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僕らの旅   作者: yu000sun
33/43

30.役所へ

「……なぁ、由久」

「あん?」


 少し離れた場所でそれを見ていた松之介は、未だに痛む鳩尾をさすりつつ声をかけるも、帰って来た応えは、酷く不機嫌そうな声だった。

 振り向いて彼の方を向くと、由久は訓練に使っていた丈夫な木の棒を剣道で言う『正眼の構え』をしつつ、疑うように握りしめる両手をじっと見つめていた。

 透の様子がまた変わったみたいだ、と松之介は言おうとしたのだが、今の由久には、何を言っても毒舌に返されるに違いない。

 ……まぁ、それほど重要ってことでもないしな。


「――いや、何でもない」

「ケッ」


 少し考えた後、そう言って首を振ると、彼はかなり不機嫌そうに吐き捨てながら、木の棒を手に、北西の門へ歩いて行った。その後ろ姿を見ているうち、もしも今、彼に絡んでいく人がいれば間違いなく病院行きだろうな、と松之介は冗談交じりに確信を持って独りでに(うな)った。


「あら? ヨシヒサはどうしたのかしら?」


 いつもの調子に戻っているアーウィンは不思議そうに由久の後姿を見つつ言う。一方で、透と松之介は顔を見合って苦笑していた。二人は不機嫌の原因を、大方予想出来ていた。


「あ、もしかして私…」

「いや、あいつなら気にしなくても大丈夫ですよ」


 はっとして気が付いた様子のアーウィンが、気まずそうに言葉を尻すぼみに言いつつ、松之介が素早くフォローを入れた。加えて透も言いかけたが、ふと、由久の方も気になり、すると言葉は発されずに、開きかけた口を静かに閉じた。

 後で、何か励ましの言葉でも掛けてみるか?……十倍の量の嫌味で返されそうだけど。


 その後、由久の抜けた三人は残りの自由時間を少し気にかけながらも駆け足で宿屋に帰って行った。

 アーウィンはもちろんのこと。松之介も三人の中で最も抜けん出て運動能力があるスポーツマンと言う事だけあり、全然苦ではなさそうだったが、その点、透は松之介とかなりの壁をはさんで次に運動能力があるだけで、更には女の子の体になったという事がどういう意味か、彼は運動に置いて非力すぎるという点しか考えてなかった。


 力がないということは、その分体力も少なくなっていたのだ。


 二十分ほど完走して宿屋に着くころにはバテバテに、汗はびっしょりだった。頬には風にあおられて横から舞う髪の毛が張り付き、前髪の先から汗がポタポタと落ちていく。

 顔は真っ赤に紅潮し、熱を帯びた血流が耳鳴りのようにジンジンと駆け巡る。今や透は、前傾姿勢に肩を大きく動かしながら呼吸をしていた。

 鼻筋を通って滑り落ちる汗の滴が顎の先から離れて、石畳の地面に落ちていく。


「ぜー、はー、ぜー、はー……」

「透ってホント体力ないよな。これじゃぁ由久より体力ねぇんじゃねぇの?」

「ぜー、はー」


 言い返そうと睨みかけたが、キッと松之介を見た瞬間、体力が追い付かずになぜか涙目になり、口にたまりかけた生唾を飲み込んだ。松之介はやれやれ、と首振ってため息をつくと、腕を組んで宿屋に入っていく。


 ……通りを歩く人の視線が気になるなぁ。

 息を荒く屈みこんでいると、背中に来る人の視線が妙に感じる。


 宿屋の前についてすぐ、手伝う前に休んだ方がいいじゃないの?とアーウィンに聞かれたが、そのまま手伝いに行きますと言葉少なく言ってそのまま中に入って行った。

 厨房に入って行った透だったが、彼の瀕死の姿を見た瞬間、エルフィンはあっと声を漏らした後、慌てて裏の方へ押しやると、とりあえず呼吸が楽になるまで休んでなさい!と焦り気味に透に告げて、再び中に戻って行った。


「ま、――本音の所は――休み――たかった――から……ん、いいけどね」


 途切れ途切れに独り言を漏らしつつ、最後に口の周りに付いた汗を拭き取ると、階段を登って二階に歩いて行った。

 だいぶ楽になってきたが、やはり階段などのせまい空間にいると心なしか余計に息苦しい。透は心持はやめに階段を上ると、部屋の扉の前に立った。


 さすがに、このままだらしなく入るつもりはない。


 見栄っ張りな所が透に意地を張らせた。

 透は背筋を伸ばし、苦しくも呼吸をゆっくりと。三回行う内、次第に大きく深呼吸し、最後に勢いよく息をはっと吐き出すと、扉をあけた。


「あ、トオル――」

「……ん?」

「エルフィンさんに追い返されました」


 アーウィンが何か聞こうとする前に先に答えた。松之介の「……ん?」の意味はよく分からないので、とりあえずスルーしておくことにする

 中に入ると、アーウィンはテーブルの席に。松之介は奥のソファーの向って左側に居て、ちょうど席を四角形に見立てたら対角線上に二人は居た。

 どうやら彼と頻繁に話していたのか、そうでないのか。彼女の体はテーブルの横に、松之介の方を向いていて、その点、松之介は本を携えていた。


 ……本、逆様だけどな。


 松之介も茶目気のある奴だ、と心の内で細く笑んだ。透がそっと合図すると松之介は表情を変えることなく、本を回して何事もなかったかのように「ふっ」とため息をついた。


「でも、彼女すっごく慌ててたでしょ?」

「そう? ――ですね」


 松之介から声のする方に視線を移す。アーウィンに聞かれて、わずかに記憶の海にダイブした透だったが、その海はとても浅かった。


「なんだか、怒られてるくらいの調子で言われました」


 腑に落ちないといった困惑気味の表情で言いつつ、アーウィンの反対側の席に座る。整えてきた息が苦しくなり、軽く咳払いをする。


「『怒られる』、ね……ふふふ」


 透の応えにアーウィンが意味深に含み笑いをした。松之介の方を振り返るが、彼も意図が分からない様子で小首を傾げつつ、肩を上げてお手上げだといった感じの態度を示す。


「まぁ、いいわ。あと五分もすれば彼女も落ち着いてくるでしょう」

「あ、そういえば今何時ですか?」


 透は急に時間が心配になった。遅刻常習犯の透だが、時間を気にする方だ。ただ、面倒なことは嫌いなので、先延ばしにして遅れるのだが……。


「四時少し前よ。五十七分と言ったところかしら。余裕を考えるのなら四十五分くらいの時間があるわね」


 ふと、余裕を考えるとはどういう意味か気になったが、そのままも意味だ、と思って言葉を飲み込んだ。


「…じゃぁ、もうそろそろ手伝いに行きますね」


 幾分か楽になった透は、少々フラつきつつも立ち上がると、飲料水の入っている樽の所に歩いて行った。


「大丈夫? ――頭を強打してるんだし、無理しない方が……」


 シャワールームの扉を挟むようにある棚の片方からコップを取り出すと、水を注ぎ込む。

ガラスを通して感じる水の流れる振動や音、ひんやりとした物が心地良かった。


「大丈夫ですよ」


 振り返ってみると少々気兼ねした表情をしているのに気が付いた透は明るくそう、付け足した。思えば、アーウィンの表情はよく笑っているか心配しているか。そのどちらかの様な気がする。


「ん……、じゃぁ行ってきます」


 一杯の水を勢いよく飲み干すと、透はそう言って部屋を出て行った。



 その後、倉庫の端にかけてあるエプロン――役員の(すでに名前を忘れている)男に声をかけられた時にそこにかけておいた――をつけると、真直ぐ厨房に行って手伝いを始めた。

 店に入ると、バラザームは先程のゾンビの様な透を見ていたので、すぐさま声を低めて「大丈夫なのか?」と聞いてきた。


「ええ、大丈夫です」


 息苦しいのを我慢してにっこりと笑ってみせる。バラザームはぎょっと驚いた顔をしたが「逞しいな」と小声で言った後、わずかに笑んだ。

 手伝って暫くすると、店の忙しさに汗をにじませながら働いているエルフィンも漸く透の存在に気が付き、早速怒られてるような、心配しているのかよく分からない調子で声をかけられた。

 透は、すぐさま笑顔で「大丈夫ですよ」と答える。


「え、あ……そ、そうなの?」


 不意を突かれた様な、心配するような。それでいて嬉しさの色を瞳の奥に揺らがせる、きわめて複雑な顔をした彼女は、無言の人呼吸を置いた後、突然、倍速並みの速さで仕事をこなし始めた。

 その圧巻される仕事の手際の良さにお客さんどころか、透も含めたバラザームなどの店側の人間も驚きの表情を見せる。

 負けじと……と言うわけでもないが、透も少しだけペースを上げて手伝いをした。



 そろそろレストランを出なければいけない時間になる頃。

 四時二十分頃からエルフィンを休ませて、複雑な表情を浮かべる彼女の視線の先で一人働いていた透は、はたっと立ち止まり、腕に付けている水晶を覗き込んだ。

 怪訝そうに眉を(ひそ)めてその様子を見ていると、突然、透がエルフィンの方を振り返った。

 不意を突かれたエルフィンは咄嗟につかれた笑みを浮かべる。頬の筋が張って強張っているのを感じた。


「どうしたの?」


 込み合う店内を早歩きでこちらに向かってくる透に、エルフィンは不自然に明るい声で言葉を投げかけた。


「ええ――」


 透はその微妙な調子の不自然さに気付かずに腕輪を覗き込みながら受け答えをする。


「実はもう行かなくてはいけないのですが……」


 さっと視線を上げた先でエルフィンは感慨深げにそっぽを向いていた。もちろん、彼女に耳に、透のその言葉は届いていた。


「……エルフィンさん?」

「あ〜、そうなの?」


 聞いていなかったのかと思った透はやや目を細めて屈み腰の姿勢で聞いた。急に意識を取り戻したかのようにふるまうエルフィンに、このときばかりは透も彼女の不自然さに気が付いた。


「あの……もしかして、まだ気にして……?」

「……。じゃぁ――」


 透の質問には答えず突然立ち上がった彼女は、不敵な笑みを浮かべていた。透の顔からさっと笑んだ表情が消えて、色の無い『笑った形だけ』の顔が停止画像のように残る。


「早く行ってきなさい!」


 その言葉と裏腹に、エルフィンの両腕が風を切ってこちらに飛んでくるのを見た透は、さっと身をかがめて腕を掻い潜ると、俊敏な動きで人の多い店の中を、裏方の方へ走って行った。


「すみません、後よろしくお願いします!」


 奥の廊下に消える直前、一瞬立ち止まりつつ右腕を後ろ手に、彼女に向かって手を上げて明るく叫ぶ。


「……はーい!」


 数秒、黙っていたエルフィンだったが、突然ニッコリとはにかみ、いつものようにわざと作った声で可愛らしく答えて手を振った。

 その表情を見た透は、少しだけの安堵を感じつつくるりと回って、廊下の奥に歩いて行く。裏口の所で、(ふち)に寄り掛かった由久の後姿が半分見えた。


――なんだ。いつものエルフィンさんじゃないか!


 普段は癇に障るだけの声だが、あの後から一切聞くことの無かった透は、その声さえも嬉しさを感じさせてくれるものだった。安堵と喜びが、曇り空から晴れていく青空のように広がっていく。


「にひひ〜、待たせたな!」


 嬉しさのあまり、体の底から元気が湧いてきて、さらには発散元を求めて、透の心を上機嫌にさせた。

 壁の向こう側に寄り掛かって、不機嫌そうな後ろ姿の由久の肩を、思いっきり押し飛ばす。


「うわっ――う、なんだその気持ち悪い笑い方は……」


 卑しい。そう言ってもいいような上機嫌の表情に、由久は全身の嫌悪感を詰めた様な視線で透を見据えた。

 その視線と毒舌に、少しだけ幸福感が削れたが、それを上回ってまだまだ透の幸せパワーには余力があった。


「おお? 不機嫌なのか〜? 何があったんだ〜?」


 にへらにへらと、酔っぱらったおっさんの様な絡み方をする透は、ぐわっと腕を振るい、透より身長がやや高い由久の首筋に飛びついて肩に組みついた。不意に首に体重をかけられた由久は意図せず前屈みにねじ伏せられる。


「聞きたいのはこっちだ――ああ、ほら、由久が腕を噛みちぎる前に離れろ」


 松之介が半ば呆れているような口調で言う。

 今や由久の不機嫌さは臨界点を超える寸前だった。無言で歯を食いしばり、ギロリ見開かれた視線の先にある腕を、むき出しになったその尖った犬歯(けんし)が、今にも腕を捕らえて血しぶきをあげながら食いちぎってしまいそうだ。


「何があったの?」


 松之介が慣れた手つきで、透の両手首を掴んで引っぺがすと、アーウィンが含んだ笑みを顔の表情に溢しつつ言った。その様子だと大凡(おおよそ)の見当は付いているらしい。

 彼女は初めて武器屋であった時の様に朱色の鮮やかな鎧を着けていた。


「あのですね! エルフィンさんが、手を振って『はーい!』だったんです!!」

「……手を振って『はーい!』?」


 急き込んで言う透の子供過ぎる答え方に、二人は声をそろえて聞き返した。由久は「馬鹿が」という(けな)し文句を吐く。

 仲直りができたと思っている透の中では、今までもやもやとしていた霧が晴れて、心が陽だまりの中を跳ねまわっているかのようだった。

 説明するのも惜しいかと言った様子の透のが考え付いた、『最も短い説明』がそれだった。


 四人は街の中心部にある役所に行くために歩きだすのだが、透の上機嫌と対照的に不機嫌のどん底にいる由久は、二人を挟んで反対側にして歩くことになる。

 が、人込みに紛れて突然姿を消しては、由久をからかいにいく透に、毎回剣を抜きかける由久と、二人は止めに入るたび冷や汗ものの短い道中であった。



「さ、ここよ」


 少々汗の見るアーウィンは、見慣れたといった感じでため息と共に立ち止まり、三人に言った。

 役所の前には噴水があり、二つの大きな道が分かれている。彼女の話によると、これら二つの大きな道は緩やかなカーブを描きながら北西門と東門につながっているらしい。

 街の外から見ると中心に向かって段々と高くなっているこの街の中心部は、三人は最初、丘のようになっているのかと思っていた。

 だがしかし、実際は中心部の建物が段々と高くなっているからそう見えただけのようである。

 透たちの見慣れたビル並みの高さを誇るレンガと木造、そして所々に鉄板や鉄柱を入れた建物がいまにも倒壊する建物の様な、そんな不安を思わせた。特に、その建築物を構成するものと不釣り合いな高さの建物が、作りだす影がこちらに倒れてきそうな不安をあおりたてる。

 中世ヨーロッパの街並みにやっつけで付けた様なそれら鉄板等がとてもちぐはぐな印象を与え、そして不思議にも懐かしい気もした。


 四人は表通りから入るほそ道を使ってここに来たので、大通りの方は歩いていないが、あちらには宿屋が多く点在しているらしい。

 おもに役所に来る外からの来客、および重役などが目的の様だ。役所に立ち寄る者はハンターから役員か。そのどちらも多額のお金を持っていることが多いという認識があるようで、実際にそうであるらしい。


「ここまで立派なのも、町長のこの作戦が功を奏したかららしいわ」


 立派な佇まいを見せる役所の建物に、圧巻されている三人の脳裏には『国会議事堂の縮小スケール』と言う文字が浮かんだ。

 こっちよ、と毅然とした声で言うアーウィンに少々気負いしつつも三人が付いて行く。この街に似合わな過ぎる、豪かな建物の正面の巨大な扉を開けると、中は更に壮大なものだった。

 床はきれいに磨かれた大理石、壁は真っ白。石灰岩を加工したもののようで、そのざらついた壁に触れると、何かでコーティングされてあった。


「魔力を込められた特注の漆を塗ってあるらしいわ。何でも色だけは特上なのだけれど、質的にはあまり……表面を加工しないと指で擦っても、簡単に削れちゃうらしいのよ」


 広く壮大なホールを左に曲がりつつ、アーウィンが三人に説明した。

 すれ違う役員の人であろうか。女性の方が、アーウィンの後ろをついて行く三人を見て、一瞬ギョッとしていた。

 おそらく、ハンターが収集されているのを知っているが、まさかこんな子どもたちまでハンターなのか? と言った感じだ。

 透はそれに勘付いた途端、ふと自分を(かえり)み、そして急に自分が恥ずかしく思えた。

 由久と松之介はそれぞれ立派な武器を携えているが、透が持っているのは、紐で肩に掛けている細長い筒状の袋にしまわれた、通称『エルフィンさんの処刑木刀』であった。


 どんな風に言っても、所詮、木刀である。


 まっすぐと顔を上げてることも出来ず、松之介を挟んで右側に立っていた透は、顔を黙って俯かせる。


「ここね。さて時間は……あら、まだ四時五十七分ね。結構ギリギリかと思ったのだけれど――」

「十分ギリギリですよ」


 由久が即座に突っ込みを入れた。


「あ、それもそうね」


 おどけて言うとクスクスとアーウィンが笑いだし、それにつられて柔らかな笑いが起こる。ただ、透に限っては笑う心情などではなかった。

 透には武器がない。馬鹿にされるのではないか。それが気になって恐ろしく思えた。いや、袋から出さなければ木刀であることは分からないはずだ。


「それじゃぁ、時間が過ぎる前に入りましょうか」


 アーウィンが扉を開ける。開けるまでは気が付かなかったが、中は結構喧騒と話声が飛び交っていた。


 ――いや、無理があるな。こんな細いものじゃぁ、どちらにしてもおかしく思われる。


 急激にしぼんで委縮していく暗い気持ちで透は思った。アーウィンが扉を開けて入って行く。開け放たれた扉から由久、松之介と続いて行き…


 ――だめだ。ここでノロノロとしてたら、余計に注目される。


「はぁ……」

「「!?」」


 ため息とともに会議室に一歩踏み入れた瞬間、雑然とした室内で飛び交っていた話し声が突然止んだ。

 何事かと思って透は思わず「っ」と声にならない小さい悲鳴を上げて身をすくませた。が――


「……あれ?」


 中にいるハンターの大概に透は見覚えがあった。


 ――ヒント一、彼らは怪我を負っている。


 透のは急に可笑しくなり、口元が勝手に意地悪な笑みを作り始めた。


 ――ヒント二、そのほとんどが恐れている、または憎々しげな視線を送ってくる。


 透は抑えられない笑みを紛らわすために深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。だが、意地悪アンテナが忙しく稼働し、こらえきれない衝動が湧きあがってくる。

 透は部屋の長方形になっている長く広い会議室の奥の指定席に座る三人に視線を移した。三人とも表情はいろいろだが、何やら楽しんでいる様な顔をしている。

 やれ。透はそのように解釈した。そっと目を閉じて再び深呼吸する。


 さて、出来るかな?


 カッと目を見開いた瞬間、透の背後から突然、熱を帯びない山吹色の炎が勢い良く吹き出し、火傷しない程度の熱風がゴウゴウと音を発てて部屋を駆け抜ける。

 ハッと息をのむ音や、アーウィンのほかにもいる数少ない女性ハンターの小さい悲鳴、腰を抜かして椅子から落ちる者の立てる物音が同時に鳴り響き、急に騒然とした会議室もその五秒ほどで静かになった。

 一瞬にして翼と表現して言い様な火柱が消え去ったからだ。空中には名残としえパチパチと音を鳴らして火花が散っていった。


「――皆さん、こんにちわ」


 挑戦的な笑みを浮かべる透に、怪我を負った『挑戦者』組のハンターは一斉に後ずさりをした。

 これぞ『破壊神』の権限と言うものか。今まででは邪魔ものでしかなかった『破壊神』云われ名が、突然、良いものに思えた。


 やばい、楽しすぎる!


 透は先程までの心配など片鱗も残さず砕けさせて、満足そうな表情で部屋の一番奥の空席。会議室中の注目を一手に集める中、三人の待つ席の方へ歩いて行くと、透は三人にハイタッチで迎えられた。

 気分は逆転サヨナラホームランを打ったような気分だった。


 ――……打ったことないけどね。

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