15.兆し
ダイレクト投稿ッ!!
『……い、おい、起きろフライア』
『ひゃ、ひゃい!?』
竜王につつかれ、おぼろ気な意識が覚醒していく。えーと、確か……あー神様に会って……? そんでボーナスを貰って……?
『何考え事をしているのだ? ほれ、飯だ。食わぬのなら我が食うぞ』
『ご飯! 是非とも食べさせて頂きます!』
と、つい条件反射で言ってしまったのが間違いだった。そこにあった恐らくご飯であろう物体は、本能が"ぜってえ食べもんじゃねえぞ! いいか、ぜってえ食うなよ!? 絶対だぞ!? 食ったら死ぬぞ!?"と訴えるレベルのヤバい物だった。
見た目はぐっちゃぐちゃのミンチ肉が腐ったようなもの、鼻孔を満たす臭いはラフレシア……こんなもの、どうやって食えば良いってばよ……
『どうした? 食わんのか?』
うじうじしている私に追い討ちをかける竜王。親友よ、ヘルプミーという視線を奈緒に向けると、目を逸らされた。どうやら奈緒も食べたくないようである。ちくしょう。
『うぐぐ……はぐっ!』
もうどうにでもなーれ、とその物質に思いっきり噛み付くと同時に口の中に広がる酸味と苦味と甘味のハーモニー。あまりの美味しさに一瞬、三途の川が見えた。いやいや、見えちゃ駄目だろ! もっかい死ぬ所だったわ! こいつ……やりおる……。
『どうだ? 旨いか?』
『とっても美味しいでおろろろろろろろろろろろ』
……やっちまったぜ☆
『……』
『あのー……? 竜王さーん……?』
『……』
『あーあ、やっちゃたわね……ゆうちゃん』
『え、これ私のせい?』
『当たり前でしょ、何言ってんの?』
『んな理不尽な……』
『この世は理不尽、はっきr』
『それ以上はいけない』
『おっすおっす。……で、洞窟の隅でズーンとしてる竜王様どうするの?』
『うーん……』
ほんと、どうしようかなぁ。確かにピーしちゃった私も私だけど、あんなもの食わす竜王も竜王じゃない?
『つまり私は悪くねえとでも言いたいの?』
『こいつ……! 私の心を読んだ……だと……!?』
『あんたが分かりやすすぎるのよ。てか前世で生まれたときからの付き合いでしょうが』
『あ、そういえばそうだっけ』
最近トラックに轢かれて異世界にドラゴンとして転生して死にそうになったりと平和とは無縁な生活だったから忘れてたわ。
……にしても、ここでも会うなんて、腐れ縁ってやつかね? それともあのロリババアが一枚噛んでるんじゃ……
ゴォーン!!
『ぐ……ぁ……』
あのロリババア……聞いてやがったな……覚えて……ろ……
『え、ゆうちゃん!? 大丈夫!? ……何でたらいが落ちてきたの……? ってゆうちゃーん!? ゆうちゃーん!?』
だんだん奈緒の声と意識が遠くなっていき、私は目を閉じた───。
『ゆうちゃん!? ゆうちゃん!? ちょっと、竜王様! いつまでいじけてるんですか!? ゆ…フライアが五時間経っても目を覚まさないんですけど!?』
『いじけてないもん……我、いじけてないもん……』
え、竜王様こういうキャラなの? そうなの? って今はそれどころじゃない。
何故かフライアことゆうちゃんの頭にたらいが降ってきて見事命中してしまい、気を失ってすでに五時間が経っている。しかも鉄製のたらい……何故なの?
まあどこから落ちてきたのとか、なぜゆうちゃんにとか、突っ込みたい所は色々あるが、とりあえず竜王様を励まし、ゆうちゃんをどうにかしなければ……
『我、ダンジョン帰りで疲れておるだろうから折角精のつくビッグシザースコルピオンの幼虫を捕まえてきたのに……本当は嫌なら申せば良いのに……』
……竜王様、それこの世界で一番不味いという領域を超えた虫です……
いくらドラゴンとはいえ、ゆうちゃんは元人間。人間はおろか、モンスターや魔物ですら食さない物を食わせたんですよ竜王様……そりゃ誰でもぶっ倒れます。
あと子供のドラゴンが圧倒的強者の竜王に逆らう事なんかできないですし、ゆうちゃんヘタレだからもっと無理です詰んでます、本当にありがとうございました状態なんですよ……この竜はもうちょっと自分の怖さを知ってほしい……
『はぁ……とりあえずゆうちゃんが食べれそうなの獲ってくるかな……さすがに不憫すぎるわこれ……』
私は翼を広げ、とりあえず美味しそうな動物でも狩ろうと果てしなく青い空に飛び去っていったのだった。
『オラァ! ……うん、こんなもんかな。牛モンスター持っていきゃ満足するでしょうし。もう戦闘も慣れたもんだね~最初は土のなかの虫を捕って食べてたのに、こんな立派なものまで狩れるんだからね~』
うんうん、と頷きながら自分の成長を感じる。いやー、生まれた時代が時代だからねー。獲物も何もない"荒廃時代"を生きた私にとっては今はいい時代だと思う。……いや、私以外の者もそう思うだろう。
なぜなら一週間に獲物が一匹見つかればいい方と言われる時代だったのだ。幼鳥で食い盛りの頃の私たちはもちろん、成鳥たちも飢えに飢えていた。そのため、力のない雛が標的になることはしばしば、いや、しょっちゅうあった。実際私もその被害者だ。必死に抵抗して、何とか生き延びたけどよく今まで生きれたよね、ほんと。
……あ、でも社畜よりましかなぁ……
と、そんなどうでもいい思い出は置いといて、早速これを運びますかね───
「久しぶりじゃの、ワシの。様子はどうじゃ?」
『……お陰さまで元気にやってますよ。神様』
「うむうむ、無事に旧友に再会できたようで何よりじゃ」
『ほんとですよ。過労死した私に旧友にもう一度会えるチャンスを下さったの事には感謝してます。……でもさすがにスタート酷すぎませんか?』
「何を言うとる。あれより過酷な環境に居たくせに」
『そうですけど、仮にも親に食い殺されそうになる人の気持ちも考えてください……』
「お主、人じゃなかろうが」
『いやまあ、それが何か?』
「……お主といい、あのドジといい、妾に向かってそのような口答えが出来るなど、凄いやつじゃのう……」
『まあ伊達にブラック企業に勤めてませんから。神様も行ってみます? 毎日が楽しいですよ(棒)』
「あれはいくら妾でも遠慮させてもらうのう……神でもあそこまで待遇悪くないぞ……もう地獄じゃ、地獄」
『HAHA☆ 間違いない』
「まあ雑談はこれまでにしてもう帰るかのう」
『あ、そうですか』
「うむ、有意義じゃったぞ。じゃあの」
『ではまたの機会に』
……ほんとあの神様、神出鬼没だなあ……まあ神だから当たり前っちゃ当たり前か……
でも何しに来たのだろうか? 本当に雑談だけか? まあ気にしてもキリがないのでとりあえず牛運びますかね。
『ただいま戻りましたー』
竜王様の洞窟に戻ると、そこには竜王様の姿は無く、ゆうちゃんが寝ているだけだった。
『あらら、まだ寝てるのか……ん? なんだこれ……?』
狩ってきた獲物を置き、ゆうちゃんが寝てる場所に近づくと、足に何か固いものが当たった感触がした。
『これは……鱗……かな?』
それは、ゆうちゃんと同じの鮮やかな翡翠の鱗だった。
遅くなりましてすみません(最高の土下寝)
お知らせとしてはこんな風に2ヶ月とか空きますけど代わりに少し長くなりますよってことと、学生なんで学校生活が忙しくなったりする時期は劇的に更新ペース落ちますよっていう感じです。
出来るかぎり早く投稿したいんですけどね……絵の練習もしたいため厳しいですね……
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