20.魔法 後編
今回は1.2万文字と結構多めです。
疲れないために工夫を凝らしたつもりですが…いつもと変わらず、一向にスローペースで旅に出る気配がありません。
さ、三十話までには街を出たいです。
透は、アーウィンを正面にした椅子に座った。由久とエルフィンは、それぞれ自分たちは、おまけで座っているということを自覚しているのか、少しだけ椅子を引いて眺めているような形を取っている。
由久もプレイヤーなので、幾らか関係はあるはずだが…チームプレイにおいて役割分担を尊重する彼にとっては、聞こえる分は聞くといった感じだ。
『それじゃぁ、説明し始めたいけど――その前に魔法について知っている範囲内で説明しましょうか』
彼女の一言で目の色を変えたのは透は、膝に置いた右手を思わず握りしめる。先程までエルフィンに対して色々と気遣っていたことも忘れて、腹の底から湧きあがってくるものを噛みしめていた。
アーウィンは、透の挑戦的な笑みにさえ思えるその表情をみて、少しだけ苦笑いをした。
彼女は、最初に魔法の種類について教えてくれた。
前振りに『魔法にも種類があり、それは地方によって多少の違いがある』と言われた。よって、『主な』という表現に留まるが、魔法には三つ種類別が出来るというのだ。
ひとつは『魔導』と言われる手法。大陸中で最も使われている魔法の一つで、触媒を用いて精霊に働きかけ、その精霊の眷属に当たる現象を起こさせる。触媒でも最も一般的なのが、書物に特殊な文字がつづられた「魔本」だそうだ。
本来、魔本は自ら作るのがセオリーだったのだが、近日では『精霊使い』と呼ばれる魔法使いが、使役させている精霊と同じ眷属の精霊たちと共通して使えるように書かれた『魔導書』を生成して、売られるようになったことから微弱な魔力しか持ち合わせていない者も、魔法を使えようになった。
とは言え、微量の魔力を持っている人間だけでも大陸全土から考えるとそれほど多くない。
「あ、でも――今まで自分で作るって言いましたけど、どうやってですか?」
魔本が作られたことによって『魔導』系の魔法使いが増えたという結論を言ったところで、透が不思議そうに聞いた。
その顔を見て、アーウィンがとても驚いた顔をしたので、どことなく遊ばれているのではないかと心の隅で思い始めた。
「えっと――もともと、魔導というのもね『 魔 力によって、精霊を 導 き出し、力を行使する』という意味の言葉なの。最初は『魔精導』って言われてたらしいけど…いつの間にか『魔導』と呼ばれるようになったわね」
「…え?」
「ちょ、ルーさん。主旨が違うわよ!」
後付けで説明されるような事柄が返ってきた透は、少し戸惑った顔をしていた。エルフィンが横から肘で小突く。
「え、あ――どうやって魔本を作るのかだったわね!ごめんなさい」
顔をほんのり赤らめて謝るアーウィンを目に、透は、何気なく由久の方に向き直ると、グッと親指を立てた。年上ですけどとっても可愛いです、アーウィンさん!
「魔導の由来にでも言ったとおり、魔導と精霊使いは同系統の魔法使いで、魔本を作り出すのは、精霊との会話を経て魔法を行使するよりも、魔本に手を当て命令を限りなく要約された『言葉』によって術をなすためなのよ」
「???」
透の頭に、沢山のクエスチョンマークが現れた。
「要約すると、魔導系統の魔法使いは、それはも、長ったらしい手順を踏んで魔法を使うんだけど、魔本を使って――て、また違うじゃない!」
露骨に困った顔をした透に向かって、エルフィンが話をまとめてくれようとしたが、話の内容が、また的を外していることに気が付いた彼女は、大いにテーブルを叩いてアーウィンを見た。
言われて驚いたアーウィンは、「あ、あれ?」などと言ってごまかそうとしている。
「どうしたの?さっきから、ルーさんらしくないわよ!?」
「ま、まぁ、いいですよ。それより早く本題に戻りましょう」
透は、愛想笑いをしながらエルフィンを抑えた。彼女は、話がじれったく逸らされるのが嫌いらしい。アーウィンの主旨の外し様に、大変怒り気味だ。
「本当にごめんなさい――魔本を作るためには、精霊の魔力を注ぎ込んだもので、文字を記す必要があるの。本であればインクだし、物に刻み込むのであれば、彫り込むための道具に魔力をこめる必要があるわ。
でも、その魔力は当然、精霊の魔力でなければいけない。つまり、魔本を作るのは、精霊使いが前提なの。でも、精霊の魔力が込められた魔法は強力で、火の粉ひとつ発生させるのが精一杯の魔法使いでも、巨大な火柱を上げることができるわ」
「…じゃぁ、アーウィンさんの槍には何の精霊が付いてるんだ?広い刃の部分に文字が刻んであったのを見たんだが」
横で黙っていた由久がぶっきらぼうに聞いた。彼は黙って傍聴を決め込むと思っていた透は、眉間に皺を寄せて由久を見る。
アーウィンは、彼の問いににこっと笑いかけて「いい質問ね」と答えると、「槍を持ってくるわ」といって部屋を出て行った。
「…わりぃ。つい気になったから」
『見る』から『睨む』に変わった透の形相に、目を逸らしながら由久が不愛想に答えた。彼の額から冷汗が一筋流れて行く。話しが中断された透の中では、抑えていた好奇心が呻いていて、中断された原因の由久に激しく敵意を抱いていた。
キシャーッ等と奇妙な声を漏らしながら、今にも跳びかからんとする透をエルフィンが必死に宥めていると、アーウィンが早くも戻ってきた。小走りしてきたようだ。
「ヨシヒサくんの言ったのはこの文字ね?」
アーウィンが胸のあたりまで持ちあげた刃に彫り込まれた謎の文字を指差しながら言った。由久が頷く。「そう」と言って笑うと椅子に座った。
「彼の推測は惜しいわね――これは、ちょっと違う代物なの。魔力が込められているのだけれど、これは人の魔力で、属性付加はないわ」
槍を左手で地面に突き立てながら刃が見える様にしつつ、手ぶりを加えながら言った。
「人の魔力は、精霊のそれとは比べ物にならないほど、力がないの。でも、細かい魔力の指示ができるのよ。たとえば、魔力を高圧に放出して攻撃をするとき。そのままでは、放出する分、魔力は留まらずに勢い良く外気に拡散していくわ。そんなものを当てられても、少し強めな風が吹いて行くとしか感じないわね。
でも、この文字には、記された規則に従って魔力にあわせて形状を定めるという事が出来るの。
最後にまた説明するけど、これは『具現化』の能力に近いことで、何もなしでこれを成せる人は――本当に稀ね」
一瞬だけアーウィンが透に目配せさせた。自分が、しっかり聞いているのか確かめるためだったのだろうか?などと、鈍感な透は思っていた。
続いて話題に上がったのは、『精霊使い』という系統だった。これは辺りに満ちる魔力と精霊を感じ取り、魔法を行使する。
その程度は自然現象を自らの手で起こさせたるところから、炎を竜に 水を刃にと、自然現象ではありえないことまで出来る。
「それって――『魔導』使いとどう違うんですか?」
一瞬聞くのをためらうも、質問する透に、アーウィンが腕を組んで眉間にしわを寄せながら唸った。
「えーっと…系統は変わらないわね。ただ、最近では『魔導書』が出回るようになって、精霊と交信することさえ出来ない者たちでさえ、魔法使いに分類されるようになったから、それと分類するため。と、説明した方がいいかしら」
「………要は、自分で魔本が作れないような弱っちぃ魔法使いと一緒にされたくないから、できた種類と言った感じね?」
アーウィンの説明にエルフィンが要約した内容で聞き返した。
彼女は「そういうことね」と笑い、
「ついでに、古めかしい言葉で精霊に命令を与えるところが精霊使いね」
と付け足した。
魔力が微弱なのが主に『魔導』で強力なものになってくると『精霊使い』と呼ばれるようになる。全体をひとくくりに『操作』と呼ぶことにした。
二つ目の系統『詠唱』系。この説明を聞いて透は、これこそ魔法だと思った。
詠唱系は、この大陸出身者に扱えるものはいないものの、西の島国グラザード出身者に見られる魔法で、操作系のものとは違って、精霊と関係なしに魔法が使えることが一番の特徴だ。
詠唱する言葉も、精霊使いは古めかしい言葉で精霊に頼みこむような形で使うのだが、彼らは、不可解な魔法専用の言葉を使い、魔力を操るのだ。それによって、行使される魔法は、生活に密着したものから、闘いまでとても幅広いものだといわれる。
そして、その触媒に棒状のもの。主に杖などを使のだが、言葉にあわせて振るう姿に『指揮者』に見立てて、グラザード出身者は音楽家が多いなどと言う可笑しな噂がある。
「実際に会うためには、大陸の北西部のツウィザーという国に行くしかないわね。グラザードに最も近い港町、コルトナの展望台からは、グラザードの島国が見えるという噂もあるくらいよ」
その口ぶりに、アーウィンさんは行ったことがないのかと聞くと、首を横にふり、
「展望台と言っても、今では立ち入り禁止なの。魔物が住まい始めていて、ほとんど近づけないのね。狭い塔内で強力な魔物が一杯いるから、私も遠慮しておいたの」
と言いつつ、槍を指差した。
「槍は、室内だと何かと使いにくいか…」
ふと漏らした由久のつぶやきに、アーウィンが苦笑いした。特に、なぎ払う形状の槍なので、振り切ったところで壁に突き刺さることが頻繁に起こるらしい。
「さて、話がそれたけど――いいかしら?」
「あ、はい。お願いします」
雰囲気を変えて意味深にこちらを窺うアーウィンに、少々どもりながらも透が頷いた。
彼女は、透の了承を確認すると、一度テーブルに視線を落とすとため息をする。しばらく、黙りこんだ後、言葉を選びながら口を開いた。
「先ほどちょこっとだけ出たけど――三つ目の魔法は、『具現化』――一件、どの魔法にも具現化の要素は含まれてそうだけど…これは――純粋に名前の通りの能力ね――…ハッキリ言って、この種の魔法を使える人は本当に稀で――あまりの少なさに、一般の人々からは、魔法使いとさえ思われないこともあるわ」
その時、透は初めて、アーウィンの一連の行動がどういう意味か分かった。
「俺が………具現化系ということですか?」
「ええ。恐らく――というよりも、確実にそうね」
放心気味の透が静かに聞いた。アーウィンは視線を斜めに落としながら、一つ一つ考えて答えた。
「これの根拠は、あなたとヨシヒサくんが闘っている時。あなたは自分で作り出した剣を使って戦っていたわよね?
純粋に魔力だけで練り上げた剣で――魔力を剣に物質化する呪詛が刻まれた何かをあの時、持っていたのであれば話は別だけど」
「火を吐くのは?これは根拠にならないのか?」
「――……それは根拠にならないわ。精霊使いや、詠唱系のものでも、心の内でその効果を表す会話や言葉を念じることで、できなくもないの」
由久が横から聞いた。アーウィンが由久に向くと、少しだけ間をおいた後、答えた。
静けさは最初から変わっていないが、透の魔法の異端さに触れたとたん、どことなく緊張のはった空気になっていた。
「――でもまぁ、具現化だけならそれほど驚くべきではないでしょうね」
急にあっけらと言うアーウィンに透は「え?」と声を漏らした。
「具現化は、魔法の中でも、最も無駄の多い魔法でも有名なの。何でもできそうであって、実は、行使する本人の能力に十二分に左右されるし、他とは比にならないほど魔力の消費が多くて。
極めつけは、行使する際のバランスが難しいということね。あまりにもイメージ多彩なことを行おうとすると――たとえ無意識のうちでも、気力がどんどん持っていかれて、気が付いたら指一本動かせないほど疲れ果ててしまうなんてざらにあるらしいわ」
透はこの世界に来たばかりのことを思い出した。いつのまにか人魂が浮いていたり、紫がかった暗い空気が取り巻いていたり。最後は急な眠気に襲われて、寝てしまった。
ふと、由久を見ると、こちらに向かって意地悪な笑みを浮かべていた。口パクで『使えない魔法使い』と言ってきた。
「でもね」
急速な勢いで落ち込んでいく透に、アーウィンが声をかけた。
「同時に最強と謳われる魔法なの。使いこなせればという話でね――それに、ずば抜けて強力な魔力の為に、今まで指を折るほどしかいない『具現化』系統の高名な魔法使いは、多種の系統にわたって魔法が使えたわ」
「最強…」
その神秘的な響きに、奈落の底に落ちて行く透の心は一瞬にして奪われた。由久を見ると、彼は驚いた表情でアーウィンの方に向き直っていた。
「コイツがぁ?」
「ええ。あのあと、トオルちゃんが隠し持っていたという線を考えて、持ち物とかエリーに調べてもらったけど、見つからなかったわね」
声を裏返して顔をしかめる由久に、アーウィンが明るい口調で答えた。何気なくすごいことを言っていたことに、由久の反応が面白くて透は気づいていない。
「何かの間違いだろ…」
彼の声には不公正さを感じずにはいられないといった由久の感情が垣間見えた。透の心はとても愉快な気持ちになっていた。由久の方に身を乗り出すと、
「使えない剣士」
満面の笑みで耳打ちをした。途端に悔しさからか、由久がギロリと睨んできたが、そんなことはどこ吹く風と笑い飛ばす。
「――、………。」
アーウィンが話を切り出そうと口を開きかけたが、暫く考えた後、静かに口を閉じた。
まだ…。まだ、推測の域を超えていない。言い合いを始めた透と由久の様子を眺めながらアーウィンは思った。確信を持つには、まだはっきりとしない。
だが、彼女の魔力には、はっきりと風の精霊に似た力を感じた。それに…
「基から属性のついた魔力なんてそうそう無いわね」
「?どうしたの?」
そっと溢した独り言にエルフィンが振り返って聞き返す。ふと、真剣な表情になっている自分に気が付き、
「…いいえ、なんでもないわ」
とだけ答えると、笑って見せる。
「?変なの…」
その様子に怪訝な面持ちをみせる彼女に、アーウィンの表情は苦笑いに変わった。
断定するには…。彼女らがどんな目的で旅をしているのか知らない限りは、あまり深く言わない方がいい。でも、世間知らずなところからみて――いや。
目を細めて透を見るアーウィンは口に右手を当てた。
それにしても、おかしな点がいくらでもある。第一、あの村から逃げだした『噂の魔法使い』は一人で逃げだしたはずだし、殺されているという噂も流れている。
魔法使いの国、グラザード。その中でも特に厳格な風習をもつ魔法使いの村、アドベレナで、生まれながらにして『属性の魔力』を持つという異端な子供がいるという噂を耳にした。確か、その属性は風であったはず。
属性を秘めた魔力をもつ物はとても、魔力が高いことで知られている。むしろ、魔力が高ければ属性が付くのではないかと考えだされるほど、その魔力は桁を違える。
それが一年前に、住まいの城から逃げ出したということも、噂で流れている。これは、信用する情報屋も言っていた。女の子だったという目撃者もいることもあり、なにより、彼女もまた、具現化の魔法使いという情報もある。
その為に、村ではその子供の処刑が決まったらしいが。だから逃げ出した。
目の前の、やや不可解な言動を発する少女がそれではないか?グラザードには元々風変りな人間が多いときく。
だが、殺されたのは紛れもない事実で、情報屋がもたらした情報の中にもそれが含まれていた。
じゃぁ、目の前の少女は全くの別人?…いや、ありえない。年齢だって「噂の魔法使い」とちょうど同年代だ。情報屋が誤った情報を?…信じたくないな。情報が商品である彼等がそんなミスを犯すとは到底、思えない。
何らかの方法で死んだと偽っておきながら逃亡を?城から出たことの無い生活を強いられていたとすれば、他人になり済ましてまで、こういった生活にあこがれていたというのも無い話ではなさそうだ。
アーウィンは、彼女が噂の魔法使いという仮説を立てて、暫くはこれを信じて行くことにした。
と、不意に彼女に対して同情の念が湧きあがる。生まれた村が村であるため、生まれながらにして、その魔力の異端さにひどい仕打ちを受けてきたとするのは想像に難くない。
属性のついた魔力は珍しい上に、彼女は目立ちたがり屋だ。すぐさま噂に上る。別人にしたってアドベレナの人間が黙っていないかもしれない。
由久との口論に、エルフィンのじゃれ合いが加わったことにより、より一層に騒ぐ透を見て、そっと決心した。
彼女たちを守ってあげなければ。
ヨシヒサとマツノスケには悪いが、はっきり言って彼らの実力は発展途上の『は』の字も至っていない。彼女たちのことは、具現化の使い手であるにもかかわらず、噂にさえ聞いた事がなかったので、うまくやり過ごしてきたのだろう。
だが、この街では派手にやらかしてしまっている。
護らねば。もし、噂の魔法使いとは全く持って関係がないにしても、命を狙われる可能性がある。
アーウィンの中でなりをひそめていた騎士道精神が息を吹き返した。
その後、気持ちを整理できたアーウィンが、ふと三人の方をみると、思わず小さく悲鳴を上げた。 透が由久を押し倒し、馬乗りになっているところにエルフィンが後ろから腕をまわして抱きついている。左手で由久の首を絞めつつ、右手でエルフィンを退かそうと必死になっていた。
「…なに、この三つ巴」
驚きと呆気にとられてしばらく傍観者をきめこんでいたが、不意に叫び声が上がって我に帰った。
「な、服を引っ張らないでください!」
「ふふふ。よいではないか、よ――」
エルフィンの両手はいつの間にか透のシャツを掴み、下へ下へと降ろそうとしていた。肩幅ギリギリなほどの首周りが広いシャツなので、無理をすればそのまま脱がせてしまう。
「ちょっと、やめなさい、馬鹿ッ!」
危険を感じたアーウィンがエルフィンの首を鷲掴みすると、透から引き剥がした。続いて首を絞められている由久の救助を行う。
「あ、ありえないっすよ、何しようとしてたんですか!」
この際、由久に突っかかるのはやめた透は、二の腕の途中まで降りてきたシャツを元に戻しながら、エルフィンに向かって怒鳴った。その顔は羞恥からか、顔を真っ赤に染まっている。
「…嬉しい癖に」
「――ッ!?お前はまだいうか!!」
「事実だろ、クソがっ!!」
この中で唯一、透が男だと知っている由久は誰にも聞こえないように静かにつぶやいたが、それでさえも聞き逃さなかった透は再び由久に飛びかかる。
立っていた透に対して、座り込んでいた由久は、あっけなく押し倒された。
「…トオルくん、私が構いに行くとなぜか、力緩めるのよね」
「あ、それで…」
同時に飛び出そうとしたエルフィンの肩を掴んでとどまらせていると、不意にエルフィンがため息とともに呟く。
透の態度から、どことなく勘付いていたアーウィンはつかんでいた手を放すと、エルフィンは手綱の切れた犬のように駆けて行き、透の横から飛びついた。勢い余って透がベッドの脇に頭をぶつける。
「…こういう幸せもあるんじゃないかしら」
もはや、透のことを噂の魔法使いと決め付けたアーウィンは、必死に透が助けを求めているのも関わらずにこやかにそれを眺めていた。
「うわ、透どうしたんだ?」
「…っ!」
店の手伝いの終わった松之介が部屋に戻ってみると、ひどくやつれた透がテーブルに突っ伏していた。
松之介の姿を確認すると、突然、悔しそうに顔をくしゃませる。目が潤いを帯びてきた。
「エルフィンさんと由久が…っ!」
鼻声で言いながら、ドンッとテーブルをたたいた。なにかあったのだろうか。
「二人がどうかしたのか?」
「…アーウィンさんが俺を見捨てた……!」
「…は?」
意味が分からなくなった松之介は取り敢えず、テーブルの椅子に座った。
聞いていると、透は、エルフィンが服を脱がせようとしたとか、由久が悪口を言ってきたので首を絞めにかかったなど、次々に一切話のつながりを感じさせない突飛な愚痴をし始め、最終的には眠くなったと言って、隣の部屋に行ってしまった。
「…何があったんだ」
二人がどうなったのか、それが気になって聞いていた松之介は、透が太刀差あった後もテーブルに肘をついて考えていると、疲れからか、眠気が襲ってきた。
うつらうつらとしているうちに、不意に透が同時に二人に襲われ、アーウィンが微笑ましいといった表情で傍観しているのが目に浮かぶ………
はっとして目を覚ました松之介は、「そういうことか」と一人で呟くと欠伸をしながら体を解すとベッドに歩いて行った。
とうとう、アーウィンにも助けられなくなった透を少しだけ哀れに思いながらも、あっと今に寝ると、今度は自分が襲われるようになるという不吉な夢を見るようになってしまい、寝るに寝られなくなった。
困り果てた松之介は
「…いや、あいつは全然哀れじゃねぇな。このままがいいんだ、このままが」
と自分に言い聞かせるように、呟いてから再び寝てみた。
すると、不思議なことにその後は、うなされて急に起きるということがなくなった松之介は、次の日、由久に起こされるまでぐっすりと睡眠を楽しむことができた。
こんにちわ。 木霊です。
いつも、読んでいただきありがとうございます。
(本当は『ご愛読』なる言葉を使ってみたいですが、恥ずかしいのでやめておきます。『愛』という文字が素敵過ぎます)
差し替えるために修繕中の話が7話目まで書けました。
公開する際は、ちまちまとではなく一日にすべて変え切りたいと思っておりますので、お目にかかるのは、まだ先になりそうです。
修繕できた目安としては[プロローグ]が追加されるところと、サブタイトルが多少変わるところです。
今まで読んでくださった方々。大丈夫です。
物語の大筋が変わってしまうことはありません。
表現が変わったり、細かい描写が変わったりします。
あと、地理情報を盛り込んであったり街の描写が多少細かくなってたりとしますが、物語が進む際に、必要な時には再び詳しく盛り込むつもりです。
時間が有り余って、もう暇すぎるよ!と言った感じで、差し支えのない方は、切り替わった際、ぜひ一度読んでみてください。
その時、感想をもらえると、とてもうれしいです。…まだ先の話ですけどね。
早く書きなおしたいです、無茶がありすぎる番外編(泣
最後に。(実は最初に言わなければいけない気もしますが)
サブタイトルが変わるなど、読者の皆様に迷惑をかけてしまうと思います。
切り替えができた時には、「おまけ」話とともに、後書き、またが前書きにて変化する前のタイトル名と変化後のタイトル名の関係などを書いて置こうかと思いますので、どうか、ご了承ください。
読者の皆様、いつも読んでくださいまして、ありがとうございます。
コメント欄を見るのと、読者数確認をハラハラドキドキしながらチェックしてたりします。
長くなりました。ではまた…
――by木霊




