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第九話 小さな英雄達

敵に弱点を突かれたジン。

彼は二度目の死を覚悟するのだった。

こいつは完全に終わったな。

思い返すとタナトスに言われてたっけか、聖水と金の十字架には気を付けろって。

聖水は最初こそ激しい痛みが来る上に体の動きを止めてくる。

金の十字架は俺を絶命へと追い込むアイテムだって。

今こうして、俺は命を奪われ掛けてる。


「知ってるか?今ラフェル様はお前の事思って毎晩毎晩枕を濡らしてるんだ、健気なラフェル様が不憫でよ、全部お前の西なんだよ、なんでお前みたいなゾンビに惚れるんだか?」

「イケメンのゾンビなだけにゾン美ってか?」


何言ってんだこのおっさん、頭腐ってんのか?


「まぁいい!これで終わりだぁ!」


結構楽しい人生だったな。

タナトスとの結婚生活、ルナとの生活、エル達との生活。

どれも悪く無かった、むしろ楽しかった。

いつも女を抱く今年か考えてこない毎日、飽きるほど見てきた体。

学校でも、外でも、どこでも女しかいない中でも、アイツ等は教えてくれた。

友情と言う物がある、大切な家族が持てると言う事を。


「タナトス…タルナトス……愛してるぜ……」

「ジン!無事か!?」

「なんだこのガキ!?離せ!」


死を直感してたのに……タイミングのいい奴等だ。

身動きの取れない俺をエルが抱き起こし、バイオレットが男二人に襲い掛かる。

視界に写り込む紫色の獣、バイオレットなのは確かだが、全身が体毛に覆われた小さな人狼の姿をしている。

これがバイオレットの真の姿か、凜々しいな。


「なんてことだ…ジン!意識をしっかりと持て!ジン!」

「エル!危ない!」


ベロニカの叫び声、彼女の後ろにはあの下着泥棒がナイフを振り上げていた。

ナイフが振り下ろされる瞬間、彼女は俺を庇った。

何馬鹿な事してるんだよ…ゾンビを庇っても意味なんてないだろ。

彼女の背中にナイフが刺さる寸前、ルナが大声で泣き始めたと同時に燃え始めた。

声を上げながら転げ回る男、そして血まみれになりながらも逃げようとするも、バイオレットに襲われ続ける男。

まさにそこは地獄絵図と化していた。


「バイオレット!落ち着いて!もういいの!ジンは大丈夫だから!タルナトスもパパは無事だから!」

「ベロニカ…タルナトスをジンに抱かせてあげてくれないか?きっとそれで落ち着くはずだ、私はバイオレットを落ち着かせてくる」


彼女がそう言うと、バイオレットの元へ行き暴れるバイオレットを静かに抱き上げた。

その間、ベロニカが泣き続けるルナをそっと、俺の腕に抱かせる形で託してくれる。


「ほら、もう怖くないよ」


俺の腕の中で泣き止むルナ。

同時にエルの腕の中で落ち着き、いつもの姿に戻るバイオレット。

彼女の腕で大人しくしていたかと思った瞬間に、突然抜けだし俺の方へと駆け寄ってくる。

俺の顔に自分の顔を擦り付けてくるバイオレットの表情はどこか安心感を得ようとしているようにも見えた。

いつもなら頭を撫でてやれるが、今は肉体を動かす事が出来ない。


「なんでこんな無茶な事をしたんだ…私達がどれほど心配したと思ってる!?」


怒りに満ちたエルの顔、それはいつもとは全く違う物だった。

心の底から怒りが溢れ出している。

ここまで恐怖を覚えたのは初めてかもしれない。

彼女が手を大きく振り上げると同時に、俺は打たれる事を覚悟した。

打たれても仕方が無い、なんせ酷い迷惑を掛けたのだからな。

なのに彼女は俺を強く抱きしめてきた。


「君は本当に最低なクズ野郎だ…家族を泣かせるなんて、帰ったらただじゃ置かないから覚えて置いてくれ、でも、私達の事を気遣ってくれたのはありがとう…本当にありがとう」


泣きながら抱き締めてくる彼女の力は、更に強まっていく。

それに釣られてか、ベロニカまでも俺を抱き締めてきた。


「そういえばバイオレットったら、ジンを見つけた瞬間にパパって呼んでたのよ、何吹き込んだのか教えてよ」

「パパ?…ああ、多分あのリンゴ買った店だな、あそこで親子と思われてな…それの影響か?」

「赤ちゃんのおねえちゃん、だからパパ!」

「それじゃ意味が分らないじゃないか、言いたい事は分るけどね、ジンはバイオレットに私達以上に懐いたと言う証拠だよ」


全員で笑い合うが、俺は動く事が出来ない。

そこでエルが俺を担ぎ上げる事になった。

やはり彼女は頼りになるな、俺を軽々と持ち上げる程だから。

馬車に盗まれた物を全て運び込み、館へと帰っていく。


「随分と盗まれていたようだな、これで安心して過ごせそうだ、後はマリーナに治療をして貰えば万事解決か」

「でも正直…下着買い直したいかも、なんか知らない男に盗まれた挙げ句に売られてたんだよ、何されたのか想像したくもない、やっぱり買い直そうよ、なんだか気持ち悪いし、ジンもそう思うでしょ?」


俺に同意を求めてくるか…まぁ確かに気持ち悪いかもしれない。

さっき俺のパンツをバイオレットが見せてきたが数枚足りなかったし。

……あれ?誰か俺のパンツ買ったのか?


「しかし金があまり無い、私は多少持ち合わせているが全員分を買うとなると」

「俺の使え、どちらにしろ俺のパンツが数枚ないから買わないと行けないしよ」

「ジンのパンツがない!?もしかして誰か買ってったの!?やっぱりイケメンの下着も売れるんだ」


お前等の反応からして自分達のは売れていないみたいだけどな。

なんでよりによって俺のが売れてるんだよ、もうやだ。

しかもよ、どれも俺の派手なやつしか売れてないの、なんでよ!?

落ち込む俺をバイオレットとルナが慰めてくれるが人のパンツで遊ぶなよ、特にバイオレット!俺のパンツを被るな!

止めるにも全身が動かないせいでどうしようもない、なんでこんな目に遭うんだよ。


「お前等笑ってないで止めろよ!」

「だって可愛いんだもん、てかジンのパンツ派手すぎ、これ全部女性物じゃないの?」

「その様子なら問題なさそうだ、私は新しい下着を買ってくる、足りなかったら軽い依頼でもこなしてその分を稼ぐから時間が掛かるかもしれない、だから先に帰っててくれ」:


馬車から降りて下着を買いに行くエル。

俺達は静かに動き出す馬車の中から彼女を見つめていた。


「ねぇねぇバイオレット、ジンの事もう一回パパって呼んで見て、超可愛かったから、ね?いいでしょ?」


バイオレットは恥ずかしいのか俺の後ろに隠れ、そっとベロニカを見ていた。

その行動に対してベロニカは目を輝かせる。

俺はからかうなと言う物の楽しいらしく、バイオレットにしつこく言わせようと彼女は奮闘する。

気がつくと館は直ぐ側まで馬車は来ており、外では三人が既に待って居る状態だった。

ベロニカが二人を連れて先に降りしばらくするとマリーナが馬車に乗り込んでくる。

どうやら彼女に現在の状態を聞いて治療をしに来てくれたらしい。


「背中が酷く焼けただれてる…とりあえず動ける程度には回復させられるけど、また直ぐに動けなくなると思って、館に入ったら急いで治療を始めるから」

「ありがとう…下着の方はしっかりと取り戻して来たが、今エルが新しいのを購入しに行ってる」


驚いた顔のマリーナは何故か俺を抱き締めてくる、お前もかよ。


「よかった、犯人がジンじゃなくて…これでレイとも和解してくれるといいんだけどね」


それが出来れば苦労なんてしてねぇよ。

だがこれで完全に疑いは無くなるはず。

俺は信じてる、でないともういやだ。



大量の下着を持ってエルが帰ってくる頃、俺はベロニカとマリーナによる治療を受けていた。

ここで俺は疑問が湧いている。

何故に二人は服を脱ぐ必要があるのか、それも全身に緑色のネバネバとした液体を纏うと来ているからなおさらだ。

マリーナ自身はかなり胸がデカいからとても柔らかい、ベロニカも結構ある方ではある、いつもなら嬉しいのになんかテンションが上がらないのが不思議だ。

治療の仕方はベロニカが俺の傷の上に寝転がり、マリーナが治療の魔法を俺達に掛けると言う物。


「ネバネバが気持ち悪いけど我慢してね、これは聖水による効果の進行を抑えるのと私達の魔力を高めてくれる二つの意味を持つ液体だから」

「でも恥ずかしい…ジンになら別にいいんだけど…やっぱり恥ずかしいよ」

「今度何か美味い物でもご馳走してやるよ、なんだったら夜空を眺めながらBBQをするなんてどうだ?それも焼きたてだから美味いぞ、網を使って焼けば脂は下に落ちるからヘルシーだしな」


背中の方から唾を飲み込む音が二つ聞こえてくる。

もしかして肉が食べたいのか?

思い返してみるとベロニカはよく冷蔵庫からソーセージやハムを漁って食べててな。

つまり肉類が大好きでいいんだな、マリーナの反応からしてもそうみたいだしな。


「それにしてもこの傷跡、かなり強力な聖水を使われたみたいね、普通の聖水なら軽い火傷程度で済むけど、この痕は普通じゃない」

「やっぱり、しかもジンはタナトスが蘇らせたゾンビだから普通のじゃ全身が動けなくなるなんてあり得ないと思うんだけど」


二人が考え込みながらも魔法で俺の治療を続ける。

結構ベロニカの治療は気持ちがいいな、特に腰の辺りをさすって貰えると楽だ。

最近はルナをずっと抱っこしてるのもあるのだろう。

しかし、液体が地味に傷跡に染みてくるのは辛いな。

聖水ほどでは無いのだが結構来る物がある。

だが二人は恥を忍んだ上での治療をしてくれているのだから、これくらいの痛みに耐えなければいけない。


「マリーナ、そろそろ別の薬が必用だから取ってくれる?テーブルの上にある赤い瓶に入ってるやつ」

「えっと、これね…あれ?青だっけ?ベロニカ、なんかこれ変な臭いがするんだけどこれであってきゃああああ!」


マリーナの悲鳴が聞こえ振り返ると、巨大な肌色の球体二つがこちら目掛けて飛んで来ていた。

柔らかくも重たい物体が俺の顔にしっかりと押しつけられながら埋もれていく。

沢山のガラスが割れる音、そして俺達三人に何か液体が大量に掛かる。


「ちょっと!?なんてことしてくれたのよ!?私の大切な薬が…へ?なんで?なんでジンの体と私の体がくっついて……まさか!?マリィィィィナァァァァァァ!」

「いったーい…ジン!私の胸に顔埋めないでよ!それに胸を思いっきり掴んで…いくら私に魅力があるからって、しかもジンが大きい胸が好きでも、流石にタナトスに断りが無いと…え?なんか離れない?なんで!?あっ!」

「暴れるな!ベロニカは喚いてないで何が起ってるか説明しろ!マリーナも変な声だすんじゃねぇ!」


クソ…やっと動けるかと思えばまた自由が奪われるのかよ。

それ以上に問題点は俺達三人が繋がっていると言う事、それも全員が裸の状態でだ。

一応タオルは巻いていたのだが、これじゃ別に意味なんてなさない。

俺の背中にしっかりと抱きついた状態で固まるベロニカ、マリーナの胸に挟まれながら彼女の胸を触る俺、俺とベロニカを抱き締めた状態のマリーナ、状況は最悪以外のなにものでもないな。

もしこんな状態をエルに見られてみろ、とんでもない事に。


「二人共、ジンの傷はどんな状態だ?」


なんだよ、なんでそんなにタイミングよく入ってくるんだよ。

なんだよ、その気まずくも若干引いてる顔、やめろよ。


「とりあえず、説明をしてもらおうか?君たち三人は一体何をしているんだい?」

「ジ、ジンが襲ってきた!見て!これが証拠!私の胸を触ってるでしょ!?」

「責任転嫁はやめて!マリーナが転んだのが原因でしょ!?都合のいいときだけ忘れないでよ!」


二人が喧嘩を始めている間にも、冷静なエルは俺に事情を聞きに来た。

俺は彼女に何があったのかを素直に話ながら助けを求める。

すると彼女の顔から怒りは消えるが、かわりに呆れが浮かび上がってきた。

確かにこんな状況を見れば呆れられるよな。


「とりあえず引きはがす方法を考えるとしよう、一体なんの薬を使えばいいのだうわぁ!?」


こんな事ってありかよ…。

助けが来たかと思えば、お前までくっつくのかよ…しかも一番ヤバい所に。

前と後ろでは未だに喧嘩が続き、エルは現実を受け入れる事が出来ずに気絶、余計に悪化してやがる。

もしこんな姿をアイツ等に見せたりしたら大変な事になっちまうぞ。

ただでさえ裸の三人がくっついている上に、エルがまたにくっついているなんて見たら発狂ものだ。


「お前等、いい加減に喧嘩をやめろ、エルが気絶してるんだ」

「え?エル?よく見たら居ないけど?」

「しっかり見なさいよアホ人魚!ジンの股がおかしいでしょ!?それがエルよ!」


悲鳴を上げながら俺の頭を叩くマリーナ、手に力を入れてやると一気に力が抜けるらしく後ろに倒れ込む。

衝撃で何かヤバい事が一瞬起きた気もするが、今はそれどころじゃない。

立ち上がってこの液体を取る薬を作り出さないといけない。


「ベロニカ、この液体はどうやって取ればいい?」

「えっと、紫色の薬と黄色の薬、それから緑色の薬を棚から取り出して巨大な鍋に水を張って混ぜる、そしてそこへ20種類の薬草と三つ叉トカゲの三つ尾を入れて、股口蛙の白い唾液、花妖精の鱗粉、ケンタウロスのミルク、サキュバスの体液、それから」


どんだけ面倒な物じゃないと作れないんだよ。

てか途中からなんか別の物になってるよな!?

まさかそれを全部俺達が取りに行くとかじゃないよな?だとしたら凄く面倒臭いぞ。

せめてこの部屋に用意してあるもので代用とか出来ないものか。


「ゾンビの手首に人魚の涙、バンシーの髪の毛に悪魔の角があれば完璧、でも外すとなるとしばらく浸さないと行けないから大きいお風呂かプールが必要かも、今までは指とかに着いた物を取ってたけど」


……ゾンビの手首?

俺はゾンビだ、だから手首はここに二つある。

次に人魚の涙、そいつはマリーナが人魚だ。

悪魔の角、それはエルが持ってるはずだ。

問題はバンシーの髪の毛だが、バンシーなんて何処にいるんだ。


「どうしよう、花妖精の鱗粉とケンタウロスのミルク、それからサキュバスの体液……そっか!エルは父親がインキュバスだから半分サキュバスとも言える!それにマリーナの涙にジンの手首、そして私の髪の毛があれば必要なのはさっきの二つのみ…急いで二人に取ってきて貰わないと」

「待て、バンシーの髪の毛って、お前は違うんじゃ?」

「ベロニカはバンシーと魔法使いのハーフ…んっ、だから、あっ、問題なし、そこだめ!」


一々変な声を挟むんじゃねぇ!


「と、とりあえずメイとレイに伝えないと」

「でもどうするんだよ?この恰好でバイオレットにあって見ろ、トラウマ植え付ける事になるかもしれないぞ」


喘ぐマリーナを無視して考えると意識を取り戻したエルが提案をした。

彼女の考えでは俺達が布を被り、誰かが頭を出して頼むと言う事らしいのだが。

エルはこうして絶対に無理な状態だ、また気絶したしな。

マリーナは変な声出してる、レイは絶対に俺の言うことを聞いてくれないだろう、そしてマリーナの胸に挟まれているから論外。

となると自然にベロニカが収まってくるのかもしれない、一番いいのはタナトスが居てくれれば簡単に解決するんだけどな。


「それじゃあシーツに穴開けないといけないの?私のベッドのシーツを?嫌かも」

「緊急事態なのにそんな事言ってる場合かよ、一生この状態でいるのとベッドシーツ破くのどっちがマシだ?」


顔は見えないが、恐らく相当悩んでいるだろう。

直ぐにシーツを使うと答えを聞き、彼女のベッドルームに入る。

ゾンビでよかったぜ、重たくて運ぶのも一苦労だ。

彼女のベッドのデカさには驚かされた、何人分のサイズだよ。

ベッドシーツを装着して部屋をあとにする。

シーツの中は暗いが、かなりいびつな形になってしまった。

俺がエルとマリーナの上に覆い被さってるからだ。

昔似た様なプレイはした事あるけどよ…もう少し楽しく行きたいものだ。


「あ、二人共!ちょっとお願いがあるんだ…けど…」

「どうしたの…?その体…」

「なんだか…大きくなってる?それもなんか顔が赤いよ?熱でもあるんじゃ?」


くそ、何も見えないから状況が分らない。


「なんでもないの、ただお使いを頼みたくて…花妖精の鱗粉とケンタウロスのミルクを手に入れてきて、妖精は木に蜂蜜縫っとけば勝手に集まってくるから」


なんだよその捕まえ方!?

まるでカブトムシとかクワガと同じじゃねぇか!?


「ケンタウロスのミルクはどうすればいいの?」

「そ、それは…街から大分離れた所に私の知り合いの魔法使いがいるの、その人に頼めば用意してくれるはず、ああ、行くときには絶対にリンゴを持っていって、彼女リンゴが大好きだから、それと私からと言えば何もしてこないはずだからね」

「もしかして、シーツの中にあの男が変な事をしてるとかじゃ?」


なんて勘の鋭さだよ。

このままだとバレるノでは無いだろうか、もしばれたら俺は完全にアウト。

三人にも大きい被害が出てしまう。


「ジン…おしっこしたい…どうしよう」

「ふざけんな…俺はそんな趣味なんて無い上に、ここでしてみろ、エルにまで被害が出るんだぞ」

「ちょっと二人共、あまり声ださないで、バレちゃうでしょ」


シーツの中で暴れるマリーナを落ち着かせ、ベロニカにバレない様に急がせる。


「本当に大丈夫なの?変だよ?」

「大丈夫だから!とにかく急いで!バイオレットとタルナトスちゃんも一緒に連れて行ってあげて!私部屋に居るから手にれたら扉の前に置いてドアをノックして…この姿は二人には見せられないから……」


二人の慌てて走って行く音が聞こえる。

ベロニカによると二人は何故か青ざめながら準備をしに行ったらしい。

これで薬が作る事が出来るわけだ、準備をするか。

彼女の部屋にて必要な素材を手に取り集める。


「これを鍋に入れるんだろ?出来たら体に塗ればいいんだよな?」

「そうだけど…塗る手段がない!これ結局失敗じゃない!」

「ぷっ…プールを使うんだ…地下に…マリーナの部屋にある…プールを……がくっ」


エルは最後の意識を振り絞ったのか、助言をした後に再び気絶する。


「それがあったわ!行きましょう!」


俺達はマリーナのプールに材料を運び込み、薬の制作を始めた。

材料を次々と放り込み、そこへ俺達が浸かる。

時折交代をしながら息継ぎをしなければならないから大忙しだ。

特にエルは一番下に居るうえに気絶をしていることで危険な状態に陥りやすい。

だから基本的にマリーナを下にする。


「なぁ…一度陸に上がろうぜ、俺中間にいるからかなり辛い」

「それって私の胸に挟まれるのが嫌って事?」

「それって私が背中に張り付いているのが嫌って事?」


何故にそういう事になるんだよ。

普通に考えて、俺が呼吸出来る時間が少ないからに決まってるだろ。


「いいこと思いついた!ジンの皮膚を一度剥がして皆分離すればいいんじゃない!?そうすればこの状況を打破出来るはず!」


この人魚、俺が簡単に死なないからってそれは酷すぎないか?

考えが何というか、むごすぎる。

後ろではなんか頷いてるのが一名いるけどよ。

まぁ引きはがしたとして、マリーナに治療をして貰えばいいわけか。

このままじゃ三人も辛いだろうからな。

本当は嫌だが、俺はマリーナの案に乗ることにした。

皮膚を引きはがされ、大切な物も失い、まるで人体模型のような状態になってしまった。


「気持ち悪い……吐きそう!」

「プールに吐かないでね、ジンも辛いと思うけど我慢して、最初からこうしておけばよかった」

「エルの顔に紙袋か何かかぶせてやれ、俺も見てるのが辛い」


さてと…アイツ等が帰ってくるまで待たなければいけないのか。



扉の開く音、帰って来たようだな。

部屋には現在ベロニカが待機している。

必要な材料を受け取り、彼女がマリーナの部屋に持ってくる。

そしてプールに材料を放り込み、混ぜる。

最後に浸かり、俺の皮膚を引きはがす訳なのだが……俺はもうここにいる必要がないきがする。


「俺は部屋に戻ってていいか?あとエルの顔から剥がせたら治療を頼む」

「はいはい、あんまり触りたくなあひぃ!」


俺の右腕は元々が取り外し可能だ。

白骨化してるせいで簡単にな、それでもしっかり神経は繋がってる。

不思議と外したとしても自分の意思で操作ができるんだよ。


「掴みながら氷は…だめ……」

「もう片方は燃やしてやろうか?俺の両腕が無くても、腕がお前の体に触れてる時点で、お前の自由は俺の手中にある事を忘れるな」


少しスッキリした。


「皆!素材が集まったからプールに入って!」


俺以外の三人がプールに浸かり薬を作り始める。

薬草や材料のせいで赤く染まっていたプールは三人が使った事で紫色に変色する。

……気持ち悪いプールだな。

しかも変な臭いがするしで…臭ッ!

なんだよこの悪臭…酷すぎるだろ…。


「臭い!何この臭い!?」

「……変ね、効果は現れてるんだけど…なんか変な物でも混じったんじゃ……」

「あうあー!」


聞き覚えのある声。

まさかルナがここに居るというのか!?

全員が驚いた顔で声のする方を向くと、そこにはルナとバイオレットが笑いながら物をプールへと放り込んでいた。

しかも様子からして泳ぐ気満々ですか。

いや暢気に見てる場合じゃねぇ!


「待てお前等!ここで泳ぐんじゃ」


慌てて止めようと三人がプールから上がるが、時既に遅し。

二人の元に着く頃には飛び込んでいた。

ご丁寧に薬品の入った瓶を持ってだ。

驚きと状況に固まる俺達。

それでも俺はプールに飛び込んでいた。

腕が無ければ足で捕まえればいい。

とにかく二人を助け出さないと、そればかりを考えていた。

遠のいていく意識の中で俺は夢中で二人を探した。

バイオレットは普通に泳げる、だがルナは泳げない。

もし手を離したら大変な事になってしまう。


「見つけた……二人共……」


かすむ視界の中で俺が見た物。

それは裸で泳ぐタナトスと、見た事のない女が一人だった。

彼女達がこちらに気づき、近づいてくると同時に俺の肉体にも異変が起きていた。

段々と彼女達の姿が大きく見え始めていた。

二人がそっと手をこちらへと伸ばす瞬間に俺は、意識を失っていた。



「ジン!頼むから起きてくれジン!君はその程度で死ぬ男じゃないだろう!?」


声が……聞こえる。

それに凄く…眩しい。

なんだろうか……俺は生きてるのか?

あるいは、今度こそ二度目の死を迎えたのか?

視界に入る強い光、それを腕で遮りながら目を開ける。


「見て!意識を取り戻したわ!」

「良かった…ちゃんと生きてたのね」


目の前には、涙を流しながらこちらを見るエル。

そして後ろから覗き込むベロニカとマリーナの姿。

死なずに済んだということだな、にしても。


「やけにお前等デカくないか?いつも以上にデカく感じるのはなんでだ?」

「えっとね、驚かずに聞いてね」

「とりあえず深呼吸をしてくれ、それから鏡を見よう、そうした方が早い」


動揺するベロニカとエル。

マリーナが巨大な鏡を俺の前に用意する。

そこには小さい子どもが一人……子どもが…一人?

は?なんか、見覚えのある子どもだな?

てかこれ、確か鏡……だよな?


「若返った、みたいなの…良かったね!」

「良くねぇよ!なんだこれ!?なんだよこれ!?バイオレットと大して大きさ変らねぇぞ!?なんだこの小せぇの!?こんなの俺のじゃねぇ!」

「とりあえず落ち着くんだ、これについてはベロニカが説明をする、それと君以外にも問題はもう一つあってだね」


……そうだ…二人はどうなった?


「ルナとバイオレットはどうした!?タナトスがベッドの上じゃないのに裸でプールの中にいたぞ!?」

「「パパー!」」


突然のパパと呼ぶ声、それは一つではなく二つ。

両方とも聞き覚えがない。

俺は声のする方を振り向くと、そこには素っ裸のタナトスとバイオレットに似た美女がこちらに凄い勢いで迫ってきていた。

二人に抱き上げられる俺、すると鼻の中から、何かがつたい落ちる感覚に襲われた。

人生で初めての経験、女の体を見て鼻血を出した。

こんな自体は初めてだ。


「大変だ!?鼻血が出ている!」

「肉体が子どもに戻ったせいかもね、下も見てみれば分るけど、可愛いものね」

「二人共離しなさい!エルも動揺しない!マリーナも観察しない!急いで寝かせないと、エル!早く鼻に詰める物頂戴!」


何故タナトスが無邪気に裸でいるんだ…。

状況が全く飲み込めない。


「よく聞いてジン、今あそこに居る二人、タナトスそっくりなのはタルナトスちゃん、そして隣にいるのはバイオレット、どういう原理かまでは分らないけどジンとあの二人の肉体の年齢が入れ替わったの、つまりあっちはジンと同じ年齢、ジンは二人の年齢を中間で割った数字、といってもタルナトスちゃんはまだ一歳にもなって無いから恐らくバイオレットの方に歳がよったのかもしれない」


マジかよ……成長した二人がこんな感じか。

二人共将来が有望だな、特にルナの方はママに似て美人になるのか…。

胸も倍近くはありそうだ。

バイオレットも負けない位に成長するのか…なんだか…悲しいな。

一気に成長した姿を見ることになるなんて、思ってもみなかった。

……少し、気が楽になった気がする…心配事が一つ減って。

肉体の大きさが変ってしまった三人。

元に戻る事は出来るのだろうか。

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