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ブラックリスト  作者:
9/23

膨れる疑問

休憩所で話した後、対馬と共に相談窓口に戻ってきた星奈は、何処となく気まずい空気を感じた。あれから対馬との会話が一切ないせいだ。

だが、そんなものは星奈の気のせいだったようだ。

仕事が始まれば普通に仕事の話もするし、いつもと変わらず会話も出来る。

そんな態度から、彼女にとっては冗談が過ぎただけ、ということなのかもしれない。

忘れて良いことでも無い気がするが、とりあえずは頭の片隅にしまい込むことにした。


_


やがて研修期間である半年間が過ぎ、あのメモの事など忘れてきた頃、星奈の中での疑問は徐々に大きくなっていた。


研修も終わるにつれて相談を受ける件数も多くなり、最近では緊急ボタンを自分で押したこともあった。


星奈も最初は説得して帰ってもらおうと試みたのだが、行動を伴わない説得に納得するはずも無く、止む終えず緊急ボタンを押した。


ボタンを押す事に躊躇ってしまい、上司の二人から怒られはしたが、一宮と対馬は星奈の味方をした。余程性格がねじ曲がっていない限り、初めから何の躊躇も無く緊急ボタンを押す事など出来ないのだから。


星奈は、緊急ボタンを押してから暫くの間落ち込んでいたが、仕事だからしょうがないと割り切り、自分の気持ちを騙した。


他の皆もそうやって仕事に臨んでいるのだろう。自分で緊急ボタンを押した後、相談窓口の仕事は長く続かない人が多い、という理由が何と無く分かった気がした。


しかし、どんな仕事でも嫌なことの一つや二つはあるものだ。規則に従う方が正しいに決まっている。


皆と同じ様に割り切って考える事が出来たならどれだけ楽なのだろう。星奈の場合、自分を騙し続ける事が多大なストレスとなっていた。


そこで、夏の休暇を利用して両親に相談する事にした。

だが、今までの経験上、例え両親であろうと素直に聞くのは躊躇われる。


遠回しに今の世界の状況について聞いてみる事にした。


「世界の状況ってなによ?大きな法律の変化なんてあったかしら?」


「いや、無いと思うよ。そうじゃ無くて、今のBL制度についてどう思ってるのかなって」


「特に何とも思わないわよ?」


これは父も同じ意見の様子だ。星奈は二人の様子から、らちがあかないと感じ、違う質問に切り替えた。


「ーー例えばだけど、私が層移動したり、最果てに飛ばされた場合、二人はどう思う? 」


両親は星奈の意図を読み取れず、キョトンとした表情を浮かべ考えもせず即答した。


「あんたがそんな馬鹿なことするわけ無いでしょう。いくら馬鹿でもそれ位は弁えるよう育てたつもりよ?」


「父さんも同意見だな。今の制度で層移動も最果て行きも、普通に生活していたらあるはずが無いからな」


「そういうことじゃなくて、どうするか教えて欲しいの!」


星奈は素直に相談できないもどかしさと、両親の感の悪さに苛立ちを感じ、声を荒げた。


「ん〜まぁそこまで言うなら……父さんはお前や母さんの層移動が決まったとしたら、一緒に行くと決めている。最果て行きの場合は自分の責任って考えてそのままにするだろうな」


父が答えた言葉は、星奈にとっては聞きたくも無い一般論だった。いや、層移動について来てくれると話してくれただけでもいい父親なのだ。

それ以上求めるのは筋違いだろう。

そこで星奈は諦めた。だが、その諦めが命取りとなる。心の緩みから、本音が少しだけ漏れてしまった。


「それじゃあ私が中心地について調べたり不安があったとしたら二人はどうするの?」


「ーー常識で考えなさい。そうなったら自分達のBLに入れるわよ。いい加減やめなさい。他の人に聞かれたら本当に最果て行きよ?BL登録されたいの?あなた疲れてるんじゃない?」


驚愕だった。最果てで人が死んでしまう理由に、親族でさえ見捨てるというものがある。

最近飛ばされた千佳ちゃんもそうだ。最果てに飛ばされたものと関わっていると思われたくないからだ。

恐らく千佳ちゃんの両親も自分の娘をブラックリストに登録しているのだろう。


[それが世界の常識だから]


仲の良い自分の両親ですら例外ではなかったらしい。そのような考えの二人にこれ以上踏み入った話も出来ず、結局、自分がしたかった相談は全く出来なかった。


星奈は飛び出すように実家を出て、そのまま自分の家まで走った。その表情は怒りと悲しみ。泣いてよいのか怒ってよいのか分からなくなっていた。


星奈が本当に聞きたかった内容。

それはニューレストに対する疑問が強くなり、不信感が募ってきている為にどうすればいいのか相談したかったのだ。

今のままで良いはずがない。

この世界は狂っている。

一つの失敗で全てを無くす事も、ブラックリスト制度自体も。本当にブラックリスト制度は必要なものなのか?

藤堂院に言われた言葉が頭の中にチラつく。

仕事を1年近くこなして来たからこそ見えるものもある。

自分が今後どうするべきなのか、と考えてしまうのだ。


こんな事を仕事の上司には当然話せない。

大学の先輩である雪菜も同じ事。昔の友達なんてもってのほかだ。

他に頼れる人は居ないかと考え、思い至ったのは最果ての集落に住む一人の老人。

だが、ブラックリストに入れてしまった以上その人物に会う事は二度と出来ない。

ブラックリストから外そうものなら一宮などから何を言われるか分かったものじゃない。


だが、それは直接会う事が出来ないだけ。羽柴やお孫さんの力を借りれば間接的に話す事が出来るのだ。


星奈はもう一度最果ての地へ向かおうと心に決めた。


最果てに向かうには幾つか障害がある。それは一宮達上司にバレないように行かなければならない事、もう一つはあの不可解なメモだ。


その為、一番の理想は仕事で最果てに仕方なく訪れる、という状況を作り出す事だ。

これには当然の様に条件がある。


出世して最果て研修に参加、最果て管理部門に入る、最果ての視察の仕事を自分がするという三つだ。

出世や部門の移動は時間もかかりすぎる。

星奈は視察の仕事を任せて貰えるように考えた。


そこで星奈は、月に一度の相談窓口の職員による会議の時に、違反者を減らす事が出来ないか?という議題が毎回上がっていた事を思い出した。

相談窓口のキャンペーンとして最果ての地がどれだけ劣悪な環境か調べる、という名目で視察に行く分にはなんら問題は無いだろう。


それから、次の会議の時にしっかりと考えられた提案が出来るように資料作りを始めた。

職場の資料を外部に持ち出せない事もあり、星奈は相談窓口での仕事の後に残業申請をしてから作業にあたった。


いつになく真剣に取り組む星奈に、周りの皆が好奇の視線を向けてきたのは最初だけ。

一宮と対馬は星奈に協力し、最果てへ飛ばされる仕組みや層移動で発生する損害とは具体的にどのようなものなのか、ここに長く務めている二人の方が遥かに詳しく、資料作りも捗った。


二人には星奈の真意は告げていない。手伝って貰うことによって罪悪感を感じていたが、相談窓口の面々にもメリットのある計画なのだ。

その為、星奈は罪悪感に押し潰されることなく自分に言い訳をして資料を完成させた。


そして迎えた会議の日、二人の後押しもあり北条、武田にその計画を伝えた。


「なるほどな。これ、最初に考えたのは星奈なんだろう?本当にお前が考えたとは思えない内容だな」


北条の言葉は、捻くれて遠廻しではあったが、賛辞の言葉だった。

星奈は照れたように頬をかき、満面の笑顔を見せた。


「私だってやる時はやりますよ! 」


「いや〜俺も凄いと思うぞ?北条も見習えよ」


武田からも賞賛の声があがった。これにより、星奈の目的である最果ての地の視察というものが通りやすくなった。


「この計画を進めるにあたって、一度最果ての地へ取材にいきたいのですが……勿論休みの日で大丈夫です」


「いや、このキャンペーンを実行するなら現地の資料は必要になるだろうからな。層移動についてはBLCにある資料で何とかなるが、最果ての物は殆ど無いからな……仕事の日に行くといい。日程は北条、お前が調節してやってくれ」


星奈は心の中でガッツポーズを決めた。ここまで上手く事が運ぶとは思っていなかったので、驚きを隠せない。


「ありがとうございます! ちなみになんですけど……交通費とか経費で落ちませんかね? 」


「あーその辺は北条がどうにかしてうちの予算でやりくりするよ。交通費だけと言わず全ての経費と出張手当も出るようにするさ。本当は最果てに行った場合危険手当まで出るんだが……キャンペーンが成功したあかつきにはそれも含めてボーナスに乗りそうだな。まぁおいちゃんに任せて思うようにやってみなさい」


ドーンと胸を張り、拳を胸に当て、武田が言い放った。

その衝撃でまたヅラがヅレていないか気になって視線を上に上げてしまったが、今回は大丈夫だった。


「武田さん、簡単に決めてますけど、最果ての視察なんて俺は反対します。経費っていうのも勿論そうなんですけど、窓口の人数が足りませんから行かせられても一人になりますよ?」


「まぁいいじゃないか。新人がやる気を出したんだ。応援してやっても良いだろう?」


「私は星奈ちゃんを応援してあげたいな。北条がケチってるだけじゃないの?」


「私も応援したい派」


北条はそれ以上抗議することが出来ない。北条以外が賛成しているのら、これ以上反対しても無駄だと悟ったようだ。


「ーーーーはぁ、分かりました。ただし、集める資料をどんなものにするか纏め上げ、一泊二日のみで何とかなるようにしてからです。こいつの今までの事を考えたらその位しないと経費が重むだけですから」


北条の案に、今回は誰も反論しない。万乗一致で可決された。


これには星奈も同意見だ。どんな資料を集めれば良いのか、またどの様な場所に行ったほうが良いのかをあらかじめ決めて貰った方が行動しやすい。

以前最果てに行った時とは違い、今回は仕事で行くのだから当たり前だろう。


会議が終わると各々が担当する業務を決めた。

初めから資料作成をしていた三人は、そのまま継続して作業に移る。


具体的な内容は、星奈、対馬が層移動者に関するものを集め、それを一宮が代表して纏めていく方針だ。


北条は一人で経費の計算と事務課に提出する資料をまとめ始めた。

普段から相談窓口の予算は北条が管理している為、手慣れたものだ。


最後に一番重要な仕事をこなすのは武田だ。

BLC上層部の人間にこの事を報告する為の資料の作成、それを通してどの様な効果が期待できるのか、具体的な提案をしなければならない。


この提案は今回に限っては楽が出来る。先程の会議で星奈が報告した通り、層民の危機感を増やし、違反者を減らすという明確な目的があるからだ。


相談窓口の面々は、星奈の提案したキャンペーン実施に向け、着々と行動を始めた。

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