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ブラックリスト  作者:
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柴田の所属するレジスタンスに協力する事を約束した後も、星奈はドライブに付き合わされていた。


柴田の話はくだらないものばかりで、退屈な気持ちに襲われた。革命完了後の理想的な環境についてや、自分がどれだけ有用な人間でどんな事が出来るなどの、自慢話だ。


たが、そんな中にも有益なものもあった。

星奈が退屈そうな表情を浮かべていると柴田から自分達、レジスタンスの情報をペラペラと話し出したのだ。


例えば、現在中心地へ向かう通路はいつでも録画を止められる状態であり、その間はほかの録画データで補う事ができるというものや、機械整備課の他の支部にも協力者がいて反旗を翻す準備が出来ているなど、どれも簡単に話して良い内容ではない。


それこそ岡田が殺された要因である、情報の横流しに値するのではと思えるほどだ。いや、重要度から考えるとそれ以上だろう。


柴田はそんな事も御構い無しに一人で話し続けた。


「あの、柴田さん? そろそろ時間も遅いので……」


「あぁ、そうですね。ではお家までお送りしましょうか」


この男に自宅を知られたくなかった星奈はその提案を即座に断り、BLCの周辺に送って貰う事にした。


「今日はこんな時間までドライブに付き合っていただきありがとうございました。そこでですが……今度、私を含めた数人とお食事でも如何ですか?」


「えっと……いいですよ〜。そのうち行きましょう!」


星奈は協力すると言った以上、これ位の社交辞令は告げておくべきだろうと考えた。

勿論本音は遊ぶ気などない。

何より仕事が忙しくなってきた上にその様な付き合いをするのが嫌だった。


だが、それを聞いた柴田は本気にした様子で今後の予定を話し出したが、時間がないと言い張りその場を後にした。


帰り道、星奈は柴田の言葉の真偽を探るべく、いつも使う抜け道を使い、羽柴に電話した。


「羽柴さん、またまた夜遅くにごめんなさい」


「いやいや、構いませんよ。どうかしましたか?」


「影矢くんの事なのですがーー」


星奈がそこまで言うと、電話の向こう側でプツリと何かが切れる音が聞こえてきた。

その音は電話が切れた時の音。

星奈は電波が悪かったのかと思い、もう一度電話を掛け直した。

今回は呼び出し音も鳴らず、電話が繋がらなかい。自分の携帯の電波状況を確認するも問題は無い。

相手がいるのは最果ての地という事もあり、繋がらない事もあるのだろうか? とも考えたが、今までこんな事は一度も無かったのだ。


そこで星奈は思い出した。

今朝方置かれていたメモの事を。

この日、様々な出来事があり忘れかけていたが、メモにはこう書かれていた。

「最果ての地の者と手を切れ。さもなくば岡田と同じ運命を辿る」と。


星奈の中で繋がって欲しく無いピースが重なった。その瞬間、辺りを見渡し、自分を見ているものが居ないかを注意深く観察した。だが、何処にも人影らしきものは見当たらない。


いつ襲われるか分からない恐怖心により、星奈は普段より冷静な判断ができる様になっていた。


メモの事といい、急に電話が繋がらなくなった事といい、何かしらの方法で星奈の事を監視している人物がいる。これは間違いないだろう。


だが、現在星奈は生きている。

そこで不可解な点が出てくる。今いる場所だ。殺人を犯すなら録音、録画もされていないこの場所こそが最適なはずだ。

辺りに人影が見えない事から、メモを置いた人物は今は殺そうとは考えていないのだろう。


他にもおかしな点がある。星奈の机にメモを置き、警告を行った人物の目的が全く読めないのだ。これ以上情報を流されたく無いのであれば星奈を殺せば良い。

幾ら冷静に考えられても、行動に移さない理由が皆目検討がつかないのだ。


だが、単純に考えてみれば一つの結論に行き着く。

それはとてもシンプルなものだ。現在の状況を星奈なりに考えた結論はこうだ。最果ての者と関わって欲しく無いだけというもの。


そして、その場合容疑者が絞られてくる。最果ての集落の者から遠ざけようと接触してきた人物など他にはいない。


星奈は柴田に対して不信感を抱いた。


その夜、星奈は柴田の提案してきた遊びに行く、というものを利用し、何とか探れないかを考えた。


柴田のどうでもいい話の中に、何かヒントになるものが無かったか。彼の情報の中でおかしな点は無かったかなど、普段使っていない脳細胞をフル動員し一晩中考えた。


やがて月明かりが無くなり、代わりに太陽の温かい日差しが窓に差し込んだ時、星奈は柴田の言動に違和感があった事に気付いた。


彼は一度も影矢の名前を出していない。

それどころか藤堂院としか言っていなかった。

つまり、元長である影嗣の死を知らず、適当に話しをしていただけという可能性があるという事。


星奈が都合の良い解釈をしただけかもしれない。単純に柴田が苗字でしか呼ばないタイプの人なのかもしれない。

だが、星奈の性格上、一度疑いだしたら突き進む他ない。


一筋の光明を信じ、それに縋り付いているだけなのかもしれない。そんな事は星奈も分かっている。

影矢が殺人を犯していないという事は希望的観測に過ぎないのかもしれない。


それでも星奈は自分の考えを肯定すべく行動に移した。が、それは次の日からだ。

その日、徹夜で頭を捻らせていた星奈は北条に連絡し、休みをもらった。


前日の星奈の様子を知っていた北条は全く怒りもせず、それどころか星奈の事を心配し、病院に行くように促すだけだった。


星奈は完全に自分の体調管理が原因で休みを取ったので、いたたまれない気持ちが心に宿っていた。それでも自分の欲求には素直だ。

朝日を拝みながら星奈は深い眠りについた。


__



それから一週間もしないうちに、星奈は機械整備課のレジスタンスに所属しているメンバーと食事に来た。

何でも奢ってくれるという柴田の言葉を鵜呑みにし、星奈は自分の大好きな寿司をーーしかも高級な店のーー食べたいと伝えると、柴田は引きつった表情を浮かべ、近場の回転寿司で手を打ってくれと懇願して来た。


BLCの一職員が高級寿司を奢ってやるなどと、見栄を張る事が出来なかったのだろう。


店に来ていたのは柴田を含め三人。どちらもパッとしない容姿で、話の内容は柴田の武勇伝ばかりだ。


「柴田さんはあの時こんな凄い仕事をこなした」とか、

「柴田さんがいなかったらこの時自分達は死んでいたかもしれない」とか。誰がどう聞いてもお世辞にしか聞こえない棒読み口調で、歯の浮くような話しを続けた。


どうやらこの二人は柴田の引き立て役として連れて来られたのだろう。

自分より下の人間を使い、自分の事をより良く見せようとする作戦なのだろうが、星奈からしたら不愉快極まりない。

そんな事をしなくても柴田の評価など海の底に沈みきっている。余程のことが無い限り浮上する事など無いのだから。


二人の台本を読んでいるかのようなお世辞話も終わると、柴田は星奈のプライベートに首を突っ込んできた。


「私の話ばかりでは退屈でしょう?星奈さんはお休みの日などは何をされているのですか?」


「ショッピングに行ったり、旅行の計画を立てたりしてますよ〜」


「おぉ!我々も今度旅行に行く予定があります!どうです?ご一緒するというのは?」


「あはは。予定が合えば良いですね〜」


星奈は耐えた。三人のアクビの出るような話しを受け流し、数時間耐え忍ぶ事ができたのは、日頃から鍛えられている相談員としてのスキルのおかげだろう。


やがて皆のお腹が一杯になり、このままお酒の席にでも、と誘われたのだが、これ以上付き合う気にもなれず、星奈はそれを断った。


嫌気の差してきた星奈が三人から逃げ出そうとした時、柴田が呼び止めた事で当初の目的を思い出した。


「星奈さん、今日もご自宅にーーいえ、BLC前までお送りしますよ」


「ありがとうございます。私ももう少しだけお話がしてみたいと思っていましたので」


何を勘違いしたのか、柴田は普段作る紳士らしい笑顔を脱ぎ去り、鼻の下を伸ばして笑った。咄嗟に口元を手で覆ったが時既に遅し。


普段であれば、目的が無ければ、こんな人間と食事に来るなどありえなかっただろう。こんな人物と同じ車に乗るなど吐き気を催すだけだ。


星奈は引きつりそうになる顔を何とか笑顔に留め、先日徹夜してまで考え抜いた計画を実行に移した。


「柴田さん、聞いても良いですか?」


「えぇ勿論。何でも聞いて下さい」


「最果てのーー藤堂院さんとどれ位関わっていたんですか?」


「そうですね〜三年ほどの付き合いでしたかね。まさかあんなお孫さんがいるとは思いもしませんでしたが」


「ーーどんな子だったんですか?」


柴田は顔を顰め、物思いに耽るような表情を浮かべた。


「とても危険な子でした。部外者である私を直ぐに敵として認識し、集落にも入れてくれなくなりましたからね」


「それは怖いですね。私もそのうち追い出されていたかもしれませんね」


「その通りですよ。あんな子供が次の長になるなんて考えただけで恐ろしい」


「え?次の長にですか?」


星奈の思惑通り、墓穴を掘り続ける柴田の言動に、笑いを堪えるのに必死だ。


「知らなかったようですね……藤堂院が亡くなった後はあの孫が長に就任されるのですよ。今や藤堂院の血筋は彼と藤堂院本人しかいませんからね」


星奈にとってこれは予期していなかった収穫だ。柴田の情報を信じるのなら、影嗣亡き今となっては影矢は天涯孤独の身という事だ。


そしてもう一つ。柴田は影嗣が亡くなった事を知らない様だ。最果ての地で人が亡くなっても外部に知れる事はまずあり得ない。特に立ち入り禁止となれば当然その事を知る由も無い。


そこで星奈はカマを掛けるタイミングを見計らった。


「そうだったんですね〜。私も話した事ありますけど、藤堂院さん本人はどんな人なんですか?」


「私を追い出したのは藤堂院本人ですからね。それはもう酷い性格でしたよ。危険な思想は持っていなかったようですが、怨みのみで動いている節がありましたからね」


「それなら今回の岡田さん殺害にも関与していたって事ですかね?」


星奈は自分に出来る最大の猫かぶりを使い、とても興味がありそうな眼差しを柴田に向けた。

柴田は星奈に関心されているのだと、勘違いした様子で満足そうな顔に変わった。

それもそうだろう。今迄楽しくなさそうな表情をしていた星奈から期待の眼差しを向けられているのだ。

柴田は少し間を置いて雰囲気を作りながら語り出した。


「ーー実は、私の密偵が北の集落に入っていまして、そこで分かったのですよ。藤堂院が岡田殺害を企てていた事が」


「……藤堂院のお爺ちゃんの方がですか?」


「その通り!だからこそ岡田を殺害したのは彼らなのだと確信したのですから!」


意気揚々と喋りだした柴田はとうとうボロを出した。

そんな事はあり得ないのだ。

岡田の件以前の問題で、藤堂院影嗣は既に亡くなっているのだから。


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