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第十二話 最愛の家族達

目を覚ますジン。

朝から彼には修羅場が待ち受けていた。

 朝、俺とタナトスは同じベッドで眠って居た。

 ルナはエルの元で眠って居たはずだったのだが。


「大変だ!タルナトスが見つからない!」


 彼女の言う事を最初は理解出来なかったが、直ぐに状況を把握した。


「なんで!?なんでタルナトスが居ないわけ!?」

「分からないんだ!…今全員で探しているが…本当にすまない!私がしっかり抱いて入れば」

「とりあえず落ち着け、ルナはまだまともに歩く事すら出来ない、だからそこまで遠くに行けるとは思えない、考えられるとしてたらこの館の何処かにいるはずだ」


 ルナはまだ、ハイハイ程度しか出来ない。

 となってくるとベッドの下とかに居る可能性もある。

 一番考えたくないのは、誘拐されたという事だ。


「私はあの子を探しに行ってくるから、ジンはエルについてあげてて、本当にパパににて困らせるのが好きなんだから」

「それはつまり、俺がお前に迷惑掛けるのが楽しすぎてやめられない人間だと言いたいのか?」


 俺の問いに彼女は満面の笑みを浮かべ頷く。

 隠す気は一切ないということか、まぁ彼女らしいか。


「だって、最初ちゃんと私が初めてだって話したのにジンってば凄く激しいのしてくるんだから、もう膝ガクガクの全身汗だく、色んな事が一気に来すぎて思わず泣いたんだがら」


 やっべ、その部分まだ記憶が蘇ってねぇ。

 その後も少し過去について語ったと、彼女はルナを探しに行った。

 エルの方も多少は落ち着いたようだが、まだ油断は出来そうにないな。

 俺はエルの背中をさすりながら昨晩はどういう状況だったのかを聞くことにする。

 彼女の話によると普通に眠って居ただけのことなのだが。


「本当に普通だったんだ…ただ、タルナトスの寝付きが悪くて…私が裸で寝たこと以外は…普通だったんだ…」

「ならなおさら大人しくなるはずだ…それがどうして、俺ですら羨ましい状況だぞ、何に不満があったんだ?」


 エルの顔が赤くなるのは無視して、俺は考えられる事を上げていく。

 ベッドから転げ落ちて、そのまま下に潜った。

 彼女がトイレに行った隙に、へばりついて何処かに置き去りにされた。

 自分の足で歩いて何処かへと遊びにいったか。

 どれも違うか…最後の方はなくもないだろうが、どうなんだろうな。

 ルナは神の子ども、普通の子どもより成長に差が出てもおかしくはないだろう。


「わ、私が裸で寝ていたのはあくまでも」


 そんな事は分ってる。

 問題はルナの行方のほうだ。


「確かお前の部屋から階段までは結構距離があったよな?となると、ルナの普段の行動力からして体力は直ぐに尽きるはず」


 普段は俺の腕に抱かれて生活をしてる。

 だから殆どハイハイで移動すれば、ここから隣の部屋へ移動すれば直ぐに息切れを起こす。

 だから可能性としては限りなく低いはずだ。

 まさかタナトスが使えるテレポートを覚えたか?

 もしそうだとすると非常に厄介な事になるぞ。

 場所を特定するのはおろか直ぐに逃げられる可能性だってありえる。


「俺どころかアイツみたいにお転婆に育ちやがって…元気がないより断然良いが、参ったな。

「私はどうすればいいんだ……これでは…もう…」


 全く…こっちはこっちで大変な事になってきた。


「泣いている暇があるなら探すのを手伝え、この館は誰のだ?お前のだろ?ならお前が一番この館に詳しい、お前ならルナが潜めそうな場所を探しだせるはずだ」


 俺は彼女に掛けていた。

 彼女なら見つけ出せるだろうと。


「そうだ…泣いている暇なんてない…私はタナトスに母の代りを頼まれたんだ…待っていろ!今迎えに行くぞ!」


 突然大声を上げたエルは、部屋を飛び出して行った。

 少しは助けになったか…それか空元気のどっちか。

 どちらにしろ泣き止んで貰えてよかった。

 さてと、俺もあのじゃじゃ馬を探しに行くとしよう。

 にしても、本当に奇妙だな。

 ルナの大きさからして、ベッドから降りればどこかぶつけて泣いていてもおかしくはないはずなのに。

 やはり歩いていると考えた方が正しいのだろうか?

 歩きながら、疲れたら座り込んで休憩を繰り返す。

 これが一番可能性が高いかもしれないな。


「ルナが歩いたとしたら、それはそれでアイツ自身の成長であり、俺は喜ぶ必要があるな」


 考えてみると、あの女も修羅場が来るとか行ってか。

 確かに修羅場だ、娘が居なくなったのだから。

 それなのに俺はどうして冷静で居られるんだろうな。

 どこかで安心をしているのだろうか。

 まるであの子が無事で居る事を分かって居るかのような安心感が凄い。


「ジーン!ジンジンジン!ジーン!」

「うるせぇ、お前はミンミンゼミか?とりあえず落ち着けメイ」

「そうだよメイ…ハァ…もう少しゆっくり、つかれた…」


 セミの如く俺の名前を呼ぶメイと息切れを起こすレイ。

 思わず変なツッコミを入れてしまったが、とりあえず落ち着いたから良いか。


「とりあえず、何があったのか言ってみろ」

「バイオレットが居なくなったの!どこを探しても見つからないの!ジン探すの手伝って!」

「部屋とかに来てないですか?」


 今度はバイオレットもか。

 ……繋がってる可能性が捨てきれないな。

 大抵はあの二人は一緒に居る事が多いのもある、だとしたら辻褄が合う。

 眠れないバイオレットが、ルナを連れ出した可能性。

 あり得なくは無い上に、可能性が非常に高い。

 何故俺はバイオレットを思い出せなかったんだ?

 ただ単にまだ寝ぼけていたか・


「部屋に来てない、それどころかルナも行方不明だ…多分二人でいるんだろうな」

「なるほど、じゃあ僕達は二人が行きそうな場所をあたってみます」

「それじゃーね!行こうレイ!」


 二人、といってもメイが先導して何処かへと走って行った。

 また一人か…見つけ出したらあの悪ガキ達、可愛がってやるとするか。

 根本的な問題は解決していないが、俺が思いつく辺りでは…そうだな…。

 ルナは暗いところを好むはず、バイオレットも同様に暗いところは好きだ。

 絞り込むとすれば、暗いところは沢山ある。

 ここに住む者全員が暗いところを好むからだ。

 エルも部屋を暗くして、ランプの明かりを照らしながら本を読んだりする。

 だがエルの部屋から消えたとすれば……エルの部屋に近い部屋はどこだ?

 マリーナの部屋は一番下、レイとメイは二階。

 バイオレットの部屋は二階で二人の隣。

 俺とルナの部屋はエルと同じ三階。

 だがまた見逃してた、ベロニカの部屋を。


「アイツ起きてるかな、寝てたら寝てたで仕方ないか」


 部屋はこのまま真っ直ぐ行けば着く、ゆっくりと行くとするか。



「二人?私のベッドで熟睡してるけど?」


 思った通りだった。

 二人はやはりこの部屋にいたが、どうしてベロニカの部屋に居たんだ?

 ベロニカが連れ込んだというのも考えにくい。

 恐らくはバイオレットが連れてきたんだろう。


「悪いな、二人が迷惑掛けただろう?」

「全然気にしないけど?てかタルちゃん歩ける様になったんだね、夜中にバイオレットと手繋いで来たからびっくりしたんだから」


 ………何!?

 今ベロニカは確かに歩いて来たと行ったよな?


「もしかして知らないの?昨日普通に歩いて私のベッドに二人して潜り込んだんだよ?」


 コイツはすげぇ…本当に驚きだ。

 まさか…俺の知らぬ間にそこまで成長してたんだな。

 俺は思わず笑い声を上げていた。

 ルナの奴が、俺とタナトスの見てないところで、バイオレットやベロニカに成長した所を見せているのを想像しただけで笑えてくる。

 多分…威張った顔をしていたんだろうな…タナトスに似て。


「どうしたの?何か変な薬でも飲んだ?」

「違う…成長が嬉しくてさ…俺達が見てない間に歩けるようになってる…もう直ぐ俺の腕からも離れていくのかと思うと嬉しいやら悲しいやら」


 心境を悟ったらしいベロニカは、何故か後ろから俺を抱き締めてきた。


「泣きたいなら泣いて良いんだよ…誰にも言わないから」

「………お前調子乗ってるだろ?」


 どうやら図星だったようだ。

 少し震えながらも、手を緩める事はないベロニカ。

 だが多少だが息が荒く、汗も書き始めてる。

 今まででこういうタイプにも遭遇してきたが、俺に対して使うのは間違いだったな。


「ななな何を言い出すの?わわわ私は別に調子になんて」


 酷く動揺してるな。

 まぁ面白いから良いとするか。

 しかしだ…この状況をタナトスに見られたら面倒だろうな。

 絶対に勘違いされる上に、ボコボコにされるかもしれない。

 それだけは勘弁して欲しいものだ。

 別に俺は何か悪い事をしたわじゃないが、罪悪感も結構湧いてくるものだ。


「そろそろ離してくれないか?皆に二人が見つかった事を話してくる」

「待って…ジンって死ぬ前は色んな人と関係を持ってたんでしょ?なんでこっちの世界ではそうしないの?ジンなら流石に人間相手には難しいかもしれないけど…闇の住人とかなら」


 確かに、そうかもしれない。

 俺は妙な奴等に好かれるみたいだ。

 しっかりと考えた事はない。

 だが、思い返すと俺は碌な人生を送ったとは言えない。


「死んでから分る事もあるってことさ…俺は死なないとこうしてタナトスやお前等に会う事もなかった…言いたい事は分るな?」


 彼女からの返事はなかったが、俺は部屋を後にした。

 不思議だ…昔なら無言で行動に移しただろう。

 なのに今では違う。

 人も変われると言う事か、いや、俺が死んだからこそ変われたんだろう。

 タナトスに出会う事が出来たからこそ、変われた。

 ルナが産まれたからこそ、変われた。

 色んな理由が重なったって事だ。


「思い返せば思い返す程…俺は相当なクズ野郎だ…これでよく父親が務められるものだ」

「それはジンがタルナトスの為に変ろうと決意したからだよ」


 声のする方を見ると、タナトスが涙を溜めながらこちらを見てきていた。


「どうしたんだよ?涙なんか溜めてよ」


 俺は彼女の元へより、そっと涙を拭き取った。

 タナトスがこうして泣いてる姿は久々に見る。

 思い出すのは、この世界に来る前日。

 彼女の出張が終わり、こっちの世界に帰還しろと命令が来たことで、来た。

 同時に神と人間の間に恋愛は禁止と言う法律まで出来た、最悪の重なり合い。

 あの時は…俺も泣いていたな。


「ジンは…ジンは自分で変われた…確かに私私お手助けはした…でも一番努力したのはジンだった…ジンがタルナトスが産まれた日に泣いていたのも覚えてる…それにタルナトスが産まれた時に、こういったんだよ……俺は自分の家族を守りたい、そしてこの子の為に自分を変えるって」


 彼女はそういうと再び泣き始めた。

 なんでここで泣き始めるんだろうな。

 俺にはイマイチ泣き所が分らないが、俺はしっかりと果たしたのだろうか?

 そこは俺自身が決めるところじゃないな。

 変ったのか、知るのはタナトスだけだろう。


「結果的に俺は変われたか?」


 静かに涙を流す彼女は笑顔を作りながら、頷いてくれた。

 この笑顔、本当にいい顔をして笑ってくれる。

 彼女は死神だが、俺にとっては死神より女神としか言いようがない存在だ。

 たまに腹立つ事があるけどな。

 だが俺は彼女と出会えて本当に良かったと思って居る。


「そっか…安心した…それじゃ家の暴君を迎えに行くとするか、ベロニカの部屋でバイオレットと一緒に寝てるぜ…本当の姉妹みたいにさ」

「よかった…無事で本当によかった」


 俺はエル達にも報告する事を伝えその場を後にした。

 ……ルナが歩けるようになった事を話し忘れたが、それは自分の目で確認してもらうか。

 多分…薬で成長した時に歩き方のコツでも掴んだかな。

 なんせ俺の娘だ、頭が良くて当たり前だ。

 そして、飲み込みが早いのも。

 まさに自慢の娘だ。



「本当に歩いてやがる…赤飯でも炊くか」

「まんまー!」


 二人が無事見つかり、全員が俺達の部屋に集まっていた。

 理由、ルナが歩ける様になった事をお披露目してやるためだ。

 ルナの歩く姿はまさに暴君と言うに相応しい風貌…よちよちと歩いているのに、その風貌といったらもの凄い。

 だが、何故に威張りながら歩くのかが謎だ。

 可愛いのだが…名前を呼ばれるとタナトスが相手を煽る時にする顔をする。

 こんな所まで性格が似てきたのか


「タナトスにそっくりじゃないか、特にあの目元とかも」

「私はあんな風な顔しないってば!そうジン!ジンの真似をしてるの!私にはそんな顔芸出来ないから!そうでしょジン!?」

「認めろよ、ルナはお前に瓜二つなんだからお前が出来て当たり前だろ、まず俺は頬肉がないからここまで口元がつり上がらない、つまりお前がルナに見せてたんだろ」


 実際は。ルナをあやす時にこの顔を見せてるのを俺は見た。

 それを見て育ったのだから、真似するようになったんだろう。

 ようは幾ら否定しても、動かぬ証拠どころか自分の分身が証拠と言う事だ。


「逃げ場無しだ、ママに見せてやれ」


 俺の言葉と同時にルナが煽り顔を始める。

 だがここで思わぬ事が起こった。

 それは、バイオレットがルナ動揺に煽り顔を始めた事だ。

 ルナとはまた違った、若干腹立つ煽り顔。

 しかしこれがまた面白い上に可愛い。

 その場に居た者が全員笑い始めた。

 もしかするとバイオレットには、人を笑わせる才能があるのかもしれない。

 以前もくしゃみで笑わせてきた事がある。

 本人自体は自覚をしていないのだろうが、確実にあるだろう。


「なんだよ、お前もそんな顔出来るのか」

「れんしゅうした!みんなわらった!」


 練習してたのか、全然知らなかった。

 結構側に居たはずなのに。


「そうだバイオレット、何故タルナトスは私が寝ている部屋からしなくなったのか知らないか?」

「……エル、おっぱいでつぶすから逃げた」

「何それ!?エル!私達の娘に何してたの!?」

「まぁ落ち着け、エルにも色々と訳があるんだから聞いてやれ」


 顔を赤く染め、タナトスに事情を話すエル。

 なんだか青春してる所を見ているように思える。

 まぁ、裸で寝てればそうなるか…つか人の娘を潰したのか!?


「今想像したでしょ!?」

「想像したぞ、考えたらルナに苦しい思いをさせたなと思ってよ」


 まさか潰されてるなんて誰も思わないだろう。

 ましてや本人すら気づいて居ない自体、相手は赤ん坊だから余計に危ない。

 次からはメイとレイに預け…駄目だ。

 ルナの奴は何故か二人に懐かないんだった。

 なんで懐かないんだ?ベロニカやマリーナには懐くのに。


「ちょっとエル!どうして気絶してるの!?」


 ……ああ、完全に俺の所為だな。

 さっき俺の発言で気絶したか。

 言葉ってのは本当に難しいものだな。

 ルナとバイオレットをタナトスに託し、俺はエルを背負い部屋に運ぶ事になった。

 ルナ以上に世話が焼けるかもしれないぜ。

 本当に…お前にも感謝をしないとな。

 エルが居なければ、俺達は住む場所なんてなかったカもしれない。

 それを考えると、今度何か礼をしないといけないな。

 彼女の部屋に到着しベッドに寝かし付けると、俺は強い力に捕まった。

 というよりは、気絶したまま眠ったエルの寝相に巻き込まれたと言う事だ。

 …今、メキッて音が鳴ったが…ヤバくねぇか?

 俺の背骨の方からもの凄い音が鳴り始めてるんだが、もしかしてこれは…折れるパターンじゃねぇのか?

 彼女は半分がエルフ、半分がデビル。

 だから名前はエルビルと言う、そこから取ってエルと言う名前になったと言っていたが。

 見た目こそはエルフだが、本来の姿は悪魔のような角があり、尻尾があり翼もあるらしい。

 普段は隠してるとのことだが、力自体は抑えられないらしく、普通のエルフではあり得ない力を発揮してくる。


「……エル…目を覚ませ……折れる背骨折れる」


 駄目だ…全然聞こえてない…今肋が三本くらい持って行かれたな。

 皮膚までは貫通してないが、かなり複雑に折れてやがる…。

 かなり酷い状態だ。

 またしばらくは行動不能になりそうだな。


「ねぇジン!聞いて!今タルナトスが私の事をママって…何してるの?」

「たすけてくれ…肋折られた…多分背骨もいってるかもしれない」


 ルナを床に下ろし、急いで俺達の元へと駆け寄ってきた。

 俺からエルを離す為に指を一本ずつ剥がしているようだが、剥がす度に跳ね返って刺さるのはどうにかならないだろうか。

 彼女の指がまるでバネで恥じ返されたように俺の背中に刺さる。

 血とかを吸うわけではないが…ベッドがどんどん血まみれになって行く。


「力強すぎ!全然剥がせない!」

「俺の方も…剥がそうとしてるが…力が入らない…」


 こいつ…何がしたいんだよ。

 人を抱き枕代わりにして。

 よくみるとエルの目元に涙が見える。

 まさか泣いてるのか?一体どんな夢を見てるんだよ。

 しばらくの間、引きはがすのに時間が経つも剥がせず、自然に剥がれるのを待つことにした。

 これ以上やると俺への被害がかなり酷い事になりそうだからだ。

 背中は完全に風穴が開いた、まるで弾丸の痕じゃねぇか。


「…ん?ここはどこだ?私は…ジン!?誰にやられたんだ!?ラフェルの仕業か!?」

「……エル」


 目を覚ましたエルは状況に混乱していたが、俺が彼女の名前を至った途端に取り乱し始める。

 そりゃそうだ、ベッドが血まみれの上で血反吐を吐いた男がいるんだからな。


「わっ私がやったのか?…本当だ…手が血まみれに…」


 自分の置かれてる状況に戸惑っているエル。

 俺は軽く背中の状態を確認した後、彼女の頭に血のついていない手を置いた。

 ゆっくりと手を左右に動すも、俺は何も言わない。

 別に今何か声を掛ける意味はないと思ったからだ。

 声を掛けるよりお、そっとしておいた方が良いと俺は判断したのだ。

 俺自身が生きていたのなら死んでいただろう。

 だが今は死人だ、死なんて事はない。

 それに、今回は俺のせいでこうなった。


「なんて事をしてしまったんだ……私は取り返しの付かない事をしてしまったんだ、タナトスに会わせる顔がない…」

「てゆうかもう会わせてるんだけどね、ず~っと目が覚めるのを待ってたんだけど」


 笑いながらこちらに寄ってくるタナトスを見つめた後、彼女は静かに俺を見上げてくる。


「怒らないのか…?…君をこんな姿にした私を、夫をこんな酷い目に会わせた私を」


 この状況にまで発展させたのは俺が原因だ。

 それにタナトス自身もどことなく嬉しそうにしてやがる、さては俺の背中に傷がついて喜んでるな。

 これはあくまで憶測だが、俺の発言に対しての罰とか考えてるかもしれない。


「私の夫は不死身だから問題ないからね、ジンも抱き締められてまんざらでも無さそうだったから」

「それ以上に痛みで何も考えられてねぇよ、悪い気はしなかったが」


 タナトスに後ろから頭を殴られた。

 流石に花瓶で殴るのはないだろう、怪我人相手だぞ。

 まずその話題を振ってきた本人がキレるなっての。


「私というものがありながらぁぁぁぁ!って待って電話来た…少し席外すから」


 浮き沈みが相変わらず激しいな。

 彼女が部屋を後にすると、多少だが気まずい空気が流れ始めた。

 被害者と加害者が二人っきり、ルナが居れば多少は和めるのだが、マリーナの所に預けられている。

 タナトスが戻ってくるまで、何を話したら良いか思いつかないな。

 この重い空気に耐えられなかったのか、エルが先に喋り始めた。

 最初に出てきた一声は、俺への謝罪。

 次に出て来たのは、何故に俺が自分の力で逃げ出さなかったという問い。


「君の力があれば…無理矢理にでも引きはがせたはずだ…それをどうして」

「………別に引きはがさなくても良いと思ったからさ、それに無理に引きはがせばお前の腕が怪我をする可能性だってあるし、何より泣いているのに無理矢理引きはがしたら心が痛みそうだった」


 エルは俺を抱き締めながら泣いていた、だから引きはがせなかった。

 本当は引きはがすなんて簡単だ。

 だが下手をすれば彼女に怪我をさせる、それだけは避けたいと思ったから力を使う事をやめた。

 どうせ背中の傷なんて、ベロニカに頼めば再生させる事は簡単だ。

 だからこそ、彼女に傷を負わせずに待つことにした理由。


「気遣ってくれたのか…申し訳ない…申し訳…ない」


 彼女は俺にしがみ付き泣き始めた。

 こんなに弱い姿を見せられるとは思っても居なかったが。

 …家族を傷つけた事が、彼女には耐えられないのは理解出来る。

 仕方のない事だろう。


「……気が済むまでこうしていてやる、タナトスもそれくらいなら許してくれるはずさ…それに俺の背中を気に病む必要なんてないからな、どうせ薬を塗れば再生するんだからよ」


 その後、彼女は長い事泣き続けたが、気づけば再び眠ってしまっていた。



 食堂に集まり、夕飯を食べる俺達。

 その中でタナトスが重大な発表があると言い始めた。

 もしかして再びあっちの世界に出張へ出る事になったのではないかとヒヤヒヤしていたが、違うらしい。


「こほん、このたび、神々の間で取り決められた法律で、神と人間の恋愛は禁ずという事がありましたが…法律が新しく変り、あれは無効となりました!」


 全員が驚きの表情を隠せなかった。

 神々の法律により、俺達は離れて暮らす事となり、現在はここに住んでいる。

 それが、無効となるだと?

 つまりは、再び彼女との生活が始まると言う事だ。


「それは本当なのか?冗談で言ってるわけじゃ」


 俺の問いに答える前に、彼女はテーブルを飛び越えて抱きついてきた。

 椅子ごと後ろにひっくり返る俺達。

 あまりの嬉しさに俺は笑っていた。

 ついにこのときが来たと、再び三人で暮らす事が出来る日が来たのだと。

 ただ、エル達は悲しそうな目でこちらを見てくる。


「家族三人で仲良く暮らすのか…楽しい時間だったよ」

「本当…ジン達が居なくなると寂しくなる…」

「やっと…信用出来てきたのに…なんでこのた」

「何言ってるの?ここで暮らすに決まってるでしょ?てかそうしないと私困るから」


 彼女が困る理由?

 俺達は首をかしげていたが、俺はあることに気づいた。

 タナトスが妙に自分の腹をさすっている…ということは。


「お前まさか…その行動って…」

「気づいた?ズバリそういうこと、二人目が出来ましたー!と言うことで産まれるまでの間よろしくおねがいしまーす!」


 俺には見えてないが、全員が料理を吹き出したようだ。

 今日の料理はスープ系、だから机は悲惨な事になっているだろう。

 まさかルナに兄弟が出来るとは思わなかった。

 まぁ…毎晩朝までコースなら不可能ではないか。


「さっき電話してたときにいきなりつわり来ちゃって~、何だろうと思ってお腹さすったら凄い魔力を持った子なんだよね、しかも双子ちゃん!タルナトス~、お姉ちゃんになるんだよ~!」


 コイツはまさに予想外過ぎるぜ。

 よりにもよって双子かよ…双子?

 ルナの世話でまず腕が一本埋まる。

 双子の場合はルナを背負う形になるのか?

 抱っこひもだっけか?あれを使う時がついに来たと言う訳か…。

 あれ?考えたらルナの奴、まだ一歳になってないよな?早くね?


「これで三児の父か、凄いじゃないか」

「あうああ?」

「いもうと、いもうとふえる!?よんしまい!?」


 テーブルの上が騒がしいな、まさかバイオレットが走り回ってるのか?

 だとしたら注意をしないとな。

 姉になるんなら、それくらいはわきまえないと。

 そんな事を考えてると、ルナが歩いてこちらまで来たのだが、俺の顔にのし掛かってきた。

 こいつ、ますますタナトスに似て来やがったな。

 だが双子だろ?もしその二人もタナトスに似たらどうなるだろう……。

 想像しただけでヤバいが、楽しい家族の光景が浮かんでくる。

 食事が終わり、俺達は部屋へと戻っていった。


「びっくりしたでしょ?私も正直驚いてるんだよね」

「お前なぁ…今は一人の体じゃあないんだから、飛び込んだりするのはやめろ、あまり負担を掛けないようにしとけよ、俺は仕事に行ってる間にもだ」

「あんまー!」


 こいつは本当に目を離すと何をするかわからない。

 記憶を辿ってみると、彼女が仕事から帰ってきた俺に飛びついてきた時もあった、しかも腹がデカい状態で。

 俺がゾンビだから受け止められたものの、本当に危ない事を平然としでかすからな。


「ジン…私、ジンに会えて幸せ…またこうして二人で暮らす日が来るなんて夢みたい、これからもよろしくね」

「ああ…これからもっと忙しくなるぞ…ルナの世話もそうだが、新しい命も産まれることだしな」


 本当に…忙しい人生だ。


「お腹の子達ね、多分女の子だと思う…感じるんだよね、一人は私とタルナトスみたいに死の力にとっても強い、だけどもう一人の子は、ジンに似てもしかしたら強力な力の持ち主かもしれない」

「なんだよそれ、俺は確かにゾンビだが…考えるのやめた、どちらにしろルナと同じくらいに可愛がってやるよ」


 俺達の生活は、新しくなりつつも、かつての生活を取り戻した。

 再び親子三人、いや、親子六人での生活が始まる。

 俺にタナトス、タルナトスにバイオレット、そして新たに産まれた俺達の娘達。

 今回もタナトスが名前を付けたが、俺は何も言わなかった。

 喧嘩になるのが嫌だったからだ、どうせ勝てないし。

 双子の名前、姉はタミナトス、妹はタリナトス。

 俺は二人の事をルナの様に、ミナとリナと呼ぶことにした。

 産まれた二人は、どちらもタナトスではなく、俺に似て産まれてきた。

 かなりの美形な赤ん坊、将来は有望だろうな。

 自慢の娘達を育てる…俺が父親、それもゾンビのだ。

 俺は…家族を守っていく、館に住む全員が俺達の家族だ。

これにて、この作品を完結いたします。

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