6.ハンター
翌日、三人は街を見物がてらに歩き回り、大いに話しながら職を探していた。
この街、ラス・ナイクは西の森を越えた先にある城下町と、東の国境付近にある拠点の間にある物流の盛んな街で、城下町からは主に食物などが東にわたる商人から豊富にもたらされ、東からは鉱物資源などが出回ってくる。
周囲が広い平原で、近くに目ぼしい山などないこの街で、レンガ造りなのはそのためである。木の外壁もある程度の強度があるが、煉瓦の固い石の城壁の方が格段に良い。
魔物からの襲撃に、避難所となる街役所がどこからでも最も離れられるように、町は円形で、人が最も通る表通りは、北西の門と東の門の道を繋げて輪の形になっている。 住宅区は表通りより外側で、おもな商店や、重要な役割を持つような建物は表通りから内側だ。
三人は人通りが多くて、時折、長距離運搬用の大型の馬車も通る表通りを避け、住宅区に近い脇道を歩いていた。 表通りより活気がないものの、街の住居者用の商店は普段使う生活用品がそろえてある。
しかし、裏路地を歩いていてもとてもじゃないが、職が見つかるわけもなく、三人はそれぞれ分かれて調べることにした。透がさらに奥の路地。松之介は大通りと住宅街につながる広い路地の通りだ。
そうした経緯から、人の多い表通りを歩いていた由久は、職業案内所にある掲示板を見つけ、張られていた一枚の張り紙と出逢う。
「そうか。ここは魔物と言った敵がいたのか………考えてみれば、ゲームだからな。当たり前か」
掲示板を眺めながら頷く。由久は辺りを見回して、周りにも同じ張り紙があることを確認した後、素早く壁から引き剥がすと再び雑踏の中に紛れていった。
「で、どうする?」
由久は、街中歩いて二人を集めた後、すぐさま宿屋に戻った三人は会議を始めた。「で、どうする?」とは、『ハンター』という職について、由久が二人に聞いていたのだった。
「ま、ネイラは魔法が使えるからいいとして――」
「もやすぞコラ」
たった今、はっきりと「ネイラ」と言ったことに対し、透が目を座らせて鋭く言い放った。見せつける様に口から小さい炎を吐く。「ネイラ」とは、器の姿の元であるゲームの少女の名前だ。
透は少しでもこの姿でいることを忘れていたかった。鏡など、姿を映し出すものが少ないので、努めて気を逸らせば、姿のことなどあっという間に忘れられる。
「え?ああ、悪い悪い……(チッこれじゃぁ冗談も言えやしねぇ。)」
由久はわざとおどけて謝った後、顔をそむけて何かをつぶやいた。透は、おそらく自分に対しての陰口だと察して、軽蔑の眼でそれを見ていたが放っておいた。一々反応していたんじゃぁ、この先やってられない。
「まぁ、ヨルは魔法が使えるし、俺は最初から武器を持っているし、ここは松之介が宿に残って留守番だな」
「――…は?何でだよ!」
透と由久の掛け合いを眺めていた松之介は、予想もしていなかった展開に、机を叩いて身を乗り出して猛反発した。
「そもそも、どこに武器持ってんだよ!」
「ん?ここだが?」
由久が腰に携えている棒をつかんだ。そこから視線をずらしていくと…鍔があって鞘があり、その鞘が脚の踝にまでの長さがある剣が腰に備わっている。棒だと思っていた物は剣の柄だったようだ。
いままで、誰も気付かなかったのが不思議である。
――まぁ、俺はそれどころじゃなかったけどな。
ため息をついて隣を見ると、松之介はが驚愕した顔つきで剣を凝視していた。そこまで驚くことか?と透は疑問に思ったが、驚くことだと思いなおした。
彼が凶器を持っていると、気が気でない。
「そ、それ、どこから拾ってきた!?」
「どこでって………姿の生成の時に、設定したんだよ」
松之介の問いに、由久が何食わぬ顔で、あっさりとすごいことを言った。
「えっ!?」
突然、思いがけない答えに二人とも声を揃えて聞き返してしまった。
同時に驚嘆の声を上げるものだから、一瞬、きょとんした表情の後、由久は笑って、二人の反応を面白半分に楽しんでいながら、呆れたように肩を落とした。
「まぁそうだろうな」
仕方ないと言わんばかりのに吐き出すと、予想の範囲内だと軽く鼻で笑った。
「じゃ、説明するが…あの時姿を思い浮かべた時、一緒に服とかのことも無意識のうちに思い浮かべただろ?」
松之介が頷く。透のは半ば強引な感じにイメージが作られたが、服も再現されている。
改めて見てみると、透の服は全体的にオレンジや薄黄色など暖色で彩られていて、腰はズボンではなく、脛の途中まで伸びたスカート。恐る恐るめくってみたその下には…黒いスパッツをはいている。
透はほっと胸をなでおろした。そして、上着は首周りが高く、首元を隠している。
この町の気候は、今のところ涼しいので、この服装でもあまり汗をかかないのもうれしいところだ。
「………で、その時なんだが…『姿の生成』という観点からして、自然に他のことができないって思っただろ?でもそこが落とし穴だ」
透と松之介が自分の服装を見回していると、一通り終わったと判断して、再び口を開く。彼に声には得意満面といった感じで、にやりと笑いつつ言った。
「だって武器も一緒になんて書いてなかったぜ?」
松之介の言葉に透も頷いた。…まぁ、書いてあったとしても、あの状態で武器を付け足せるわけがないけどね、と透は自嘲気味に肩をすかませながら笑った。
すると、二人は困ったように顔をしかめ、「…そうか」とだけ松之介が答えると、再び何事もなかったように会話が始まった。
「…で?なんだっけ?――あ、松之介が質問を言ってきたところだったよな――いいか?服が再現できてバックも再現できて――」
由久は腰バック、松之介にはショルダーバックがある。透には…
「あれ?」
あたりをキョロキョロと探すが何もなかった。アイテム袋がなければ手持ちということになる。生憎、この服はゲームの外見重視の所為か、普通の服並に機能性が低い。
アイテムと呼べそうなもの――たとえば薬瓶など、二つも持てればいい方だ。
段々とオロオロし始めると、頃合いを見計らっていたのか、
「あそこだ。」
といって由久が指差した。
みると、昨日透が寝ていたソファーの向かい側のソファーに、クッションに並んで見覚えのあるリュックが置いてある。
「って、あれって俺のリュック!?」
手に持ってよく見てみると、やはり置いてあったリュックは現実で使っていたリュックと同じものだった。
茶色の化学繊維の生地に、破れにくいように、一段濃いこげ茶色の革が縫い付けてある。ただ、触ってみる前から感じていたが、素材が変わっていた。
茶色の化学繊維の生地は、同色の丈夫なデニム生地になっていて、革は――変わってない。
「まぁ、無意識のうちでも、こういうことができるんだ。武器もできるんじゃないかと思ってさ。案の定、できたというわけだ」
由久が得意げに笑って見せ、松之介が「お〜」と、感嘆の声を出した。元からあったリュックの生地がなぜ変わっていたのか不審に思うも、透も松之介に合わせて唸った。
そんな発想があの一分という短くもプレッシャーのかかる作業の中でよくも思いついたものだ。
透は一人、由久の能力がもっと他の場面でも役に立てばいいのになと口惜しんでいた。洞察眼は確かにあるのだが…。何せ、興味の無いものには、特に注意もしないのだ。 ふと、横を見ると、松之介も同じように顔をしかめていた。どうやら、透と同じことを考えていたらしい。
「それで、回りくどくなっちまったが、要は自分でそこを書き換える。すると、その結果が具体的に反映される訳だ」
由久が腰の剣を抜いて、二人の前で見せびらかせる。「お〜」と再び透が感嘆の声をあげた。目が輝いている。実は透、武器というものに憧れを感じている。
マニアなどではないものの、小学生のころに、剣士遊びというものをしてから――
「…?どうした?」
「え、いや、なんでもない」
急に表情が曇らせた透に松之介が声をかけた。普段ならこんな風に気遣われるほど、露骨に感情は出ないはずなのだが。
きっと、この姿になってから色々とばれやすくなったんだ、と思うことにした。
「――まぁ、あん時は確信が無かったから、試しにこの剣をいそいで書き込んで付け足しただけだが、その気になればもっといろいろなことが出来たかも知れない。もう遅いけどな」
透の様子に別段気にすることもなく由久が得意そうに鼻で笑うと、剣を鞘に戻した。由久はポーカーフェイスでもある。 何を考えているのかわからないが、『面倒だ』というよりも、『触れないで置いてやる』という風に受け取った。
「ま、結局のところ、武器も何も持たない松之介が留守番だと言う事で」
その言葉に黙って頷く。松之介は「仕方ないか」と言ってため息をして窓際に歩いて行と、ソファーどさっと座り込んだ。
松之介の様子を観察していた透は、視界の端で何かが動いているのを感じた。見てみると、由久が荷物の整理を始めている。
「…なにやってんの?」
透が不思議そうに聞くと、
「ああ、これか?」
由久が顔を上げて聞き返してきた。透が頷く。それを確認すると、再びバックの中を荒らし始めた。
「これは、昨日、ここへ来た時に気付いたんだが、バックがあっても中身が入ってないんだ。何か有るかと思って探しているんだが…」
手を止めて由久は透を見上げると、首を横に振った。
「何も見当らない。外見からわかるものしか付け足してくれてないようだ」
そう言いつつ、バックの中身が見えるように透に向ける。なるほど、何も入っていない。由久は腰バックを下ろすと、ため息をついた。落胆している様子だ。
「お前も見てみろよ、もしかしたら例外的に違う物があるかもしれない。取りあえず、お前と俺たちは、アンケートの回答者とお供の関係なんだからな」
透も、肩にかけていたリュックの中身を一応に見てみるが、何も入っていない。
――やっぱりな。
そう思いながら何気なく胸ポケットに手を入れると、コツっと硬い物が手に触れた。
「ん?」
透の声に由久が首を上げる。透が手に持っていたのは、真紅の色をした結晶だった。光にすかすと燃え盛る炎のようにギラギラと光を乱反射させている。
「お、これお前の?やっぱりおれのにらんだ通りだよ」
期待を含んだ笑みを浮かばせながら言うと、由久は立ち上がって手にとり、眺め回した。松之介の方を向くと「松之介。これ、お前も持ってるか?」と聞いて、彼の方に差し出した。
松之介は手に取って読もうとしていた本を置き、石を受け取ると自分のショルダーバックの中を探し始めた。
一通り探し終えると「いや、もってない」と言いつつ由久に返し、再び本を手にとって読み始めた。
本はテーブルの上に置いてあった物で、まだ松之介しか読んでいない。
石を受け取った由久は眺めながら透に手渡すと、床に置いたバックを持ち上げた。どうやら出かけるつもりらしい。 ベルトを腰から対角の肩にかけると反対側の腰からベルトを伸ばし固定した。
ちゃんと固定されているか、一度強く引く。固定されていることを確認すると、一人頷いてドアに向かって行った。
「んじゃ、取り合えずこの町の職業案内所に行くぞ。ヨル早くしろ」
「あ、ちょっと、ま――」
由久がドアを開けて廊下に出る際に言い残すと、スタスタと廊下に出て行った。
「……ってつぅの!!」
透も受け取った石を腰バックの内ポケットの一つに入れると石を仕舞うと開け放たれたドアから廊下に向かった。
「んじゃぁ、留守番頼むね」
ドアを閉めるその隙間から、松之介が承知したと言うかのように軽く手を上げていたのが見えた。 部屋を出て階段のある右手を見ると、由久はらせん状の階段を下りて、体が半分見えなくなりかけていた。
「ちょっとは待て、コノヤロ」
先を行く由久に向ってつぶやくと、走って追って行った。
由久に追いつき、階段を下りていくと、荷物置き場のような薄暗い、広めの部屋に出た。廊下と部屋を分けていた壁を壊して作ったようで、天井の変色している部分がある。削った後のようだ。
そんな薄暗い倉庫の白塗りの壁に、四角くくりぬかれた窓から光がさす。外の天気の良さがうかがえる。
「すいません、邪魔です」
「え?」
階段を落ち切ったところで棒立ちしていた透が、驚きのあまり飛びのく。厨房から出てきた少年は、道を開けた透の横を通って、重そうな荷物を抱えて盛んに倉庫の中を動き回っている。
「あ、お出かけですか。念のために言っておきますけど、明日までは平気ですから」
少年が荷物をせっせと運びながら素っ気なく言った。「平気」とは、宿代のことだろう。見れば、恐らく透たちと殆どかわらない歳だ。もしくは、少しばかり年下だ。
「まぁ、そうなんだが…そのあとのことを考えて、これから職に就こうと思ってる。ハンターだ」
由久得意の、初対面であろうとなかろうと敬語を使わない様子で答えた。それでも、いつもより砕けていない話し方でしゃべった。 別に、行き先を問われたわけでもないのに、由久は話してしまった。おそらく透も話してしまうに違いにない。
少年がぴくりと動きを止める。透は由久の粗悪な言葉使いに気を悪くしたのかと思ったが、そうではない様子だ。
「ハンターですか。最近、ハンターになる人多いんですよね。つい、近年まではなろうと志す人さえ居なかったですけどね」
尚も作業をしながら話す少年は笑顔一つ見せない。優しげな顔つき合わず、喋り方もなんだか感情が無い。荷物を移動させたあと、外に出て行った。 目で追っていくと植木鉢に入った植物で彩られている出口の、すぐ近くに荷物が置いてあるらしい。
「僕はあまりお勧めしません。」
会話を続けつつ荷物を持ってくると、木箱に書かれている文字を確認すると、倉庫の角にある棚にのせた。
「加盟した数だけ増えるどころか、減っているのが現状ですから。みんな、魔物に襲われて。」
少年が新手に荷物を持ち上げて、またせっせと運び始めた。
「ミイラ取りがミイラに………。全く、そのとおりだと思いませんか?」
彼の言葉に、背筋に寒気が走った。
少年はさすがに疲れたのか、途中で足元に置くとそこに座り、バンダナを取ってポケットに入れ、すれ違いにハンドタオルを取り出した。 バンダナを外したことで、どけていた髪が降りてくる。茶色い少し癖のある髪が汗で滲んだ額に張り付く。
「よろしければ、ハンターについて知っている限りでお話しますが…。」
額に張り付いた髪の毛をタオルでどかしながら拭きつつ、少年が言った。
「本当ですか?ぜひ、よろしくお願いします。」
彼の申し出に、好奇心から湧き上がる、期待の表情をしながら透が軽く頭を下げた。由久は、少し離れた所に立っていたが、透の言葉を聞いてすぐには出られないことを悟り、壁に寄り掛かった体勢になった。
「わかりました。」
少年は――おそらく接客用の――愛想の良い笑顔をして頷くと、話し始めた。
僕の知っているのは常識程度のものですが…門番に紹介されてくる旅人の大半がそれさえ知らないことが多いので、お話します。
まず、ハンターが職として認識され始めたのが五年。定着し始めたのは三年前。そのころにグループによる加盟制度が定まりました。
ここ数ヶ月に至るまで加盟数は、この大陸だけでしか存在しない組織なのにも関わらず、三百を下回っていました。それほど危険だということです。
その主な原因は、突然の『本当の魔物』の登場に対して人間側の知識が浅く、大勢のハンターを集めて編成された騎士団を作るも、それらの数を上回る被害が出続けていたのが原因です。
それでも、ここ二〜三か月の間にハンターになる人間が急増しました。それこそ、ハンターが史上最も多いほどです。
が、彼ら自身は戦闘すら経験が浅いものが多く、大半を占めていて、大した能力もなく。
……失礼ですがどなたがハンターになられるおつもりなのですか?
「あ、僕と彼です」
少年の余りにはっきりした口調に気負いしていた透は、即座に答えた。一呼吸置いて、何をあせっている?と思い返し、小心者だと自分を恥じいた。
少年は二人を品定めをするかのように下から上までじっくりと見まわした後、
「…これは僕の見解ですが、やめた方がいいと思います。」
と鋭く言った。
なんだか先程からこの少年、見た目のほんやかして、夢見ごこちの様な眼つきなのに言うことがはっきりとしていて、恐ろしい。
横を見ると由久もあんぐり口をあけていた。
「働くだけならいろいろ他にもありますし。僕はハンターでもありませんので、はっきりと力を見定められるわけではありませんが………。あくまでハンターが良いのなら、気を付けてください。」
驚いている二人に、少年が冷たいく言い終えると厨房の奥に木箱を抱えて消えていった。
――……………。なんだか………ね。
気がつくと透の頬には冷汗が流れていた。ふうっと胸をなでおろす。
「あいつが熱くなっているのも珍しいな。」
「!」
後ろから突然声がした。驚いて後ろを向くと大柄の男が腰にエプロンを賭けて立っていた。どうやら、外から戻って来たらしい。
見た目は、透にとって内心怖じ気付くには十分だったが、エプロン姿に、珍しいものをみて喜んでいるようなニヤけている表情を見ると、不思議とそんな気にならなかった。逆に親しみを感じるほどだ。
「あ、こんにちは。」
由久が頭を下げる。その瞬間、透はこの人が自分たちをこの宿に泊めさせてくれている人…あるいはその関係者だということに勘付いた。 それに気付くと、自然と警戒心がなくなった。驚きから平常を取り戻した自分の心臓が、とても疲れている。
「まぁ、今のはアイツの僻みだと思って大目に見てやってくれ。あんなことを言って捻くれてはいるが、あいつも心の内ではハンターになりたがっているんだ。」
先程とは、別の意味で驚いた。とてもそんな風には見えない。だが、言われてみると、愚痴に思えなくもない。 だが、そう思ってたのは透だけで、由久を見るとうんうんと頷いて「だろうな。」と相槌を打っていた。
「ま、三年前に登録が個人からグループ加盟に切り替わったから結局なれず仕舞いだがな。」
奥でせっせと働いている少年をみて、男性は、は〜っとため息を吐いた。
「さっき、言ってました………え〜と。」
黙ってられずに透が言うも、名前が出てこない。だがそれ以前に、二人は彼の名前さえ聞いてなかった。
「あの馬鹿息子の名前か?スティルってんだ。おれのことは、オヤジとでもよんでくれ。」
「あのスティルと言う少年は、一緒に行動する人間がいないせいで加入できないと言う事なのか。いや、パートナーだったら幾らでも探せるはずだ。ただ踏みとどまっているだけなのではないのか?」
由久が矢継ぎ早しに言った。どうやら先程言われた事に、多少ながら怒りを覚えたようだ。
「そうだろうな。この街だったら幾らでも探せる。なにせハンターの手続きは五分も掛からないほど呆気ないもので、言ってしまえば、その日初めて逢った人間とだって組める。………まぁ、おそらくは俺のせいだろうな。」
自称してオヤジとよぶ男性は、暫く間をとったあとにつぶやいた。
「この店は人手不足だからな。まぁ店長の俺としては、忙しいのはうれしい限りなんだが、あの馬鹿が気を使ってるんだ。」
先程から「馬鹿、馬鹿」と息子のことを言っているが、その表情からは、微塵も悪意が取れない。
――たぶん、気恥ずかしいんだろうな。と、透は思った。
「おっと忙しいのに店長がこれじゃ仕方ねぇな。んじゃ、俺はレストランの方があるからな。気をつけて出かけな。」
スティルの父、オヤジさんはそのまま奥の厨房――レストランに向かって透達の脇を通った。と、思い出したように振り返り、
「三日間って言ったがハンターになるのが嫌になったら、うちの店で働いてもらってもいいぞ。そん時は遠慮なくいいな。」
優しそうに笑う。強面で気の強そうな父に、母親似なのか、優しい顔に冷えた口調の少年、スティル。
まるで親子に見えなかったが、どこか共通点があるような気がした。




