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僕らの旅   作者: yu000sun
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1.謎のアンケート

 久我さんは隣の一〇二号室に部屋を借りている、見た目からして三十歳くらいの人だ。

 線路をまたいで向こう側の方がいい物件があるはずなのに、ここの部屋を借りているのだから、根無し草の貧乏人かと思えば、良い服を着ていたりとよく分からない。

 外で見栄を張るために、あえて安い物件を選んでいるのかと思えば、有り余るほどの給料をもらっているのだから、不思議な人だ。


 彼女が言うには、「住めば都」の一言に限るらしい。


 昔は給料が少なくて、渋々ここに住んでいたらしいのだが、何年も住んでいる内になじんでしまったらしく、新たにお金を注ぎ込んで引っ越していく必要性を感じなくなったとか。

 彼女は面倒見がとても良いことでよく褒められるのが、ちょっとした自慢だと言っていた。

 そしてそれを証明するかのように、アパートの住人によく親切にしていた。ここに越してきて、一番最初に話しかけてきてくれたのも、大家さんを抜けば彼女だった。


「そんなにゆっくりしてていいの?学校、遅れちゃうよ。」

「え?」


 久我さんに言われ、慌てて右腕の腕時計を見ると、確かに。何時もより五分ほど遅れている。


「あ!やっば」

「さぁ、速く行った行った!………あ、ちゃんと鍵閉めて行きなさいよ?」


 横を走り抜けた透に向かって、久我さんが少し声を上げて言う。

 はっとして、以前、玄関の鍵を閉め忘れていたことがあるのを思い出した。そのことを笑い話にと、透は彼女に話していた。 慌てて引き返し、顔を赤らめて恥ずかしそうに頭を下げつつ鍵を閉める。


「すみません………。それじゃ。」

もう一度頭を下げて横を逃げるように通り過ぎると全速力で走っていた。


 透の今の家は、線路を駅と挟んで、向かい側のアパートが家だ。少し古いが、場所が線路を正面にしているだけあって、遮るものは何もなく、部屋の中にはちゃんと光が差す。

 だが、それに相成って当然だが、駅が近いので騒音が酷く、引っ越して来たばかりの頃はノイローゼ気味になりかけたこともしばしばあった。

 前から住んでいた住人達はもう、慣れてしまっていたり、それぞれ解決策があったりしていたが、つい最近になって駅側の壁と部屋の内壁を改装することを大家さんが決めた。

 反対する人もいなかったのですぐさま改装を始め、そのおかげで防音が格段に良くなった

 住み始めたころに比べると、とっても住みやすくなり、寝る時は耳栓。音楽など聞くものがあった時は音楽プレイヤーにヘッドホンを繋げて過ごしていた。


 家賃は、建っている場所にしては安い。だが、紹介された当初の部屋の状態はとてもひどく、ぼろぼろの風化し始めたような畳に、軋む床板。それなりに生活するには、自分で住みやすく改装しなければならなかった。

 親に相談して、リフォーム業者に普通の部屋にまで改装してもらったのだが、それに加えて大家さんの決定した防音設備の改装が伴って、透のバイト代は比較的安い家賃と、親への借金。それと生活費でほとんどなくなってしまう。


 バイト代の半分は家賃に、残りは生活費に最低限注ぎ込んで、あまりを自由に使うことができる。 両親からの仕送りは、借金のこともあり、透から断ってしまったので、借金自体存在しないものと考えていいかもしれない。


 住めば都。一人暮らしは何かと大変だが、それでも今では透にとっては満足のいくものだった。


 ――風呂は無く、トイレとシャワールームが一緒なことを除いて…だけど。掃除をしなかったりすると、ひどいことになる。


 フェンスをはさんだ線路脇を少しだけペースを落として走りながら、ふと、思った。

 だが、それを言ってしまえば贅沢なだけだとわかっていた。低価格には、低価格なりの要因と結果がある。


 駅には近いようで、近くない。隣に行くには、歩いて六、七分のところに歩道橋。更に駅を目指して七、八分。走ると結構良い運動になる。毎朝のジョギングには無理なく続けられそうな距離だ。

 透の場合は寝坊気味なこともあり、この道を毎日のように走らされていた。


 本当ならアパートに近い方の歩道橋を使いたいところだが、こちらは住宅街に細く入り組んだ迷路のような道を走っていかなければならず、未だ迷わずに行けた試しがなかった。


「ああ、また遅刻したらなんていわれるか………」


 息を少しばかり切らせながら呟いた。透は、毎日、通学時に友達と待ち合わせをして、一緒に登校しているのだ。 登校時間の朝の駅は当然のことながらかなり人が多い。いつも、駅に入ってすぐのコンビニで、朝食代わりに少しばかり買いながら、待ち合わせをしている。

 駅の様子を思い出しながら透が走っていると、歩道橋の上に駆け上がったときに携帯がなった。


「?」


 足を遅めて立ち止まると、急いでズボンのポケットから携帯電話を取り出す。その瞬間、少し嫌な予感がよぎった。だが、躊躇っている暇はない。開いてみると、一通のメールが届いていた。

 透は、止めていた足を早歩きにしながら、中身を開いてみる。すると案の定、それは駅で待ち合わせをしている友人からのものだった。


〈さっさと来い!メールの返信はいいから、取り敢えず急いで来い。遅れてるぞ! by つー竹〉


「………急いでますけど?」


 目で黙読したのち、鼻で自嘲的に笑いながら携帯をパタンと閉じてしまった。再び立ち止まって、荒くなっている息を少し落ち着かせるために二度深呼吸をすると、駆け出した。



 数分後、透は何とか電車に間に合う時間内に着いた。おそらく、朝食なんてとれる時間などないだろう。

 あれほど必死になって走っていたのに、予定の遅れを二分ほど縮めただけだったなんて、と悔しむ透は汗を滲ませた額を手の甲で拭った。



 ――これじゃぁ、サンドイッチを買うのも渋られそうだ。


 少々暗い気持ちでエスカレーターを登り、息を整えながらコンビニに入っていく。ふと、同じ制服の二人の高校生の一人と目が合った。

 途端に、彼の仏頂面の堅苦しい表情が和らいで、笑顔に――ではなく、あきれ顔になった。


「おっせーよ。ヨル」


 こちらに気付いた手前の、本を読んでいる角刈り頭の少年が言った。『ヨル』とは、透の苗字の夜茂木沢の()を訓読みにしただけの愛称である。


 彼の名は、樋野 松之介|〈ひの まつのすけ〉。透と同じく十五歳の高校生だ。


 透と中学からの同級生で、今夢中になっているTVゲームでは、敵陣に突っ込んで行く勇姿に、『特攻隊長』の異名を持つ。ちなみに彼のキャラクター名は『マツオ』といい、彼の攻撃的な行動は主力となっている。


 性格は基本的温厚だが、最近収まりつつあるも少し短気な所があり、本気で怒り出すと誰も手をつけられない。

 図体がしっかりしていて、透より拳一つ分背が高い。そのなりでいながら、いつも持参の本を読んでいる。なかなかの文学的な人間ということか。


「あ、お前!お前が一番近いんだろが!この馬鹿ったれ!」


 松之介の声で透の存在に気付いた、もう一人の少年が携帯を掲げながら言った。


 今は怒っているこの少年。いつもは軽薄な乗りに、色々と知っている上、頭の切れが良いこの少年の名は竹居 由久|〈たけい よしひさ〉。


 目は少し釣り目で、話しているといつも薄笑いを浮かべている。少し独特な雰囲気を漂わしていて友達も結構というか多い。

 こちらも一緒にゲームをやっているのだが、防御、ライフともに高い。彼のキャラクターの名は「つー竹」であり、大体の友人から呼ばれているあだ名だ。それと、同時に親しい間柄の友人からは「つー竹」とは呼ばれることは一部例外を除いて、いない。


 もっとも、三人がなぜゲームに夢中になっているというと、それは、透が一人暮らしをしていて収入はバイトであるために、なかなか自由にお金を使えないからからだ。

 本来なら駅前のカラオケBOXや遠出して手軽な旅行のようなことをしたりすることの方が多い。


 透は酸欠気味の脳の思考がそれ気味になっているのを首を振って立て直し、現実に戻った。改めて由久を見てみると片手には本を持っている。

 しかし、この本はお店の物でゲームの週刊雑誌らしく、へらへらとした感じの薄い本だ。


「ご、ごめん。ホンットーにごめん!」


 いくらか整ってきた息遣いをしながら、透が二人の方に手を合わせると軽く頭を下げて謝った。

 松之介は、「全く…」とぶつぶつ言いながら、背中のカバンに、持参した推理小説の本をしまう。その横で、由久はため息をしながら本を戻すと、携帯を素早くマナーモードしていた。


 由久は携帯をしまうと何かつぶやきながら、食品コーナーからお握りをニ個とペットのコーラをとってレジに向かう。一方、松之介はまっすぐコンビニを出ていった。

 透も慌ててサンドウィッチ一つに、缶ジュースを手にとってレジでお金を払いコンビニを出た。


 よかった。これなら途中で幾らか食べられるだろう。授業中にお腹が減りまくるという嫌な思いをしなくてすむ。


「それで?今回はなんで遅れたんだ?」


 電車を待っているときに由久がさきほど買ったお握りを食べながら聞いてきた。

 ぱりぱりとなる海苔の匂いで、急にお腹が減っていることに気が付いた透は、危うく由久の言葉を聞き落とすところだった。


「え?………あ、ああ。今回は、ちょっと――気になる物が、家に届いたもんで、ね」


 少し前かがみになって息を整えている透は、額に滲んでいた汗を手の甲で拭きながら答えた。 サンドウィッチを食べたいが、この荒々しい呼吸では、食べているうちにむせ込んでしまいそうだ。


「気になる物?みせ――」


 由久が言いかけたところでアナウンスが流れ、電車が着いて会話が打ち切られた。というよりも、騒音によって声がかき消された。

 押し流されるように電車に乗り込むと、また小声で会話が始まった。松之介は、イヤホンで音楽か英文を聞いている。どちらにせよ、途切れ途切れに聞える英語がまったく意味がわからなかった。

 透が彼のイヤホンからもれ出る音に気を取られていると、由久が隣からひじで小突いて来た。


「で?その気になる物ってなんだ?」


 電車の中なので周りを気にしながら小さい声で聞いてくる。


「あ?あぁあ。これなんだ。この大きい封筒が朝、ポストに入っていたんだけど、こんな物を貰うような憶え、ないんだけどさぁ………」


 透は一瞬、何のことか分からなくなったが、すぐに思い当って、周りにぶつからないよう――とても難しいことで数人に肘をぶつけたが、ゆっくりとリュックから朝届いた青く大きな封筒を出して渡した。


「ふ〜ん。これが………?あて先がかいてないぞ。ほら…」


 封筒をひらひらとさせながら言った。その時、電車が揺れて、封筒の一部が人ごみにもまれて曲がった。


「ああ。そうなんだよね」

 由久の手から何気なく封筒を奪い取ると、鞄にしまいこみながら首をかしげた。


「中身には、何が入ってるんだ?いや、紙が入ってるに決まっているか………。なんて書いてあったんだ?」

「中身はまだ見てない」


 息苦しそうにため息を吐きながら透は答えた。見ようか、どうしようかと考えているところに久我さんが来たので、見れるはずもなかった。


「だろうな。封が破れてねぇもんな………ふ〜ん」


 ――わかっているなら、聞かなければいいのに。 透は横目で由久をにらみつつ、少し疎ましく思った。呼吸が乱れて苦しいのだから、あまり会話はしたくなかったのだ。


 透の不機嫌な「話しかけるな」という態度が伝わったのか、そこで二人の会話は途切れた。

 横で何気なく聞いていた松之介も含め、三人は狭い電車の中で封筒について思いを巡らせていたまま、一学期最後の学校へ向かう。


 その後、遅刻せずに学校に着いた三人は、それぞれの教室に行き、終業式や夏休みの課題について説明などを受けた。

 退屈な時間が過ぎていく。


「あぁ!終ったぁぁあ!」


 一学期最後の授業の終わりを告げるベルが鳴ると同時に、透は教室の後ろ端の方で小さく唸った。

 明日からもう夏休みなのだ。部活動に所属してない透にとって長期休暇がとてもうれしく喜びがにじみ出る。だが、『バイト』と『成績』という言葉が脳裏に浮かび上がり、その喜びが半減してしまった。

 先程渡された透の成績表は想像絶する危なさだった。


「えー、これにてロングを終了とする。明日からは夏休みですね。しかし!だからと言って――」


 LHR終了のあいさつをした後、最後の言葉といわんばかりに先生の今学期の反省などを一方的な口調で語り始める。話している最中は顔だけ向けて荷物をまとめる透には、一文字すら頭に入ってこない。


「――ということです。生活態度、課題、日々の学習を怠ることなくすごしてください………以上!良い夏休みを」


 教師は終わりの一言を強調したのち、教卓の上で始終いじりっぱなしだった出席簿を脇に持ちなおして出口へ歩いて行く。終了の合図だ。 透は急ぎ足で、教師の長い話から解放されてわきあう生徒たちの間を抜けて、先生とほぼ同時に教室をでていった。


 廊下を少し歩いて階段の手前の所で辺りを見渡して探す。いつもこの辺りで待ち合わせをしているからだ。

 ほどなくして、壁に寄りかかりながらほかの生徒と話している二人を見つけた。


 廊下の真ん中で立ち止まっていた透に松之介が気付いたようで、目線があうと、右手をあげてきた。

 それを横目で見た由久は、話していた生徒の会話をふざけ半分の態度で話を切り上げさせようと、何気なく話し相手を連れて離れて行く。


「お前の担任の先生………いつも遅いよな。どうなってんだ?」


 由久とその友達の生徒の様子を眺めながら近づいていくと、松之介が口を開いた。眉間にしわを寄らせつつも笑っている。


「全く………あの先生は、ちょっと特殊だからね。教授と言ってもいいんじゃないかな」


 あの論文を読んでいるような堅苦しく規律正しい言葉が連なった長話を思い出しながら、透がだるそうにつぶやいた。

 松之介はそうだな、と軽く笑いながら相槌を打ちながら本をカバンにしまう。また、この男は本を読んでいたのか。

 …まぁ、自分も人のことを言えた義理じゃないが。


「明日から夏休みだしな。今日は夜茂木沢の家によってくぜ。」

「え?」


 透が次の話題を探していると、松之介が切り出してきた。突然に言い出したものだから、透は驚いて、時刻を見ようと出しかけていた携帯を落してしまった。


「俺もそうするからよろしく。」


 携帯を拾おうと屈みこみながら声に反応して横を見ると、先ほどの友人らしき生徒たちを連れて離れていた由久が廊下からこちらに歩いてきていた。


 透は最初、突然のことで驚いていたものの、この二人をアパートの部屋に迎えた。

 玄関を開け、廊下伝いにある台所のものを落とさないように慎重に歩きながら一室しかない部屋に入る。家賃が安い分、設計には多少の無理がある。だが、その多少無理のある設計のおかげで一室しかない部屋は少々広めだ。

 三人はテーブルを囲んで封筒の中身をバラっと出してみる。


「?なんだこれ。」


 彼らは、透が朝に封筒を見つけた時と同じ事を、拍子ぬけた調子で言った。

 テーブルの上に置かれた紙は四枚、テストの答案用紙みたいな感じのものだった。松之介は即座に一枚を持ち上げ、ささっと目を通す。眉を吊り上げると、


「おいおい…気になるものってアンケートかよ。」


 そう言うと、紙をテーブルの上に投げた。

 彼の家は透たちとは違い、門限などがあり少し厳しいところがある。少しでも時間はつぶしたくないという習慣は今も健在だったようだ。


 ――あれ?じゃぁ、なんで部屋に泊まれるんだ?


 ふと疑問に思ったが、それ以上に奇妙なのが、このアンケートだ。


「………………ほんとだ。俺に対して色々聞いてきてる………。」


 送りつけられた透も手とってみるも、透は一種のアンケートに参加しているのを思い出した。

 しかし、朝も疑問に思っていたとおり、いつもとは違う封筒に不信感と、同時に興味が絶えない。


「なになに………一、貴方は、冒険に興味ありますかぁ?」


 由久の声が裏返った。子供に対するような馬鹿げた質問も多く含まれていて、目で黙読していた由久も呆れてアンケート用紙をテーブルに投げ捨てる。 呆気に取られている松之介と由久を余所に、透はアンケートを手に取り、すべて正直に答えていた。


 ――もしかしたら、あのアンケート関係のものかもしれない。


 そんなことはないと思いつつももしそうだったらと考えると、請求の電話がとてもひどい。一度期限を一日ずらして送ってしまったときは、困ったものだった。


 透は一人黙々と始め、最後の四枚目の裏まで全部こなした。終わった後、暫く満足げに眺めていると、下のほうにURLと「ここに答えを送ってください」という書き添えがしてあった。…アドレスがやたらと長い。


「なんだよこれ………やめた方がいいと思うぜ?俺的には」


 気になったのか、振り向いた矢先にあった最後のページに書かれた文字を見て、由久が怪訝そうな顔をして言った。だが、遅かった。

 透が反応していないことに気が付いて顔をあげると、本人は煎餅をばりばりと食べながらノート型のパソコンでアクセスしていたのだ。


「ば、馬鹿!お前………少しは考えてから行動しろよ」


 大げさに嘆きながら言う由久に、画面から少しも目をそらさずに透は適当に受け流す。二人はそれをただほっとくしかなかった。 暫くして、ゆっくりと叩いていたキーボードの音が不意に消えた。透が口にかじっていた煎餅を思わず落とす。


 目的のサイトにたどり着いた先には真っ白の背景に画面中央に四角い枠、その下には「暗証番号を入れてください」と書かれていた。更にそのすぐ下には、06 / 54の数字が点滅している。呆然として眺めていると54が53に変わった。


 透は時計を見上げる。時刻は九時を少し回っている。秒針の針が一周すると、画面の数字もまた一つ下がった。


 ――時間制?


 どうやら右の数字は分の単位らしい。だとしたら、当然左は時間の単位だろう。しかし、それは今のところどうでもいい。もっと重要な暗証番号など、透は知らない。 助けを求めようと顔をあげるが、彼らは準備が終わって、TVゲームをつけたところだった。当然、相手にされることもなく終わることが目に見えている。

 透は、自分で探すことに決めた。


 ――アンケートに書かれたアドレスから来れたんだ。アンケート用紙の方に書かれているかもしれない。


 しかし、その期待に近い予想は外れ、アンケート用紙を見てみても何も書かれていなかった。用紙を一枚ずつ、次に重ねたりして透かしてみるも、それらしきものはどこにも無い。

 ふと、透はアンケート用紙を入れてあった封筒が気になった。周りにはもちろん、内側にも何もない。透かしても透の住所が書かれたシールが黒く浮き出るだけであった。


「………。あ」


 じっと眺めているとかすかに、小さく並んだ数字が見えたような気がした。 天井の蛍光灯にかざすのをやめてテーブルの上に置くと、シールを慎重に剥がしていく。


「よし、はがれたぞ」


 はがしたシールを指に持ちながら、透は一度深呼吸すると、固く目を閉じた。


 ――どうか、暗証番号が書かれていますように…!


 念じながらゆっくりと目をあける。視界の開けたシールの付着面には、デジタル表記で英数字の混じった暗証番号が記されていた。


「やった…」


 ため息交じりに透がつぶやいた。一気に胸が高鳴って、興奮が込み上げてきた。

 大小英数字を組み合わせているので、はやる気持ちを抑え、慎重に入力していく。終わったところで勢い良くEnterキーを叩くと、ページのデータロードが始まった。


 一体何があるのだろうか?興味津津で見つめる中、またもやそれは裏切ってくれた。そして、その結果は透も薄々感づいていた。

 先程と同じ質問が並んだインターネットのページに辿り着いたからだ。一番上には赤い文字で、『お手数をかけますが、もう一度お答えください』と書かれている。


「………はぁ」


 透は、今さら口元にないことに気がついた煎餅を机の下に見つけると、拾い上げて軽く叩きながらまた咥えた。


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