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第四話 働かなければ、誰も育てられない。

エルによって仕事へと狩り出されるジン。

仕事先では危険がいっぱい、二人は無事に帰還できるのか。

「ジン!私は仕事に行くがついてこないかい?」


眠る俺とルナに、カーテンを思いっきり開き、日差しを浴びながらエルは言い放った。

いきなり人の部屋に来たかと思えば、仕事に行くからついてこないかって、こいつ何の仕事してるんだよ。


「さぁ起きるんだ、私と君は今日から夫婦、だとしたら共働きだ、なに簡単な仕事さ」

「お前の簡単は普通じゃない、つか仕事って何だよ」


エルの口元が上がり、いやらしい笑みを浮かべると、仕事に就いて説明を始めた。

彼女がしている仕事は、簡単に言うと害虫駆除、細かく言うと依頼を受けて化け物を倒しに行くらしい。

こいつそんな仕事をしていたのか、だが全員の食費を考えるとそういうものなのか?

イメージ的には、化け物を倒した方が金が貰える。


「他に誰か行くのか?」

「いつも私一人だが?」


こいつ、いつも一人で仕事してたのか…じゃあ他の奴等は何をしてるんだよ。


「バイオレットはライカンスロープだから興奮すると直ぐに人を襲う、メイとレイは見た目のせいで街には出ない、マリーンは一人で行動が出来ない、ベロニカは夜にしか活動が出来ない、ということで君の出番というわけさ」


俺、直接日光浴びると焦げるんですけど。

全身フード来てないと、完全に消し炭になるんですけど。

つかまだ朝日上ったばかりなんですけど!


「ルナはどうすれば良いんだよ、俺以外に懐いてるのはお前と、バイオレット、後はマリーンくらいだぞ」

「それなら託児所に預ければ良い、他の者とふれ合うのもこの子の為ではないかい?」


……一理あるな、確かに将来を考えると社交的な子に育って欲しい。


「そうと決まれば支度をしよう、良いかい?君と私は今日から夫婦と言う事を忘れてはいけない、流石に夜の事までは無理だが出来るだけ協力はする」


エルはそう告げると、部屋を後にした。

夫婦か…タナトスと結婚して、今度はエルと夫婦になる。

俺の人生って、もう訳分かんねぇ。

とりあえずルナを着替えさせて……やっぱり可愛いな。

ついルナを持ち上げて、ベッドに横になってしまった…これが親ばかって奴か。


「なぁルナ、お前はママの事を忘れるんじゃないぞ、今お前にはママが二人居るわけだが、本当のママはタナトスなんだからな」

「あーうー!」


良い返事だ、お前を見てると本当に癒やされるよ。

立ち上がり支度を始める、すると何故かメイとレイが部屋にノック無しで入って来た。


「ねぇ、エルと仕事行くなら頼みたい…グロテスク…」

「……早く前隠してよ!変態!」


こいつ等、勝手に入ってきて好き放題言うじゃねぇか。

そういうことなら、こっちにも考えがある。

からかってやるとするか。


「お前等、俺の裸を拝みに来たんじゃないのか?そうなら先に言えよ、好きなだけ拝ませてやるのに、なんだったら俺の大胸筋と割れた腹筋触るか?」

「やめろ!来るな変態!股から変な物ぶら下げてこっちに寄ってくるな!」

「でも……お父さんのより立派…かも…大胸筋と腹筋が、凄くたくましくて…ハァ…ハァ…カッコいい…」


やべぇ、超おもしれぇ。

同じ肉体で、頭が二つあるからか本能が違うのに。

片方で目隠して、片方で手伸ばしてくるっては新鮮だな。

だがそろそろおふざけもこの辺にしよう、俺が怒られそうだ。


「俺はルナとシャワーを浴びてくる」

「フルチンで歩くな!死ね!このクソゾンビ!」


いや、俺もうとっくに死んでるから。

レイが俺に対して死ねと言った後、何処かへと走って言った。

仕方ない、シャワーを浴びるとしよう…ルナがベッドを水浸しにしていたからな。

となると、ベッドシーツも変えないといけないか。



外に出るとエルが既に待機していた。


「随分と時間が掛かったようだね」

「ルナが夜中にダムを崩壊させた、それで白い布で出来た街が黄色い津波に襲われてな」


エルは直ぐに理解をしたらしく、口元と腹を押さえ、笑いを堪えている。

当の本人は理解していない、まぁ赤ん坊だから仕方が無いが…吸収性の高いオムツを履かせなかった俺の責任だ。

そいんな事よりも、仕事をするために街へと向かう。

途中、変な連中に話しかけられたが、エルが一瞬で倒してしまった。


「掲示板がある店に行けば依頼を受けられる、大抵は酒場だが、結構子持ちでも仕事をしている人が多い事もあって託児所が設けられた」


そういえば前にベビーブームが来てるとか言ってたな、それの影響か。

彼女に連れられ、目的の酒場に到着した。

俺はルナを抱きながら託児所の所へ行くと、そこには目を疑う光景が写り込む。

沢山の預けられた子ども、年齢はどれもバラバラだが若干無法地帯に近い様にも思えた…預けたくねぇ。

驚愕している俺に、託児所の人らしき女が話しかけてきたが、なんでバニーガールなんだよ!?


「預かりですか?あら!凄く可愛い赤ちゃん!お名前はなんて言うんですか?」

「ルナです…それより、この惨事は」


実感引いている俺を女は気にしている様子でもなく、惨事について説明を始めた。


「大丈夫ですよ、赤ちゃんは別室で私達が面倒を見てますから」

「お前等全員俺の肉便器な!」


おい!今滑り台に居るガキがとんでもない事口走ったぞ!

良いのかよ!?誰か止めろよ!


「言葉の意味は理解をしてないので問題ありませんよ」


言葉の意味を理解して無くても、発言的にアウトだろうが!

ここに預けるなんて、凄い不安でしかない。

ルナに対して悪影響しかないだろ!絶対に悪影響しかない!

悩んでいる俺に気がついたらしいエルが、こちらへと近寄りルナを渡して仕舞った。


「大丈夫だ、彼女達は育児のプロだよ…見てご覧」


エルが指さす方向は先ほどのガキ、そこへ別の女が近寄り何処かへと連れて行った。

何が始まるのかは知らないが、悲鳴が聞こえているのはハッキリと分かる。


「最近の親は変な言葉を教えるからね、ここではそういう子どもをああやって躾けてくれているんだよ、良い子にはとてもやさしいからね、それにルナも懐いてる様子だよ」

「いや…アレは懐いてるんじゃなくて、胸がデカいのに勘当して…本物か確認してるだけだ」


事実を知るとエルは、まるで昭和のボケのように転け始める。


「と、とりあえず仕事は受けてきたから、目的地に向かうとしよう」


彼女が受けてきた依頼、内容はドラゴンシャークと呼ばれるドラゴンを退治するだけのもの。

討伐数は合計三匹、彼女曰くとても簡単な内容らしいが…怪しいな。

目的地へは少し遠いらしく、馬車に乗るらしい、俺馬車なんて乗った事ねぇ。


「ドラゴンシャークについて説明をしておく、ドラゴンシャークは凶暴な生物で有名だ、ドラゴンの中でも水陸両用な上に飛行まで可能、万能なハンターと言ったところだ、街では生きた人間を襲う事も多いから嫌われてるんだ、それで私とジンの出番と言う事さ、君は一度死んでいるから狙われる事はない、そして私には強力な魔法がある、怖い物なしということさ」

「おい、お前確か俺に依頼は簡単な物だとかいってたよな?何処が簡単なんだ?俺には苦労しそうにしか感じないんだが」


俺から目をそらし、彼女は外を眺め始めた。

こいつ…黙秘をする気か。


「外は良い眺めだと思わないかい?」


話題を変える気か、つまりは相当ヤバいのが相手って事だな。

その後も馬車に揺られながら、目的地へと向かう。

静かな馬車、馬の蹄の音が聞こえるが、俺の視界には同時に彼女の揺れる旨が写り込む。

馬車が大きく揺れると、彼女の胸も負けじと揺れる、俺からすれば生殺しと同じだ。


「目的地に到着したようだ、降りよう」

「お、ああ」


ヤバいな…三日ほどで、ここまで禁断症状みたいになるのかよ。

考えたら、毎日女抱いてたから、変な習慣でもついてるのか?

だが、子どもがいるならちゃんと直さないとな、クズでも自分の子どもや妻を泣かせるような事をしないようにしないとな。


「それじゃ、狩りを始めようじゃないか」


……俺、どうやって戦えばいいんだよ。

武器なんて持ってない、魔法すらも使えない、あるのは怪力くらいか。

彼女自身は魔法が使える、それも電撃系の魔法だ。

俺も魔法が使えればな…良いんだろうが、残念ながら俺は今のところ魔法が使える感じは一切無い。

なら、怪力だけで行くか。


「どうやら、あちらさんが来たようだ」

「…確か依頼には三匹なんだよな?…なんで八匹も居るんだよ!?」


エルはしばらく考え込んだ後、あること言い始めた。


「どうやら繁殖したようだ、この時期は確か繁殖期だから増えてしまったようだね、まぁ依頼が来ていたのは去年だから丁度孵化して大分成長をしたんだろう」


つまりは…対象が増えたと言う事か。

これまた面倒な事態に発展したものだ、嘆いていても仕方が無い。


「エル…こいつ等どうやってかたづ」

「デモンズ・スパーク!」


彼女の全身から黒い電気が発生しはじめ、ドラゴンシャーク達を黒い電気が包み込んだ。

電気に包まれたドラゴンシャーク達は奇声を上げ始め、次々と倒れていく。

エルの方は平然として、俺にピースまでする余裕がある。


「これで以来完了、ジン、そいつらを馬車へと積んで貰えるかい?こいつ等の皮はとても貴重でね、高値で取引されるんだこれだけあればしばらくは遊んで暮らせるくらいの資金になる」


ワニ皮みたいな物か、つまり財布とかに使える。

だとしたら靴とかも良い物を揃えられそうだな、今来てるのは大分ボロボロになってきてるし。


「どうだい?ついでに他の依頼も受けようと思っているんだが、といっても受けてるんだけどね、ジンにもこの世界について説明をするには良い機会かもしれない」

「これくらいなら楽勝だな、エルが殆ど始末してくれるしよ」


彼女は笑い始め、馬車に乗り込み始めた。

俺はその間に獲物を詰め込み、馬車に乗り込む。

馬車の中で、次に受ける依頼について説明をして貰うが、次はもう少し簡単そうな内容だった。

ある酒場に行って来て、荷物を受け取ると言う、ととえもシンプルなもの。


「簡単そうだろ?それを受け取って、そのまま届けた後に、タルナトスを受け取って帰る、少し買い物をしてね、今日はジンの初仕事だから祝うとしよう」

「それは良いとしてだ、ここから目的地までどれくらい掛かりそうなんだ?長くなるならルナが寂しがりそうだが」


俺の問いに彼女は笑みを浮かべながら、直ぐ近くにある街で受け取る事が出来ると話す。


「今回の目的地とかなり近かったから受けたんだ、タルナトスを育てるのにも金が掛かる、私もバイオレットを育ててるからそれは知ってる、だからタナトスは私にあの件を頼んできたんだ、タナトスはたまにこの世界に帰って来ては遊んでいた事が多かった、そしてある日、私を助けてくれたのが彼女さ」


彼女は突然、自分とタナトスの出会いについて語り始めた。

とても真剣な顔をするエル、俺は彼女を静かに見つめながら、話を聞く。

くらい顔をする彼女は初めてだ、それだけ重たい話なのだろう。


「私はエルフと言ったが、あれは半分嘘だ、正確には私は半分がエルフ…そして半分が悪魔だ」


こいつは驚いた、彼女の隠された真実。

なんと言えば良いのか、正直俺は驚きを隠せないでいた。

エル…彼女の名前は確か、エルビル。

エルビル……エルフ…悪魔はデビル、エルフとデビル…なる程な。

……エルフとデビルで、エルとビルの部分を取ってエルビルか。


「驚いただろう…こうして普通にしているが、これは仮の姿に過ぎない、実の所は角もあるし、尻尾だってあるんだ、ただこれはタナトスから教わった魔法で姿を変えているんだ…本当はもっと悍ましい姿をしている」


恐ろしい姿か、お前が恐ろしいなら俺はどうするんだよ、

頬の肉は無い…片腕は白骨化してる、目玉だって簡単に取れちまう。


「だから…どうしたって話だ、悪魔だろうがエルフだろうが、自由に生きたら良い」

「そんな簡単な話じゃないんだ!」


大声を上げる彼女の瞳には、涙が溢れていていた。

女を泣かせる事は、沢山してきた。

興味ない相手からの告白を断る、顔が良いから数回相手して捨てるなんて日常茶飯事。

勝手に自分の事を彼女だとか思い込んだ相手には、冷たい言葉を吐き捨てて追い払うなんて朝飯前。

それなのによ、何故か彼女の涙を見てると、妙に。

心が、激しく痛むのは何故だ?


「……すまない」


それからは、しばらく沈黙が続いた。

馬車に揺られながら、エルは目的地に着くまで、こちらへ顔を向ける事も無かった。

俺は本当にバカだ、今更後悔しても遅いが、本当にバカだ。



俺達は目的の酒場へと到着した。

見た目は映画で見るような雰囲気で、ネオン管のようなピンクの明かりが女の形で動いている。

手には酒の瓶を持ち、自分の胸を掴みながら、酒を飲む行動をしていた。

良いセンスしてるぜ、前に俺の上に乗って酒飲むバカ女が居たのを思い出す、ベッドに酒撒かれて追い出したが。


「目的地に…ついたようだ。

「さっきは…本当にすまない…この世界に来る前から、あまり相手の事を考えずに発言する事をしてきた…次からは気を付ける」


俺が謝罪をすると、彼女は俺の肩に腕を回し抱き締めてきた。


「知ってる、Tから話を聞いていたからね、だが私以外には気を付けるように、特にバイオレットとレイとメイに対しては気を付けてくれ、彼女達は私より辛い思いをしてるからね」


彼女はそういうと、俺を掴んだまま酒場へと向かっていて行く。

酒場には厳つい男達が酒を飲み、騒いでいた。

それがだ、俺とエルが入ると一気に静まり帰り、こちらを睨み付けてきた。

凄い腹が立ってくる、いきなり睨み付けてくるんだからな。

こちらには何の落ち度もない、だから俺と彼女は堂々とカウンター席に座った。


「何にする?」

「そうだな、とりあえずビール、それからこれに書いてある荷物を取りに来た、ジンは何を飲む?」

「……テキーラ、瓶一本のままで良い」


驚いた顔で見てくる、エルとバーテンダー、そしてこちらを睨んでいた連中。

エルは無理しない方が良いと言うが、俺は自信がある。


「ど、どうぞ」

「本当に無理はしないでくれ、君に倒れられたらTに怒られる上にルナも泣いてしまう」


俺はテキーラの蓋を開け、ラッパ飲みを始める。

この喉が焼けるような感覚、たまらない。

テキーラを一便飲み干す、隣で目をまん丸くしたエルが俺の安否を確認してくる。


「問題ないのかい!?本当に大丈夫なのかい!?」

「やめろ…揺らすな!酔いが回るだろうが!」


ある程度エルに揺らされたが、吐く事はなかった。

むしろ、ゾンビになったせいかアルコールに対してはあまり感じない。

感じるとしたら、先ほどのい焼ける感覚だろうか。

周りでは、俺が一気に飲み干した事と、顔にある巨大な傷でざわついていた。


「荷物を早く渡して貰おうぜ、そろそろ帰らないと」

「帰らないと、どうしたんだ?もう少しゆっくりして行けよ、なんだったら永遠にだ」

「デカパイの姉ちゃん、大人しくそいつを渡して貰おうか、ついでに俺達の相手もしてくれよ」

「何だお前達?この荷物に何か様でもあるのか?」


俺とエルの前に立ちはだかる男達、人数にして三人か。

大きい男が二人に、子どもくらい小さい男が一人。

三人とも、黒い服を着ており、俺達に銃らしき物を向けて来る。


「お前等、彼女に手出したら殺すか…」


小さい男が取り出した銃が光り、弾丸らしき物が、俺の肉体を貫いた。

激痛と共に、俺はカウンターを乗り越え、転がりながら棚に衝突し、酒瓶が上から落下してくる。

エルの悲鳴が聞こえ、周りが一気に騒がしくなりはじめる。

野郎…ただじゃおかねぇ

俺が体制を整えると、心配したエルがカウンターを乗り上げてきたが、見事俺の上に乗っかってきた。


「ジン!無事か!?」

「オーライって感じと言いたいが、体に風穴を開けられた…おい!クソチビ!テメェぶっ殺してやる!」


まぁ、エルの胸で顔が埋まったから、元気は出てきた。

タナトスに言えば、半殺しにされそうだが。


「作戦は何かあるのか?」

「……んなもんねぇよ、あるとすればお前の魔法と、俺の怪力くらいだ…」


対抗するとなれば、彼女が電撃で……良いことを思いついたぞ。


「…クソ、このままじゃ出て行けない、攻撃が激しすぎる」

「作戦だ、俺がこの割れていない酒を天井に投げる、それを電撃で割れ、怯んだ隙に俺がこの割れた瓶と怪力で襲い掛かる、お前は先に荷重を持って馬車で逃げろ、何かあればルナを頼むぞ」


彼女は最初理解していない顔をしたが、俺が酒瓶をもった瞬間に分かったようで電撃を溜め始めた。

お互いに頷いた後、俺は天井目がけて、酒瓶を放り投げた。

同時に彼女は、手に溜めた電撃を放ち、全ての瓶を割った。

だが…ここで俺の計算外の事が起る。

酒のアルコール度数が高く、引火したのだ。

炎は床に落ちた酒にまで広がり、一気に男達と店内を炎で包み込む。


「今のうちに逃げるぞ、走れ!」


俺は彼女の手を掴み、男達を押しのけながら入り口へと向かった。

だが、突然動きが止る、足に何かが纏わり付いている。


「逃がしてたまるか…お前も道連れにしてやる」

「…先に行け、俺はこいつ等の相手をする」

「駄目だ、君は君の妻だ…旦那を置いて行ける分けないだろう?」


……良い女だ。

本当に良い女だ、俺の知る限りでは二人目だな。

流石はタナトスの友人と言うだけはある、元居た世界では会えないでだろうタイプの女。


「そうだったな、それじゃ夫婦で乗り切るとするか」

「そうこなくちゃ、それじゃあ、私の旦那を離して貰うよ!」


エルの手に電撃が溜り、男の頭をしっかりと掴み電撃を流し込む。

男は彼女の攻撃により気絶、そして俺とエルは燃える酒場から飛び出し、馬車へと飛び乗り街を後にした。



揺られる馬車の中で、疲れ切った俺とエルは、気づけばお互いに寄り添いながら空を眺めていた。

暗い夜空に、綺麗な星が光り輝いていた。

そんな中、彼女は唐突に俺の首を掴み、自分の方へと向けさせる。

表情にはどこか寂しげではあるが、その瞳には、何か期待をしている様子だった」


「あの時、私は半分悪魔と話しただろう?それについてだが、私の家はとても裕福だった…だが、私が生まれた事で一気に崩れさったんだ……母は最初、父の子かと思ったらしいが、相手は父では無かった…それが本当の父親らしいが、母は覚えていないと言っていた…私と母は家を追い出され、私は幼い頃に捨てられ、タナトスに拾われたんだ」


今度は、静かに彼女の半裁を聞いていた。


「タナトスの話によると、私の父親は夢魔、サキュバスの男であるインキュバスらしいんだ、つまり私には淫魔の血が流れていると言う事なんだ……ただでさえ自分が半分悪魔だと言う事が怖いのに、まるで追い打ちを掛けるかのように……私は…私は…穢れているんだ…穢れた血が流れているんだ!私は!」


俺は静かに彼女を抱き寄せ、帽子をどかし、頭を撫でた。

戸惑う彼女を無視し、俺は優しくなで続ける。

彼女は最初こそ、多少抵抗をしていたものの、諦めたのか自然と体をづけてきた。


「…こんな私を慰めてくれるのかい?穢れた私を」

「お前は穢れてないかいないさ、穢れてるのは俺の方だ…この世界に来る前は色んな女を抱いてきた、そして捨ててきた…まさに本当のクズだ、それに比べてお前は違うだろ、血が混ざってるだけで別に穢れてるわけじゃない、俺にはお前は普通のエルフにしか見えないし、お前は俺に遠慮をする必要はない」


俺の胸元から、すすり泣くような声が聞こえてくる。

その声を聞きながら、そっと夜空を再び見上げると、綺麗な夜空に何か黒いシルエットが見えた。

まるでドラゴンの様なシルエット、それを俺は静かに見つめていると、どこかへと飛んで行ってしまった。

もし、あんな怪物と戦う依頼が来るとすれば、大変だろうな…正直勝てる気がしない。



俺達がルナを迎えに行くと、俺の視界にはある意味、面白い物が見えた。

なんと…我が娘が…他の赤ん坊の上に。

君臨していたのだ。

他の赤ん坊が泣く中、俺の娘であるルナは、滑り台の上でガラガラを振り回しながら、雄叫びを上げている。


「あうまー!まうまー!」


爆笑をしながら俺は、ルナの元へと向かい抱き上げた。

興奮しているのか、腕の中でガラガラを振り回しながら、鼻息を荒くしている。


「お前まるで暴君だな、そんなに楽しかったのか?」

「あうまう!まうま!まー!」


は?今なんて言ったんだ?


「ルナちゃん、凄かったんですよ、最初は他の子に意地悪されちゃったんですが、直ぐに皆をまとめあげちゃって、こんなに元気な赤ちゃん初めてです」

「ありがとうございます、娘もかなり楽しかったようで、また利用させてもらいます」


意地悪されたのに泣かなかった、意外と強いんだな。

ルナの頭を撫でてやると、やっと落ち着き始め、俺の顔見て笑顔を見せ始めた。

笑ってくれた、この笑顔を見ていると和むな。

隣にいるエルはルナの顔を覗き込み、頬を優しく突いたりして笑わしてくれている。


「それじゃ私は換金と報酬を貰ってくるから」

「ああ、俺はルナの相手をして待ってるよ」

「奥さん、前から見かけますけど、いつ妊娠されたんですか?」


………やべ、それに対する回答を考えて無かった。

さて、どう答えようか…。


「あう?」

「えっとですね…なんと言いますでしょうか」

「再婚なされたのよ、彼はバツイチ、そしてあの女はそんな彼と再婚をした、腕に抱いている赤ちゃんは連れ子」


後ろの方から聞き慣れない声が聞こえ、振り返ると純白のドレス、綺麗な金髪、そして青い目をしたまるで人形の様な女が立っていた。

女はこちらへとあル居てくると、俺の腕の中に居るルナを見つめて微笑み掛ける。

しかし、ルナは拒絶し始め、俺の方に顔を埋めてきた。


「あらあら、嫌われてしまったかしら?とても可愛いお顔をしているから、見せてくれませんか?」


それに対してもルナは嫌がり、絶対に振り向こうとせずに、俺の裾を強く掴む。

女は残念そうな顔をした後に、俺の顔を覗き込んでくる。

顔はかなりの美形、それでいて香水を付けている、スズランの花の香りに似ているな。

ピアスなどは一切しておらず、肌はとても白い。


「お父様は、かなりの美形なんですね、そのマスクの下も見てみたい…いいでしょ?私に貴方の素顔を見せてくださらない?」


女の手がこちらへと伸び、俺のマスクに手を掛けた所で。

俺は女の細い腕を掴み、マスクを取られない距離まで引き離す。


「何のつもりだ?」

「貴方の顔が気になったんです、とても美形なのに、何故あの野蛮な女と再婚したのも、気になりまして」

「野蛮な女で悪かったね、ラフェル」


女の後ろには、顔を引きつらせたエルが立っていた。


「あらエビル、ごめんなさい、彼ってば私に惚れてしまったようで」

「へぇそう?相変わらず腐った根性してるね、ジンはアンタみたいな性格の悪い女に惚れるようなタマじゃないよ、せいぜい相手されても直ぐに捨てられるのがオチさ」


二人が睨み合うも、状況についていけない。

何がなんなわけ?これは修羅場だと思うが。

その後も、状況について行けないでいると、二人の睨み合いは終わったようだ。


「今日はこの変にしてあげます、それではまた会いましょう、特にそこの悪女に飽きたらいつでもお相手しますので」

「ハッ!どっちが悪女だか、見た目に騙されないようにね、あの女はかなり危険だよ、関わらない方が身のためさ、ルナにとってもね」

「あう!」


それから、俺達三人は館へと帰り、エル主催のパーティーが行われた。

三人の前に現れた女、ラフェル。

彼女はジンとルナに対して興味を持ち接触を図るが、エルによって阻まれる。

彼女の真の目的は一体。

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