ってるの?もしかして浮気に走ったりして」

「馬鹿言うなよ、俺はエルを相棒として見てるが、そういう感情は…下心が無いと言えば嘘になるが、俺は浮気はする気なんてないさ、そんな事をしたらルナも裏切る事になるからな」

「下心を持つ時点で最低だ、貴方がエルをそんな風に見ていたのは最初から分ってた」


とりつく島が無いってのはこういうことを言うんだな、昔の人はよく考えたものだぜ。

その後も二人はしばらく部屋に居たが、レイの方が耐えられなくなったのか、無理矢理部屋を後にした。

また一人か、これはこれでいいんだが…なんでこんなに寂しいんだろうな。

体が休息を求めてるのに、寂しさが勝る、人間の感情ってのは不思議なもんだ…ゾンビだけど。

………あれから二時間ほど経つが、誰もこないな。

いつもならバイオレットがルナを抱きかかえながら来てもおかしくない、つか静か過ぎる気がする。

なんだか心配になってきたぞ、まるでこの館には俺一人しかいない位に静かだ…。

……更に一時間ほどが経ったのだろう、音沙汰無し。

本格的に不安になってきた…ヤバい!まさかルナに何かあったのか!?それとも何かヤバい事件に巻き込まれたとかか!?


「なんでこんな時に動けないんだよ、ゾンビなら体破損してでも動けるだろうがぁ!」


俺は無理矢理体を起こし、ベッドから立ち上がる。

ところどころ嫌な音が鳴るが、動かせない程じゃない。

不思議と痛みが感じられない…まるで痛覚自体が消え去ったかのように。

何が起ってるのか、俺には理解が出来なかった。

体中から鳴り響く鈍い音の数々、なのに何も感じない。

体自体はとても重たい、廊下に出ると余計に重くなる。


「まるで重りでも着けてるみたいだ…なんでこんなに体が重いんだ?」


俺は館の中を歩き回った、時折何かに阻まれるような感触があったが…何も見えない。

見えるのはいつもの通路、何も変った所はない様だ。

だが一カ所だけ、違和感を覚える事がある。


「こんな所に…階段なんかあったか?」


こういうときには、何故か好奇心が勝ってしまう。

階段の先、その場所には何があるのだろうか。

気がつけば俺は、階段を登り始めていた。

……足がこれ以上動かない…さっき以上に重たい。


「ジン!目覚まして!そこから先に階段なんて無いの!ここ屋上だから!」


聞き覚えのある声…これはタナトスの声か。


「目を覚ますんだジン!このままでは落ちてしまうぞ!」


今度はエルの声?まさか皆階段の上に隠れていたのか?

もしそうなら、ふざけすぎだな…あれ?なんんか視界が。


「外か?なんで俺外…足場が無い?」


俺の視界に写り込んだのは、青い空。

そして、勝手に動いていく景色、まるで下に落ちていくかのような。

いや、完全に落ちてる…俺は屋上から完全に落下しているのだ。

気づいた頃にはもう遅い、俺を掴んでいたエルとタナトスも道連れにしていた。

何だろうな…最近は変な失敗ばかり続いてる、一昨日だってそうだ。

娘と友を危険に晒した上に、次は嫁と友を道連れにしてしまったから。

だけど…今こうして自分の馬鹿さ加減を考えている間にも、二人が危険に晒されてる。

俺を助けようとして…もしかするとあの重みは二人が俺を止めていたからか?


「タナトス……エル…悪い」


声に気づいた二人、俺を見た瞬間に、二人を抱き締めながら。

俺自身が下敷きになる、先ほどまでなかった痛覚が戻ってやがる。

二人は無事か、よかった。

こんな時に伸長が大きいのが役にたったな、あと二人の巨乳がプラスでクッションになってる、多少は…痛みが和らいでくれていると良いのだが。


「え?ジン!?今凄く嫌な音したけど!?吐血してる!?エル!ジンが!ジンが死んじゃう!」

「と、とりあえず落ち着こう!ま、まずは人工呼吸を!」


お前も落ち着け!なんで落下した奴に人工呼吸をする必要があるんだ!?


「人工呼吸!?私したことないよ!?別の事なら沢山してきたけど…」


頬を染めて言う事か!?

つか早くなんとかしてくれ…もしかすると肋が肺に刺さってるかもしれない、それに臓器が幾つかやられてる可能性もある。

さっきから血が、口の中に溜ってきて…息が…。

結局、俺は意識を失い、マリーナの必死の介護により、奇跡の復活を告げる事となった。



「結局は何が原因なわけ?」


俺が意識を取り戻す頃、何故あのような事件が起ったのか、原因が探られていた。

隣で俺に付き添うタナトスとルナ、痛い、お願いだから肋叩かないで。


「駄目だってば、パパの肋は粉砕してるんだから、叩くなら別のにしなさい、例えば枕とか、それでジンの身に何が起ったのか説明して、ベロニカ、マリーナ」

「……えっとね、あのラフェルとか言う女の持って来た干し肉に盛られていた淫薬、それが副作用を起こしたみたいで…どうもジンの体内で科学反応的な事が起きた事が原因かと…思います…」

「私も…魔力でなんとか治せたけど…このまま薬を投与するとまた幻覚を見る可能性があるかと…どこで製造された薬かを見つける事が出来れば、多少は別の薬を製造出来ると思います」


おいおい、あまり威圧すんなよ、二人完全に怯えてるんじゃねぇか。

それにしてもだ、多大な迷惑を掛けてしまったな…つか俺幻覚を見てたのかよ。

だからあの時落ちたのか、薬の副作用は恐ろしいものだな。

マリーナのおかげで多少は復活は出来た、それでも完全に治ったわけじゃない。

彼女が出来る治療は主に病と傷を治す力だが、骨とかは流石に無理があるらしい、だからこの治療を始めたのだが、裏目に出たと言う事だ。

悪いのは主にラフェルなわけだが。


「とりあえず二人は悪く無いから威圧するのをやめろ、ベロニカに関しては涙目になってるぞ、悪いな二人共」

「だってなんかイライラして、このやり場のない怒りを何処にぶつければいいの!?私の夫が屋上から落ちて!しかも私を庇った事で更に症状が悪化して!ああ!あの女許さない!今すぐボコボコにしてくる!そして薬を何処で手に入れたのか聞き出してやる!あの洗濯板のアバズレ女ァ!」


止めるまもなく、彼女は俺にルナを託し、黒い羽根をまき散らしながら姿を消した。

アイツ…羽根なんて生えてないのに、どこからこんな羽根が出てきたんだ?

二人はタナトスが何処かに言った事で安心した様子だが、どこか申し訳無さそうな表情をしていた。


「感謝してるよ、二人がいなければこうして治療がして貰えなかった、それにルナの時もそうだ…俺は父親失格だな」

「そんなことない、ジンは私達が見た限りちゃんとしてる、むしろ他の人より断然ね!」

「そうそう、正直私羨ましいもん、ジンみたいな人が父親で、私のお父さんはポセイドンだけど、一度も顔なんて見たことないよ」


ポセイドン…なんだそれ?

なんか隣でベロニカの顔引きつってるし、そんなに凄い人物なのか?

名前からしてなんか迫力はあるのだが、イマイチ想像が出来ない、どんな人物なのだろうか。

もしかすると、人魚なのかもしれない、あるいは人間とかかもしれない。

そんな事を考えていると、引きつっていたベロニカが口を開いた。


「ぽ…ポセイドンって…海神ポセイドン…?う…嘘でしょ?流石に嘘でしょ…?」


何だよその反応!?何!?かなりヤバいの!?

…今会心って言ったのか?それとも快神?


「あんまり話してないけど…ポセイドンとの間には子ども沢山いるのよね、そのうちの子どもが私、海に行けばウジャウジャしてるし、大抵の大きい人魚はポセイドンの娘って感じで」

「軽すぎない!?ポセイドンって海の神だよね!?なんでそんな大切な事黙ってたわけ!?つまりアンタも神の子どもって事でしょ!?てことはタルナトスと同じじゃない!?この事実はタナトス達知ってるの!?」


なる程、かいしんって海の神と書いての海神って事か、彼女を見て直ぐに気づかない俺はかなり馬鹿だ。

それ以上に、現在衝撃の事実が発覚してるんだよな。

まさかのマリーナが神の子であることが判明、これバレたらかなりヤバいんじゃないのか?

だがタナトスとエルの事だ、彼女が神の子どもであることは知っているだろうな。

むしろ知らないと言われたら驚きってものだ。

マリーナが神の子ども、ルナも神の子ども、不思議な縁もあるんだな。

俺は気づけば笑っていた、この事実が何故か面白かったからだ。

このデカい館に神の子どもが二人と、神が一人、元居た世界じゃ到底考える事なんて出来ない状況。

普通なら考えられないだろう、ここには普通の人間なんて一人もいない、だからこそバランスが保たれているのかもしれない。


「だって別によくない?私以外にも居るんだから……何人居たか忘れてけど、とにかく沢山いるから!えーっと、思い出せない…」

「もう…アンタはいつもそうやって、どうせ話す事自体忘れてたんでしょ?本当に忘れやすい性格してるんだから、前なんて水着を着けないで館の中うろついてたでしょ?全く」


二人が部屋を後にすると同時に、タナトスが帰還してきた。

かなり血まみれなのだが、俺達にブラッド・スマイルを振りまいてくる。

手には彼女同様の血まみれの紙袋、こいつ、相当暴れてきたようだ。


「じゃじゃーん!奥様は死神!」


何だよその昔のタイトルみたいなの。


「これ見て!薬を手に入れてきたの、沢山の犠牲を払ってきたけどね…ハァ…また始末書を書かされるのね…」

「かなり血着いてるが、怪我とかはしてないのか?何かあれば直ぐに」


俺が心配するうと、彼女は嬉しそうに掛けより、薬を見せびらかしてくる。

彼女の笑顔はどこか、幼さを見せ、まるで無邪気な子どもがはしゃいでいる様だった。

すると俺の上に居たルナまではしゃぎ始め、親子そろって謎の踊りを始めた。

こいつ等一体何してるんだよ、スゲぇ楽しそうにして。

俺はそんな二人を見て、思わず爆笑をしてしまった、そのせいで傷が激しく痛むが、そんなの気にしていられなかった。

可愛い娘に、美人の妻を持つのが、こんなに幸せなんてな…今なら俺が何故彼女を選んだのか理解が出来る。

体の相性もそうだったわけだが、彼女と居ると本当に心が安らぐ。


「私二人に薬届けてくるから、ちゃんと安静にしててね」

「分ってる、安静にも何も動けないんだからどうしようも無いだろ、ルナもそれを分ってるみたいだな、さっきから悪戯してくるぞ」

「あー!あうあー!うー!」


全く、こうして見比べると本当にそっくりだな。

……ルナは大きくなったらどうなるんだろうな…タナトスの様に死神になるのだろうか…。

それとも、タナトスの側で働くのか…あるいは俺の様な道を歩んでいくのか…。

想像したら…涙が出てきた…。

俺が…泣くなんて思ってもみなかったな…。


「あう?」


俺が泣いている姿を見て、ルナが困惑しながら涙を拭いてくれる。

こんなに優しい子に育ってくれていたのか、本当に死神の子かお前?


「別に痛いとかじゃなくて、お前が大人になるとどうなるのかと考えたら、なんかな」

「あうあ?」

「ええ!?ジンが泣いてる!?どうしたの!?痛い!?もしかいて何か怪我とかが悪化したんじゃ!?」


部屋にタナトスが帰ってくると、俺が涙を流しいる姿を見て勘違いをしたのだろう。

直ぐに誤解であることを伝えたが、あまり聞いている様子はない、むしろ混乱してる。

とりあえず落ち着く様に言うが、混乱していて全然話を聞いていない。

俺が涙を流しただけで…後々が心配になってくるぜ。


「少し落ち着けって、別に問題ないから…落ち着け!」

「え?ジン、なんともないの?痛いとかじゃないの?タルナトスに泣かされたとかでもないの?」


こいつ…なんで俺が娘に泣かされるんだよ、確かにある意味泣かされたと言えば泣かされたと言えるけどよ。


「ただ単にルナの将来を考えてただけの話だ、別に異常とかがあるとかはない」

「なんだぁ、紛らわしいんだから、パパは意外と泣き虫ですね~タルナトス」


本当、俺も涙脆くなったもんだ。

こんなに簡単に泣いちまうなんて、タナトスに会わなければ、俺は更にクズに成り下がってたんだろうな。



今日はついに、タナトスと再び離ればなれになる日だ。

正直、この日は来て欲しくなかった、それほどに離れたくない。

考えてみると、彼女結構仕事休んでたけど、大丈夫なのか?

おかげですっかり完全回復したんだが、職場復帰は大丈夫だろうか。


「それじゃあ、また必ず来るから、元気にしててね、タルナトスもパパの事頼むからね、特に浮気とかしそうになったら怒っていいから、ジンもラフェルとか言う女に気を付けてね、まぁエルとなら偽りの夫婦と言う事で…ごめん、今のなしと言う事で、なんて言えばいいのかな…あーもう!わかんない!」

「わかったわかった、浮気とかしないから、とりあえず落ち着こうな」


頭を抱えながら叫ぶ彼女、落ち着くかと思い背中をさすったのだが。


「あ!ホック取れた!そんなに離れたくないの?甘えん坊なんだから」

「女の人のブラを外すなんて、最低な男、僕達に近づかないでください」

「いや、レイ、今のは不可抗力でしょ?それにジンとタナトスは夫婦なわけだから、あと勝手に距離取らないで、タナトスお姉ちゃんからも距離取ってるから」


レイは何処までも、俺に難癖を付けないと気が済まないようだ…本当に泣かせてやろうかコイツ。

そんなやりとりもつかの間、彼女が戻る時間が来てしまった。

俺はルナの手を掴み、彼女に手を振る。

それを見たタナトスは涙を流しながらこちらに近づき、俺に別れのキスをした後に旅立って言った。

……また静かな生活が始まるのか。

寂しいな…また直ぐに会える日は来るだろうが、寂しいものだ。


「おお、皆、出迎えてくれるのかい?」


外に出ているとエルがどこから友泣く現れた、居ない事に全然気づかなかった。

それもそうだ、最近避けられていたのだから。


「ジン、喜んでくれ!やっと話がついたんだ!長い事避けていてすまなかった、ラフェルが君に対して害を与え様としているのに気づいて、それを止める為にしばらくは君と接触を避ける様にしていたんだ」


そういう自体が発生していたのか、これで納得した。

彼女自身が俺の為に行動をしてくれていたなんてな、嬉しい事だ、後で礼をしないといけない。

そんな事を考えて居ると、彼女は唐突に仕事の依頼を受けてきたと話だした。

帰って来ていきなり仕事か、流石はエルだな。


「しばらくジンが居ない間は私一人で働いたんだ、早速仕事をして貰う、行くぞジン!」


彼女の話によると、いつもの様に害獣駆除の内容だが、妙にいやらしい笑みを浮かべてるな。

この笑みは大抵、とんでもない化け物を倒す時に見せる、彼女特有の笑み。

悪魔の血が流れているせいか、たまに背筋が冷たくなる程、恐ろしい笑みを作り出す事もある。

だが今日のはまだマシだ、前に見たのはルナさえ泣き出したくらい、それで凄い謝っていたが数日ほど拒絶されてたな。

俺とエルは馬車に乗り、いつもの様に、依頼場所へと向かっていく、今日はメイとレイにルナを託したが、帰ったら大変な事になってるだろうな。

ジンとタナトスの別居生活が再び始まり、寂しさを覚えるジン。

そんな時に避けていたと思っていたエルが姿を現し、仕事の依頼を受けてきたといい、彼を狩り出す。

彼女が受けた依頼とは一体何か?

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