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ブラックリスト  作者:
20/23

中心地

門を超えた先、空は雲一つない晴れ模様。中心地の空は昼間でも星が見える程に澄み渡っていた。昼空には車が宙を舞い、その先を見つめると天高く聳え立つ巨大なビル。世界の中心にはブレインが備え付けられている。

普段の星奈がここに来たのなら、未来にタイムスリップしてきたと大はしゃぎしただろう。

だが、流石の星奈でも今の状況ではそんな気分にはなれない。

近くを歩いている人々はプラカードを掲げ、ニューレストに対する不満を書き連ねている。自分達の都合の良い世界に変えるなとか、我々に自由を与えよとか、全ての人々に中心地の解放をとかそんなものばかりだ。

津雲の言っていた通り中心地では暴動が起きていた。


「津雲君、この人達は皆あなたの味方って事?」


「違いますよ。この人達には僕から何も言ってません。何もしなくてもこうなる運命でしたから」


「どういう事?」


「僕から説明すると長くなりそうですが……」


津雲が対馬に目線をやると、連れ立って歩いていた対馬は少し考えている素振りを見せた。やがて話す事が纏まったのか、一呼吸置いて話し始めた。


「私達がブラックリストを作ったのはおよそ2000年前。その頃、人間同士で殺し合いが始まり、世界中の人々……いや世界中の生物に危機が迫っていたのよ。その当時の記録が今の最果ての地。昔の世界はもっと広かったの。そこで、何人かの神が集まってブラックリストを作り、ブレインの原型となるものを地に刺し、世界の法則を変えた。でもね、神は気まぐれだったの。地に刺し終わったら満足して放置したのよ。その所為でブレインの仕組みを人間に解明されちゃって、ニューレストにいい様にされてたってわけ」


星奈はそんな事を言われても急には理解出来ず、話半分に聞き返した。


「…………簡単に言いますと? 」


「ーーブラックリスト制度の実態とは、人間が人間を操るために作られた制度だったって事。そりゃあ押さえ付けられた人間が反乱を起こすなんて分かりきってるってわけよね」


「なるほど。それならお二人はこれから何をするんですか?」


津雲がバツが悪そうな表情を浮かべ、星奈の問いに答えた。


「あなたにこの場所を見てもらいたい。そして人間として答えを出して欲しいのです。どんな答えになろうとも、ブレインのシステムに侵入する方法をお教えします」


「それは私にブレインを壊せって事?」


「ーー全てはあなた次第です」


「そんな……何で私を選んだの?」


津雲は本当に子供の様にハニカミ、満面の笑みで答えた。


「僕のたった一人の友達だからですよ。あの時あなたしかいないと確信しました」


津雲の言葉が星奈の両肩に重くのしかかる。全人類の今後を左右する選択を自分に任せると言われているのだ、それも当然だろう。


「ーー私より相応しい人間なんて幾らでもいると思うけど?」


「いいえ。何百年もBLCの掃除係として各支部を転々としてきましたが、あなたほどこの役目に相応しいと思える人はいませんよ」


津雲は神様として、人々が何を感じ、どの様にブラックリストを使っているのかを見ていたのだ。そして、ニューレスト達が自分達の良い様に制度を変え、人々を洗脳していくのをただじっと見守り続けていたのだろう。


だが、津雲は耐え切れずに動き出した。

BLC内部では半数以上が何かしらの不満を抱き、中心地では暴動が発生する程この世界は狂っている。

津雲は神様として放って置けなかったのだろう。

星奈は直ぐには覚悟が決まらず、苦笑いで返すばかりだった。


ーー


門からブレインへ向けて真っ直ぐ歩いていく中、星奈は奇妙な光景を何度も目にしていた。

暴動を起こしていた人々がどんどん少なくなっている。

一人、また一人と最果てへ飛ばされて行き、プラカードのみが地べたに残った。

星奈の胸にはもどかしい思いが込み上げてくるが、北条達が飛ばされた時ほどはない。

目を背ける事でその場をやり過ごした。


暴動の現場から逃げるように歩いていくと、近未来チックな建物が並んでいる。

ガラスで覆われた建物の中、作業スペースが外から丸見えで、外側から見たら誰がサボっているのかがよく分かるようになっている。

中の人々は、暴動などなかったかの様に知らん振りをして作業に当たっていた。


星奈はその人々に疑問を感じ、津雲に尋ねてみた。


「津雲君、この人達は何をしているの?」


「まるで地獄にいるようでしょう?全員中心地で暮らす人達ですよ。簡単に言えば、全世界の監視をするとこうなるって事です」


津雲が指し示した方向を見てみると、何かの録画データと手に持った書類とを交互に見ている者、見た事もないほど大量の書類を机の横に並べ書類と戦い続けている者、機械の開発を進めている者など様々である。

その人々は共通して目の下にクマを作り、心身共に疲れ切っている様子だ。


津雲の言葉を代弁するならば、世界の録音、録画に関する諸々をここでまとめて行っているのだろう。

星奈はこんな事を考えた事がある。BLCの内部でも映像管理課や機械整備課はあるが、それだけでは不十分ではないのか?と。

「集団で行動するだけで警戒される」と研修で言われた事があるが、誰が監視しているのか?

全世界で登録されたブラックリストが、どのように管理されているのか?

整備だけなら機械整備課がやっているが、その機械は誰が作っているのか?

というもの。

専門の会社があってそれを行っているのだろうと軽く考えていたが、そうではない。

事実は目の前に広がる光景が物語っている。

少し前に中心地では金銀財宝が眠っているのでは?なんて津雲に尋ねた自分が情けなく感じる程彼等は働いていた。

中心地の人々は選ばれた人達だから働かなくても大丈夫、なんて事は全て偽りだったのだ。


その光景は最果ての地とまるで正反対に思えた。

最果ての地の環境は最悪だが、それでも人々は皆活気に満ち溢れていた。時に笑い、時に怒り、時に悲しみ、大いに笑う。

最悪の環境でも彼等は生きていたのだ。


だが、ここは違う。生気など全く感じられず、永遠と仕事をこなしていくだけ。

ここの人達は最果てに飛ばされたくない一心でずっとこれを続けて来たのだろう。


此方には目もくれず自分の作業だけを繰り返す人々に星奈は唖然とした。


「ーー酷いね……」


「ーー彼等が何故こんなことを続けていると思いますか?本当に世界の監視は必要だと思いますか?」


縋り付くように語りかけてくる津雲の言葉に、彼が見て欲しかったのはこの光景なのだろうと分かった。


「……ごめんなさい、まだ答えは出せていないの。どうするのが正しいのかなんて私にはとてもーー」


「いえ、急ぎ過ぎましたね。中心地に入ってしまえばまだ時間はあります。それにブレインに侵入する前に僕の仲間にも合流しないといけないので、まだまだ時間はあります。ゆっくり考えてください」


「そうよ。津雲が言う通りまだまだ先は長いわ。ここから見えているけど、ブレインまで寝ないで歩き続けても四日は掛かるからね」


北の集落に歩いて行くだけで三時間は掛かったが、それの比ではない。遠目から見えている建物に行くだけでそこまでの時間が掛かるなど信じられず、星奈は疑問をぶつけた。


「え!?あれって蜃気楼か何かですか?」


「違うわよ。それだけ高い建物なの。全世界に目を向けれるようにって考えて私達があんな高さにしたの」


「お二人には実際に見えるんですか?」


「そんなわけないでしょ。でもね、雲とか色々で隠れちゃってるけど四層の端まで見渡せるように設計されているの」


「あ、なるほど!それで最果てではブラックリストの法則が効かないんですね!」


最果ての地で子供達が喧嘩をしていた事を思い出し、星奈は合点がいった。


「あなたの言う通りよ。最初はね、あんな所で暮らせるなんて思ってなかったのよ。だから人間が暮らしていけるスペースの確保として四層の壁を作ったんだけど……」


対馬が物思いにふけり遠くに見えるブレインを見つめた。それを横目に見ていた津雲が何かを感じ取ったのか、茶化すように話し始めた。


「対馬、さっきから昔話しかしてないよ? 感慨深くなっちゃった? その辺を担当してたのは君だもんね」


「あなたも自分が担当したシステムをめちゃくちゃにされて怒っていたじゃない。おあいこよ」


「言うようになったね?ぶっきらぼうに反対ばっかりしてきたくせに」


「ぶっきらぼうはあなたでしょ?なんだっけ?もとはお人形さんだっけ?」


口喧嘩に発展しそうな勢いで二人は顔を合わせ、睨み合いを始めた。

それを見て、星奈は心底おかしくなって堪えもせずにお腹を抱えて笑った。


「ごめんなさい、神様でもそんな話をするんだなーって」


「此方こそすみません。久々に話したものですから……昔からこいつとは気が合わないんですよ」


そっぽを向いて腹を立てる対馬を指差して津雲が謝罪した。

対馬も諦めたようで、大きくため息を吐き次からの予定の確認を始めた。


「本当にね。それより津雲、ブレインまでどうやっていくの?」


「歩いて向かおうと思ってたけど?」


「待って津雲君!四日歩きっぱなしなんて無理よ!空を飛んでる車は乗れないの?」


「冗談ですよ。ブレインまでの道のりはバスを使おうと思ってます。と言っても途中で降りて向かわないと、あの辺は警戒されてまともに近づけませんが」


四日も歩けと言われ無かったことで、星奈は安心した。


「ブレインに入る時はどうするの?」


「それは……あぁ、ごめんなさい。ここじゃ詳しくは言えませんね」


津雲は周囲の目を気にして続く言葉を教えてくれなかった。星奈も当然だろうと考えそれ以上追求することはしなかった。


先程の作業場からしばらく歩くと空飛ぶバスの停留所についた。

時刻ピッタリに到着するバスに乗り込み、星奈は人生初の乗り物を楽しんだ。

中には誰も乗っておらず、到着まで貸切状態だ。運転手すらいないため、一層との技術力の差に驚きの連続だった。

バスの中でも二人が口喧嘩を始めその度に景色を見逃す事もしばしばあった。その為、楽しめるはずの乗り物が、思っていたほど揺れず、思っていたほど楽しくない、というものに変わった。

そうでなくてもブレインに着いてしまえば星奈には選択が迫られるのだ。純粋に心のそこから楽しむ事など出来なかった。



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