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第五話 友人達との休日

仕事により疲れ切ったジンとエル。

二人は疲れた体を癒やす為に休暇を取ることにするが。

エルとの仕事を始めてから、約一週間程が経った頃。

俺達はかなり、疲労が溜ってきていた。

殆どが依頼でモンスター討伐によるものだが、そのおかげで俺も少しずつだが戦闘方法も覚え、ゾンビとしての加減のコツも覚えてきた。

最近ではやっとベビーグッズも手に入り、ルナが俺の指をしゃぶる事も大分へったのだが、朝になるとしゃぶっていることも多い。

それでも多少はマシになった方だ。


「たまの休暇も良い物だね、ここ最近は働きづめだったから、ゆっくりと羽を伸ばしたい物だよ」

「ねぇエル!私達海行ってみたい!水着で泳ぎたいんだけど!」

「僕も同感、休暇を使って海に行くのもありだと思うよ、バイオレットだって自信の体毛で息切れ起こしてるよ、見てよ」

「あちぃ、あちぃ、あちち!」


どうやらレイとメイ、バイオレットは海に行きたいらしく、エルに交渉を持ちかけた様だ。

確かに、バイオレットはライカンスロープと言う事もあるから毛が元々多い、よって夏になると暑がるのは仕方の無い事。

実家でも犬たちには、いつも夏場はクーラーをつけて涼しくしていたな。


「いいんじゃないか?バイオレットの体も考えてやると海で多少は涼ませてやったら」

「そうしてやりたいのだが、私達は普通の海に入る事が出来ない、他の人間達が居たら恐れられて何が起るか」


そういえば、そうだった。

エルはともかく、ここに居る全員は簡単に海へ行けるどころか、俺とルナ以外は街にすら行けない。

一つの肉体を共有している双頭の双子に、ライカンスロープの少女、巨大な人魚と引きこもりが一名、確実に行けるメンバーではない。

だが、暑がっているバイオレットを見ていると、凄く可哀想に思えてきて仕方が無い。

あれがもしルナだったら、心が痛くなってくる。


「海に行く方法か……難しい問題だな」

「それなら全員隠しちゃえばいいじゃない、大きい馬車を用意して、荷台に皆乗せてエルが運転するの、そうすれば万事解決、ねぇタルナトス、ママ賢いでいしょ?」


気がつくと、俺の隣にはタナトスが座っていた。

腕の中に居るルナにちょっかいをかけ、俺にもちょっかいを掛けてくるが、目玉を勝手に取るのは辞めて欲しいものだ。


「お前、仕事は良いのかよ?」

「今日はお休み、ちゃんとバレない様にしてきてるから大丈夫」

「久々だねタナトス、元気そうで良かった」


タナトスはルナを抱き上げると、頬ずりした後に、ルナへの新しい洋服を用意してくれたらしい。


「これ見て!超可愛くない!?仕事で行った先で可愛くて勝っちゃったの!それからこれがヘアゴムね、タルナトスはツインテが似合うかと思ったんだけど、ポニテも悪く無いかも!なんせ私の娘なんだから!それからそれから」

「どれだけ買い込んできたんだ、まぁ服があれば多少汚れても着替えられるから良いが、なんだこれ?」


彼女の持って来た土産袋を漁ると、中から何か黒い小箱を見つけ手に取る。

するとタナトスはそれを開き、中から何かを取りだし俺の左右の耳に付け始めた。

ピアスか、最初から穴が空いてるから良いが。


「カッコいい…やっぱり似合う!流石は私の旦那!はい鏡!」


渡された鏡を手に取り、どんなピアスなのかを確認する。

それは、右側が青い宝石、左側は赤い宝石になっている。


「これはこれでありか、だがなんで左右色が違うんだ?」

「色が違う理由?確かあの店の人は特殊な宝石で、持ち主に魔法の力を与えるとかなんとか…覚えて無いからいっか、似合ってるんだし」


いや、呪いとか掛かってたらどうするんだよ。

にしてもだ、このピアス、悪くないな。

さっきからルナの目が光ってるが、これは俺に対してなのか、ピアスなのか分からない。

俺とタナトスがお土産を見ていると、メイとレイ、バイオレットが興味ありげにこちらへと近づいてきた。


「私達には?何かあるんでしょ?」

「ごめん…完全に忘れてた…今度買ってくるから!」

「おみやげない…お腹空いた…」


二人による批判と、一名による空腹の訴え。

タナトスは耐えかねて、俺の後ろに隠れる。

これは完全にタナトスが悪いな、せめてお菓子か何かを用意しておけば。

仕方ないので、とりあえず俺はルナを受け取り、バイオレットに何かを作る為に厨房へと向かう。

後ろからはタナトスの視線を感じるが、自業自得と言う物だ、仕方が無い。

厨房の冷蔵庫の前、見覚えのある後ろ姿があった。

最初に会った時も確か、このメンバーだったな。


「何してるんだベロニカ、まだ昼間だぞ?」


俺の声に驚くベロニカ、こちらに振り返ると口にソーセージを咥え、まるでアホみたいな顔でこちらを凝視してくる。

次の瞬間、俺達の視界に紫色の獣が飛び、彼女の咥えていたソーセージを奪い去った。


「私のソーセージが!バイオレット!なんて事するのよ!?」

「大目に見てやれよ、小さい上に腹まで空かせてるんだしよ、つかお前昼間なのに平気なのか?」


ソーセージを虎荒れて落ち込むベロニカ、その隣でバイオレットが凄い勢いで奪った獲物を食べる。

流石は狼、食べ方の迫力が違う。

そこまで腹が減っていたのか、毎回思うが、何故にベロニカは冷蔵庫を漁る、普通に言えば良いだろうに。


「昼間……本当だ!?いつの間に!?」


こいつ、気づいて居なかったのか…。


「どうしよう!なんで昼なの!?私確かこの館に日差しが入らない結界を完成させたのに!?」

「さぁな、とりあえず俺の服でも羽織ってろ」


俺はの服を脱ぎ、ベロニカの上に放り投げる。

彼女はそれを羽織り、影の中へと隠れる、上着脱いだから寒いな。

これじゃまるで、俺が筋肉見せたがり野郎みたいに思われないか心配だ。


「あう、あうあー!」

「俺を叩いても自分が痛いだけだぞ、やめなさいって、パパの筋肉叩いても何も出ないって」


説得を心見るも、ルナには伝わる事もなkぅ、叩き続けてくる。

それに便乗したのか、バイオレットまで俺の背中に上り叩いてくる始末。

頼むからソーセージは置いてきてくれ、背中が超冷たい、元々体が冷たいけどさ。

食堂の方からは、俺達が戻ってこない事を心配したのか、それとも逃亡してきたのか、タナトスが厨房へと侵入。

こちらの状況をつかめずに、苦笑いをしてくる……なんか恥ずかしくなってきた。

なんか…こう、死にたいって感じの恥ずかしさが。


「何してるの?あまりタルナトスに変な遊び教えないで」

「これが遊んでる様に見えるか?敢えて言うなら集団リンチを受けてる」


納得したような顔をするタナトス、それでも攻撃をやめない二人。

俺とタナトスが会話をしていると、影に隠れていたベロニカが顔を出し、俺の上着で日差しを防ぎながらこちらへと近づいてきた。


「タナトス、帰って来てたの?」

「ベロニカ!?ええー!?超久しぶり!元気にしてたの!?てか太った?なんか前はもっとほっそりしてたイメージがあるんだけど」

「そうだ、タナトス、ベロニカが日差しを遮断する結界を発明して発動していたらしいんだが知らないか?」


俺の問いに彼女の顔が青ざめ、俺達を交互に見る。

まさか、こいつが解いちまったと言う事か?

ベロニカが悲しげな目で彼女を見つめると、目をそらした後、ルナを抱きかかえながら食堂へと帰っていく。

やっぱりアイツが犯人か、後でなんで解いたのか聞いておくとしよう。


「とりあえず、もう一度結界を張ってみたらどうだ?イテッ、なんだったら、イテッ、てつだ、いい加減にしろバイオレット!俺の腰を集中的に狙うな!お前地味に力強いから折れるそうなんだよ!」

「……ごめんなさい」

「まだ子どもだら、それで手伝ってくれるんでしょ?それならマリーナも連れてきて、人では多い方が良いから」


彼女に言われるがままに、俺達はベロニカの部屋へと向かう。

途中マリーナを回収したが、殆ど寝ていて役立つのか怪しいが。



ベロニカの部屋に到着すると同時に、マリーナが目を覚まし、状況を聞かれ説明をする。


「つまりは、ベロニカにとって有害でしかない太陽の光を遮断する魔法って事?」

「そういうこと、それをタナトスが解いたらしくて、彼女は死神だがら魔法系は触れるだけで消滅させる力があるから」


俺初耳なんだが、その事実。

魔法系に触れるだけで消滅させる、つまりエルが発動する電撃系の魔法も、触れるだけで消滅させてしまうということなのか。

かなりヤバい力じゃねぇか!


「それじゃあ始めるから、マリーナはその球体に触れて魔力を送り込んで、ジンは…とりあえずバケツ一杯に自分の血溜めて、死んでるから問題無いでしょ?それからバイオレットは」

「待て待て待てぃ!なんで俺の血をバケツ一杯出さないといけないんだ!?何か輸血パックとか使えば」


彼女によると、今輸血パックを切らしているらしい、そしてこの魔法を使うにはアンデッド系の血が一番効果的らしい。

人間の血でも出来る、だがアンデッド系の血は更に強力な物を創り出す事が出来るとのこと。

よって俺の血が、最高の素材になる。

なんか別の意味で利用されている気もするが、タナトスのしでかした事だ、責任を取るか。


「全然血が溜らないな…このままじっとしてないといけないのか?」

「なんだったらアイアンメイデンでも使う?それかつり下げるとかあるけど、最悪お腹裂いて絞り出すとか」

「それやったらタナトスに殺されるから、ジンはタナトスの旦那だよ、しかも今はエルにも気に入られてるから下手な実験でもすれば…考えるだけでも怖い」


確かに、俺に手を出すとタナトスがマジギレするだろう。

もしそうなれば、この館は血の海になって、死体の山が築かれる。


「血が溜れば直ぐに出来るんだけど、やっぱりアンデッドの血は少ないから難しいかな、人間だったらこのバケツ二十杯とか必要だから」


こいつ、どれだけの人間を犠牲にしてきたんだ。

……やべぇな、段々視界が…かすんできた。

血液を出し過ぎた…このままだと…倒れる。

そして、俺は、大量出血により、その場に倒れてしまった。

次に目を覚ましたのは、タナトスの膝の上。

心配する彼女の顔が、最初に視界へと入り、俺に気づくと抱き締めてきた。


「なんで…そんな無茶するの…ジンの体は一人の物じゃ無いんだよ……もう私とタルナトスのなのに」


泣く彼女、それに続くかの様に、娘のルナが大声で鳴き始めた。

二人に悪い事をしてしまった。


「あれから……どれくらい時間が経った?」

「先に…謝るのが先でしょ、バカ…馬バカ旦那!」


怒られてしまった…これは俺が悪い。

よく見ると、ルナを抱いているのはエルか、彼女も少し怒っている様子だ。

その隣には顔を真っ赤に腫らしたマリーナ、全身から煙が立ち上がるベロニカの二人が正座をしている。

また二人も、怒られた様だ。


「三人とも反省するように、特にジン、君は娘が居るんだ、無茶は駄目だ、そこの二人は私がしっかりと説教をしておくから」

「待て、俺が自分で制御しないのが悪かった、特にマリーナは魔力を溜め込んでいただけだ、怒るなら俺だけで良い」

「そういうわけにはいかないから、結界を解いてしまった私が悪いけど、これは完全にベロニカが監視していなかったのが悪いの、ルナをしっかりと見ててね、ずっと不安な顔してたんだから、行くわよエル」


エルからルナを託され、四人は何処かへと行ってしまった。

俺は四人が去った後、ルナをあやしながら、海へ行く方法を考えることにする。

タナトスが言っていた馬車に隠れながら行く方法、それが今のところは最有力候補、だが移動をするならば夜に移動をしなければいけない。

しかもだ、海に行くとなるとベロニカを置いていかなければ鳴らなくなる、出来ることならそれは避けるべきだろう。

考えとしては、夜の海に行くしかない、だが夜の海なんて寒くて泳ぐ気にすらなれそうにない。


「あの魔法、ベロニカ自身にも適用できないだろうか……それさえ出来れば一つは解決する」

「魔法?私達魔法使えるよ、一応魔法使いの家系の産まれだから」

「メイ、勝手な事言わないでよ、僕だって魔法は使えるけど、この男に強力するのは……あまりしたくない」


悩む俺の隣から、メイが提案をしてきた。

彼女達は魔法が使える、もしかすると何か使える魔法があるかもしれない。

二人に今の考えを話すと、俺の予想は的中した、二人には俺の考えを実現できる魔法が使えると言う。

となると、一つは解決したわけだ。


「僕は反対だ!こんな男に力を貸すなら、海に行かなくても良い」

「そうか…お前はバイオレットの事を考えて居ないと言う事だな…冷たい女だ、こんなに小さい子が苦しんでるのに、たかが嫌いな男の頼みで……」


断られるのは分かってた、だからこそ、一応この返答を用意して置いた。


「くぅ…バイオレットを縦にする気か、卑怯者!」

「ねぇレイ、これは私の意見だけど、ジンの言う事も一理あるよ、だってバイオレットは毛が多いから常に暑がってるでしょ?それにベロニカはいつも部屋に引き籠もってるから話す機会すらない、だとしたらこの話に乗るのもアリだと思う、あと恩だって売れるんだから」

「どうする?俺の話に乗るか?それとも暑がって体中の汗疹を掻き続けるバイオレットの姿を見たいのか?」


レイ自信が言う卑怯者と言うのはしっかりと理解してる、だがこれしか方法は無い。

他の四人は別の所に居る、そして今ここにいるのは、俺とルナとバイオレット、メイとレイの五人。

俺達以外の者達が居れば、他の方法もあったかもしれないが、仕方が無い。


「………分かった、バイオレットの為にやるよ。その代わり、貴方には後でそれなりの代償を払って貰う」


交渉成立だ。




俺達九人は、馬車に乗り込み海へと向かった、問題は馬車が二台必要だと言う事だが。

乗り込むのは四人ずつなのだが、マリーナの体は通常の人間に比べると倍以上はある、その上で水が必要。

よって、彼女専用に巨大な水槽か、タルが必要なわけだ。

彼女自身は長時間水に浸からないでいると、乾燥して干からびるらしい、それが真実かは知らないが。

タルを積み込むと、馬車の中は異常な程に狭くなる、だから誰かが彼女とタルの中に相席する必要がある。

それで終われば良いのだが、重量的にもキツく、こちらの馬車には俺、そしてマリーナと体重が軽いベロニカの三人という形になった。


「何故に俺が、お前と相席になるんだ…スゲぇ寒い」

「だってジン以外、身長的に溺れちゃうでしょ?エルも一応は行けそうだけど、胸のサイズ的には入り込めない訳だから」


マリーナの言うとおり、タルがかなりデカいせいで、俺ですら首から上を出すのでやっとのレベル。

彼女自身は普通に上半身を出しているが…狭いせいで、胸が直接顔に当たる。

この状況、嫌いじゃないが…生臭いのが難点だ。


「あまり胸に顔埋めないでよ、タナトスに怒られるの私なんだから」


無茶言うな、この巨大人魚。


「ジンって海とか入れるの?泳げないなら泳ぎ教えてあげようか?」

「お前に教わらなくても知ってる、それにお前は尾ひれがあるが、俺は普通の足だから構造自体が違うだろ」

「なんだったら下半身が魚になる魔法、開発してみる?」


俺とマリーナの会話を聞いていたベロニカ、彼女はいやらしい顔をしながらこちらを眺めてくる。

その笑みにはどこか、楽しげな様子が隠れている。

どうやら海に行くのが楽しみの様だが、隠しているのが丸わかりだ。

彼女は外に出ること自体が殆どないからだろう、もしかすると海に行くこと自体が初めてなのかもしれない。

もしそうだとしたら、テンションが上がっても仕方が無いというものだ。


「海へは後どれくらいで着くの?」


待ちきれないであろうベロニカが、馬車を運転する男に質問をすると、もうすぐつくと返事が返ってくる。

本当に楽しそうな顔をしてるな、初めて会った時とは大違いの顔だ。

馬車を運転する男の言った通りに、直ぐに海へ到着した、てか三十秒ほどで着いた。


「これが海…きらきらしてる…本で見たのとは大違い」

「私の故郷、帰って来たー!」


ベロニカがマリーナの下半身を担ぎ、俺が上半身を持つ。

腕の中でテンションが上がり、騒ぐマリーナはまさに子どもそのものだが、海を見て感動しているベロニカとは大違いだ。

てか今、故郷とか言ってたか?

つまりは、マリーナは海で生まれ育ち、あの館に住んでいる…訳が分らなくなってきた。


「お待たせ、私達は既に水着に着替えてまーす!」

「凄いな、子どもを産んでも体型が崩れてないなんて、流石は神か」

「良いでしょ?しかも私って幾ら食べても太らないタイプだから」

「もう!あまりはしゃがないでよメイ!この体は僕のでもあるんだから!」


もう一台の馬車から降りてきた五人、全員が水着に着替え、海へと走って行く。

紫色のマイクロビキニを着たエル、悪く無い、むしろ最高のセンスだ。

黒い子ども用の水着を着たバイオレット、子どもらしい。

メイとレイは見栄を張っているのか…明かにサイズが合っていないビキニ、今にも水に流されそうだ…。

そして一番の問題、タナトスに関しては…。


「どうしてそうなった!?」

「え?だって可愛くない?貝殻の代わりにドクロ使うって超流行の先取りじゃない?どっちにしろ貝にとって殻は骨みたいな物だし、奥さんが綺麗だと嬉しいでしょ?見てみてタルナトスもこんなに可愛くなったの!」


彼女が俺にルナを向けてくる、そこには元気そうに目を輝かせる娘の姿だが。


「なんでそんな水着にした!?これじゃ前しか隠せて無いだろ!金太郎みたいになってるじゃねぇか!?」

「だって、赤ちゃん用のがこれしか残って無かったんだもん、それにお尻はしっかりと隠れてるから!私がしっかりと隠してるから大丈夫!」


まぁ、幸い他の奴がいないから良いか。

本人も底まで気にしてはいない様子だ、流石と言えばいいのか、大物になりそうだ。


「私、水着に着替えてくる!皆だけずるい!」

「痛ッ!ベロニカ!いきなり手離さないでよ!」


皆に釣られてたのか、ベロニカは急いで馬車に戻り、水着に着替えたあと、海へと突撃していく姿を俺とマリーナは静かに見つめていた。

今、マリーナの奴、確実に腰打ったよな…ベロニカが思いっきり離してたから。

しかも俺の記憶だと、真下に蟹らしき生き物が居たが、気にしないでおこう。


「俺も着替えるとするか」

「なんでここで脱ぐの!?馬車で着替えてよ変態!」


別に良いだろ、下に水着を着てるんだから。

叫びながら手で顔を覆うマリーナ、だが指と指の間からしっかりと見ているのを、俺は見逃さなかった。


「あらあらあら、これはこれは、誰かと思えばこの間の」


聞き覚えのある声、しかも妙に背筋に冷たい感覚が走る。

俺は下だけを脱ぎかけで正解だと思った、もし上から脱いでいたら、俺がゾンビであることがバレていただろう。

そっと振り返る、やはりあのラフェルがこちらを見つめていた、それも青いビキニときてる、胸はそこまで大きくないのか…。

ラフェルの右隣には黒い髪を後ろに束ね、真っ赤なビキニを着た少し背がデカい女。

左隣にはボブカットにした金髪、茶色い水着を着た眼鏡の女。

そして巨体男と、俺より少し伸長が小さい男が一人。

俺とマリーナは警戒をする。


「ねぇジン、この女誰?なんか凄く神聖な力を感じるけど」

「ああ、エルが敵視してる女だ、相手もそうだが」


俺の後ろに隠れるマリーナ、だがその巨体は隠れるどころか余計に目立つ形となる、特に胸が。


「ラフェル様、この様なゲスの下々と会話をしては口が悪くなります、お帰りになさいましたらしっかりと薬で消毒をいたしましょう」

「お前達、ここはラフェル様専用のプライベートビーチだ、お前達の様なカス共が利用して場所じゃない」


言いたい放題だな、眼鏡の方は地味に傷つく事言っていくるが、もう一人はかないり好戦的らしい。

後ろに隠れるマリーナの手に力が入る、つかお前、俺の肩掴みながら力入れるなよ、変な音が鳴り始めてるぞ。


「言ってくれるな、このクソアマ、口は災いの元ってのを覚えておいたほうが良いぜ」

「カスが私に口答えだと?ラフェル様、我慢出来ません、私にこの男を倒す許可を」

「やめなさいカミエラ、ごめんなさい、家の使用人はどうも短気でして」

「ちょっと!さっきここがプライベートビーチとか言ってたけど!この浜辺は私の生まれ故郷!私はここで産まれたの!ここは実家!勝手に私物にしないで!」


あの時の故郷ってのは、海の事じゃ無くて、浜辺で産まれたのか。

あれ?確か魚って魚卵だよな?

人魚って…卵で産まれるのか?それとも出産?

頭が痛くなってきそうだ、これじゃまるで鶏の卵が先か、ひよこが先かと同じだ。


「そんなの関係無いな、ここがお前の故郷だろうが、今はラフェル様の私物だ、ラフェル様、ここは俺に任せて貰えないでしょうか?話し会いで全員を追い出しますので」

「彼は別に良いのよ、それ以外の女達を追い出しなさい、特にあの憎きエルビルはどんな手段を使おうが構わないわ、今すぐ追い出しなさい」


なんで俺は良いんだよ、女は時に訳が分らなくなるな。

とりあえず、タナトス達に手を出すなら話は別だ、俺も短気にならせてもらうとしよう。

男がタナトス達の元へ向かう前に、俺は男の前に立ちはだかる。


「何のつもりだ?お前はラフェル様のご厚意を無碍にする気か?」


男が俺の胸ぐらを掴み、顔を近づけてすごんでくるがコイツ、息が臭ぇ。

まるでニンニクでも食ってきたのかってツッコみてぇ、それくらいに臭ぇぞ。

早く終わらせるとするか。

俺は男の腕を掴み、捻り挙げ、頭を掴み軽く抑え込む。

すると男は膝をつき始める、案外弱いな。


「嫁と子どもを犠牲にしてまで、そこの女のご機嫌がどうこうなんて興味ないな、それよりアイツ等に手出してみろ、頭握り潰すぞ」

「なんだ…この馬鹿力は…人間じゃないのか?」


その通りと言いたいところだが、ゾンビであることは言えない。

俺は人間じゃない、だからこそこうして怪力になったわけだ。

時には重たい物を運び、あるときは化け物すらも一発で沈める事が出来る、重い一撃を叩き出す事だって容易い。

でもよ、人間じゃなくたって、幸せになることくらいは許されてもいいよな?

大切な者達を守りたい、ゾンビがそう思う事は間違いだろうか?

俺はそう思わない、例え死人だとしても、理性がしっかりしていれば、人権だって与えられても良いと考えるぜ。


「お前何者だ…?一体どこでこんな力を…?」

「話す理由はないな、お前が女だったらベッドの上で泣かせた後にでも、語ってたかもな」

「面白い方ですね、ますます気に入りました」


なんか妙な所で好感度あがってね?別にそんなの狙った覚えねぇぞ。


「ラフェル、何でこんな所に居る?私達に何か様でもあるのか?」

「それはこちらのセリフですわ、貴女こそ私のプライベートビーチへ勝手に侵入した挙げ句に、我が物顔で遊ぶなんて、本当に育ちが悪いですね、旦那さんが可哀想ですよ」


水着姿のエルがラフェルに近づき、お互いに睨み合う。

伸長は圧倒的にエルの方が上だ、それ以外の箇所も完全に圧倒している。

まず二人の雰囲気が違う、エルは大人びたお姉さん的雰囲気。

対してラフェルは、清楚なお嬢様な雰囲気だ。


「合いも変らず下品なお体つきですこと、流石は穢れた血を引いていますわね」

「貧相な体で良く言うよ、隣の二人に比べたら…フッ」


今、一瞬エルのやつ、凄い悪い顔したぞ。

しかも彼女の言葉に反応してか、あの二人をラフェルが恨めしそうな目で見始める、コンプレックス抱いていたのか。


「こうなれば、決着を付けましょう!明日の朝!この場所で!私のプライベートビーチを掛けて勝負です!」

「いいさ!受けて立つ!こちらが勝てば二度と顔を見せないと約束しな!この海は私の物だ!」

「だから!ここは私の故郷だから!誰の物でもないってば!」


マリーナ、お前は正しい事を言った。

この広い海は誰の物でも無い、ただ故郷と言われると、凄く複雑な気持ちになるけどな。

その後は二人が話し合い、明日の朝に行う対決の内容が決定した。

内容は主に簡単、海辺で行える競技のような物だ。

第一種目はバイオレットと相手チームでの対決、種目は駆けっこ…何故駆けっこ?

第二種目は呪文魔法対決、これにはベロニカが出るらしい。

第三種目は力対決、何故か俺ではなくエルが出場する。

第四種目はスイカ割り勝負、どちらが早くスイカを割るかの時間勝負、これにはメイとレイが出るとのこと。

そして最後の第五種目、水泳勝負、これには俺が出るわけだが。


「なんで俺が最後の種目なんだ!?普通水泳ならマリーナだろ!?」

「本来ならそれが望ましい、だが相手が五月蠅いんだ、彼女は人魚であるから泳ぎが得意、それに最後はラフェルが出る、あの女はジンに興味を持っている」

「つまり利用するって事?エルはやっぱり頭がいいわね、私とタルナトスは応援してるから」


つまり何か?相手にハンデを与える為に、俺が最後の勝負を行う。

だが、これも作戦で、相手の隙を突くと言う事か…。

仕方が無い…これも勝つ為だ。


「お前等の為に、人肌脱ぐとするか…」

「いや、本当に肌は脱がなくて良いからね、タルナトスが泣いちゃうから」


脱ぐわけねぇだろ!

海に行った結果、とても面倒な事態になってしまったジン。

ゾンビとなった彼は、どうやってゾンビと言う事を隠す事が出来るのか。

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