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僕らの旅   作者: yu000sun
41/43

*38.特別講義後の食事*

 読んでくださっている皆様、大変申し訳ございません!!(汗

 テストが連続して……大分、間が空いてしまいました(大汗

 そしてまた、アレをやることにしました。く、詳しくは後書きで……

「…………、はぁ……」

 透は昼間の表通りを窓から眺めつつグラスに入った水を一口飲むと、物憂い気にため息を吐いた。


 最後に見た松之介との試合が未だに後を引いていて、透は悔しさの入り混じった暗い気持が渦巻いていた。

 これほどまでに実力差をつけられるとは……。アーウィンが、あのいかにも嬉しそうな表情で熱をこめて話すのは、あながち間違いではなかった。


 目の前に座る松之介の顔を、それとは気付かせないよう視界の端で盗み見ると、彼は目の前に用意された昼食に夢中になっている。

 あの後、三人はリシアがご馳走するということで、先程ハイウィンド氏と会った食堂に来ていた。


 彼女の連れである男も途中まで付いてきていたのだが、リシアが不意に後ろに振り返って彼を見た瞬間、数秒の氷結後に突然弓の整備があるからと、ワザとらしく言って何処かへ走って行ってしまった。

 アーウィンが走り去る彼に対する同情交じりに彼女を咎めると「へ、団長権限さっ」と胸誇らしげに笑っていた。

 ……ズタボロになってもその元気さはすごいな。


 ふと、窓の景色から店の中に視線を移した透は、松之介の隣に座って、包帯を巻いた彼女を細めに眺めつつ呆れた笑みがこぼれた。

 額に巻いた包帯は僅かに赤く染まっている。他にも腕や足など色々な所に止血用の布を張っているのだが、それでも彼女は、その怪我の元凶である女性と楽しげにしゃべっていた。


 そう、これほどまでの怪我を負わせたのは透の隣に座る、長く美しい翠色の髪が印象的な彼女、アーウィン・ル・テラスその人である。


 あの時、透によって風を巻き起こしながら吹き飛ばされたリシアは、つい本気になって透に対し全力を持って斬り伏せようとしたらしい。

 今こうして無傷でここに座っていられるのも、一早くアーウィンが、リシアの異変に気づいてくれたおかげなのだ。


 彼女の姿が丘の向こうに消えてその数秒後に、途端に言い知れぬ気配を感じ、その次の瞬間には、一陣の風と共に目の前にアーウィンが、そしてその向こう側に最早(もはや)一本の線しか見えないリシアの残像が僅かに見え――


「おい、透。水溢してるぜ?」

「んぉ? あっ!」


 ボケっと通りを眺めていた透は、松之介に注意されて手元を見ると、だらしなく傾けられた手のグラスから水がチョロチョロと流れていた。

 慌ててグラスを置くと、テーブルの上に視線を走らせて手元にあった布で机の上を拭く。


 ――ただ、今思えること。あれは人間業じゃぁないのよね。


「おいおい。全く大丈夫かぁ〜? 魔法なんて使ったから気力がねぇのか」

「あはは、そんなんじゃないですよ」


 リシアがアーウィンから視線を移してこちらに意地悪に笑いかけてくるのを、無難に愛想笑いで返しつつ、ちらりとリシアの様態も見た。

 包帯によって額の生え際から僅かに上に持ち上げられた包帯は、アーウィンが渡した髪留めによって右側を隠すような状態で下がっている。その銀髪の下で、右半分の顔は腫れているのだろう。


 あの時のリシアとアーウィンの衝突は、凄まじいものだった。

 透の目の前に飛びだすその瞬間に透の手から木の棒を奪い取ったアーウィンは、リシアの恐ろしいまでの狂気の乱舞を(ことごと)く往なし切り、僅かに彼女が一呼吸入れたその隙を突いて、残像にも見えない光速の一突きを打ち込んだ。


 動きは確かに一撃にしか見えなかった。でも、音は確かに連打の様な複数の打突音が聞こえたし、リシアさんの怪我も……。


 彼女の体には、包帯や切り傷の当て布に混じって更に湿布が張ってある。が、その全てが手足だけに打ち込まれていた。

 彼女曰く「彼女が本気で殺そうとする時は、手足じゃなくて体の中心部をつきまくる。真当な人間でなくとも一撃であの世逝き」だそうだ。


 彼女らが繰り広げる、高速の本の僅かな『ヤリアイ』を見ていた透は、そのままただ呆然と立ち尽くしていた。もちろん、向こうで戦っていた二人も、リシアの短く力強い覇気の連打に振り返り、その直後に彼女が吹き飛ばされたのを見て、それどころではなくなった。


 何しろ、今はこんなに元気だが、吹き飛ばされた直後はかなりの悶絶ものの様で、地面を二〜三度弾みながら転がった後、仰向けになって静止した彼女は、体を蹲せて苦しそうに顔を歪めていた。

 幸い、アーウィンが透と松之介の為に救急セットを持っていたので、すぐさま応急手当てを施す。包帯などを巻いているうちにリシアは痛みからか気を失っていた。

 急に静かになったことに慌てて街に戻ろうとしたが、アーウィンは、構わず続けましょう、と三人を制した。団員の方は顔が青ざめていて、アーウィンの提案を聞いて彼は目を見開いて狐に抓まれた様な顔をした。

 当然の如く団員は猛烈に反対して、あんな一場面を見せられた後にもかかわらず、果敢にもアーウィンに抗い、断固として町に連れ帰って安静にさせるべきだと言い張っていた。

 が、暫くしてケロッとした表情で起き上がった団長――リシアの一声に、彼は再び狐につままれたような顔をした。


「あ〜いいから、いつものことだし。それより、ソイツに負けたら次の給料の三分の二、私の懐の中な?」


 団長のありがた〜い命令(リシア主観)を聞いた彼は、途端に再び顔から血の気が引いて行くのが分かった。


 その後、再び開始させられた二人の試合は、最初はいい勝負であったものの、次第に団員の方の必死さが増してきて、それにあわせるかのように松之介の勢いが衰えて行った。

 最終的には松之介が負けたのだが、彼が戦った相手の団員、実は弓手で、しかも二カ月ほど前にスカウトされたばかりの新人だという。

 それを聞いて松之介は心底落ち込んだのだが、アーウィンががっくりと肩を落とす松之介の背中を優しく叩きながら、

「彼女がスカウトすることは、滅多にない程厳しい基準だから。それをクリア出来るほどの人なら仕方ないわ」

と励ました。

 一方で間接的にほめられた青年の団員は少々照れくさそうに微笑みながら頬を始終ポリポリとかきっぱなしだった。



「ま、話はもどるけどよぉ、……コイツも言うほどでもないんじゃないか? テラス」


 食事を済ませた松之介の肩を叩きつつ、眉間にしわを寄せて行った。その一方で松之介もやや不愉快そうに眉を(ひそ)めさせたが、目の前で目撃した透から、リシアの人間離れし過ぎた強さを聞いていたので、しばらくして諦めたように首を振ってアーウィンを見た。


「ふふ、彼らの成長の速さときたら。全く、鍛えるのが楽しいくらいよ?」


 松之介の行動が可笑しかったのかクスクスと笑みを漏らしつつ、一応にフォローを入れた。

 その点については俺も賛成だ。何せ、あんな動きが出来るとは……あれが出来るならオリンピックでどれほどメダルが期待できるんだと。……いや、言い過ぎか。実際のメダリストの方がもっと凄いだろうなぁ。


「でもなぁ、テラス」


 リシアがうんざりしたように首もたげつつ、クスクスと含み笑いするアーウィンに諭すように語りかけた。


「コイツが相手してた奴は弓兵だぜ? うちの団の中でもそれなりにしか体力がないヨワヨワな奴だ」

「……倒される覚悟で連れてきたんだがな。むしろ、うちの方が優勢だったとは……」


 そこで言葉を切ると、首を振ってため息をつきつつ腕を組んで椅子に凭れた。どうやら相当、楽しみにしていたらしい。その様子に、頬笑みを残しつつもアーウィンも笑うのを止めた。


「まぁまぁ。最初の彼を見ればそんなことも言っていられないわよ? そうね。トオルよりもはるかに弱かったかしら?」

「!? っげー、まじかよ」


 アーウィンが言った言葉に、バッと振り向いたリシアは不味いものを食わされたかのように顔を歪めた。


「ヨシヒサに至っては殺意全開で、魔力なしのトオルと対等か、やや彼の方が優勢といった感じだったの」

「完っっ全にっ! 一般人レベルじゃねぇか。……あんた、ココにきて大分平和ボケしたんじゃないか?」


 リシアが苦々しく言う言葉に、アーウィンが少しムッとした顔をした。一方で透たちも表面上はすました顔でいるが、内心少しずつ不愉快になっていた。

 むぅっと目を細めるアーウィンに慌ててリシアが誤って言い訳を付け足す。


「あ、いやわりぃ! ……けど、あんたが以前、槍の手解きをしたやつに比べると……」


 本気を出しても勝てるか分かんないくらい強かったなぁ、とリシアは右目をヒクさせながら空を仰ぎつつ呟いた。笑っている風を取り繕うとしているのだろうが、強張った笑顔()の表情からは悔しさが滲み出ていた。


「彼に関しては別よ」


 その様子を見つつ、アーウィンはため息をついた。そのため息の後にアーウィンが「仕方ない子……」と呟いたのを透は聞き取った。


「彼は元から体が異常なくらい丈夫で超人的だったし、槍の扱いも中々なもの。手ほどきというほど、何かしたわけじゃないわ」

「まぁそのことについてはもういいや。で? なんでこいつらにこだわるんだ?」

「貴女も話を聞かないわねぇ。鍛えれば、それに答える様にどんどん強くなるからに決まってるじゃない。昨日話した通りよ」

「それに……」


 アーウィンはそこまで言うとチラリと透を見た。


「まぁ、理由を挙げれば色々あるけど、興味深いのが一番ね。どこまで強くなるのか試してみたいの」

「はは……さすが強者のおっしゃることは、一般人とは違うね」

「あら?あなたも一般人枠から相当かけ離れているわよ?」


 純粋な笑顔で笑うアーウィンに、リシアはあきれ顔で力なく笑った。

 その一方で、意味深に言葉を切った後にこちらを見られた透は、自分が何かしたのではないかと急に心配になり、ふとプレイヤーという立場を思い出す。

 しかしながら……ゲームとは思えないほど自然に、ペラペラとしゃべるんだなぁ。もしかして、アーウィンさんもシリアさんも、プレイヤーという立場を隠して? でも、エルフィンさんとのつながりから考えると変だな。


 透はこのゲームに置いてのNPC(ノンプレイキャラクター)が酷く少なすぎるような気がした。

 だとしたら、この世界にNPCという存在自体が――いや。

 ふと、自分があり得もしない期待を抱いていることに気が付いた透は、冷静に首を横に振った。

 いや……街の人に関しては接点が少ないのでもしかしたら全員がNPCなのかもしてない。と、いうよりも、その方がごく自然だ。ここまでリアルに感じると、むしろRPGの基本である『聞きこみ』という動作も、して当たり前なのに、多少の抵抗を感じずにはいられない。

 いや、実際にはそんな意図はないだろうが、聞き込みをしてみれば、同じような返答が返ってくるはずだろう。

 自ら進んで接してくるような立場のキャラクターには、システム側から『役者』が振り込まれているというのが自然……かな。


 自分の出した、今のところ一番まともだと思える答えに、自分自身の回答だと分かっていても落胆せずにいられなかった。僅かに期待を抱いてしまって事もあり……全く。毎回毎回、馬鹿な自分に嫌気がさす、と透は苦々しい顔をした。


「――と、こうしちゃぁ居られねぇな」


 リシアがふと水晶を覗き込みつつ勢いよく立ちあがると、腰のポケットに手を突っ込んで何かを探り始めた。椅子がガガガッと引きずられる音でハッとした透は、驚いてリシアを見上げた。


「あら、どうしたの?」

「いやぁな。旅の準備を団員どもに頼んでは来たんだけどよぉ。ちょっくらあたしもお呼ばれしているようで」

「早いわね。もうここを発つの? ここに着いてからまだ三日しか経っていないのでしょう?」

「あ〜、西で野生化しちまったガーディアンの討伐にでるんだ。頭狂って近隣の町や村を荒らしまわっているらしい。最近腕の立つハンターが急に減ってきてるし、ガーディアン討伐を出来そうなハンターが、あたしらみたいな大がかりの奴らしか近くに居ないんだってさ」


 ポケットの中を一生懸命に探しているも、探し物が中々見つからない様子のリシアは「あれ?」と少々慌てた様子で逆のポケットを探し始めた。


「あら、ガーディアンくらいなら私にだって討伐出来るのに……こっちにはそんな依頼、まわってこないわね」

「ガーディアンくらいって……」


 アーウィンが変ねぇ、と呟いているのを眺めつつ苦笑した。


「この街の一部を除いて、大半のハンターをかき集めても、一体も倒せはしないぜ? ま、あたしらにしちゃぁ余裕なんだけどさ――おっ」


 ポケットから目当ての物を見つけたリシアは突起の付いた大きめのリングを取り出した。リングの直径は、腕環の水晶よりも僅かに狭い。載せるような感覚ではめ込んだリシアは、リングの突起部をぐっと押しこんだ。

 途端に綺麗な水色だった水晶が、染料を投げ込んだ水のように、色の煙を充満させていく。


「わるいな。さっきの奴に金を持ってこさせるつもりが、用件を伝える前に帰らせちまったから……」


 水晶が発光を止めて真赤になると、リシアは再び突起部を抑えつつ『ディグ・ランダスに』と呟いた。すると、水晶が一定周期で光の輪を放ち始める。


「ずいぶん小型になったのね。ハンターの水晶体を媒体にできるの?」

「ああ、最新型」


 アーウィンの感心した声にリシアがにっしっしと笑いながら答えた。


「ひとつ前のは相手の指定ができない為にハンターの役員しか使えなかったが……今度のは特定条件を満たした腕輪同士で相手を選択して会話できるんだぜ? 音声がかなりでかい出力なのは気になるところだが……。まぁ、最も? テラスは三つ、四つ前の魔力通信器しかしらないだろうけどな」

「結構、意地悪な言い方するのね」


 加えて卑しい言い方をするリシアに、アーウィンはむぅっと僅かに頬を膨らませつつ片目を吊り上げた。


「必殺技の応用技を食らわせた、その恨みだ」

「自業自得でしょう?」

「んじゃ、奢る立場からの優位的目線だな」

「貴方が口約束したのが原因でしょう?」

「……。」

「…………。」

「……わぁった、ごめん。本の出来心だ、悪かった」


 無言で睨みつけられるとやはりリシアも()が悪いらしい。と、赤く点滅していた水晶が、突然黄色に色が切り替わった。


『――はい、どなたですか?』


 途端に水晶から男の声が聞こえた。察するに、松之介の相手をしていた青年だ。リシアが急に空調を変えて悠々たる毅然とした声で答える。


「あたしだ」

『あ、団長――』

「出るのが随分と遅いじゃねぇか?」

『すみません、風呂に――』

「弓の手入れは」


 彼の言い訳を制して、矢継ぎ早に次の質問を投げかける。


『ずいぶん前に終わって、ついでに訓練をした後です』

「で、指導はユーグに?」


 途端に彼の声が止んだ。気不味そうな無音の沈黙が流れてくる。水晶の向こうで、彼はふと、おまけつきで、噂の人がいる方向を見ていた。壁があるだけだが、その幾重もの壁の先に恐らくいるはずだ。


『――い、いえ、ユーグ先輩はその、アシリスさんと忙し……いや、外に出ていきました』

「はぁ〜ん、一緒の部屋に居るのか」

『あ、いや、たぶん散歩なんじゃないかなぁ〜って……』

「お前はホントぉに、嘘が下手だね〜」


 段々と声のトーンが上がっていく彼に、ニタニタ顔全開でリシアが言うと、水晶から微かに彼の「グッ」と息を詰まらせる声が聞こえた。

 からかっている。確実に彼をからかって楽しんでいる。


『……お、おれはちゃんと散歩に言ったって報告しましたよね?』

「はいはい、女の勘ってことで、後でユーグとアシリスをちゃんと詰っておくからな」

『お願いしますよ。ユーグ先輩はともかく、アシリスさんがかなり怒りますから』

「へたれ色男の彼女は凶暴だからな。そこは私が(まる)投げ飛ばして(・・・・・)やるよ」

『……団長。円く『収めて』ください。アシリスさんも、一応に女性なのですが?』


 彼のため息交じりの答えに、リシアは愉快そうに笑いつつ首を振った。


「あいつを女って見ちゃいけねぇな。見れるのはユーグくらいだ」

『団長ってアシリスさんには手加減抜きですよね。他の団員には手を出したりしないのに』

「そうだなぁ〜アイツは例外的な奴だからなぁ……あ」


 顎に手を当てて不思議そうに言うリシアの目が透を捉えた。


「例外は増えていくものだな」

『……その例外は減らした方がいいと思います。扱いが酷いじゃないですか。暴力的で』


 ため息交じりに言って、『唯でさえ、強い人なのに……』と呟くのが聞こえた。

 その意見に賛成します、ディグさん。その例外は増えてほしくない。そしてその例外に入りたくない。あれほどこだわっていた透も、身の安全を確保するためなら、この際、他のことは考えなくてもいい、と思った。


「まぁ、突然投げ飛ばす奴なんざぁ男でもいないけどな。それにあたしより強い奴なんて結構いるぜ? ロインだってそうだしな」

『……いいです。強さの次元が違いすぎることにいい加減気づいてください』

「はは、お前も、ここ数週間で急速に態度が崩れてきたな」

『原因があって結果があるというか…………まぁ、それで? 用件が有って連絡をよこしたんじゃないんですか?』

「おっと、忘れてた」


 ポンと手を叩くと、アーウィンにわりぃわりぃと謝った。アーウィンは言葉で返す代わりに少し困った様な笑みで応えた。


「ああ、テラスの連れに昼食をご馳走したんだが、生憎、手持ちがゼロだからな。幾らかの金を持ってきてくれないか?」

『いいですよ。いくらくらいですか?』

「あ〜……」


 ディグの尤もな質問に言葉を濁らせたリシアは、助けを求める様にアーウィンに視線を移すと、仕方ないわね、といった感じで肩を下げると「三ゴールド七ウィックよ」と答えた。


「一ゴールド四七ウィックだそうだ。店は表通り沿いの食堂。宿と提携している食堂だからすぐわかるだろ」

『はい。……にしても、団長にしては結構少ないですね』

「当り前だ。あたしは食べてないからな」

『……そりゃぁ、あの怪我じゃ食べれませんか……では、持っていきます』

「ああ、テラスが居るから、彼女に渡してくれ」

「はい……」


 その言葉を最後に突然音が切れると、黄色い水晶が暗い赤色に戻った。

 リシアがリングも外そうと持ち上げると、丸で粘着物質に触れている様にゆっくりと引っ張りあげる。

 ずるずると中に溶け込んでいた突起部が赤色を吸い取るように形作っていき、突起部が水晶と離れる頃には完全に綺麗な水色の水晶に戻っていた。


「さてと。支払いの目途が立ったし、あたしもそろそろ行くな? ガーディアン討伐の後には、そこからすぐ近くにある港町でタコの化けもんの依頼が来てるんだ」

「ずいぶんと忙しいのね」


 リングをポケットにしまうのに苦労しつつ言うリシアに、アーウィンは目を丸くした。言葉の意味が僅かに理解できていなかった様子のリシアは、キョトンとした表情から天井の方へ視線を上げて「あ〜確かに」と頷いた。


「はは、最近腕の立つ奴がめっきり減ってるって言っただろ?」


 全く、魔物にやられるくらいならあたしの団に入れば良いのに、とぼやきつつ笑うと、ふと急に笑みを引かせて真剣な表情でアーウィンを見据えた


「だがまぁ……魔物に食われたって言うのが定説だが、噂だと実際はそうでないみたいだ」

「それについて私も聞いた事があるわね。でも、逃げだしたって言うのが相場かしら」

「――そうか」


 そう言って、身をかがめてアーウィンに顔を近づけると声を低くして話し始めた。


「確かに魔物が強くなってきているということも確かなんだが、その被害を上回るほどに謎の失踪が相次いでいる。戦場の端の方で起こるらしいんだが、先ほどまでいたと思われる場所には争った跡も残ってないらしい」

「それで逃げ出したって説の方が強いわけよね?」

「そうかもしれない。だが、ハンターってのは、プライドが高い奴がわんさかいるだろ? 有利不利を考える奴がいても、消えるのはどちらも関係なしに、忽然と消えるんだ――それにこうも考えたことはないか?」

「え?」

「新種の魔物かもしれない。だとしたら、相当厄介な――あんたに限ってやられる様な事はないと思うが……気をつけろよ」

「……ええ」

「――さぁてと」


 真剣な面持ちで返事を返すアーウィンに、黙って一度頷くと、急に口調を戻して起き上がり、ふぅっとため息をついた。


「あたしはこれで失礼するな。そこのお前たちも。アーウィンが特訓をつけてるんだから、次会う頃には相当強くなっておけよ?」

「リシア、貴女も気を付けてね」

「――ああ、うちは団で行動してるからな。ちょっとやそっとの魔物じゃぁ太刀打ちできんさ」


 アーウィンの僅かに緊張の張った表情に、ふっと、はにかんだ笑みを返すと、その銀髪を中に舞わせて店を後に出て行った。


「――新種の魔物、か……」


 リシアの後姿を見送りつつ、息をひそめる様に静かに呟いた彼女の言葉は、そばで会話の題目を探している二人の記憶にも、印象深く刻まれた。


 早速ですが、また大修整を致すことにしました(汗

 主に、前回の大修整後の話(23話)から今回の38話目までです。

 しかも、今回はかなり内容が変化してしまうかもしれません。話数が増えたり……

 計画的には、テストも終わって次のテストが始まるまでの間に大部分の修正を組んで、テストが終わってからまた残り修正を書いて、最終的にに一日で一気に修正後のものと差し替えるつもりです。



 それまでは更新速度を直して、次話から本筋に関係のない一話完結の日常的な彼らのお話になります。


 読んでくださっている読者様に多大なご迷惑を被ることになりますが、どうかお許し下さい。


 注意、指摘を下さった方々の意見をよく読みなおして、話のつじつまが合わなかったり等を無くしていきます。



 皆様、本当にご迷惑をおかけします(汗

――木霊

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