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僕らの旅   作者: yu000sun
37/43

34.ハンター協会支部 ロド

 33.ラス・ナイク「戦いの夜」別視点は、私の時間の都合から省かせていただくことになりました。

 先に予告をしてい置きながら申し訳ございません!

「……お前、今まで何してた?」

「え? あ〜……いや〜……」


 ――こ、怖い。まずは落ち着こうぜ?くーるぼーい。


 由久の凄みの聞いた不機嫌な声と、射殺すように鋭く座った目線がしどろもどろに言葉を濁す透をとらえる。

 今や、彼は透の胸倉をつかみ上げていた。


「き、気絶してたのかな?」


 透は一向に目を合わせられず、由久とはかけ離れた天井の隅に視線を投げかけつつ、答えた。


「気絶? ――ロインさんの号令がかかった時に、慌てて立ち上がってたよな?」

「ほ、ホントだよ!」


 由久のイライラが頂点に来ているかのように、透の胸倉を更に持ち上げると、慌てて由久の手を叩きつつ必死に訴えた。


「皆が居なくなった後、ホールの上から爆音が聞こえて屋根が崩れてきたの! それを見て急に意識が無くなっちゃって――」

「嘘をつくんじゃねぇ!!」


 ザワめいている会議室の中、由久の怒号が響き渡った。透は思わず固く眼をつむって、小さく悲鳴を上げる。


「崩れてきたのは知ってんだよ! その場に役員がいたから詳細も知ってる! 話だと崩れてきた屋根を全部吹き飛ばしたらしいじゃねぇか!」

「やめとけよ由久」


 さらに締め上げる由久に、松之介が横から止めに入っている状況だが、由久の力は一向に弱まる気配がない。むしろ、松之介の力に抵抗している分、更に力が加わっているような感じだ。


 ――松之介、絶対力抜いてるよ……


「嘘じゃない、ほ……ん……」


 ――ああ、なんだか唇辺りに違和感が出てきた。

 声が次第に弱々しくなっていく透の顔は、段々と青みを帯びてきていた。


「大事な時に、『ここで気絶してました』なんて通用すると思ってるのかぁ〜? 迎撃戦後の殲滅戦の時にも来なかったよな〜?」


 それでも由久は容赦なく揺さぶり、黒いオーラを纏って怒り狂った。

 ほぼ全ての魔力を使うアーウィンの強烈な一撃の後、すぐさま迎撃戦から、街の中に入りこんだ魔物の殲滅に移るのだが、これが予想以上に手こずっていた。人気のなくなった北側の街の至る所に魔物が潜みこんでいていたのだ。

 サーチャーと呼ばれる魔法使いと連携して、魔物の居場所を特定しては(しらみ)潰しに回っては倒すという事を、ハンター全員でこなしていたのだが、これがまた面倒で、地味さも含めて言えば、町内のゴミ拾いを丁寧に隈なくしていくボランティアと同じか、それ以上であったらしい。

 その所為で、由久は酷く機嫌が悪いのだ、と透はおもった。


「迎撃戦の時に、お前の魔法で一掃していれば……」

「――おい、こいつ死んじまうぜ」

「ん? あ」


 松之介の少々青ざめた表情を見て我に返った由久が、手の内に握る服を着た少女に目を移すと、だらりと腕を垂らして少量の泡をふき出していた所だった。


「げ……」


 ふらりと視界が揺れると、部屋の景色がぼやけた弧線を描き――


「――はぅ!?」


 しまったという顔をした由久がぱっと手を離すと、フラッと立っていた透はテーブルの方へ崩れていき左側の脇腹、肩、側頭部をほぼ同時に打った。


「大丈夫か透?」


 驚いた様子で松之介が声をかける。


「酷いよ松之介。ちゃんと助けてくれよ〜」


 ううっと呻きつつも口に垂れていた唾液をぬぐい、少しだけ恨めしそうな目で松之介を見た。が、その直後に横からゴンっと脳天を殴られる。


「うっ!?」

「ばぁか、調子にのんな」


 由久は冷たく言い放つと、素知らぬ顔で席に座った。痛む箇所をさすりつつ、涙目で由久を見ると、彼はなんだか気難しそうな顔になってじっと前を向いて黙っていた。

 それも当然だった。今回の戦闘で少なからず死傷者が出たのだ。無論、街の住人にも多数のけが人がいたが、幸運にも死人は出ていない。

 死者六名。その全てがハンター、しかも新参者だった。


 透は、言い返そうとした余りにもこの場に合わない冗談を飲み込んで、代わりに松之介に、ホールから出て行った後のことを聞いた。

 透は、扉の残骸が散らばるホールでただ一人佇んでいて、屋根が崩落してくるまでのその短い間のことしかはっきりと覚えていないのだ。

 彼にそのことを伝えると、由久が視界の端で透を咎めるように顔をしかめていた。


「ああいいぜ。――終わってみると、面白くも何ともないことだったけどな」


 彼は何とも後味の悪いといった顔で苦々しく言った。

 松之介からその時の話を聞いているうち、透はふと、嫌な何かを感じた。ん? と会議室に視線を動かしていくと、一瞬視線が合うも、サッと違う方をみる人がいる。

 ハッとして透はキリキリと心の内が痛むのを感じた。察するのは簡単だった。


 ……何が、破壊神だ。


 透は、夕刻の自分の態度が酷く滑稽に思えた。ただ飛んできた木片に運悪く頭をぶつけて混乱状態になって。

 挙句の果て、気を失ってハンター達が役所に集まってくる間、ずっと寝ていたなんて……。


 内側へ沈んでいく透の意識に、遠くから扉を開ける音、数人の足音が僅かに聞こえ、女性の声が浮き沈みして聞こえてくる。


 役所の人の話では、何やらすごいことをしていたらしいが……身の丈の倍はある長さの黒いボロキレを身にまとった『トオル』がそこにいたというのだ。

 だけど、それは確実に自分でないことは分かっていた。役所の人も、二度三度問い詰められると、段々とその答えは曖昧になっていき、最終的に『黒いぼろぼろの布切れを羽織った人が、落ちてくる天井の石材を吹き飛ばした』と言う事にとどまった。

 コロコロと変わっていく証言に、透は誰かが、と言うところだけは取りあえず信じることにした。


 透の意識の外では、話が進められていく一方で、彼の中では既に、籠った音程度にしか聞こえてこなかった。


 そうだ。誰かが、助けてくれたに違いない。

 そう、崩落していく天井をただ唖然として見上げていた時。天井に伴うように自分の意識も崩れる様に薄れていく時、確かに誰かの声が聞こえた。


 ……あれ? 何て言っていた?


 いつの間にか真っ暗な空間の中に居た透は、ふと足元が白いの光を放っていることに気が付いた。

 次第に明るさをなくしていく足もとに、驚きで後ろに体を引くと、揺れる水面に映り込むように、天井が崩落してくるときの光景が見えてくる。

 この時点で透はすでに意識を失いかけていた。だが、水面に映る像は次第にはっきりとしていく。


『コイツは、殺させない』


 その声は水面の奥から聞こえてくるようだった。籠っているようで、頭の中に響いて行く。黒い何かが水面の映像の端に見える。


『コイツは……僕が――』


 地響きのような雄叫びが聞こえ、水面が大きく揺れたかと思うと、ボコボコと暴れ始めた。歪む像の奥に見えるのは黒い何かが降ってくる岩と炎を粉々に粉砕していく。

 と、その黒い物が水面から飛びあがり、透を飲み込まんと水柱になって立ち上り――


「――透? 透!」

「ん? なに?」


 思考の中へ深くゆっくりと沈み込んでいた透は、松之介の声によって突如現実に戻された。後ろを振り返って松之介を見ると、彼は透に目を合わせた後、顎で透の斜め後ろ――会議室の中央当たりを差す。


「呼んでる」


 透が振り返ると同時に、潜ませた松之介の声が囁く。視線の先にはこちらを向いて手招きしているアーウィンが見えた。すでに由久はテーブルを乗り越えて歩いて行っているところだった。


「あ」


 その時、ハンター達がぞろぞろと会議室を出て行っていることに初めて気が付いた。会議室の中央ではこちらを向くアーウィンの後ろの方の座席で数人が座っている。

 状況を把握しようと頭を回転させていると、松之介が横長のテーブルを飛び越えていった。横をみると、今や透以外誰もいない。

 後を追いかける形で透も慌ててテーブルに手を付くと、ヨッと言った感じで飛び越える。

 着地してすぐさま松之介の隣に走り込むと、褐色肌の銀髪ショートヘアーの女性が顎に手を当てて品定めするように三人を見ていることに気が付いた。


「トオル、役所の人から聞いたのだけれど、気を失っていたのって本当なの?」


 顔を合わせた早々アーウィンは透の顔を覗き込むと、心配そうな顔をした。まるで、正気かどうか、尋ねられているような気がした。


「……はい」


 透は落胆した調子で答えてしまった。自分のことが余りにも下らな過ぎていた。日頃のあの強さは一体何の為だったのだろう? 


「ホールの屋根から爆音がして、天井が崩落してきたときに……誰かに助けてもらわなければ、俺は死んでいたと思います」

「? その人、今もここにいるかしら?」


 アーウィンが少し驚いた顔をしたかと思うと、すぐさま聞き返してきた。


「え、いえ。気が付いた時には役員の方に、隣の部屋へ運ばれた後で……」

「んじゃ、その役員か?」


 透が首振り答えると、褐色肌の女性が口をはさんだ。確か、リシア……て言う人でしたっけ?

 物言いが男らしいこともあり、椅子の座り方もまた片足胡坐で、胡坐にした右ひざの上に肘を据えて気だるそうに顎を支えていた。


「あの如何にも事務業務一本道みたいな男が目撃者なんだけど――」

「あり得ないわね」


 アーウィンに視線を移して肩を一瞬でも考えることなく彼女が即答した。


「まぁそれは後にしましょう。今、報告をまとめているところなの。あと少しで終わるから……」


 そう言って彼女は、会話を静かに眺め、聞いていた彼らの方へ向き直ると、これからの計画について色々と話し始めた。

 どうやら即席ながらも外壁と街の舗装作業を手伝うことも入っているらしい。幾らなんでも守ってハイ終わりではないらしい。


 二十分後、意外にもあっさりと終わった報告書のまとめは、アーウィンが町長の所へ持っていき、無事終了したようだ。

 宿屋に戻ってみると、大した外傷も無く(少し煤けたような黒い後があったが)お店側の方からのぞいてみると、人気のない店内は滅茶苦茶になっていた。


「客が慌てて逃げ出した後のようだな」


 テーブルはひっくり返り、足の氷見場がないほどに散らかった店内を見渡しつつ由久が言った。


 奥の厨房に入ってみるも、バラーザムはおろか、誰ひとり居なかった。不審に思った四人は二階に上がって隅々まで探していくと、屋上からエルフィンとスティルが降りてきた。

 エルフィンの方は少々疲労の色が強く、スティルはその介抱をしていて、物置部屋の前の彼女の部屋に連れていくと横にさせた。スティルの話では、レストランの周囲に被害が少ないのは、彼女が魔法によってこちらに落ちてくる火の玉を防いでいたことによるらしい。


「あ、はは。ちょっと疲れたかも」


 スティルに助けられて徐々にベッドに寝かされる彼女は少し青ざめた笑顔を作っていた。巨大な氷の壁を持続的に出し続けるのは、元魔法使いとして鈍っている体ではキツイ物があったようだ。


 バラザームとダットも程無くして帰って来た。

 暗くなった夜道を、ダットが鋼の槍を持って自分の家の方へ走って行く姿を窓から見た透は、バラザームさんは一体何を使っていたのだろうと思い、すぐさま下に降りて行ったが、その時には既にどこかにしまった後だったらしく、厨房の奥から廊下に向かって歩いてきているところだった。

 聞いてもバラザームはあまり聞かないでくれと顔を渋らせるばかりで、ダットに聞いてみるとやはり彼も困ったような顔を作った。

 それならばとスティルに聞いてみると、上から見た時には分厚い鉄板を背中に背負って走って行くようにしか見えなかったという。


「そんなことよりも」


 三度、透が聞こうとした時、バラザームが慌てて会話を中断させた。


「そんなことよりも、今日は酒場で飲み会をするって話じゃないのか?」

「ええ」


 バラザームが背中を逸らしてアーウィンに視線を送るとその意図を読み取る僅かな時間を置いてアーウィンが頷いた。


「そうなの。でもその前に、魔物を倒した分の清算をしに行った方がいいわね」

「あ、でも、指定された魔物の一部を持ってないぜ? あの魔物から牙を抜きとるのは相当面倒だったしな」


 由久が残念そうに首を振ると、アーウィンは心配いらないわと気楽に答えた。


「ロドに言ってお金に換えてもらいましょう」


 バラザームに一言、掃除を頑張ってねと手を振ると、三人を連れて外に出た。表通りに行くと、早くも修繕活動を始めた街の住人たちが松明の明かりの下、活気づいている。

 目指すロドは北西門通りにある少々大きめの建物だ。


「町からの依頼を受注中によって必然的に魔物を倒す場合、一時的に水晶のカウンターが一種類増えるの。魔物を倒せば通常のカウンターと同時にそのカウンターにも入るの。通常と違う点は二つ。ひとつはさっき言ったように一時的なものであり、依頼が終わればカウントもゼロに戻るの。

 もう一つは、倒した魔物ごとに詳細な情報に分かれるということ。どの魔物が何体と言った感じにね」


 三人はこれまで腕時計として使ってこなかったが、アーウィンが画面を切り替えているうち、水晶のはめ込まれた腕輪につまみ(・・・)があることに初めて気が付いた。


 その後、会話は透の嫌疑に移り、バラザームの武器、『クロさん』改めアルフォリアのこと、そしてサーチャーとガードナーについて話題が転がって行った。

 歩いている最中、道を見渡せば、無事だった街の住人が建物から崩れたレンガを使って抉れた道を修繕している。衝撃によって盛り上がってしまった個所はスコップを使って一度レンガごと退かし、平坦にしてから並べなおしていた。


「彼らは南側の大陸から来たのよ。ルビナはこの大陸でもっとも南の国だけれど、ここから南東の半島から点線のように所々が海で話された南の方へいく列島があって、南側に彼等が住んでいる大陸があるの――と、いい区切りで付いたわね」


 アーウィンが質問に答えているうち、四人はロドにたどり着いた。アーウィンを先頭に一列になってロドに入って行く最中、すれ違いに出てきたハンター達は、透を認識した途端、彼に白い目を向けてきた。

 形勢逆転とはこのことか。透は自分の不甲斐無さを情けなく思い、夕刻まで自分のことを恐れていた彼らの態度が一変したことに、ほんのちょっぴりの悔しさを抱いた。


 少しだけの悔しさと言うのは、元々透はこういった態度をされることを分かっていたからだ。それでも、実際にされるといい思いはしない。


 ロドの中は更に酷いものだった――透が歩いていると、足を引っ掛けて転ばせたり、後ろから耳元に嫌味を囁いたりしてきた――が、透は割と平然に耐え抜くことができた。

 ひとつはアーウィンがいることで、彼等が嫌にコソコソとしていなければならないことだった。アーウィンが振り返るたび、空気に散っていくように離れていった。

 もう一つは意外にも透の目の前を歩く由久だった。

 透が足を取られて転びかけた時、偶然、横を向いていた由久が視線の端で、バランスを崩す彼を見た途端、驚くほど俊敏に透を受け止めたのだ。


 身長が低くなっている透は、お礼を言うために顔を見上げると、透の後方へ恐ろしい形相を向けていたのが見てしまった。

 その後、前方から流れてくるハンターは透の顔を見る少し手前の所で、ふと意識を持っていかれるように視線を流すと、途端に移り変わる驚き慄く表情が見て取れた。

 由久がどういう事をしているか気付いた透は、背後を付いて行きながらショックを受けた顔をした。ここ最近、扱いが酷かった由久を思うと信じられないことだった。

 何かと事が起こるととても怒ったし、無ければ人をからかってくるほど。冷静な時には頼り甲斐があるが、日常的な由久は、今や友達と嫌な奴の間でふらついているような程、印象が悪かった。


 この時、透は改めて彼が友達であることを再確認した。由久は、時折こういう事をするから透は彼のことを憎みきれないのだ。


「よ、由久――」

「なんだ」


 お礼を言おうと、彼を呼んでみると思った以上に気恥かしい事に気が付く。お礼を硫黄などと思ったことをちょっとだけ後悔している間に、由久が眠そうな顔を横顔だけ振り向かせた。

 よ、呼んでしまったんだ。ここは意を決して――


「え、え〜と、お前、顔怖いよな〜……」

「――ほう?」


 思わず口走ってしまったことに透が頭の中が真っ白になって行く気がした。由久の眼が突如鋭い眼光を放つ。



「痛い……」


 やっと受付の順番が回ってきた時、涙目の透の頭には痛々しくタンコブができていた。

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