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第十話 見た目を変えても変らない

小さくなった体で生活を始めたジン。

体格が逆転した二人に戸惑いながらも、彼は二人の育児を頑張ろうとする。

 拝啓、クソジジイとクソババアへ。

 お二人とも、私の可愛い犬達はお元気にしていますでしょうか?私はとても元気です。

 現在私は二児の父をしています。

 驚くでしょうが、私も最初は驚きが隠せませんでした。

 一人は私の子ではありませんが、こんな私を父として慕ってくれている優しい狼女(むすめ)です。

 もう一人はまだ一歳にもなっていない、とても元気な私の実の娘です。

 母親にとても似ており美人に育つ事がわかっています。

 理由は現在、私の肉体が幼退して、娘達は急成長したからです。


「パパちっちゃい!」

「パパあうあい!」


 今ではどちらが大人か分りません。

 どちらにしろお二人には興味なんてありません、犬達が心配です、しっかりと餌を与えてください。


「一体いつまで、この状態が続くんだ…胸を押しつけるな!服をしっかりと着ろ!」

「きつい!やっ!」

「やっ!」


 お前等、もしかして反抗期か?

 ルナは見た目こそタナトスだが、言葉はパパ以外殆どいつもと変らない、たまにバイオレットの言葉を真似するが。

 バイオレットはかなりレベルの高い美女になったな。

 性格は相変わらず子どものままだが。


「ほら、上着をめくるな、ちくび丸見えだぞ、女なんだからもう少し恥じらいをもて、悲しくなるだろ」


 といっても、洋服が子供用だから仕方が無いんだよな。

 何度下げても下げても上に捲れ上がってくる。

 新しい洋服を買ってやる必要があるが、二人をどうやって連れて行くかが問題だな。

 スリーサイズを計った上で誰かに買いに行って貰うしかないか。

 この二人、デカくなった事で妙に偉そうにしてるしな。

 まさかエルに対してまで強気で行くなんて思わなかった。


「ジーン!二人の様子どう?また服めくってる?」

「見事な程に捲り上げてる、何度直したか覚えて無い程にな」


 俺が喋ってる間にも後ろで二人が捲り上げてるようだ。

 笑いながらお互いのを捲り上げてるんだろうな。


「何故貴方が二人の世話をするんですか、僕達がやれば」

「無理よレイ、二人はジンの言う事しか聞かないもん、バイオレットなんて嫌いなニンジンをエルに言われても食べないのに、ジンが上げると素直に食べるくらい差があるんだよ?」

「絶賛反抗期のアイドルグループになってるけどな、だから裸になろうとするな!」


 服を脱ぎ始める二人。

 それを急いで止め、また着させる。

 俺は二人に頼み事をする事にした。

 ルナとバイオレットの洋服を買うために、二人の相手をしてて欲しいと言う物だ。

 本当なら俺が面倒を見るのが好ましいのだろうが、この体では大変過ぎる。


「俺はエルと洋服を買いに行っていくる、いいか二人共、メイ姉ちゃんとレイ姉ちゃんの言う事をしっかり聞いて、悪戯とかするなよ、いい子にしてたら、お土産買ってきてやるから」

「待って、ジンが行ったら、二人共泣き出さないかな?もしそうなってくると流石に…」


 そんな行かないでと言う目をされてもな。

 二人が泣き出せば確かに大変な事になりそうだ。

 バイオレットは館中を駆け回り、ルナは神の力で大暴走……。

 ……ヤバいな。


「それで、二人を連れてくる事になったのかい?」

「結果的にはそうなるわけだ、こうして俺を人形の如く抱き締めてる間は大人しくしてくれてるからいいが、もし興奮し出したら大変な事になるぞ」


 ただでさえエルの服を借りてるんだ、胸のサイズが若干足りない程度だが。

 最初からこうしておくべきだった。

 周りから変な目と好奇心の目で見られるのが辛いな。

 二人の美女が幼児を抱き締めながら歩いてるのだから目立っても仕方ない。

 たまに男共の視線にイラッとくる、何人の娘達の胸をガン見してるんだよ。


「パパ怖い…」


 完全に怯えてるじゃねぇか。

 あーあ、子どもの体じゃなければ文句言いに行けるのにな。

 俺がため息を着くと、意思に気づいたらしいエルが男達の元へ行き注意をし始めた。


「そこのお前達。さっきから私の娘達にいやらしい視線を送っているみたいだが、失礼じゃ無いか?怯えてるじゃないか!」

「み、見てねぇよ!」

「言いがかりも大概にしろや!」


 男達は彼女の気迫と怒りの顔に押されて、逃げ去って行った。

 やはりエルの気迫は誰にでも通用するんだな。


「怖かったな…あれ?私が追い払ったのに何故ジンに余計抱きつくんだ?私の立場がないじゃないか!?」

「子どもにキレるなって大人げ無いぞ。それと顔がまだ怖いから直せ」


 不満げな顔をしながら彼女は俺達を見つめる。

 全く…これじゃ子どもが三人も居るみたいだ。

 しかしエルがこんな子どもみたいな行動を取るとは思ってもみなかった。

 可愛いな、その反応も。

 気を緩めると鼻血が出てくるな…困った。

 俺の鼻血に気づいた二人が慌てて泣き始めるも、エルが冷静に対応をしてくれる。


「二人共。大丈夫だから泣くなって」

「そうだぞ二人共。ただ鼻血が出てるだけだからな」


 二人でなだめると、直ぐに泣き止んでくれたが、余計に抱き締める力が強まった気がする。

 その後も色々と苦労は遭ったものの、無事に洋服屋に到着したわけだ。


「これなんてどうだろう?動きやすさを重視してある、それにいい感じの帽子だ」

「それってお前と同じウエスタンじゃねぇか、ルナにはロリータ、バイオレットにはゴスロリだろ」


 俺とエルは、二人に着させる洋服で言い合いをしていた。

 彼女はどうしても自分と同じ恰好がさせたいらしいが、俺はどうしてもロリータ系が着せたい。

 絶対似合う、あの二人なら絶対に似合う。

 だって最近思い出した記憶で、タナトスがゴスロリメイドの格好してたけど超可愛かったから。


「……私の意見もたまには尊重してくれ!この二人にはウエスタンが似合うんだ!」

「絶対に譲らねぇからな!二人は絶対にロリータを着せる!」


 俺達の意見が食い違うなか。

 二人は勝手に自分の洋服を選び始めていた。

 ルナは母親であるタナトスに似たコートを選び。

 バイオレットはもの凄く野生的な服を……なんで毛皮のパンツとかが売ってるんだよ。

俺は心の中で突っ込みながらも二人が選ぶ服を静かに見つめていた。

ごり押しするのも、よくないのかもしれないな。


「なぁエル。ここは二人に選ばせてやるってのはどうだ?二人の教育にもいいかもしれない」

「……分った…私もムキになりすぎた。似合っているじゃないか、タルナトスは母親にそっくりだ、バイオレットも母親に瓜二つだ」



照れた顔をしながら俺で顔を隠す二人。

何故に俺を使って隠れる。


「バイオレットの母親もこんな感じなのか?」

「一度だけ会った事がある。とても綺麗な人だった…バイオレットほど言葉を喋る事は出来なかったが、私に彼女を預けた本人さ」


バイオレットの母親か、会ってみたいもんだな。

こうして大人になった姿を、いつも元気にしている姿を、見せてやりたい。

しかし、エルの話し方だと、もう会えないのかもしれない。

それに前にこうも言っていたな。

バイオレットは、ライカンスロープ族最後の生き残りだと。


「ママ……いない……ママ、知らない」

「…バイオレット、言っただろう?私が君のママだと。例え本当の母でなくても私が、君のママだ」

「んで俺がパパってか?俺には二人の娘に二人の妻って事か」

「パパあー!」


ヤキモチを焼いたらしいルナが泣きながら、俺の事を抱き締めてくる。


「分った、何処にも行かない。だから少し力緩めろ」

「あ、あうあーう、パーパー!」


違う違う!力を緩めろ!

なんで逆に力を強めてるんだよ!?

神の子どもだから力が強い、その上で肉体が大人になってるせいで余計に強い。

ここも母親譲りと言う訳か。


「おや?これは珍しい方が。ここは娼婦達が来るような所ではありませんわよ」

「面白い事を言ってくれるね」

「またお前かラフェル。金持ちの女はもう少しお高い店に行くのかと思ってたが違うようだな」


俺の存在に気づいた居なかった彼女はこちらを凝視してきた。

体は子どもになっても、昔から見た目はあまり変らない。

面影自体は残ってるはずだから、直ぐに分るだろう。


「可愛い坊やですね、お顔を良く見せてもらえま」


ラフェルが近づいた瞬間、とんでもない事が起きた。

俺を抱きかかえたまま、ルナとバイオレットが店から逃走したのだ。

お前等!洋服代払ってないだろ!

あの女が嫌いなのは分る、だからっていきなり逃走は無いだろ。

気づけばどこか遠くの場所まで来ていた、二人共、無我夢中で走ったな。


「お前達…ここ何処か分ってるのか!?」


俺の声にびっくりしたルナが泣き始め、バイオレットが俺を抱き上げる。

そして何故か偉そうにこっちを見てくる。


「赤ちゃんなかすだめ、ごめんなさいは?」

「その前に、俺に対して何か言うことないか?」


俺の威圧に押し巻けたのか、耳と尻尾が下がるバイオレット。

隣で泣き続けるルナは何を思ったか、明かに小さい俺に、泣きながらのし掛かってきた。

お前を抱き上げてあやしてやりたいが、今の体じゃ到底無理だ。

声を掛けてやりながらあやすも、泣き止む気配がない。

このままだと押しつぶされるかもしれないな。

ゾンビ、自分の娘に押しつぶされる、それも娘の胸に。

恥ずかしいってそれ。


「バイオレット!退かせてくれ!二度目の死を迎える事になる!」


俺の訴えを聞いたバイオレットが、そっとルナを退ける。

今のは流石に危なかった。


「パパつぶしちゃだめ」

「怒鳴って悪かった、もう怒ってないからな」


そっと頭を撫でてやると、ルナの腹が鳴り始める。

もしかして、お前、腹が空いて泣いていたのか?

顔を見た感じそうだな。

いつも腹が空いた時にする顔だ、タナトスも似た様に口をへの字にして訴えてきてたな。

妙に相手を小馬鹿にしたような雰囲気を出して、見た者を若干

イラッとさせる所なんて瓜二つだ。

俺にとってはそれが可愛くも思えるがな。


「はぁ…腹が空いていたのか……あ、考えたらミルクがない…」


困ったな。

ミルクが無い、とルナのご飯が作れない。

つまり、泣き止ませる事が出来ないと言うわけだ。

……ヤバい、マジでヤバい。

ルナは腹が空きすぎると神の力が発動する。

つまり、現在置かれている状況は非常にマズイということだ。

前に一度、寝ている時に泣かれてベッドごと窓から飛び出す事件があった。

つまりルナの力は、大人一人寝てるキングサイズのベッドを、持ち上げ、飛ばす事が可能だと言う事。

ましてや現在は大人の姿。

力は確実に上がっている。

もしこの状態で力を発動させてみろ、森が崩壊するぞ。


「泣くな!なんとかするから絶対に泣くな!」

「……なかま!なかまいる!なかま!」


仲間って、今そんな場合じゃ…仲間?

バイオレットの目を見ると、もの凄く輝いている。


「仲間って、お前の仲間って事は…人狼なのか?」


俺は青ざめていただろう。

ここで人狼に教われでもしたら、勝てる可能性は低いかもしれない。

体が大きくても、赤ん坊であるルナ。

体が大きくても、幼女であるバイオレット。

勝てる気がしねぇ。

気がつけば後ろの方から視線を感じる。

そっと、俺は静かに振り返った。


「真っ赤な…狼?」


そこに居たのは、赤と言うより紅という表現が合う狼が居た。

とても美しく、かつ妖艶な雰囲気を放つ狼。

瞳は体と以上に紅く、見つめているだけで吸い込まれそうな程に深紅の輝きを放つ。

その狼に対して、バイオレットは堂々と近づいて行き、四つん這いで尻の臭いを嗅ぎ始めた。

確か犬同士の挨拶だっけか?

相手の狼も同じ行動を取り始める。

内心ヒヤヒヤしながら、俺は見つめる今年か出来なかった。


「なかま!」


紅い狼を抱き締めるバイオレット。

その姿はまるで、母親にしがみつく子どものように一瞬見えた。

狼はこちらに敵意を向ける事も無く、茂みの中へと戻って行く。

バイオレットは、俺達の手を引きながら、狼を追いかけ始めた。


「なかまといく!パパも赤ちゃんもいく!」

「おい待て!いきなりどうしたんだ!?」


俺達はそのまま、バイオレットに引っ張られながら、何処かへと連れて行かれた。



狼の後を着いていきながら、しばらく進んで行くと、巨大な洞窟が現れた。

森なんて、こうして探索した事なんてなかったからな。


「ここの先、仲間いる」

「仲間が居るってよ…大丈夫なのか?」


不安げな俺を見るバイオレット。


「着いてくるならこい…お前は信用出来そうだ」


なる程、コイツもやはり人狼か。

それにしても、俺達を受け入れても問題ないのか?

狼は俺達を少し見つめた後、俺達でも分るような笑みを浮かべ、洞窟の中へと入っていく。

後を追っていくと、下へと続いていく階段がある。

これを進んで行くというのか。


「多分滑るから、ゆっくり壁に手をついて降りるんだぞ」


洞窟の中は暗く、そしてかなり寒い。

人狼だからこそ、この寒さに耐える事が出来るんだろう。


「明かりが見えてきたな」


洞窟の出口らしきところから飛び出すバイオレット。

そこから広がる世界は、地下洞窟と言える場所だった。

バイオレットの様な耳と尻尾を生やした人狼達、それも皆が髪の色が派手な色をしていた。

見た感じ、全員が女っぽいが、男は一人も居ないのか?



「なかま!なかまいっぱい!なかま!なかま!なかまぁ!」


まさか、これって全部が、ライカンスロープなのか?

確かエルの話では…絶滅して、最後の生き残りが…。


「私達は仲間…家族…お前達はなんだ?」

「俺は二人の親だ。まずこっちがルナ、そしてバイオレット、俺はジンだ」


狼は少し怪しい者を見る目をしてきたが、ため息をつく。

すると、人間の姿へと変り始めた。

彼女はどこかで見た事がある容姿をしている。

まさにバイオレットに似ていたのだ。


「私の名前…は、スカーレット…ここの長をしてる」

「スカーレットだな、覚えておくよ」


お互いに自己紹介を終えると、ルナが限界が来たのか、再び泣き始めた。

考えてみると、腹を空かせていたんだった。


「何故…泣いている?…どこか…痛むのか?」

「違う、腹を空かせてるんだ、今は大人の姿なんだが、本来はまだ一歳にもなってない赤ん坊でよ、助けて貰って悪いが、ミルクとかって無いか?」


スカーレットに聞いて見ると、一人の緑色の髪をした女を呼び寄せ、全く理解の出来ない言語で会話をし始めた。

すると女はルナを連れて何処かへと連れて行ってしまう。

俺が追いかけようとすると、スカーレットが俺を抱き上げ、全く別方向へと向かって行く。

内科ながらこちらへと手を伸ばすルナ。

俺は暴れたが、肉体が子どものせいで力では勝てそうにない。


「ルナを何処へ連れて行く気だ!?」

「男は…こっちだ…ミルクを与えるだけ…お前には…もっと話しを…聞きたい」

「パパ!なかま!みんななかま!」


バイオレットが俺達の周りを走り周り、嬉しさを表現する。

彼女にとっては嬉しいのは仕方が無い。

殆ど絶滅したと聞いていた仲間が生きていたんだからな。

そのまま飛び跳ねながら遊びに行くバイオレット。


「バイオレット!あまりはしゃぎ過ぎるなよ!」


こちらに手を振りながら、他の人狼達の元へと走って行く姿を見守る。

ただ疑問点なのは、この場所に何故、ライカンスロープがいるのかと言う事だ。

幸いスカーレットの方も、俺に何か聞きたい事があるようだしな。

俺が連れて行かれた場所、そこには沢山の美女の姿をした人狼達が待機していた。

……何が始まるってんだよ。

スカーレットが俺を椅子に座らせると、隣に置いてある椅子に彼女も座る。


「みな…聞いてくれ…この男は、姫様の保護者だ」

「人間が…保護者?」

「違う…そいつは人間じゃない…腐ってる…」

「では…まがいものか?…生のある者を喰らう…化け物か?」


なんか見られる目が、変ってきたな。

凄い軽蔑をした眼差しで見てきてるのが丸わかりだ。


「俺は人間なんて喰わねぇよ、食べるのは動物の干し肉だけだ、違うなら既に食べてるし、アンタ達を襲ってるはずだろ?」

「言われて…みれば」

「何故…襲わない?」


説明するのがめんどうだな。

とりあえず俺は、自分自身が普通のゾンビではなく、特別なゾンビであること。

そして、ここの者達に危害は加えないこと。

ただ単に道に迷っていた事を説明した。


「そうか…我々の…敵では…ないのか」

「ああ…それよりも、アンタ達は聞くところによると絶滅したらしいな?なんで生きてるんだ?バイオレットが最後の生き残りのはずだろ?」


彼女達は俺の問いに対して、少し悩んだ様子。

しかし直ぐに答えを出してきた。


「生き延びた…私達は…人間から逃げた…争いを避ける為…そうしないと…皆死ぬ…だから逃げた」

「唯一…外にいたのは…お前が連れてきた…姫様だけ」


そういやさっきも、バイオレットの事を姫様とか呼んでいたな。

こいつ等は何故バイオレットの事を姫と呼ぶ。

しっかりとした理由はあるのだろうが、どうして姫であるバイオレットが外の世界に居たかだ。

エルの話では、確か母親が彼女に託したと聞いていた。


「姫は…最後の希望…だから…安全な場所に託す必要がある…子孫の繁栄に…そして…未来の為…」


子孫繁栄は分った。

つまりバイオレット自身は知らないが、彼女はライカンスロープ族の大切な存在であることが分った。

俺は…ある意味、大変な状況であることを今知った。

バイオレットが姫であるこいうことは、俺はその保護者になったわけだ。

つかエルはこの事を知っているのだろうか。

他の連中もそうだ。

知っていたのなら、話して欲しいものだ。

無事に戻ったら問いただしてやる、泣こうが喚こうが容赦しねぇ。


「何かがくる…とてつもなく強い…禍々しい者」

「恐ろしい…恐ろしい…死が来る」

「人間ではない…この世の者か?」


段々と青ざめ始める彼女達は、一斉にその場を離れ、隠れ始める。

あの…俺取り残されてるんですが?

てか恐ろしい者って何ですか?

何が起っているのか

理解出来ないままなんですが?


「あー!やっと見つけた!もう探したんだから!」


その声を聞いて、俺はもの凄い安心感を覚える。


「へぇ、ライカンスロープって絶滅したって聞いてたけど、案外沢山いるんじゃん、てかジン超ちっちゃくて可愛い!僕ちゃんどこからきてんでちゅか~?」

「お前どうやってここが分ったんだ?それとその口調やめろ、流石にイラッとくる」


俺を笑顔で抱き上げるタナトス、彼女の笑顔は無邪気そのものだ。

彼女の隣にはルナが恨めしそうな顔でこちらを見てくる。

お前は抱っこされるのが好きだからな、体が大きいせいで抱っこされないからだろう。

元に戻ったら沢山抱っこしてやらないといけないな。


「ママ!ママ!」

「分ったから、ちゃんと抱っこしてあげ…私の事をママって呼んだ!?聞いたジン!?今タルナトスが私の事をママって!」

「聞いていたさ、ルナはこの姿になってから俺の事もパパって呼ぶようになった、バイオレットも同じだけどな」


さてと、これで帰れるわけなのだが。

バイオレットは変えると言ってくれるだろうか。

あの子にとっては、ここに居るのが幸せなのだろうか。

しかし、彼女達の話では、子孫繁栄とか言ってたしな。


「もう、エルが涙ながらに連絡したから驚いたのよ」


そりゃ確かに、いきなり逃走してから行方不明だからな。


「バイオレットはどうする?やっぱり連れ帰るのか?」

「連れ帰るけど?多分エルもそうするし」

「恐ろしい者…お前は…誰だ?」


スカーレットが警戒をしながらこちらに近づいてくる。

対してタナトスは若干偉そうにしながら、彼女達に対して自らの正体を明かした。


「私は死神タナトス、この世に行き歳行ける者達の魂を管理する管理する者!ちなみにこの子の母で彼の妻です!」


こいつ普通に本名言っちゃったよ、まぁライカンスロープ達は外にあまり出ないらしいからいいか。

彼女自身は恐らく、神の力を使ってここを見つけ出したんだろう。

考えると、ルナでも似た様な事は出来たのかもしれない。

だとしても、タナトスに会えたのは嬉しいものだ。


「なぁ…聞きたいんだがいいか?」

「元に戻すって言うのは流石に無理だから」


なんで先読みするんだよ…。

悲しくなるだろうが。


「とりあえず薬は完成してるらしいから、館に帰れば元の姿に戻れるって言ってた」


マジかよ、これでこの体とおさらばが出来るのか。

思い返せば色々と不便ではあったが、普通だと体験出来ない事も多かったがな。

元の肉体に戻れるのが嬉しくてたまらない。

何故かルナは涙目で訴えてくるのが気になる。


「どうしたの?皆とお別れするのが嫌?」

「うー!あー!」


ルナは涙目で何処かへと走って行く。

これはかなりヤバい状況になってきたぞ。

俺とタナトスはお互いの顔うぃ見合わせた後、彼女の後を追いかけるが問題がある。

問題は俺が小さくなったせいで、足が遅いと言う事。

途中、タナトスが俺を抱き上げ追いかける。

彼女の胸が後頭部に当たりながら、少し幸せな気分になる。

つかそんな事を考えて居る場合じゃ無い、ルナを早く捕まえないとって早ッ!


「なんで…タルナトス……あんなに足早いの!?」

「お前と俺の子だからだろうな」


俺は元々、運動神経には自身がある。

そこへ神であるタナトスの血を引いている、動きが速くても不思議じゃない。

にしても…動きに慣れがあるな。

あの動きは確実になれている、

考えてみるとラフェルから逃走した時も、普通に走っていた。

バイオレットと同等のスピードで。


「瞬間移動とか出来ないのか?神の力とやらでよ」

「…その手があった!」


タナトスは、ルナに向けて手を翳した。

すると、彼女の手からは何か黒い霧が吹き出し、辺りを包み込んだ。


「この技、本当は死者が逃亡した時に使う捕縛術なんだよね、でもママを怒らせるからこうなるって分ったでしょ?いい子だから帰るわよ」


拘束され、涙目で俺に訴えてくるルナ。

助けてやりたいが、今のタナトスを怒らせることはしたくない。

顔は笑っているが、目は一切笑っていないからだ。

こういうのは、下手に刺激をしない事に超したことはない。

前に家に押しかけてきた女でそういうタイプが居たからだ。


「赤ちゃん!子どもにもどりたくない!いじめるだめ!」

「いや、苛めてないから、私がまるで虐待してるみたいに言わないでよ」

」タナトス、少しルナと話しをさせてくれないか?バイオレット、お前もだ」


少し不満そうな顔をするタナトス。

俺は下ろして貰い、ルナの拘束も解いて貰う。

再び逃げ出すかと思ったが、そんな事もなく、大人しく俺の指示に従ってくれる二人。

四人でその場に座り込み、二人にゆっくりと話しをする。


「ルナ…お前が子どもに戻りたくないのはよく分る。自由に歩いたり走ったり、色々な事が出来るもんな…でもな、今お前がこの姿で居ると、俺はお前をずっと抱っこしてやることも、一緒にお風呂に入れてやることも出来なくなる、いずれは大人になるにつれて出来なくなるのは確かだ、だからこそ今お前が子どもである時間を大切にしてやりたいと考えてる」


そう…ルナはまだ一切にすらなっていない。

なのに、抱っこしてやったりする事が出来なくなってしまう。

俺が本来の姿に戻ったとしても、これまで通りには決して行かないだろう。


「バイオレット…お前も同じだ…お前も本当ならまだ小さい、それがいきなり大人になっただろう?それで見える世界は変った、だが直ぐに大きくなったら、人生で楽しい事も沢山無くなっちまう、俺はゾンビだがお前はしっかりと命がある、つまりはずっと一緒に居られないかもしれない」

「やだ!ぜったいやだ!パパと赤ちゃんといっしょ!」


泣き叫びながら俺を抱き締めるバイオレット。

同時にルナも同じ行動を取ってくる。


「二人共、分ってくれたか?」

「分ったのなら帰るわよ、エルが心配してるんだから、それに、帰って元の姿に戻ったら、パパが沢山遊んでくれるって」


二人の顔に笑顔を戻ってくる。

涙でぐちゃぐちゃになりながらも、とても言い笑顔だ。

俺達はスカーレットに礼を言い、タナトスの力で館に帰る事にした。


「姫様を頼む…私の……姪を…」

「……分ったよ、バイオレット、皆に挨拶しとけ」

「ばいばーい!ばいばーい!」


一瞬、視界が暗転したかと思うと、俺達はベッドの上に横たわっていた。

見慣れた天井、見慣れたシーツ…見慣れた顔ぶれ達。

辺りを見わたすと、本来の姿に戻ったルナとバイオレット。

そして、心配そうな顔で見てくるエルとタナトスがいた。


「やっと目を覚ました!ごめんね!本当にごめんね!私のせいで!」

「なんだよ…どうなってんだ?」


状況が理解出来ない俺に、エルが説明をする。

話しによると、タナトスが転送に失敗して俺は壁に埋まったらしい。

そのまま気を失い、救出された後に薬を飲ませ、元の姿に戻ったと。

意識を失って居た帰還は三日ほどらしい。


「私が…私が失敗しなきゃ…」

「いいって…お前や、ルナとバイオレットじゃなく、俺で良かったよ…本当に…ただ」


俺は涙を流しながら抱きつこうとするタナトスに、デコピンを一発だけ食らわせた。

目を白黒させながら、驚きを隠せないタナトス。

その顔を見て、三人が笑う。


「流石にアウトだったな、これくらいで許してやるよ」


これでいつも通りだ。

やっといつもの生活に戻る事が出来る。

バイオレットの仲間であるライカンスロープ達を見つけた四人。

その後も帰還し、無事に元の姿に戻るのだった。


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