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ブラックリスト  作者:
18/23

侵入

昼間のBLCの休憩所。星奈はここに何度も来た事がある。対馬との食事以外にも個人的にゆったりと過ごしたい時にはここで食事をとっている。いつもならここに来る時の心情は非常に穏やかなものだが、今回来た理由は全く別物だ。

星奈は柴田との対決を目前に控え、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

雪菜達報道課からの協力だけでは作戦の成功は不可能だ。以前柴田がポロポロと溢していた情報の中にあった「中心地へ繋がる通路への偽装工作」というもの。それを彼に行って貰わなければこの作戦は成功しない。


全ては星奈の口八丁に掛かっているのだ。

自分の肩に掛かっている責任の重さを十分に理解し、決意を固め柴田の座る席に歩み出す。


呼び出しに成功した時点では柴田から悪意を持たれているようには感じない。

先日の騒動の中、北条が柴田に頭を下げたのはこの状況を見越しての事だったのだろう。

今回の柴田との対談は、北条の行動無くしては成し得なかった。


心の中で北条に感謝し、星奈は柴田と向かい合った。


「柴田さん、お忙しい中呼び出したりしてごめんなさい。ちょっとお話がしたかったので」


「構いませんよ。石橋さんの呼び出しならばいつでも応じますとも。それで、今日はどうされました? 」


柴田は以前の騒動など無かったと言わんばかりに普通に話し出した。

彼の浮かべている表情の裏には、あの時の醜い顔があるのだと星奈は知っている。だからこそ他の職員がいる中、わざわざ話を聞かれる危険を冒してまで1対1の状況を避けたのだ。

星奈は無駄話はせず、本題に移った。


「実は耳に入れて置きたい情報がありまして……どこから入手したかは言えませんが、今週末に中心地では暴動が起こるそうです」


「ほほう?詳しく聞かせて貰いましょうか」


星奈の考えた作戦はこうだ。

柴田を協力させるのではなく、自分達の行動の日に合わせて一緒に向かわせるというもの。時間さえ分かれば影矢の作戦にも使えるし、うまくやれば柴田を最果て送りに出来ると考えたのだ。


「はい。提案なのですが、その時に合わせて柴田さん達も中心地へ向かってはいかがですか? 前に言ってたじゃないですか。中心地へ繋がる通路はいつでも抜け道に出来るって」


「その通りです。確かにあなたが言う通り中心地で暴動が起こるとしたなら私達が進入するのにはベストなタイミングなのでしょう。ですが、その情報は確かなものですか?」


「……誰からとは言えませんが、中心地に住んでいる人の情報です。私はやってみる価値があると思いますよ?」


「なるほどなるほど。ちなみに、その情報は藤堂院達には知らせていますか?」


「そんなわけないじゃないですか〜。もう連絡すらとってないですよ。前に電話した時なんか相手に切られちゃいましたからね!それ以降通じないですし……あ!そうじゃなくても柴田さんに約束しましたからね!」


星奈はわざとらしくオーバーリアクションを取った。それが柴田には嬉しかったようで、目に見えて上機嫌になっていった。


「約束を守っていただいてありがとうございます。少しだけ仲間内で検討をしてみますが、あなたの案を採用してみようと思います。それより、また今度食事でもいかがですか?」


「それが終わって落ち着いたら行きましょう! その時は柴田さんがニューレストになっているかもしれませんね?」


「ははは!そうなっていたらあなたを迎え入れますよ。是非とも私の妻として、ね?前はあなたの上司に邪魔されてしまいましたが、今度は私を受け入れてくださいね?」


星奈は引きつりそうになる顔を何とか笑顔で誤魔化し、口では答えず渾身の微笑みで応えた。


(本当にこの人気持ち悪い。あんな事しておいて自分が好かれているとでも思っているの?最果てに飛ばせるように影矢くんに相談してみようかな)


柴田の前では決して悪意を見せずその場をやり過ごした。一重にここ一年間の相談員としての経験が活かせた結果であろう。

柴田から後日連絡を貰うという約束を取り付け、星奈は自らの職場に戻った。


相談窓口に着く頃には微笑みを維持出来ず鬼の形相に変わった。自らの職場に戻って来たことで、気の緩みが出て来たのだ。

その表情を一宮に見られてしまい、心配した彼女から午後の休憩時間を長めに取ることを許可された。

柴田と対談し、嘘の情報を流した事で自分の出来る最大の役目は終わった。残るは柴田からの連絡を待ち、作戦に移せるかどうかが決まるのだが、とりあえず影矢には報告すべきだろう。

星奈は相談窓口の休憩室へ向かい、自分の携帯から羽柴に連絡をした。


影矢に電話を変わって貰い、報道課の協力的な姿勢や柴田の件を一通り説明し終えた。


「ここまで早いとは思っていませんでしたよ! それよりも星奈さん、大丈夫ですか?その柴田という男、以前あなたに危害を加えようとしたんですよね?」


「そうなんだけど……私も皆の役に立ちたいからさ!どう?見直してくれた?」


「もちろんですよ!凄い人だとは思っていましたが、ここまでとは!ですが、今後その男には関わらないで下さいね。俺は、あなたに危険な事をして欲しくない」


星奈は影矢の言葉に耳まで顔を紅くして喜んだ。自分を褒めてくれて、しかも心配までしてくれる。電話で無ければ逃げ出していたかもしれない。

星奈は天にも昇る気持ちを胸に抱き了承の意を示した。


後は柴田からの連絡を待つだけだ。

この日、相談員としての仕事を夕暮れまでサボり、星奈は御満悦な気分に浸った。


仕事終わりにはメールが届き、柴田から提案を飲むと知らされた。


_


そして迎えた作戦当日。

今回の作戦に大きく関わる者、星奈、羽柴、影矢、一宮、北条の五人は影矢達の滞在している廃ビルに集まった。

念入りに作られた作戦だからこそ、確認の為にもう一度打ち合わせをする必要があった。


中心地へ突入するのは二班に分かれた四人。影矢、羽柴のA班。北条、一宮のB班。二班に分かれて中心地へ向かう。

星奈は中間役として柴田との連絡も取りながら、二班の行動を見守る形だ。これは隠密行動をした事のない星奈では足手まといになる、と考えての編成だ。

中心地へ向かう道には警備の為に小さな門が設置されているが、ブラックリスト制度の特性上ほとんど意味を成さない。それどころか雪菜に頼んでおいた錯乱情報である、「門番が裏切り者である可能性」が今頃報道されているため、現状では混乱して警備どころでは無いだろう。

だが、それすらも星奈では潜り抜けられないと考えて待機という形なのだ。


柴田から教えられた時間は正午。

詳細までは聞き出すことが出来なかったが、前後15分間は万全を期して抜け道の時間に余裕を持たせる事が分かっている。


その為柴田達のレジスタンスに遭遇しないように、ギリギリのラインを見極めて進入する予定だ。前の15分をA班、後の15分をB班が使うという流れだ。


「作戦内容が頭に入っていない人はいませんか?」


影矢が皆に確認を取った。理解出来ていなかったのは一人だけ。置いてけぼりになる星奈だ。


「何で私もついていったら駄目なんですか!それに、皆さんが一層に戻る時はどうするんですか!?」


影矢はまたかと言わんばかりにため息を吐き捨てた。


「星奈さん。何回も言っていますがはっきりと言いますね。あなたでは足手まといだ。適材適所ということです。あなたは十分に働いてくれましたよ。それと、ここに戻ってくるのはブレイン破壊後ですので何ら問題ありません」


「……皆聞かないから私が聞くね。ニューレストを殺すの?」


星奈の質問に影矢以外は驚愕を露にした。ここまで来たら暗黙の了解ということだったのだろうが、星奈からすれば許せるものではない。

何より影矢には人を殺して欲しくなかった。


星奈からの真剣な眼差しを向けられた影矢は、それを真っ向から受け止めて応えた。


「……この際ですからはっきりと言わせてもらいましょうか。俺は祖父の仇を、いや、集落の皆の仇を取りたいと思ってここまでやってきました。以前星奈さんが言った通りそれは間違った考えなのだと分かっています。ですが、元凶となっている者がいる。それだけで俺は我慢ならない。そいつらがのうのうと生きているだけで虫唾が走る」


影矢は拳を強く握り締め、怒りの感情を抑えつけた。16年間。いやそれ以上の間集落の者を苦しめてきた元凶。その全ての憎しみを一人で背負い今迄生きてきたのだ。

影矢は努めて冷静な表情を浮かべてはいるものの、その全てを隠しきれていない。


「理解してくれとは言いません。ただ、この一度きりの我儘だけは通させてもらいます」


力強く言い放った影矢に、星奈は反論出来なかった。後から出てきただけの星奈からはこれ以上の言葉が思いつかなかった。


準備を始める影矢の背中は、死地に向かう戦士のようで、とても悲しい気持ちにさせられた。このまま帰って来ないのではないのか、そんな考えが頭に浮かぶ。


「……影矢くん、帰って来るよね?」


「もちろんですよ。俺は集落の長ですからね、こんな所で死ねません」


笑顔で応える影矢だが、その真意は違うのだと見て取れた。ほぼ完璧と言ってもいい影矢だが、感情を隠す事には長けていないようだ。


「そうだよね……影矢くん、私ね、君のことが……いや、なんでもない!絶対帰って来ること!じゃないと私も突撃するからね!」


「それは恐ろしいですね。あなたには本当に生きていて貰いたいと思っていますから。では、またお会いしましょう」


準備を終えたA班の二人は残る三人に別れを告げ、先に出立した。

遅れて出立する一宮達も無言のまま準備を始めていたが、影矢達が出て行った事を確認し、一宮が星奈に話しかけて来た。


「星奈……あんたって本当に世話が焼ける後輩ね。黙っていようか考えていたんだけどね、最果てには特有の病があってーーーー」


「一宮!喋ってないでさっさと済ませろ。間に合いませんでした、なんて言えないからな」


北条が一宮の言葉を遮るようにして喝を入れた。星奈は一宮が何と言おうとしたのか気になったが、それ以上怖くて聴く気にはなれなかった。


数分後、羽柴から進入成功の合図である着信が入り、続くB班の二人も出立した。


一人になった星奈は皆の安否を祈った。無事に事が終わりますように、と。

一分一秒が長く感じ、ただただ携帯電話の着信を待った。何度も何度も時計を確認し、知らせだけを待つ。もどかしい気持ちに襲われながらも着信を待つ。


予定していた十五分後になっても連絡が入らなかった。

一度も着信が入らなかった場合、それは作戦の失敗を意味する。

星奈は心配になり、無我夢中で廃墟を飛び出した。


このような状況になった場合、他の協力者である武田や対馬に連絡を取る手筈となっているのだが、いてもたっても居られなかったのだ。


星奈は駆けた。

中心地へ向かう門が目前に迫る。

そこは喧騒に包まれていた。野次馬が出来上がり、その真ん中に位置する門の周辺には大量の警備員や警察が来ていた。


遠目には何をしているのか見えずらかったが、現在ここで何が起こっているのかは分かる。


B班は失敗したのだ。二人の元まで駆け寄り何とかしたいという思いが強くなる。それは自分には出来ないことだ。今行った所でもはや遅い。自分では何も出来ないと気付き、星奈は呆然と立ち尽くした。


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