5.ある日のヒースの記憶
ヒース視点です。
俺はヒース。元貴族で、ミラージュ家出身の四男だった。俺には家の継承権が無いため、親父に頼み込んで身分を放棄して平民になり、そして家を出て冒険者となった。それからはコツコツと功績をあげ、Fランクから三つ上の階級、Cランクの冒険者となった。
冒険者になって今までで一番大物の魔物は、やはりゴーレムだろう。あいつは鈍足ではあるが、その強大な攻撃力と堅い体で危険視されていた。
それだけあってゴーレムを倒すのには苦労した。だが、俺は{ゴーレムスレイヤー}の称号を手にし、冒険者としてそこそこ名が知られるようになった。
そんな俺がある日、低級ダンジョンのレイファング山へやってきた。
弱い。魔物に手応えが無い。
低級ダンジョンにそんな事を考えるのはおかしいが、俺はそう思いながらゴブリン共を薙ぎ払っていた。
「ああ...宝箱か...」
宝箱はダンジョンをクリアしないと出現しない。
「もう終わりか...早いな...」
低級なだけあって、宝箱の中身はショボい。大抵は銅貨30枚分くらいの物ぐらいだろう。
初心者の冒険者は大抵ここに来て、このアイテムを売るのだろう。俺もそうした。
しかし、俺はもう初心者ではない。
今回ここに来たのは別の目的があったからだ。
このダンジョンには"裏"があるという噂がある。その"裏"には強力な魔物が巣食い、繁殖してるのではないか。と、俺は考えてる。
他にもこう考えるやつはいるだろうが、誰も試していない。
だから、俺が最初の"裏"に行って無事生きて帰った者になるんだ。
******
「くっ......」
"裏"は鋭い棘のある茂みが多く、先へ進むのが困難だった。
防具のお陰で余り気にならないが、厄介ではあった。
(...クソッ、俺の見込みは間違いだったのか...?)
そう思った時、急に開けた場所へ出た。
前方に俺の腰元位の大きさをした、翼と翡翠の鱗を持つ魔物。
ドラゴンの幼体だ。
思わずその鱗の輝きに一瞬呆然としてしまったが、やったぞ。人の手によって幼体から育てられたドラゴンは懐く。
運が良ければ......こいつは絶対に捕まえる。そして俺のドラゴンに......
空を飛べるドラゴンがいればどこへでも行けるし、関税を取られない。
ある目的のために、世界中を回る必要のある俺には喉から手が出るほど欲しい。
そうと決まれば、親が来る前にさっさと捕まえてしまおう。
******
クソッ!捕まえられねえ!
ドラゴンの幼体はすばしっこいとは聞いていたがここまでなのか!?
チッ、幼体だから簡単に捕まえられるだろうと思っていたが甘く見ていたようだ。
ん?何やってんだあいつ?
スパーン!
・・・は?
おいおい、待てよ。これくらいの大きさの幼体は魔法を使えねえんじゃないのか? しかもこんなに強力な魔法だと?
この威力の魔法だと、食らったら死ぬ......どうやって捕獲しようか......
あれ、何だあの遠くの紫と灰色の点は......まさか!?
「ヤバイ!親ドラゴンか!?クソッ!」
「グオォォォォォォォォォォ!!」
逃げた。俺は必死に逃げた。
今死ぬだなんで、冗談じゃない。俺はいずれ世界中を旅し、あの謎を解明するんだ。
「ゲェヒヒヒヒヒ!」
「うるさい!邪魔だ、退け!ゴブリン共!」
待ってろよ、翡翠のドラゴン。絶対に俺のドラゴンにしてやるからな。
18.01.26. ストーリー修正