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第三話 深夜の密会

疲れ切って眠ったジン、だがルナには関係なく夜泣きが始まる。


深夜、俺はルナの夜泣きにより目を覚ました。

俺の隣、大声で泣き続けるルナ。

ベッドは酷く揺れ、まるで映画の世界に迷い込んだ気分だ。

ルナは神の子ども、だからスーパーベイビーだ、故にこんな自体が起こってしまう。

泣き続けるルナを抱き上げ、俺はベッドを後にした。

もしかすると腹が減っているのかもしれない、そんな感じに思えたからだ。


「よしよし、今ミルク用意してやるから待ってろ」


俺は食堂へと、ミルクを作る為に向かう。

途中他の奴等の部屋の前を通った気がするが、俺には関係がない。

赤ん坊がいるんだからな、それくらいは理解して貰うとしよう。


「赤ちゃん!泣いてる?」

「バイオレットか、腹賺したらしくてな、今からミルクを温めに行くところだ」


バイオレットが仲間に加わった、何考えてるんだ俺。


「すごく泣いてる、バイオレットのおっぱい飲む?」


やっぱりガキだな、考える事が幼稚だ。

まぁ、そう言って気遣って貰えるのは嬉しい。

だが俺に向かって、その発言はアウトだな。


「ありがとう、だがルナは粉ミルクしか飲めないんだ、それにバイオレットにはまだ無理だ」

「どうして?」


どうしてと聞かれても…どう答え得たら良いのだろうか。

ガキにこんな質問をされるなんて。

俺はしばらく考え込んだ後、エルに聞いてくれと答える事にした。

だってよ、こういう時は大人に任せるもんだ。

俺はまだ、成人してない訳だ、つまりはまだ俺も、子どもと言う訳だ。

無事迷う事無く食堂に着いた俺達、その視界に写り込んだのは、冷蔵庫を漁る何者かだった。

俺はバイオレットにそっとルナを託す。


「良いか、ルナを頼むぞ、絶対に俺が良いと言うまでこっちに来るんじゃない」

「わかった!よしよし」


微笑ましい光景だな。

こうして見ると、妹をあやす姉の様にも見えてくる。

俺はそっと冷蔵庫に近づき、食料を漁る奴の左腕を掴み上げる。

左手にはいくつも繋がったソーセージが握られ、右手にはハムが握られていた。

犯人は俺の方へと、悲鳴を上げながら顔を向けてきた。

声からして女なのは分かる、だがエルから紹介された女ではない。


「だ、誰!?」

「お前こそ誰だ?勝手に食料を漁るなんて良い度胸してるな」


女はソーセージとハムを振り回し、俺の顔を殴ってくる。

ゾンビになってから、痛覚が大分鈍ったな、痛みがあまりない。

それよりも、犯人を逃がさないようにしないと。


「離して!誰か!助けて!変質者がいる!」


変質者?泥棒が何を言いやがる。


「黙れ、今すぐお前をエルの元に連行してやる、ゾンビの怪力なめんな!」

「助けて!犯される!変な事され…エル?エルの事を知ってるの?」


これは予想外な展開だ、まるでエルのことを知っているかのような口ぶり。

女はその後も、こちらが聞いてもいないのにべらべらと話し始めた。

話を聞く限りでは、女はこの館に住んでいるらしく、体質的に昼間は出てこないとのこと。

信じていいのか、それとも咄嗟に着いた嘘なのか。

とりあえず、解決する手段を考えた、そして。


「エルの所に連行しよう」

「なんで!?私はこの館に済んでるベロニカだって言ってるでしょ!」


急に言われても信じられるわけないだろうが。

俺は手を後ろに拘束し、一応はとバイオレットに確認をする。


「バイオレット、こいつ知ってるか?」

「……だれ?」

「なんで忘れてるの!?私よ!ベロニカ!」


バイオレットの表情からして、知らないみたいだな。

早くエルの元に届けないと、ルナが可哀想だ。

するとタイミングが良いことに、寝ぼけたエルがこちらに歩いて来た…見事に胸がはみ出てるな。

俺がエルの名を呼ぶ前に、女の方がエルの事を呼んだ。


「エル助けて!変質者が!」


女の声に対して、エルは一切気づかずにスルーしていった。

マジかよ、かなりデカい声だったぞ。

きあなり深い眠りに入ってるのかもしれないな。


「エル、胸出てるぞ」

「ふぇ!?おお!いけない、いけない…あれ?ジンに…ベロニカ?それからバイオレットにタルナトス……何をしてるんだい?」

「助けてよ!この変質者が私を犯そうと!」

「おかすってなに?……お腹空いた、お腹空いた!赤ちゃんもお腹空いた!」


カオスだ…これはカオスだ。

俺は一度状況を整理するために、エルに女を託した後、ルナのミルクとバイオレットにソーセージとハムを渡す。

女は怯えながらもエルの横に隠れながら椅子に座り、俺を見ながら完全に覚えていた。

これじゃまるで俺が悪者みたいじゃねぇか、ただルナをあやすためにミルクを作りに来ただけなのに。

まだ眠そうなエルを起こし、状況の説明をする。


「なるほど、そういえば紹介をしていなかったね、彼女はベロニカ、魔法使いだ、そして彼はジン、タナトスの旦那で腕に居るのがタナトスと彼の娘、タルナトスだ」

「え?へ?タナトスの旦那?何?娘に…もうわけわかんない!」


ベロニカはそう叫ぶと伏せて泣き始めた、するとエルが背中をさする。

いい加減にこの空気を変えたい。

ルナは無事に泣き止み、バイオレットは肉に夢中、そしてお俺は…ルナにミルクを与える。

なんだよ、この状況。


「なぁ、いい加減泣き止んでくれないか?ずっと泣かれてるとルナが不安になりそうだ、やっと落ち着いてくれたのに」


俺の言葉にエルも頷き、ベロニカをなだめ始める。


「でも、怖かった…いきなりゾンビが掴みかかってくるから」

「掴みかかったというより、腕を上に上げただけだぞ、失礼な女だな」

「まぁここは、お互いに謝罪をして仲直りといこうじゃないか」


エルに従い、俺とベロニカは互いに謝罪をした。

腕の中でミルクに夢中になっていたルナはあくびをし始め、ゲップをした後に眠り始める。


「これでよし、それじゃジンには私の胸を見た事について説明をして貰う追うか」

「勝手に見せてきたんだろ、寝ぼけた状態で徘徊しやがって」


彼女は不満そうな顔をしつつも、納得をしたようだ。

俺は眠って仕舞ったルナを抱えたまま、部屋に帰る事にしたがベロニカに引き留められた。

振り返ると彼女は不思議と、恥ずかしそうにしながらも俺を見つめてくる。


「こ、これからよろしく…私は夜になると部屋から出てくるけど、昼間は部屋に居るから」

「ああ、こちらこそ、俺はまた機会があれば会おう」


部屋に戻りベッドに入る、するとある違和感に気づいた。

なんか足元が暖かい、というよりふわふわしている。

それでいて、しっかりと足を掴んできてきていると言う感覚。

それは徐々にこちらへと登り、そして俺の腹の上を通過する。

一瞬恐怖に駆られるも俺は、唾を飲み込み布団をめくった。

するとそこには、バイオレットが笑顔で現れた。


「赤ちゃんと一緒に寝る」


なるほどな、完全にお姉ちゃん気分ということか。

別に子どもが一緒に寝ようが俺は構わない、隙にすれば良い。

お入れの方まで上ってくるバイオレットを持ち上げ、ルナの隣に寝かせてやると、じっとルナを見つめ始めた。

まるで不思議なものでも見つめるかのように、寝息を立てるルナの頬を軽く突き、興奮しているのが分かる。

子どもはのんきでいいよな、いつもこうして甘やかされるから、大人になるにつれて面倒事が増えて行く。

小さい頃は何不自由しないで過ごしてきた、欲しい物は何でも買って貰えた。

それも年齢が重なることに無くなっていき、小遣いで生活しなきゃいけない、面倒臭い。


「眠ったのか?」


ルナとバイオレットを見ると、二人仲良く眠って居た。

俺はそれを眺めながら、眠った。



朝日が部屋の中を照らす、それに俺達三人は目を覚ました。

ルナの隣で寝ていたはずのバイオレットは、何故カ俺の上で眠っている。

いつの間に移動為たんだ。


「起きろバイオレット、なんで俺の上で寝てんだ?」

「ふにゃ?ここ何処?」


ここ何処って、お前が勝手に人の上にノッカ的嘆だろうが。


「ジンだ!赤ちゃんも起きた!バイオレットも起きた!」


朝から元気がいいな、俺は昨晩の件で体がだるい。

重たい体を起こし、辺りを見わたすルナをそっと抱き上げる。

……オムツ変えないといけないな。


「くさい!赤ちゃんくさい!」

「仕方ないだろ、赤ちゃんだから一人でトイレが出来ないんだ、バイオレットも小さい頃は双だったんだぞ」

「あうあー」


オムツを替えている間、何故かバイオレットは俺のズボンを掴んでくる。

どうやら懐かれてしまったようだ。


「おなかすいた…ご飯食べたい!」


お前夜中にたらふく食べただろうに、どんな胃袋してるんだよ。

見た目は本当に小さい子どもなのに、何故そこまで食べる事が出来るんだ。


「すぐに終わるから待ってろ、なんだったら先に行っててもいいし」


俺がそう言うも、バイオレットは首を縦に振らずに待つと言う。

何がこいつをここまで執着させているのやら、俺には理解が出来そうにないな。

オムツも替え終わり、スッキリとした顔をするルナ、そして臭いがなくなると抱っこをしたいとバイオレットが言い始めた。

まだお願いとかなら分かるが、ズボンを掴んで飛び跳ねるのは止めてくれ、脱げてくる。

結局ズボンを脱がされた後、バイオレットは何故が爆笑し始め、俺のズボンが脱げるところを何度も真似していた。


「ズボンがズル―!」


バイオレットは新しい遊びを覚えた、問題は自分のスカートをめくり上げる事。

直ぐにやめさせたが、散歩歩くと直ぐに忘れて同じ事をしやがる、こいつは鳥頭か?

何度も止めている間にも時間が過ぎていたのだろう、エルが俺の所へと向かってきて、俺がバイオレットを持ち上げたところに出くわした。


「いーやー!ズボンがズル―するのー!」

「お楽しみの所を悪いんだが、マリーナを食堂へ運ぶのを手伝ってくれないかい?今まで私一人で引きずっていたんだけど彼女、お尻が限界だと言うんでね」


あの人魚の事か、今まで一人で運んでいたと言う事は、あの女は一人で移動が出来ないと言う事なのか。

今までどうやって生活をしていたんだよ。

エルに連れられ、マリーナの部屋へと着くと妙に生臭い。

理由は恐らくだが、彼女自身が魚ということが原因だろう。

俺は思わず鼻をつまんだが、エルは平然としてむしろ深呼吸すらしている。


「これくらいの臭い、馴れないとこの先苦労するよ」


既に苦労してるんだよ。


「ジンは前を、背負う形の方が楽だよ、私はお尻の方を持ち上げるから」

「こいつ…何キロあるんだよ…重すぎだろ」


マリーナを背負い上げると、彼女の巨体についた胸が、俺の視界を塞いできた。

凄く柔らかいが…こいつが重たい理由の一つはこのデカい胸だな…俺の二倍はある巨体だから胸も普通の女の何倍もある。

後ろの方から前方への指示が出され、俺はそれに従いながら進んで行くわけだが。

この女、いまだに眠ってやがる。

どれだけ揺れても起きる気配がない、いっそのこと揉み千切ってやろうかこの胸。


「いやぁ楽だよ、流石はアンデッド、なかなかの怪力だ」


怪力は怪力だがよ、肉体にも限界ってのがあるんだよ。

今ここで、エルが手を離せば俺は確実に下敷きになるだろう。


「全然起きないが…なんでだよ?」

「彼女はいつもそうだよ、肉体が大きい分睡眠に必要な時間も多い、だから私達がサポートしないと何日でも寝てる時さえある」


何日もって…頭痛くなりそうだな。

俺とエルは、マリーナを運びながら食堂に到着。

だがやけに騒がしい、それもルナの泣く声。


「もう、なんで泣いちゃうの?私は怖くないってば」

「あの男じゃないと駄目なんだよ、可愛いけど、ものすごく嫌がってるし、タナトス姉さんに怒られるよ」

「赤ちゃん泣いてる!苛めたら駄目!」


食堂が騒がしい理由、どうやらメイがルナを無理矢理抱き上げたようだ。

バイオレットはそれに対して守ろうとしたのか、彼女達の足に噛みつき喧嘩になっている。

危なっかしいな…いや!ルナを振り回すんじゃねぇよ!

気がつけば俺はルナを腕に抱きながら、三人の頭に拳骨を入れていた。


「お前等…赤ん坊を振り回すんじゃねぇ!怪我したらどうするんだ!?」


三人は涙目で俺を見てきたが、しっっかりと謝罪をしてきたので許した。

俺は今、確かに実感が湧いている。

やはり、俺はルナの父であるのだと。

普通なら怒るくらいだが、一瞬、俺には殺意が湧いた。

それでも直ぐに冷静になり、拳骨だけで済ませた俺を褒めてやりたい。


「タルナトスは無事かい!?」

「泣いてるが、怪我はなさそうだ…良かった…もう大丈夫だからな」


顔を真っ赤にして泣き続けるルナをを抱き締めながら、椅子に腰掛けた。

頭をそっと撫でながら、俺まで泣いてしまった。

怪我がなくて本当に良かった、その感情からくる安心感から、涙が溢れてきたのだ。


「ごめんなさい…赤ちゃんごめんなさい」


バイオレットが俺の隣に座りながら、涙目で謝罪をしてくる。

もう終わった事だ、だから怒ってはいない。

それでも、涙が止らない、俺がしっかりしていれば、ル何怖い思いをさせずに済んだのではないか。

頭の中には、その感情しか浮かんでこない。

本当は…バイオレットにも優しい言葉を掛けてやりたい、だが出来なかった。


「おいでバイオレット、しばらく二人だけにしてあげよう、そこのお馬鹿双子、話があるからついてくるように、マリーナは…まだまだ起きる気配がなさそうだから放置でいっか……ジン、三人が本当に申し訳無い事をした、しっかりと説教をした後でもう一度謝罪をさせる、何かあれば直ぐに言ってくれ、病院へ案内するから」


エルはそう告げると、バイオレットを抱き上げ食堂を後する。

それを俺は、静かに見守ることしか出来ない。

ルナにとって、どれほど怖かった事だろうか。

まだ赤ん坊だからこそ、俺がしっかりと守らなければいけないのに。


「なんか鼻が超痛いんですけど…なんで私食堂で寝てるわけ?意味分かんない…あ!お風呂覗いた変態って…何で泣いてるの?どこか痛いわけ?それに赤ちゃんも泣いてるし…どうなってるの?」

「……何でも無い…気にしないでくれ」


目を覚ましたマリーナが、こちらへと近づきルナをそっと覗き込んできた。

そして、ルナの額に手を添えると何かを唱え始める。

すると彼女の指先が青く光り始め、泣いていたルナは徐々に泣き止み、眠たそうな顔に変わりはじめたのだ。


「あう…あ、うあ……」


腕の中で小さい寝息を立てながら眠る姿、それを見て俺は一安心する。


「どこも怪我をしていないみたいだけど、環境の変化によるストレス、それから不安な時に貴方がすぐ側にいなかった事への恐怖と再び会えた事への安心感が強く感じ取れた、今はこうして寝てるけど、起きたらしっかりとケアをして上げること」

「何をしたんだ?今指先が光って、それで突然ルナが眠り始めて」


彼女は俺に笑顔を向けながら何をしたのかを話してくれた。

今行ったのは、彼女が使える魔法らしい。

そして彼女は、自分について語り始めた。


「人魚には、癒しの力を持つ者が希に産まれるの…だけど、その力を持つ者はある年齢に到達すると歳をとる事は無くなり、永遠の命を持ち続けると言われていてね、言わば私はその人魚なわけ、人間達にはどうも肉を食べれば不死になれて、血を飲めば不老になる、涙を飲むと何でも願いが叶うって話だけど…それが本当なら私達人魚皆不死身だよね、それに願いだって叶え放題……ごめんね、いきなりこんな話して」


どこかで似た様な話を聞いた事があるな、どこだっけ。

昔なんだけどな…そういや俺の爺さんが話してたっけな、そんな話を。


「その話……ガキの頃聞いた事がある、けど迷信だと思ってたが、本人が言うんだからそうなんだろうな…ありがとう、ルナを落ち着かせてくれて…それから悪かった、あの時…」

「え?…ううん、いいの…後からエルに事情を聞いて言い過ぎたと思ってたから、私の方こそごめんね」


それからしばらく沈黙が続いたが…ルナを抱っこして貰い、俺はしたかなく調理を始めた。

一人暮らしはしてたが、ここまで料理のスキルを持ってたっけか?



昼過ぎ辺り、タナトスが突然館に帰還してきた。

昨日は現れなかったが、仕事が忙しかったのだろう。

俺に会った瞬間に抱きついてキスをしてきた蔵だから、彼女自身元気なのはハッキリと分かる。

ルナに対しても、再会した瞬間に抱き締めて顔中にキスをするしまつだ。


「もう聞いてよ、上司がさぁ、私をしつこく食事に誘ってきて、本当にいや、ワキガが酷くて誰も近づこうとしないのに自分は好かれてると勘違いしてるんだよ、信じられる!?しかも女性は皆自分に恥ずかしくてわざと裂けてると思い込んでるしで」


どうもタナトスは、俺の居た世界で仕事をしている間に入社した男から言い寄られているらしい。

それも何度もアプローチを受けるも断る、なのに相手が一向に引かずに、ポジティブに考える勘違い男だと。


「もう職場の空気が重苦しくて、最悪なの、慰めてよジン!愛する妻を!大きい愛で!」

「分かった分かった、慰めてやるからこっちこい」


そう言うとタナトスはこちらに寄り掛かり、体を預けてきた。

彼女の肩に腕を回し、俺は頭をこちらへと寄せる。

不思議とこの行為は落ち着き、安心する気持ちにさせられる。

この光景をエル達が茶化してくるのが、気になるわけだが。


「アツアツだねぇ、私もそんな相手が欲しいよ」

「…それについて…大切な話が皆にあるの…とても大切なお願いでもある」

「何か…問題でも発生したのか?」


タナトスは静かに首を縦にふり、俺の服を強く掴み始めた。

そっとルナに手を伸ばし、優しく頬を撫でると同時に、静かに語り始める。


「お願いなんだけどエル、私がいない間、タルナトスの母親、つまり私の代わりをして欲しいの…この子はジンと私の子だけど、今この世界では知ってると思うけど神と人間が恋愛をする事が禁じられた、その上でタルナトスは…人間と神の間に産まれた子ども、だから」

「タナトスはそれで良いのかい?この子は君の娘だ、なのに友人である私に託すというのは」


エルの顔は、怒っていた。

彼女に対して、やり場の無い怒りが見えている。

正直、俺も何を言っているのか分からなかった。

だがこれが、ルナにとっては最善な策であることが分かる。


「本当は…ずっと一緒に暮らしたい、でも今、大変な事が発生してて…神の間による制度が更に厳しくなるらしくて…もしかしたら、バレるかもしれない、だから」

「だから何だよ、お前はルナの母親であることには変わりない、もしこの件をエルが飲んだとしてもお前が本当の母親だ、それを自覚してるなら俺は何も言わないが、もし二度と会いに来ないとか言うなら、今ここで俺はお前を殴る、娘の前だろうが関係無しにだ」

「あう、あうあー!」


俺は本気だった。

本当にルナの事を考えるなら、絶対に会いに来ると言うはず。

もし言わないなら、俺は本気で殴る。


「会いに来るに決まってるじゃん…この子は私が愛した人の子ども、私の一部なんだよ…私がお腹を痛めてまで産んだ子なの…それでも仕方が無いの!エルに頼まないと怪しまれてジンも、タルナトスも連れて行かれちゃう…そんなの絶対にいや!二人を失うなんて耐えられない!」


神の間で決められた制度、それにより俺とタナトスは、離れて暮らす事になった。


「私は…本当は神なんて辞めたい!ジンとタルナトスと暮らせるならそれくらい構わない!でも神の世界での掟はとても厳しいの…だから、だから…」

「悪かった……俺が悪かった、だからそんなに泣かないでくれ、一緒に何か別の方法が無いか考えよう」

「私もそれが良いと思う、さっきのは最終手段として…別の手段があるはずだよ」


俺達は、三人で他に何か良い案が無いかと、考えた。

でも、結論は変る事は無かった。

神を騙す事なんて出来ない、だからタナトスはこの案を提案したのだ。

ルナは神の力を持つ、もしそれが知れ渡れば、狙う者すら現れるだろう。

タナトスは神々の目を欺きながら、ここへ出来るだけ来れるようにする。

その間、エルは俺と偽りの夫婦を演じる事となった。

正直言うと、この計画はエルにとっては大きい負担になるかもしれない。

彼女自身が好きになったものと恋愛が出来ない、つまりはそういう意味を宿しているからだ。

そんなリスクがあるのにも関わらず彼女は、こう答えた。


「…仕方ない、タナトスには沢山の借りがあるから、それに彼となら偽りでも悪く無い気がするよ、ただメイが不満をこぼしそうだけどね」

「ごめんね、迷惑ばかりかけて、ジンも浮気とかしないでね、ルナをしっかりと守ってあげてね、二人は私の家族なんだから」

「分かってるさ、ルナもお前を母親としてしっかりと認識してるから問題はないはずだ、エルに対しても懐いているからな」


タナトスは涙を流しながら、俺とルナを抱き締めてきた。


「…愛してるよ、ジン…タルナトスも、愛してる、二人とも、大好きだから…何があっても私の事を忘れないでね、絶対に」


なんだよ…まるで最後の別れみたいな言い方をしやがって。

これじゃ、二度と会えない見たいな雰囲気になるじゃねぇか。


「私、そろそろ行かないと行けないから、それじゃあね」


彼女はそう言うと、窓を開き飛び立って行った。

俺の隣にはエルが立ち、ルナはタナトスに手を伸ばす。

静かにルナの頭を撫でてやり、俺達は彼女を見送った。

三人で話し会い決まった、ジンとエルの偽り夫婦。

タナトスは悲しい顔を浮かべるが、それが家族を守る為の最善の策だと言い、飛び立つのだった。

この先、三人の関係はどうなっていくのか。

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