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僕らの旅   作者: yu000sun
31/43

28.彼女の悪戯

 四日とずれましたが、前回、抑え目に出したので、今回は何時ものとおり8,000文字級のものに仕上がらせることができました。


 コメントやメッセージの力は絶大であります。

 ありがとうございます!


 タイトルの意味はこの話の最後らへんに出てくると思います。

 少しずつ、誤字や誤った表現が少なくなってきてるといいのですが・・・。

「珍しいこともあるのね?エガスラー・ペジェム」

 女性の、舐めるようなねっとりとした言い方に、男は(つら)をやや上向きに、見下すように見据えた。


「これはこれは…テラス殿」


 え?透は思わず頓狂な声をだしそうになった。女性の声の主が、あのアーウィンさん?


「貴女もここにいらっしゃったのですか」


 男は偏屈な笑みを浮かべた。だが、その眼は全く笑ってなどいなかった。口元もやや引き攣っているようにしか見えない。


「しばらく見ない間に少し大人びましたな?それに、記憶も少し飛んでいるようだ。私はエガスラー(・・・・)・ペジェムではなく、エグアルラ(・・・・)・ペジェムですな」

「あらそうでしたか?」


 ふふふ、と楽しむかのような調子の笑い声が聞こえてきた。だが、それは決して善意的なものではなかった。明と暗がくっきりと分かれたシルエットの中で、男のこめかみがヒクリと一瞬ひきつったのが見えた。


「私からしてみればいつまでも『腰ぬけエガスラー副隊長』ですけど、ね?」


 アーウィンが上目づかいに、彼女におよそ相応しくない卑しくニヤリと笑む。しかし、透にとって幸いか、彼からアーウィンの姿を確認することが出来ない。

 それが、彼には最高に屈辱的な言葉と態度であったらしい。

 エグアルラの顔が俄かに殺気立ち、小刻みに震え始める。彼は今や、ひどくクシャ曲げた憎悪の表情を必死で抑えるために、顔を引き伸ばそうと顔に力を入れているようで、無表情に近い状態でピクピクと震えていた。


「まぁいい」低く抑えた荒々しい声でそう呟いた。


「あの三日間、気が狂うような戦場を見ていない、お気楽、天狗な貴女には何も知ることはありませんな」


 必死の善戦が功を奏したのか、彼の赤くなりつつあった顔は、再びあの死人の様な冷たさが漂う青白さを取り戻していた。息を止めていたかのように勢いよく息を吐き出すと、まるで騒音の少ない掃除機のような音を発て、一度深呼吸をした。


「…私はもう次に行かなければなりませんな」

 冷静で、透に話しかけていた時とおよそ同じ調子で彼は言った。

「貴女の様な、暇な人間と!………ここで油を売っている暇はありませんのでね」


 しかし、透は決定的に違いすぎる感情を透は察していた。それは嫌悪の念に交じって彼の内に渦巻く憤怒の感情。落ち着いているようで、彼の眼はギラギラと燃えているようであった。

 暫く見下し調に睨みあっていると、独りでに閉まることの無い扉を限界まで開けはなって歩いて行ったエグアルラは、足音も荒々しげに階段を下りて行った。


「フン…何が役人よ!偉くなっちゃったものね」


 しばらく、その様子を見つめていたのであろうか、足音も聞こえなくなってきたころに、私服姿のアーウィンが盛大に愚痴を溢しつつ倉庫に入ってきた。

 透は彼女の姿を見た瞬間、自分の意志とは無関係にたじろいでしまったのを自覚する。


「――大丈夫?トオル君」


 透がまだ、エグアルラにいびられて、気がくじけているのだと思ったアーウィンは優しくそう問いかけながら、そっと肩を両手で支えながら透を立たせた。


「え、ええ…大丈夫です」


 何故か、透は無意識に視線を合わせまいと足もとに視線を落としながら頷いた。


 やはり、松之介や由久のように、簡単には割り切れそうにない。

 透はそっと溜息をついた。やはり、アーウィンやバラザームさん。ダットにエルフィン、加えてスティルや街の人々に接していると――つまり、ゲーム側に立っているであろう人物に接触するたびに、透はこの事を意識した。


 彼女らを架空の人物、プログラムの一つとして考えるのに、透は肯定(こうてい)していた。

 だが、実際にはその事実を受け止めきれておらず、なんとも中途半端な心構えで、それから生じる後ろめたさがあるのか、透はあの日以来、特にアーウィンとはほとんど視線を合わせようとしていなかった。


 エルフィンと違って、アーウィンは何事もなくふるまってくれているせいなのかもしれない。


 透が努力することも無く親しげに接してくることに、透は頭では分かっていても心のどこかで未だ彼女を含めて『プログラム』だと納得できていなかった。いや、透の裏にひそましている寂しがりやな性格がそのように願っていたせいなのかもしれない。


「さ、こんな所に居ないで――」


 彼女は、透が今、どのような事を考えるかなどと意にしないかの様に、するりと手を回して、透の右手を取った。その温かみを感じた瞬間、透はどうしようもない戸惑いを感じる。

 透は酷く傷ついたような、悲しんだ目でそっとアーウィンの顔を見上げた。どうして、そんな顔をしているのか、自分でもよく分からない。ただ、酷く切ないことだけは確かだった。


 アーウィンは彼の視線に気づかず、薄暗くランタンの明かりに照らされる倉庫に視線を移した。うっと煙たそうに顔をしかめる。透ははっとして、無表情を繕った。


「…ホント、『エガスラー』ね。あの人」


 そう呟いて、急ぎ足で廊下に出る。新鮮な空気を吸った途端、倉庫の中は、窓が塞がれたことでより一層埃っぽく、淀んでいたことを鮮明に理解した。


「あんな空気の淀みやすい部屋で窓をふさぐなんて。しかもよりによって絨毯?」


 扉の取手に手をかけ閉めかけた際、窓に被せられた絨毯を見て、ふんっと軽く鼻で笑う。険悪というよりも、彼女はあのエグアルラと言う男のことを馬鹿にしているようであった。


「全く…大体、あの男は一体、何の用事でトオルちゃんに――」

「あ、あの…」

「え?なに?」


 少し不機嫌そうに顔を歪ませていたアーウィンは、スイッチが切り替わったかの様に見事なまでの速さで笑顔になった。

 途端に一瞬だけ、透は「うっ」と声を詰まらせた。『スイッチが切り替わったかのように』と透は連想したが、その言葉が胸に細く刺さった。

 どうしたのだろう…嫌に感傷的じゃないか。


「ん?どうかしたの?」


 アーウィンが透より、少し視線の高い所で小首をかしげた。顔が直視できそうになかった透には、穏やかに作られた微笑む口が印象的に見えた。

 はっと顔を赤らめて、なぜか透の感傷的な気持ちが一瞬にして反転した。


「え、いえ…――実は、話の内容が町からの依頼だったんです…」


 今度は気恥かしさから、モゾモゾと口籠らせながら言った。考えなくともアーウィンは容姿端麗、美女…と呼べるクラスの別嬪(べっぴん)さんだった。

 口籠りながら透は、自分はなんて単純馬鹿なんだろう、と思い、そして、いや、男はこんなものなのかも知れない、等とも思いたくなった。


 突き当りの廊下を左に曲がる…。階段と透たちの使っている部屋に行くには右に曲がるのだが、透はあえて何も言わずに、手を引かれるがままに歩いた。

 少し歩いてさらに廊下の角を曲がる。こちらの廊下は、採光するための窓が一切ない廊下なので、昼間でも夜と同じく、ランタンに明るいオレンジに揺れる灯がくべられていた。


「依頼?…あ、ハンターの!」


 アーウィンが狼狽した様子で目を泳がせていると、透の右手首に視線が止まり、納得したように指を(はじ)いた。今は腕輪をつけていないはずだが…どうやら、いつもは付けているので、それを手首で連想したらしい。

 透は、肯定の意をこめて愛想笑いを取った――つもりだったが、うまく作れなかった。

 今さらながら、美人相手と言う委縮する自我と、『プログラムである』という持論を受け止めようとしながらも切なくなる気持に挟まれ、透の笑顔は困ったような泣きそうな顔になる。


 ふと、三つ並んだ部屋の一つの一番奥の部屋の前で立ち止まる。この扉だけは角と通路の間に張ったような斜めになっている壁にあった。


 入るように促そうと振り向いた瞬間、初めて透が歪んだ笑みをしていることに気が付いたアーウィンは 「あ、いえ――貴方がハンターだってことを忘れていたわけじゃないのよ?」 と慌てて手振りに付け足した。


 途端に「忘れていたんですか」と冷めた調子で透が切り返す。墓穴を掘ってしまったことに気が付いたアーウィンが申し訳なさそうな表情になった。

 その表情を見て、事後報告のような形で今の状況を理解した透は、良くからかいの冗談が言えたものだと、自分でも驚いた。


「あの…ごめんなさい。最近、あなたって外に魔物を狩りに行かないじゃない?つい、忘れてしまう時があるのよ…」


 『つい、忘れてしまう時がある』その言葉に少しだけ透の気持が軽くなった。そうだ。忘れていてもいいじゃないか。どちらにせよ、自分の態度を変えようなどと思わない。

 幾ばかスッキリし始めた透は、この事はもっと後になってから、考えてもいいじゃないか?と解決半ばに、頭の隅に押し込めた。


「…ええ、別にかまいませんよ」


 透は今の心を映したかのように穏やかに笑った。何時もとは違ってどことなく哀愁が漂っている笑みで。

 アーウィンは、一瞬意表を突かれた様な、驚いた顔をしたがすぐに取り繕い、不思議と安らいだような雰囲気のある笑顔をした。

 と、途端に表情を元に戻す。


「さ、中に入って。仕事の依頼が来たのなら、その内容を聞いてみたいの」


 透は、立ち話で済みそうな内容だ、と彼女に言うも、彼女は一貫して部屋に入るように勧めた。それで透は、実は彼女自身、積もる話があるのではないかと考えた。 改めて促されると、透は軽く頭を下げて「おじゃまします」といって、部屋の中に入った。

 ふと、押し込めたはずの悩み事があふれる様に透の意識の中に入ってくる。


 ――積もる話。これはおかしい表現だ。だって相手はプログラムなのだろう?

「………」


 部屋に入って二〜三歩歩いた後、凍りついたように立ち止まる。


 ――入手すべきであろう必要な情報だ。それ以外に何が…『うるさいっ!』


 無言のままその邪魔な考えを、無理矢理意識から弾き飛ばした。いやにはっきりした声の様な気もしたが、そんなことはどうでもよかった。どうであれ、透にとって邪魔であることに他ならない。


「――ん?どうしたの?」

 扉を閉めて振りかえったアーウィンが頭に少し驚いたかのような口調で言ってきた。透は俯かせ加減に少しだけ顔を横に向けると、

「え、いえ…。何でもありません」

と、自分でも驚くほど冷静な声で応えた。


「そ?ならいいけど…。それじゃぁ、そこに座って……」


 その姿勢のまま、立っている透の肩に手をやると、そっと連れ込むように、部屋の真ん中に置かれている、円形テーブルに促した。

 テーブルは透たちの使っている円形テーブルと同じものに思える。

 部屋は、ちょうど長方形の部屋を二回、四五度ずつ折り曲げた様――正八角形の四分の一を切り取ったような部屋だった。

 扉の位置があのようなものであったのもうなずける。透たちの部屋よりも大きく開いた窓は、壁から出っ張っているように見え、外から見ると丁度四角い部屋にある、一風変わった窓にしか見えない。


「他の部屋とは違って少しばかりデザインが違うでしょ?」

「そうですね…」


 思わず進められた席から歩みを進め、そっと呟くように答えた。アーウィンはその声と、自分の部屋の様子を照らし合わせ、透が呆れてるのかと思い、しまったと小さい声で漏らしつつ苦笑した。

 だが透は、改めて細々と部屋の中を見渡し、この部屋にどことなく安心感を抱く。


「ふふふ、すごいでしょ?部屋の片づけをしてる最中だったのをすっかり忘れてたわ」


 しまったという割には、彼女の口調はそれほど気にしているように思えなかった。


 ――雑然としている。そして、部屋はなぜか薄暗い。原因は大きく開け放たれるも、部屋より少し離れている窓と、その窓意外に窓がないことのせいだった。加えて、この部屋が北向きだった事もあるだろう。

 部屋の形式や、部屋を構成しているものは全く違う事ながら、部屋の雰囲気(・・・)が透に懐かしさと、安堵感を与える。

 そう、この部屋は透の住んでいた部屋に雰囲気だけが似ている。


「…それじゃぁ、私の部屋を眺めて呆れるのは止めて、本題に入りましょうか?」


 恍惚とした物耽りから現実に戻って、静かに、はい、と頷くと透は振り返って勧められた席…正面にアーウィン、そしてその肩越しに扉の見える席に座った。

 そっと彼女が立ちあがって、天井から垂れさがる何かを弄っている。

 だが、透にはそれよりも注意をひくものがあった。彼女の脇腹越しに見える扉の、蝶番のついている側――入る際の死角にはアーウィンの槍が立てかけてある。

 刃の部分には布が巻かれていて、柄と刃を繋ぎ止める所あたりできつく紐を縛ってあった。


「明かりをつけると余計、散らかってるのが分かるから、このままでもいいかしら?」


 槍をぼんやりと眺めているとアーウィンが上から少し戸惑うような様子で問いかけてきた。ふと顔を上げて彼女をみる。薄暗い所為か顔の輪郭がわずかにぼけていた。


「え、別に俺は散らかっていても別に気にしませんよ?むしろ薄暗いままだと目に悪いですし、つけた方がいいと…」


 そこまで言いかけて透は、はっと口を止めた。見られて嫌なのはアーウィンの方だ。そこは素直に「ええ、別にかまいません」と答えるべきだったと後悔した。


 が、アーウィンはクスリと笑うと、

「そうね。そう言ってくれると思ってたわ」

と可笑しそうに声の調子をわずかに浮つかせながら再び上から垂れさがる物をいじり始めた。しばらくも待たない間に、シュボっと音が鳴り、明かりが灯る。

 オレンジの暖色系に照らされる部屋は確かに思った以上に散らかっていた。服はそれほど落ちていなかったが、紙やら道具やらがところどころに転がっている。

 よく踏まなかったものだと、思いつつアーウィンを見上げた。

 すると驚いた事に、ぶら下がっていた電球型のランタン――これは予想していた――の上の方にさらに円を描くように配置された、地味なシャンデリアのように火をともらせたランタンが輝いていた。


「この部屋は特別薄暗いから…。こんな感じに照明だって一味違うのよ」


 アーウィンは得意げに自慢するような感じに言った。そうですね、と透も笑みを返しながら頷く。

 それからすぐ後、度々一人称が変わる透に楽しげに質問攻めをしたのち、思い出したように透が依頼の内容を切り出し、終わった後もアーウィンが色々と雑談を持ちかけてくれ、会話は順調に弾んでいた。

 透は、仮にだが自分の考えを一度清算(せいさん)し、アーウィンと接する心構えを持っていた。しかし、それでも遠慮というか、戸惑いが切り離しきれていなかった。なので、アーウィンが自分から話してくれることに、とても感謝した。


 やがて、再び彼の一人称の話に戻ると透はあっと声を漏らして立ち上がった。


「そうだ!まだ店の手伝いの途中だったんだ…」

「大丈夫よ。エリーが全部引き受けてくれるそうだから」


 慌てる透を宥める様にアーウィンが伝えた。


「でも、エルフィンさんに迷惑掛けるわけには…今日は僕が当番ですし…」

「ふふふ、公私分けるのね。さっきまで『俺』だったのに、突然『僕』?」


 テーブルに寝る様に、外側に逸らした腕に頭を乗せ、上目づかいにいたずらっぽくアーウィンが言った。

 ふと、透はこれが()の自分に対して言われたらなんて素敵な響きなんだろうと思った。

 時たまに昼のドラマなどを見たりしていた透は、どことなく愛人…な香りを思わせるような言い回しに、じれったさを覚えた。

 残念ながらアーウィンはそんなことを意識しておらず、むしろ女友達として、ふざけて言っているに違いない。ほら、アーウィンさんの目つきが、なんとなく楽しんでるよ。


「…エルフィンさんの入れ知恵ですか?」


 透はため息交じりに聞いた、そんな心の隅では、今では普通に接することができていることに、『(たぶん)ミス・アーウィン・ル・テラスの会話術、略してテラスマジック!』などと冗談交じりに笑っていた。


「あら?赤面して慌てふためくって聞いたのに…ヨシヒサから教えてもらったのよ」


 少し残念そうな顔をした後、細く笑んだ。残念そうな顔をした瞬間のあどけない顔を見た瞬間、透の顔は一瞬にして上気したのを感じた。

 アーウィンは「あ、時間差で効果が出るの…」などと不思議そうにつぶやく。透は由久の奴め…と思いつつ、感謝しようか恨もうか悩んでいた。

 おそらく、彼女は自分からあのような行動はとらないはずだ。なら、今のは意外にレアものなのでは?


「でもまぁ…あと少ししたら――」


 体を起こしたアーウィンは片腕を伸ばし、もう片方の腕で伸ばしている腕の付け根――肩より少し上の部分を掴んで伸ばしつつ、切り出した。

 気持ちよさそうに小さく唸りながら、顔は少し痛みに耐える様に、うつむき加減に片目を強く瞑っていた。


「二人を呼びに行きましょうか?夕方の会議には二人も参加しなくちゃいけないでしょう?ハンターなのだから」


 ふぅっとため息とともにストレッチの型を解くと、欠伸の出そうな声で言った。あともう少し、と言う言葉に透は無意識に腕輪を見ようと右腕を顔の前に持ってくる。

 だが、今は腕輪をつけていなかった。


「今は二時半ちょっと前ね。二時四五分になったらここを出ましょうか。一時間と十分あれば、例えあの場所にいなくても見つけられるでしょう」

「あの場所?心当たりがあるんですか?」


 彼女の言葉に、透は怪訝な表情で聞き返した。アーウィンは少し、言おうか迷ったのか「う〜ん」と唸りながら腕輪に視線を落とした。立った少しの間、黙って考えると、急に身を乗り出して


「――ええ、あるわよ」

「ふぇぁ?!」


 驚いてわずかに頬を上気させ、硬直する透の耳元に、声をひそめたロマンチックな声で囁いた。不意を突かれたお色気攻撃に、透は思わず勢いよく身を仰け反らせた。と、勢いが殺されてテーブルに戻――らずに、僅かに肝を冷やす浮遊感が透の頭の中を真っ白にさせる。


「!?――あ、危ない――」

『ゴン!!』ガッシャーン!!


 アーウィンの慌て驚く表情が見えたのが最後の瞬間に思えた。急に速度を速めた世界は窓から差し込むわずかな光を線にさせて、次の瞬間には後頭部に金属の強い衝撃が透を襲った。


「うぁあ〜……」


 痛みに、無意識の内にうめき声が漏れる。

 後頭部を強く打ちつけて意識さえ朦朧としている透は、アーウィンのが言葉かけてくるも、音としか捉えることができずにいた。

 体も動かせない中、暫くしたのちアーウィンの腕が透を抱きかかえて、いつの間にか背負われているのを、微かにつなぎとめている意識で感じ取った。

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