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ブラックリスト  作者:
5/23

追放

星奈が仕事を始めて一ヶ月も経とうとした頃、相談窓口の面々は各自の仕事を終わらせた後緊急会議を開いていた。

新人の星奈も参加し、各々深刻な表情を浮かべている。

会議の進行は武田。皆が席についている事を確認し会議を始めた。


「今日の議題についてなんだが、俺は状況がよく掴めていない。先ずは詳しく分かる奴、教えてくれ」


一宮と対馬が同時に手を挙げ、経験年数から一宮が優先して話し出した。


「私もまだ詳しく掴めていないところがありますが……私の知る情報は、先週の事です。早朝から出勤していたのですが、相談窓口に他の課の人間を入れておりました。明らかに規約違反です」


続いて対馬が自分の情報を語りだす。


「私が見たのは昨日の相談中の事です。暇な時間を利用して持参のお菓子を食べ、私の対談を邪魔してきました。大いに笑えました」


各自の情報を出し合った後、この緊急会議の発端となった者に弁解の時間が与えられた。


「確かにお菓子は食べましたよ?それに他の課の人が遊びに来てみたいって言うから入れましたよ?でもこんなに怒らなくても良くないですか?昼前だと小腹が空きません?あ、皆さんも飴ちゃん食べたかったんですか?」


星奈は全く反省の色を見せていない。その言動は中学生が屁理屈を並べている様な雰囲気だ。

星奈の言葉を聞き、対馬が笑いを堪えていたがそれ以外の者はそれどころではない。


他の課の者が自分達の職場に来る事は一宮の言う通り規約違反になる。その時は武田が気付き注意して終わったが、下手をすれば反省文を書かされる。

勿論、機械整備課の者も星奈自身も悪気があった訳ではない。仕事前なら、雰囲気を見たいというだけなら、という理由で来ていたのだから。

研修の時に北条に言われていた事なのだが、相談窓口に来ている、という情報だけでその人物に対して不利益になる事だってあり得るのだ。

だからこそ相談窓口に入れるものは警備員、掃除の津雲、そして相談員のみなのだ。


対馬の挙げた議題などは研修云々以前の問題だ。社会人として仕事中にお菓子を食べるという行為は如何なものか、という話だ。


最初は笑って許してくれた武田も、抗議の声が重なるにつれて次第に険しい表情を浮かべ出した。


星奈も武田の表情に気付き、次第に肩を縮め反論しなくなっていった。


やがてヒートアップして来た会議に合わせ、一宮がとうとう矛先を変えた。


「それもこれも北条がいけないんじゃないの?あんた教育係りでしょう?ちゃんと研修してるの?」


一宮は仕事始めに緊急ボタンを教えていなかった事もあり、彼女が色んな問題を起こすのは北条の教え方が悪いと指摘したのだ。

これには北条も黙って聞いている訳がない。当然反論の声を上げた。


「俺の所為なわけないだろ!この馬鹿に何をどう教えれば良いのか逆に聞きたいくらいだ!」


「……武田さんヅラヅレてるよ。ちょっと落ち着いて……」


違う話題を振ろうと対馬は上司の頭頂部に目線をやった。彼女は星奈が異議を唱えなくなってから常に冷静に物事を考えていた。

喧嘩を始める前に横から水を差したのは非常に良い対応と言える。


二人の熱も冷め、議論も出尽くした頃、武田がこっそりズラを戻し、最終的な判断を下した。


「星奈ちゃん、悪いけど明日からの連休はここに出てきて研修を受けてくれる?勿論北条も出てこい」


貫禄のある武田の言葉に星奈は同意せざるを得なかった。

それでも折角の連休が無くなるのは惜しい。だが、連休中は特に予定も無いのも事実である。家で寝て過ごすよりマシだと考える事にした。


だが、飛び火を受けた北条はそれを受け入れない。


「俺は嫌ですよ!何でこんな奴の為に……」


「うるさい、黙れ。いいからやれ」


普段強気な北条も、何故か機嫌の悪い武田に、それ以上逆らえなかった。役職が上の者からの命令という事もあるが、何より武田の剣幕に逆らえなかったのだろう。


「それと桜ちゃん(一宮)、君も出てきて色々と教えてあげる事」


とばっちりは北条だけではなかった。


「ーー武田さん、冗談ですよね?」


「いいや、連休中は掃除の津雲君まで休みらしいし、北条が星奈ちゃんに手を出すかもしれないじゃないか」


武田のおちゃらけた様子から、実際にはそんな事微塵も思っていないのだろう。

本心は先程一宮が北条の所為にしようとした事から、人の所為にする位ならば、という意味があるのだろう。

だが、会議に出席している者の中でそれに気付けたのは対馬だけだった。


北条は完全にその気がない事が見て取れるほど嫌な顔を作り武田を睨んだ。

一宮は間に受けた様子で顔を真っ赤にして北条に罵詈雑言をぶつけた。


「はい、じゃあ会議はお終い。今日は孫も遊びに来るからさっさと帰るは!二人共痴話喧嘩も程々にしないと仕事無くなるぞ〜んじゃお疲れ様〜」


ひょうひょうとそんな事を言い去っていった武田に、二人は声を合わせて反論したが、彼にはその声は届いていないようだった。


(もしかしてこの二人ってーーー)


連休を潰された二人は不満を星奈にぶつけ出した。星奈は二人を軽くいなし、そんな事を考えていた。


ーー


今回の連休は四日間。連休中も通常通りの出勤時間に来るようにということで、念には念を押し、星奈は一宮からモーニングコールをしてもらうようになった。

定時通りの出勤を三度繰り返し、その全てが星奈にとって大嫌いな勉強。

その上休みの日を潰している事から星奈の疲労はピークに達しようとしていた。


疲労回復の為にということで、三日目の帰り、星奈は自分へのご褒美としてケーキを買いにいつもとは違う道から帰社した。


すると、見知らぬ男性に声を掛けられた。


「そこのお嬢さん、ちょっとだけお話出来ませんかねぇ?」


星奈はその風貌からナンパされる事が多い。ブラックリスト制度のお陰で、何度も繰り返し誘われる心配は無いが、好きでも無い相手と付き合わないと決めている星奈からは鬱陶しいとしか感じない。


(またナンパか〜しかも叔父さんじゃん……売春目的とかだったら即層民課に突き出してやろ)


そうは考えたものの、星奈は相談員だ。

もしかしたら相談窓口に来たが休みだったから相談出来ないだけの人、という可能性もあった。その為、とりあえずはその場で話だけ聞くことにした。


「えっと……何ですか?」


「確認ですが、お嬢さんはBLCの人で間違いないですか?」


どうやら神奈の予想が当たったようだ。自分の事を馬鹿だと言い続けている北条や両親を見返すネタが出来たと感動し、星奈は何時もの接客術を使い始めた。


「そうですよ。連休中で休みですもんね。どうかされたのですか?」


男は不敵な笑みを浮かべたが、星奈はそれに気付けなかった。


「取り敢えず座って話がしたいので、あたしの車の中で話せませんか?」


星奈はそれを了承した。

現実的に考えたらどう考えても危ない行動だが、この世界にはブラックリスト制度がある。

暴行を加えた場合でも監禁や誘拐をしようとした場合でも即座にブラックリスト入りとなる。絶対条件として作られたものには申請の必要も無いのだ。


星奈は男の小さな車に乗り、話しを聞く姿勢を作った。


「担当直入に聞きます。お嬢さんは今のBLC……いやニューレストに疑問は無いですか?」


「え!?えっと・・・無いといえば無いですし有るといえば・・・いえ、無いですよそんなの!」


突然のその問いに星奈は一瞬正直に話してしまう所だった。


(うわ〜こういうの噂で聞いた事がある。層民に抜き打ちで聞いて不満がある人を最果てに飛ばしてる人達がいるとかなんとか……どうしよ……)


あたふたしている星奈の様子が不可解だったのか、はたまた星奈なら大丈夫と感じたのか男は自己紹介を始めた。


「失礼、あたしは羽柴と申します。ファーゼストの支援をやっとります」


ファーゼストとはニューレストの反対語の意味がある。つまりは最果てに住む人々の俗称だ。

最果ての地では食料を確保する事自体が過酷で、他の層からの支援が無ければ普通に生きる事すらも難しいとされる。

一部の人々が慈善団体などを作り、ファーゼストの支援を行っている。

いや、慈善などでは無い。ファーゼストの子は普通に層移動が可能だ。そこで少子化対策として起用した作戦がファーゼストの支援を行い、外部から子供を貰うというものだった。


だがその作戦も一部のニューレストには反対されている為、大々的に行わず、小規模な支援団体を作り密かに行っている。


星奈も北条からの研修でその事は聞いていた為、理解するのに時間はかからなかった。


「それで、何で私にあんな質問したんですか?」


「いやね、近年最果ての地では環境問題が深刻になってきましてね。予算を上げてもらいたいんですが、あたし達はニューレストの方々と話なんて一切出来ませんからね。BLCの方々ならどうにか出来ないものかと思いまして……」


「なるほど……ごめんなさい、私は新人なんでニューレストの方々と連絡なんて出来ません。私の前にBLCから出てきた二人なら何とか出来たかもしれませんが……」


男は落ち込んだ素振りを見せ、星奈では話しになら無いことを悟ったようだ。


「そうですか……では今一度聞きます。お嬢さんは今のニューレストの方々に疑問を持っていませんか?」


「ん〜……正直に言いますと多少思う所はありますけど、しょうがないのかな〜って感じるのが本音です。私もお金があれば支援団体に入ろうかなって思ってた位なんで!」


「おお、それは良い!あたし達は常に人手不足なんでね、正直猫の手も借りたい位ですしてね。その内詳しく話しましょう」


男は長く時間を取らせたことに謝罪を行い、星奈に堅く握手をし、別れを告げた。


_


次の日の朝、星奈は昨日話しをした男性の件を何とか出来ないものかと思い至り、研修の前に北条に相談した。


「ーーそれは昨日の何処で、何時頃の話しですか?」


北条の久々の敬語を聞き、真剣に考えてくれたのだと感じ、星奈は詳しい話を伝えた。

すると北条は立ち上がり、一宮に研修を任せ何処かに行ってしまった。


(すぐ動いてくれて良かった〜。これもしかしたら間接的に千佳ちゃんも助かるかも知れないし……その内子供が感謝の言葉を言いに来るかも!)


星奈は上機嫌になって研修に臨もうとしたが、対する一宮の表情は暗いものだ。


「ーーあなた、分かって無いようだから教えてあげるわね。ファーゼストの支援者はね、私達の敵よ」


「えっと……言ってる意味が分かりません」


「ニューレストについて間接的に探ろうとしてきたのよ。あなたが新人で何も知らないのを良いことにね」


その言葉から星奈は全てを悟ってしまった。

北条が詳しく聞いたのはブラックリスト申請をする為の条件だったし、慌てて向かった先も層民課の方向だ。

急ぎで申請をしに向かったのは最果てに飛ばされる事案だったからだ。

BLCに勤めている以上彼の行動は正しい事だ。

だが星奈にとってそれはあまりに残酷すぎる。

羽柴と名乗った男性はファーゼストを救いたかっただけかも知れないのに、そこまでする必要があるのか、と。

今のニューレストとはそれだけ腐っているのだと感じた。

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